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香港編11. 「オオー!」世界が一つになった、百万ドルの夜景。|4日目 中編

言語が違っても、同じ声が出る瞬間がある。

「Oh-!」と「オオー!」は、同じだった。

ピークトラムが山頂に近づき、突然目の前に夜景が広がった瞬間——

乗客全員が、同じ声を上げた。

その瞬間だけ、世界が一つになった。


日記:2002年9月 香港島へ

無事合流したオレらは、オクトパスに100ドル追加して、一路、電車でセントラル方面へ向かった。

電車に揺られながら日記を書く。

チョンキンマンションで2000円ほどを残して、すべて香港ドルに両替した。

ここから香港島へは、スターフェリーに乗る。

いよいよ大陸のはしっこまで来た、という感じだ。

スターフェリーは香港を代表する乗り物だけあって、たった数分の船旅でも、沢木耕太郎がハマった理由がわかった気がした。

フェリーの上から見える香港島の光は、とてもきれいだった。

日本だったらすぐに整備されてしまいそうな景色が、ここにはそのまま残っている。

ただ、海はかなり汚かった……。

島に着いた後は、これもまた香港の代表的な乗り物「トラム電車」に乗った。

2階建ての路面電車だ。

電車に乗って、キャットストリートやミッドレベル・エスカレーターのある方向へ向かった。

電車を降りて、小腹が減ったので海鮮を食べようと探していると、ちょうど良さそうな店があった。

入ってみると、そこはシャブシャブの店だった。

あまり海鮮はなかったが、時間無制限の食べ放題だった。

店員さんが2人いて、どちらもかわいくて、1人はオレの知り合いに似ていた(勝手に「ブルーアイズビールガール」と呼んでいた)。

ビールもそんなに飲むわけでもなく、それなりに食べて、おなかいっぱいになった。

(お茶みたいな飲み物はまずかった。火薬みたいな味だった)

最後にマンゴープリンを見つけて食べたら、意外においしい。

けっこう好きな味だった。

Y さんのために、鳥の頭(目が半開きで、首が傾いている)と足を持ってきてみた。

食べられるものかもわからないまま、とりあえず勇気を出してお皿に乗せる。

どっちが先に食べるかでもめていると、店員さんに「それは食べられないよ」とベストタイミングでつっこまれた。

値段相当の笑いを提供してもらった。

その後、キャットストリートを目指した。

……が、どこがキャットストリートかわからないほど、静まりかえっている。

まさか、と思ったら、そのまさかだった。

もう閉まっている。

昼間は骨董品やガラクタに近い品々が所狭しと並んで賑わうこの通りも、夜は早いらしい。

GAME OVER だ。この旅で一番の後悔だった。

クヨクヨしていても仕方がないので、ヒルサイドエスカレーターと呼ばれる、とても長いエスカレーターに乗ることにした。

香港島は、沖縄の那覇のように坂が多く、普通に歩くのが辛いほど急な場所もある。

だからエスカレーターでもないと、やっていけないのだ。

それでも、眺めはいろいろ変化があって面白い。

プチトリップの意味がわかる。

そのエスカレーターの途中、子連れの母子がいた。

子供好きのY さんはもちろん、気分が晴れていたオレも、思わず笑顔をもらった。

すると、どうやらその方は日本人だったらしく、「日本人ですか?」と声をかけてくれた。

久しぶりに日本語で話しかけられたオレらは、なんだか懐かしさのようなものを感じながら話した。

ビクトリアピーク(例の夜景)への行き方を聞くと、ちょうど次の降り場だったらしく、バス停まで連れていってくれた。

小銭がなければ出してくれそうな勢いの、世話好きな方だった。

その方は、バスの運転手さんに中国語で「ピークトラムの乗り場に着いたら教えてあげて」と頼んでくれた。

「ああ、この街に何年も住んでいないと、こうはできないな」と感心した。

数分後、ピークトラムの乗り場に着いた。

ピークトラムは、さっき乗ったトラムの山岳バージョンのようなもので、昔から走っているらしい。

乗り場は混んでいて、だいぶ待ちそうな感じだったが、乗れる人数が多いらしく、わりとスムーズに進んだ。

いざ乗って出発すると、これがまたすごい坂だった。

背もたれにのしかかる自分の体の重みを、2倍以上に感じるほどの急勾配。

そして、おもしろい瞬間があった。

それまで木しか見えなかった窓の外に、突然、夜景が広がった瞬間——

「オオー!」

「Oh-!」

乗客全員が、同じ反応をした。

その瞬間、言葉の壁も、反応の違いも、文化の違いも、すべてが一つになった。

まさしく、世界が一つになった。

そんな気がした。

ヴィクトリアピークの夜景は、予想以上だった。

これもまた、百万ドルの夜景。

男2人で来たのが少し惜しかった。

となりに好きな人がいたら、きっと一生の思い出になっただろうな、なんて思った。

宝石をちりばめたようなその光景は、オレらの目に焼きついて離れなかった。

ひと息ついた後、軽い足取りで香港島を後にした。

そして次に目指すは、2回目の女人街——!


44歳の今、振り返って。

「オオー!」と「Oh-!」が重なった瞬間を、24年経った今でも覚えている。

国籍も、言語も、文化も、年齢も違う人たちが、同じ一瞬に同じ声を上げる。

それが、本当に美しいものに出会った時の、人間の共通言語だった。

【シラー:詩『歓喜に寄せて』より】

「Alle Menschen werden Brüder——すべての人は兄弟になる」

ベートーヴェンの第九で歌われるこの詩を、20歳の僕はまだ知らなかった。

でもピークトラムで、その意味を体で感じていた。

言葉が違っても、感動は同じだ。

人は本質的に、同じ場所を向いている。

【松尾芭蕉:『おくのほそ道』より】

「月日は百代の過客にして、行きかふ年もまた旅人なり」

スターフェリーの数分間。

ピークトラムでの「オオー!」の一瞬。

キャットストリートで撃沈した夜。

あの瞬間瞬間が「過客」として過ぎ去った。

でも過ぎ去ったものの中に、24年残るものがある。

それが、旅の魔法だ。


次回は「香港4日目 後編」。

2回目の女人街で、偽ブランドの大冒険。

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ブログでは主に帰国後のこと(旅のつづき)を発信しています。
いつの日か子供達や誰かの参考になれば嬉しいです。


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