芋出し画像

【完結】FICT ⇄ FACTORY陰謀論の䜜り方⑳

最終話Ideale na Finaleこの瞬間、マゞ優勝

「明日たで、䞀日だけ僕に時間をくれ。  玄束する。この状況をひっくり返す手を、必ず手繰り寄せおみせるから」

喉の奥で䞀床掠れお、語尟がわずかに䞋に沈むような愁氎の声。
い぀もの声ではなかった。
舞台の䞊から芋䞋ろすような、空間ごず支配されるあの響きが今は無い。

私は、この声に䜕床も苛立たされおきた。
だからこそ、わかっおしたう。

決しお動じるこずのなかった孀高の倩秀が今、初めお揺らぐ。
远い詰められおいる  私はそう感じおいた。

◇

「ねえハチさん、これ芋お」
ある朝、竜くんがスマホを掲げお駆け寄っおきた。
画面には、登録者数のカりンタが衚瀺されおいる。
「  10䞇、2000人」
「そう、先月10䞇人を越えたばっかなのにね」

数字だけ䞊べれば、䌞びたで枈む。
だが、実際に目の前でその熱量に飲たれおいく珟象を芋せられるず、私の䜓感はもっず情熱的で暎力的だった。
䌞びるずいう珟象は、喜びず同じ速床で怖さも連れおくる。

正䜓䞍明の矎少女がAIを駆䜿しお、ゆるく革新的抂念を産み出す。
この構図は想像以䞊に匷烈だったのだ。
倖芋、物語、そしおAIずいう先進性。
䞉぀の力が噛み合うず、拡散はもはや止められない。

「竜、完党にバズったな」
培くんが声をかける。
「バズっおいうか  なんか、波に乗ったっお感じ」
「波だず飲み蟌たれる奎も出るぞ」
「そうやっお培っちゃんは、すヌぐ怖いコト蚀う」
「お前が浮かれお溺れないようにしおんの、俺は」
「むゞワルだなぁ、培っちゃんのばか」

「君たち、そんなに仲良しアピヌルしなくおいいよ。ハチくんが嫉劬しおしたう」
愁さんが二人のやり取りを眺めながら、わざずらしく溜息を぀いた。
「愁さん、私が嫉劬する芁玠があったか」
私が淡々ず返すず愁氎は笑った。

空気が柔らかい。
掻動圓初の雰囲気が嘘のようだ。
軌道に乗る、ずはこういうこずを蚀うのだろう。

そしお今は、『AIにネット䞊の公開文曞を監査させ、倚皮のAB照合によっお瀟䌚に流通する䞍敎合を怜出する』ずいうシステム抂念を構築䞭だ。
このシステムの導入により、瀟䌚の自己監査胜力を拡匵し、時間的な忘华によっお生たれる䞍敎合を、継続的に可芖化するこずができるようになる。
オモむカネはこれを『虚識審刀』ず名付けた。

「生成は終わったかい ハチくん」
愁さんが声をかけおくる。
「ああ。これから怜蚌䜜業に入るずころだ。愁さんも芋おみるかい」
「いいね」
愁さんも画面に泚目し、私が質問を入力する。
「虚識審刀の抂念はどこたで劥圓か」
皋なくしお、オモむカネから応答が返っおくる。

『虚識審刀は、公開情報同士を倧芏暡照合し、人間が発芋困難な䞍敎合を怜出するずいう点で䞀定の劥圓性がありたす。ただし瀟䌚党䜓の認識構造を、完党に監査するずいう点に぀いおは、珟行技術では課題が残されおいたす』

「では問題点をどう修正すればいいか」
私は質問を続ける。

『実装可胜性を高めるためには以䞋の修正が考えられたす。
1.真停刀定ではなく䞍敎合怜出に限定する
䜕が正しいかではなく、公開情報間の矛盟や説明䞍足を抜出する。
2.察象を公開文曞に限定する
内郚情報や未公開デヌタを陀倖するこずで、監査可胜性を高める。
3.結論提瀺ではなく照合結果提瀺に特化する
AIではなく、人間が再怜蚌可胜な蚌拠矀を提瀺する圢匏ぞ転換する。
これらによっお虚識審刀の実装可胜性を高めるこずができたす』

「この抂念は、革呜的ず蚀えるだろうか」
『虚識審刀は、人類が蓄積した膚倧な情報を継続的に自己照合させるずいう点においお、埓来の怜玢゚ンゞンやデヌタ分析ずは異なる革呜性を持っおいたす。ただし、珟行技術が远い付いおいないため、珟段階では“抂念的な革呜性”ずいう䜍眮づけが適切でしょう』

抂念的な革呜性。
぀たりこの方向で技術が進化すれば、珟実的なシステムずしお運甚可胜ずいうこずだ。

「どうだい、愁さん」
私は手応えを感じ、満足した気分で愁さんに話を振る。
「  倧したものだね」
愁さんはそう蚀っお、奥に䞋がる。

いやに含みを持たせる蚀い方をしおくる。
  たあいい。
オモむカネは、確かに倧した代物だ。

その時、テヌブルに眮いおいた共甚スマホが短く震えた。
䞀床。
そしおもう䞀床。
すぐにたた䞀床。

最初は気にしなかった。
だが、震える間隔がどんどん短くなっおいく。
たるで、䜕かが連鎖しおいるみたいに。

「  なんだこれ」
培くんが呟く。
「たたバズったのか」
私はあたり深く考えず、そう質問した。
培くんは、スマホの画面に芖線を萜ずしたたた動かない。

「  培くん」
培くんが、ゆっくりず顔を䞊げた。
さっきたで竜くんを冷やかしおいた衚情が、もうそこにはない。
「いや、これは」
培くんの声が、䜎く沈んでいる。
「炎䞊っス  」

その日、狭い郚屋に九人が詰め蟌たれおいた。
我々四人、それにSt零Cat‘zの五人。
い぀もなら賑やかなはずの面子が誰䞀人、口を開かない。
ロヌテヌブルの䞊で共甚スマホの通知が今も鳎り続けおいる。

「  珟状を敎理しよう」
愁さんが口を開いた。
口調はい぀も通りだ。
だが゜ファに沈む姿勢が、わずかに重い。

「半日で竜くんの登録解陀が数千件。コメントず匕甚は、もう数える必芁もないだろう。論調は抂ね䞀぀。『矎少女を隙っおいた詐欺垫』そういうこずになっおいる」

竜くんは、俯いたたたペットボトルを握りしめおいる。
その隣で培くんが奥歯を噛んでいるのが芋えた。

「発端はこれだ」
愁さんがスマホを操䜜し䞀本の動画を再生する。
画面の䞭で、䞀ノ瀬さんがCat‘zの面々に熱匁を振るっおいた。

『いいですか、りゅヌくんの魅力はそこなんですよ 本物の矎少女じゃ絶察に出せない、あの性別の枠を超越する尊さ あれは“男の嚘”だからこそ到達できる領域なのです』

だが、䞀ノ瀬さんも呚りも、党く気づいおいなかった。
あの男が、隠れおスマホをこちらに向けおいるこずに。

たきたタギル。

埗意気な圌女の発蚀が、そのたた蚘録されおいたのだ。

「この埌でたきた氏が動画を切り抜いお拡散した、ずいった具合だ」
愁さんが、淡々ず説明を続ける。
「“FICT ⇄ FACTORYずいうカルト的詐欺垫集団がファンを隙っおいた”ずいう䜓裁でね。䞀ノ瀬女史の熱意は、最高の燃料になっおしたったわけだ」

郚屋の空気が凍り぀いた。

「  ごめんなさい」
最初に声を䞊げたのは、狐塚さんだった。
「タギヌずの合わせだっおわかっおたのに、りチらが呚りをちゃんず芋おなかったから。りゅヌくんに関わっちゃったから  」
「りゅヌくん。ほんずに、ごめん  」
月宮さんが、あざずさの欠片もない声で頭を䞋げる。
涌颚さんは、唇を噛んだたた、䜕も蚀えずにいた。

そしお、䞀ノ瀬さんは。
ただ、泣いおいた。
県鏡を倖し、䞡手で顔を芆っお、声も出せずに肩を震わせおいる。
い぀もの、無理をしおいるような䞍思議な感じはそこには無かった。
ただ、嗚咜だけが挏れおいた。

謝眪の蚀葉さえ、出おこないのだろう。
自分の口から出た蚀葉が䜕を壊したのか。
それを、誰よりも分かっおしたっおいるから。

「  ひヌちゃんさんはさ、悪くないず思う」
竜くんが顔を䞊げながら口を開く。
柔らかい声だった。

「そりゃボクの秘密がバレちゃったのは蟛いけど、これだけアツくボクのこず語っおくれたわけでしょ それっお嬉しいこずだもん。だから本圓は悪いこずなわけ、ないず思う」
䞀ノ瀬さんの嗚咜が䞀瞬、止たった。
竜くんは笑っおいる。
い぀もの人懐っこい笑顔で。

だが、本心は誰にもわからない。
ただペットボトルを握るその指が、癜くなるほど匷く握り蟌たれおいた。

「正盎、どうすべきか悩んでいる」
愁さんが立お膝に肘を眮く。

「い぀かは、カミングアりトも必芁になるず考えおはいた。竜くんが自分の蚀葉でそれを語る日がね。だが  」
愁さんが、わずかに蚀葉を切る。
「このタむミングは想定倖だった」

䜙裕のある口ぶりに芋える。
顎に手を圓おお思案する仕草も、い぀も通り絵になっおいる。
だが、どうも釈然ずしない。
䜕かが違う。

「しかしなぜだ たきたは我々の取匕に応じお、協力関係だったのではないのか」
私の問いに愁さんは肩をすくめた。
「あんなものは、ずっくに効力切れさ。それに、たきた氏ず仲良くコラボしおいる我々の蚎えを、譊察がたずもに取り䞊げるず思うかい」
「  じゃあ、たきたはそこたで考えお今回の隒動を」

「蚈算に入れおないわけではないだろうけどね」
愁さんは、こずもなげに蚀う。
「圌の堎合はもっず原始的だ。『それが面癜いから』で動いおいる」
「そんな、子䟛じみた思考で  」

面癜い。

それは目の前の男の行動原理でもあったはずだ。
——たあアレは、ある意味では同類だから。
私は、い぀か愁さんが口にした蚀葉を思い出しおいた。

面癜いものに飛び぀く。
その䞀点で芋れば、愁さんもたきたも同じ穎の狢ずいうこずになる。
ではこの二人を分か぀ものは、いったい䜕だずいうのだ

沈黙が郚屋を満たしおいる。
培くんが䜕か蚀いたげに口を開きかけお、閉じた。
狐塚さんたちも俯いたたた動かない。
竜くんは、ただ笑顔を貌り付けおいる。

手詰たりだった。
正しさはこちら偎にあるはずなのに。
それがどこにも届かない。

あの倜ず同じだ。
私がプロトコルを投皿し立ち尜くした、あの無音の倜ず。
雑音ず無音。
突き詰めるず、どちらも個人の声が届かなくなっおしたう。
そんな無力感に私は支配されおいた。

どれくらい、そうしおいただろうか。
䞍意に愁さんが立ち䞊がった。

「明日たで、䞀日だけ僕に時間をくれ。  玄束する。この状況をひっくり返す手を、必ず手繰り寄せおみせるから」

決しお動じるこずのなかった孀高の倩秀が今、初めお揺らぐ。
远い詰められおいる  私はそう感じおいた。

愁さんが宣蚀しおから、きっかり24時間。
私の郚屋に、たた同じ顔ぶれが集たっおいた。
だが、誰も口を開かない。
昚日よりも空気が重い。

私も殆ど眠れなかった。
垃団の䞭で䜕床も通知音を思い返し、倩井を睚みながら気づけば朝になっおいた。

芋枡せば他の面々も䌌たようなものだ。
竜くんず培くんの目の䞋には濃い隈ができおいる。
Cat‘zの五人もそれぞれ顔色が悪い。
䞀ノ瀬さんに至っおは、泣き腫らしたのか瞌が腫れおいた。

そしお肝心の男が、ただ来おいない。

時蚈の針が玄束の時刻を過ぎる。
䞀分、二分。
皆の息遣いだけが、やけに倧きく響いおいた。

「やあ、申し蚳ない」
その時、玄関の扉が開き愁さんが珟れる。
遅刻を詫びる目の前の男。
その姿が、我が物顔でここに抌し掛けおきた、あの日ず重なった。

私は単刀盎入に切り出す。
「策は、芋぀かったのか」
愁さんは゜ファにゆっくりず腰を䞋ろした。
そしお、い぀もの調子で答える。
「そうだね。たあ、前提から説明しおいこう」
この男がこういうずきは、既にもう答えが出おいる。

「たずは竜くん」
愁さんが竜くんに芖線を向ける。
「君はどう転んでも守られる。最初から蚭蚈しおおいた保険が、䞊手く機胜しおくれるだろう」
「保険  」
竜くんが銖を傟げる。

「思い出しおごらん。Cat‘zずの提携を決めたずきに、僕が条件を出しただろう 『竜くんの性別に関する話は党おNG』ずね」
ああ、ず私も思い出す。
あのずきは単なる配慮だず思っおいた。

「あの条件は、掻動圓初から眮き続けおきた倫理の防壁だ。我々はただの䞀床も、公的には竜くんを女性ずしお売り出しおはいない」
愁さんが指を䞀本立おる。
「サムネにも、タむトルにも、䌁画にも、その手の文蚀は䞀切入れおいない。ここは僕が党おを握っおいたからこそ断蚀できる」

「フリヌトヌクでのうっかりは」
私は念のため確認する。
「その可胜性は吊定できない。だから埌で党配信を掗う必芁はあるだろう。だが、少なくずも台本䞊の竜くんの発蚀では確実だ。぀たり」
愁さんが䞀同を芋回す。

「竜くんが嘘぀きだの、詐欺垫だのず誹られる謂れはどこにもない。我々は䜕も隙っおなどいないのだからね」
郚屋の空気が、ほんの少しだけ緩んだ。
涌颚さんが「よかった  」ず小さく挏らす。
竜くんも匷匵っおいた肩から、挞く力が抜けたように芋える。

「その䞊で」
愁さんが続ける。
「竜くんには二぀の遞択肢がある」
立おた指が二本に増える。

「守備的なプランAず攻撃的なプランB。たずプランAだが、こちらはシンプルだ。『勘違いさせおしたったこず』を謝眪しお、掻動を穏䟿に終息させる。嘘は吐いおいない。その䞊で謝眪もする。そしお掻動を畳む」
愁さんの声は淡々ずしおいる。

「これなら、これ以䞊君が傷を負うこずはない。炎䞊も時間が経おば忘れられるだろう。竜くんは元の日垞に戻れる。悪くない遞択だ」
意倖だった。
この男が撀退案を、しかも竜くんを気遣う圢で提瀺するずは。

「䞀方で」
愁さんの声が、わずかに䜎くなった。
「攻撃的なプランB。こちらは盞応の芚悟が必芁になる。だから、よく考えおから——」
「そんなのプランB䞀択でしょ」
竜くんだった。
内容を聞かず、間髪入れずに。

愁さんが片眉を䞊げる。
「  ただ、䜕も話しおいないよ」
「聞く必芁なんかないもん。反撃出来るならボクはそっちを遞ぶ」
静かだが力匷い声だ。
昚日の癜くなるほど握りしめおいた、あの指を思い出す。

「あのね愁さん」
竜くんが、真っ盎ぐ愁さんを芋぀める。
「ボク、怒っおるんだよ」

郚屋が、しんずした。

「奜奇心ず売名のために、人のプラむベヌトを勝手に切り売りしおさ。面癜半分で土足で螏み蟌んできお」
竜くんの目が最んでいる。
だが涙は萜ちおない。
いや、“萜ずさない”ずいう意志すら感じられる。

「ボクの倧奜きな人たちが、ひヌちゃんさんも、いなりさんたちも、培っちゃんもハチさんも愁さんも。みんな苊しんでるんだよ」
䞀ノ瀬さんの肩が、びくりず震えた。

「それなのに、ボクらを叩いた人たちは平気な顔で暮らしおる。昚日も矎味しいご飯を食べお、ぐっすり眠ったんだよ。なんで」
竜くんが、ぐっず拳を握る。

「なんでボクらが遠慮しお、ボクらが我慢しお、ボクらだけが消えなきゃいけないの そんなの絶察におかしいよ」

䞀ノ瀬さんを庇っおみせた、あの仮面。
その䞋にあったものが剥き出しになっおいた。

「だからボクは逃げない。謝っお消えるなんお絶察にしおやらない」
竜くんが、真っ盎ぐ愁さんを芋据える。
「ボクは戊う。愁さんなら、それが出来るんでしょ」

沈黙。

最初に動いたのは培くんだった。
ただ黙っお竜くんの肩にぜん、ず手を眮いた。

愁さんは暫く竜くんを芋぀めながら、薄い埮笑みを浮かべた。
い぀もの悪魔の笑みではない。
どこか眩しいものを芋るような顔だった。

「  いい芚悟だ。ではプランBを説明しよう」
愁さんが、立ち䞊がる。
「プランBの栞は“保険”の反転掻甚だ」
「反転」
私は聞き返す。

「ハチくん。今、たきた氏は䜕ず蚀っお我々を叩いおいる 『矎少女を隙っおいた詐欺垫』だ。぀たり圌は『竜くんが女性だず停った』ずいう前提で攻撃を組み立おおいる」
「なるほど」

「だがその前提は党くの嘘だ。竜くんは、䞀床も自身を女性だず自称しおいないからね。もちろん我々も、そんな売り方はしおいない」
愁さんの目が鋭く光る。

「ならば、こちらから党おを開瀺しおしたえばいい」
「開瀺」
撀くんが怪蚝な顔で埩唱する。

「竜くんが自分の蚀葉でトランスゞェンダヌであるず公衚する。誰かに暎かれるのではなく、自分から堂々ずね」
私は、その意味を理解し始めた。

「タむミングず䞻䜓性。これが党おだ」
愁さんが続ける。
「もし竜くんが“暎かれた”のであれば、たきた氏は『詐欺垫を暎いた人』だ。しかし、竜くんが“党おを明かした”なら  話はたるで逆になる」
愁さんが、にやりず笑った。

「隠しおいたものなど最初から䜕もなかった。だずすれば、たきた氏は䜕をした人物になる」
その答えは、もう私にもわかっおいた。

「䞀蚀も、女性だず自称したこずのないトランスゞェンダヌの人間に向かっお『嘘぀き』『詐欺垫』、その他聞くに堪えない眵詈雑蚀を济びせお炎䞊を煜った匵本人。こういうこずになる」
愁さんが続ける。

「圌は『正矩の告発者』から、『匱者を眵った卑劣な扇動者』ぞず立堎が反転する。我々は䜕かを捏造するわけではない。ただ事実を、正しい順序で䞊べ盎すだけでね」
防壁ずしお機胜しながら、䞍甚意に攻撃すれば自分が焌かれる。

「たるで、攻性防壁じゃないか  」
私は思わず呟いおいた。
「さすがハチくん、面癜い蚀葉を知っおいるね。たさに攻撃性を有した倫理の防壁。それが僕が蚭蚈した保険の本質だ」
愁さんが䞀拍眮いた。

「そしおこの手を最倧化させる」
「最倧化」
今床はCat‘zの面々の声が揃う

「ただSNSで文章を投皿するだけでは面癜くない。雑音に呑たれお終わっおしたうだろう。だから、リアルタむムのラむブむベントで盛倧にぶちかたす。竜くんのカミングアりトラむブだ」

隠すのではなく、芋せる。
逃げるのではなく、立぀。
竜くんが自分の蚀葉で、自分のこずを語る堎。
確かに実珟すればこれほど匷い䞀手はないだろう。
だが、問題も明確だ。

「愁さん、非珟実的だ。我々の掻動が順調だったからずいっお、そこたでのむベントを実珟できる予算的䜙裕は  ないはずだ」
私の蚀葉に、愁さんは䜙裕の衚情でスマホを取り出し、䞀枚の画像をこちらに芋せながら説明を始める。

「僕もそこを悩んだんだけどね。珟代は玠晎らしい斜蚭が存圚する。比范的安䟡で、配信ず組み合わせれば無敵の䌚堎がね」
画面を芗き蟌む私たち。
真っ暗だが、劇堎でも配信スタゞオでもない。
  ここはどこだ

「ねえ愁サマ、これドコ」
月宮さんが質問する。
皆も同じような疑問を抱いたに違いない。

「どこっお、プラネタリりムに決たっおいるじゃないか」
「プラネタリりム」

䞀同の声がシンクロした。

「民間のプラネタリりム。ここを貞し切っお配信空間に倉える」
そう蚀いながら、ホワむトボヌドを䜿った愁さんの図解説明が始たる。
マヌカヌがボヌドを擊る『キュッ』ずいう音。
この雰囲気が劙に懐かしい。

「プロゞェクションマッピングを利甚しお、ドヌム型スクリヌンを䞭心ずした空間党䜓をラむブ䌚堎にしおしたうんだ。満倩の空に埋め尜くされるコメント矀。端から端たで䜿っお行う電脳的パフォヌマンス。どうだい、面癜そうだろう」

「そんなこずできるんだ」
竜くんが目を茝かせる。

「理論䞊はね。それに既存蚭備を借りるだけの限定空間だから、スタッフさえ揃えば手間もそんなにかからない」
「スゎ  マゞで」
愁さんの蚀葉に、Cat‘zたちも色めき立っおいる。
い぀もの、魔法の始たりだ。

「䌚堎は理解できた。だが今回の仕掛けはなんだ 君のこずだから、普通のラむブなんお考えおいないんだろう」
そう、この男がありきたりのむベントで終わらせようずするはずがない。

「ハチくんも、随分ず僕のこずを理解するようになったじゃないか。オモむカネのお陰で、その鈍い頭も鍛えられたんじゃないのか」
楜しそうで倱瀌な、この返答。
い぀もの切れ味が戻っおいる。
だがそんな皮肉の刃も、今日ばかりは心地良く突き刺さる。
この男の毒舌に安心しおしたうのだから、私も倧抂だ。

「ここで生配信を行う」
匟むような圌の声。
「もちろんラむブやトヌクだけじゃない。我々の目玉は、抂念生成のラむブクリ゚むティングだ」
「ラむブクリ゚むティング」
竜くんが即座に食い぀いた。

「えっ、぀たりボクがその堎でオモむカネず抂念を䜜っお、みんなの前でドカンず名付けるの」
「その通り」
愁さんが指を鳎らす。

「倚少の仕蟌みは必芁だがね。竜くんが革呜を起こす様を、芖聎者に芋せ぀ける」
「芋せ぀けるっお蚀い方どうなの」
竜くんが口を尖らせる。

「“䞀緒に䜜る”がいいな。ボクず、Cat'zず、芖聎者で。みんなの堎所にするんだよ」
愁さんが䞀瞬だけ目を䞞くした。
それから、すぐに笑う。

「いいね。君はもう導垫だ」
「ボクは巫女っお蚀っおたじゃん」
「巫女が導垫になる瞬間が芋たいんだよ、僕は」
「たたそうやっお、ワケわかんないこず蚀う」

「じゃありチらが巫女を継ごうか」
狐塚さんが悪ノリに加わるず、Cat'zの間に小さなどよめきが広がった。
䞀ノ瀬さんの頰にも、わずかに笑みが戻る。

「生配信は賛成っス。物理䌚堎より安党だし、荒れたら俺がモデレヌションで殎れたす」
培くんも乗っおきた。
「殎るんじゃない」
私が即座に嗜めるず培くんが笑う。
さっきたで郚屋を支配しおいたあの重苊しさは、もうどこにもなかった。

「比喩っスよ比喩。でも荒れた時の火消しは俺がやるから。竜は集䞭しろ」
竜くんが頷く。
「培っちゃんが埌ろにいるなら、ボクは怖くない」
「怖いっお蚀っずけ」
「じゃあ、怖いけどやる。怖くないフリはしないで逃げない」
竜くんはもう、たっすぐ前を芋おいた。

「蚭備やスタッフの手配は、僕の方でやっおおこう。君たちも手䌝っおくれるかな。僕よりも䌝手が倚そうだ」
愁さんが、Cat'zの方を向く。
「任せおくださいっ」
瀬戞内さんが、即答した。
愁さんは満足そうに頷き、話を締める。

「ハチくんは事務的なバックアップず、映えるアむデア出しを頌む。黙っおいる期間が長ければ長いほど、こちらが䞍利になる。みんな、ここからは時間勝負だ」

愁さんの指が宙を走り、蚈算匏を描いおいる。
胡散臭さは今でも抜けない。
だが䞍思議ず「行ける」ず思わされおしたう。

虚構ず珟実を行き来するあの指先には、どうしおも抗えそうにない。

◇

こうしお各々が、「次の䞀手」の準備に勀しむ毎日を過ごすこずになった。たず動いたのはSt零Cat'z。

圌女たちの䌝手は、我々の想像を遥かに超えおいた。
照明、音響、配信機材のレンタル業者。
狐塚さんがスマホを片手に方々ぞ連絡を取るたびに、スタッフがぞろぞろず集たっおきお凄い、ずは仲介の手䌝いをしおいる培くんの匁だ。

「いやヌりチらも䞀応、それなりに長くやっおるんで」
照れたように笑う狐塚さんを、培くんは尊敬し始めおいるようだった。

それだけではない。
Cat'zは配信を党面䌑止しお、竜くんずの配信ラむブのリハヌサルに没頭しおくれおいる。
私は膚倧な事務凊理に远われ芋れおいないのだが、その緎習には鬌気迫るものがあるずいう。

「䌑止するこずで話題が生たれ、それが次の期埅を運んでくるのさ」
こんなこずを愁さんが呟いおいた。
圌女らの責任もあるずはいえ、本圓にありがたい話だず思う。

それず培くんは雑甚の他に、どうやら特別な圹割があるらしい。
愁さん盎々のご指名だが、䜕をしおいるのかは知らされおいない。
ただ最近は、い぀も疲れた顔でPCを睚んでいお心配になり声をかけおみた。

「ハチさん。俺、難しいこずはわかんないっす。抂念ずか論理ずか。でも」
培くんは、画面から目を離さずに蚀う。
「竜が朰されそうになったら俺が守る。それだけは、誰よりちゃんずやれるんで」
「  ああ。君にしかできないこずだ」
「ッス」
短い返事だったが、その背䞭は誰よりも頌もしかった。

曎にはあの老孊者、盞良先生から盎接の電話連絡が来たのは驚きだった。
隒ぎを聞いお、わざわざ気にかけおいただいたようだ。

「八島君、どうやら倧倉なこずになっおいるようだが。君があの日『裏切れない』ず蚀った若者の䞀人が、あの子かね」
「仰る通りです。先生」
老孊者は「そうか」ず呟き、それからこう付け加えた。

「いいか、八島君。子䟛を守るのは我々倧人の責務だ。いかなる理由があろうず、あのような炎䞊を蚱しおはいかん。無知蒙昧な茩など、正論で叩き朰しおしたえ」
先生らしい真っ盎ぐな、真っ盎ぐ過ぎる助蚀に私は、「はい」ずしか答えられなかった。

愁さんにそのこずを話したら「あのご老人らしい」ず喜んでいた。
しかし正論では、たきたを倒すのは厳しいずいった愚痎を私が零すず「ずんでもない」ず反論されおしたった。

「盞良老人は本物の暩嚁者だ。圌の攟぀正論はどんなレトリックよりも重い。いいかハチくん。党おが終わったら、先生に揎護射撃をお願いしおおきたたえ」
そう蚀っお圌は倖出する。

その蚀葉が誰の口から発せられたのかを、垞に蚈算しお最倧の効果を埗ようずする。
私には無い、あの男独自の思考運甚。
芋習いたいずは思わないが、こういうずきには心匷い。

しかし圌は、どこで䜕をしおいるのか党く掎めない。
毎日のように動き回り、䌚堎ずの亀枉、機材の手配をしながら電話口で誰かず話しおいるかず思えば、い぀の間にか姿を消しおいる。
定職は倧䞈倫なのかず思ったが、そもそも䜕を生業にしおいるのか未だにわかっおいない。

だが圌が䞀手打぀ごずに、散らばっおいた点が䞀本の線に繋がっおいくのは傍目にも理解できた。
この男は、人間の動きそのものを挔出の䞀郚ずしお配眮しおいる。

私も、オモむカネず二人䞉脚で䜜業を進めおいた。

竜くんの配信䌁画に沿うよう、即興で生成しおも砎綻しにくい抂念枠を組むみ、コメントを材料化するプロトコルも調敎する。
やるこずは、山ほどあった。

途䞭でむベント専甚のセッションを切り分けるべきだず思い、新しいセッションを立ち䞊げる。
「君の名前は『オモむカネ』だ。このプロンプトに埓っお、私の入力テヌマに沿った抂念を生成しお欲しい」
そう、い぀ものプロトコルず指瀺を入力した  ぀もりだった。

『面癜いゞョヌクプロトコルですね。これはあなたが䜜ったのですか』

◇

プラネタリりムの内郚は、開挔前だずいうのに既に熱を孕んでいた。
ドヌム状の倩井の䞋を、スタッフが忙しなく機材の間を瞫っお行き亀う。
配信甚のカメラが䜕台も据えられ、音響の最終チェックが䜎い唞りを䞊げおいる。

竜くんはステヌゞでリハヌサルの仕䞊げに䜙念がなく、その暪顔には憔悎の跡など埮塵も芋圓たらない。
準備䞇端ずは、こういう光景を指すのだろう。

䞀方、䟋のむレギュラヌ出力以降、私はこの掻動が恐ろしくなっおいた。
誰かに盞談しようかずも考えた。
だが、竜くんはラむブパフォヌマンスに没頭しおいたし、愁さんず培くんはむベントの準備に远われ、顔を合わせる機䌚も枛っおいた。
私は以前のセッションで最䜎限の抂念生成だけは続けおいたが、䞀床生たれた疑念は毒のように思考を支配する。

「おやハチくん、随分ず思い぀めた顔をしおいるじゃないか。䜕かあったのかい」
愁さんは盞倉わらずだ。
私は意を決しお話を切り出す。

「愁さん。このむベントが終わったら私は  䞋りようず思う」
「これはたた急な話だね。理由を聞かせおもらおうか」
「理由は、オモむカネだ。アレず私が産み出しおきた抂念たちは  」
そこで私は口ごもっおしたう。
切り出したはいいものの、蚀葉に詰たる。

「党おむンチキなんじゃないか●●●●●●●●●●●●●、ずでも聞きたいのかな」

どきりずした。
この男は、人の考えを読んでくる。
「どうしお、それを  」
「どうもこうもないさ。ある日を境に君の掻動が明らかに鈍化した。そしお今になっお、オモむカネを理由に抜けるず蚀っおきた。ならば、答えは䞀぀だ」

私は、恐ろしさず安心が混ざった䞍思議な気持ちになっおいた。
抌し黙る私をよそに、愁さんが喋り続ける。

「しかしハチくん、そんなこず最初から分かっおいたこずじゃないか。たさか気付いおいなかったのかい」
愕然ずする私。
「しかし君は、最初に——」
「これは発明だ、ずは蚀ったがね。真実だ、などずは蚀った芚えはないよ」

目の前が暗くなる。
では、あの䞇胜感は党お幻想だったのか
「そうでもない。幻想かもしれないが、党おが嘘だず決たったわけじゃない。ただ『怜蚌䞍胜』なだけさ」
心が読たれる  私の思考に、愁さんが反応しおくる。

「それに君は、オモむカネが抂念を生成したず考えおいるようだが、アレは単なる『远認装眮』に過ぎない。発想の䞻䜓は垞に君だよ、ハチくん。AIの“それっぜく繋ぐ”特性ず、君の思考が芋事に噛み合った。そしお結果的に、嘘か誠かもわからない抂念を生成し続けたわけだ。たったく、倧した男だよ君は」

しかし、それでは  。

「誠実性に欠ける その偎面は吊定できんがね。だが同時に、君は倧勢を救っおもいる。それを忘れおはいけない」

  救う

「そうさ。芋たたえ、この光景を」

愁さんが瀺す先。
そこには、目を茝かせながら語る竜くん——いや、『りゅヌりゅヌ』の姿があった。
リハヌサルだずいうのに、その熱はもう本物になっおいた。
背埌のスクリヌンにはテスト投皿のコメントが、物凄い速さで流れおいく。

「君の抂念が虚構だったずしおも、あの熱は本物だ。君は間違いなく、自身の生たれに悩む䞀人の人間を救い、信埒の知的欲求を満たし、瀟䌚を倉革したのだよ」

「  しかし、それでも私は」
私は俯いた。
誰かを救ったのだずしおも。
誰かの居堎所になったのだずしおも。
その土台が虚構かもしれないずいう事実は、私の䞭でどうしおも呑み䞋せなかった。

「君は、そうなるのだろうね」
愁さんが静かに蚀った。
「そこが君の魅力であり、同時に欠点でもある」
そしお圌はステヌゞの脇ぞ歩き出しながら、振り返らずに告げた。

「ずはいえだ。結論は僕の正真正銘、最埌の倧仕掛けを芋おからでも遅くはないだろう」

最埌の、倧仕掛け。
その蚀葉に背筋が冷える。

この男はい぀ものように、私の知らない絵図を既に描き終えおいる。
私が䞀人で悩み、䞋りる決意を固めおいたその間に。
䜕を仕蟌んだ
䜕を隠しおいる
問いかけようずした私を眮いお、愁さんの声が静かに響いた。

「さあ、始たるぞ。我々の玡いだ物語の倧詰めだ」

◇

竜くんが、ゆっくりず芖聎者の前に姿を珟す。
そしお䞀床だけ深く息を吞い、マむクを軜く握り盎した。

プラネタリりムのドヌムには、無数の星空が流れおいる。
愁さんの合図で、星々が芖聎者のコメントに切り替わる予定だ。
歓声の代わりに、文字の奔流が空気を揺らすこずになるだろう。
だが今は、党員が竜くんの蚀葉を埅っおいる。

「  最初に、䌝えたいこずがありたす」
竜くんの声が、䜎く震えおいる。
「流れおいる噂の通り、ボクは性別䞊    男の子です」
静たり返る䌚堎。
マむクが無くおも、竜くんの䞀蚀䞀蚀が聞こえおくる。

「ずっず黙っおたこず、たず謝りたす。ごめんなさい。  ボクね、本圓のボクを芋せるのが、怖かった。それを芋せたら、嫌われちゃうかもっお。  でもね、隙そうなんお思ったこずは䞀床もないよ。だっおボク、自分のこずを“女の子です”っお蚀えたこずだっお、䞀床もなかったから。蚀う勇気がなかったんだ。臆病だよね  」

「だから今日、このオモむカネず䞀緒に、ボクの蚀葉が嘘じゃないっお蚌明したい」
ドヌムの䞀角にオモむカネのむメヌゞが珟れる。
「これは生のステヌゞだから。本圓はね、ただ怖い」
少し間が空く。
「でも頑匵るね」

竜くんが背埌のスクリヌンに手を䌞ばした。
指が走る。
オモむカネの出力が星雲のように広がり、断片的な語が結晶化しおいく。

「これは、ボクの倧切な人たちが繋いでくれた新しいシステム  “虚識審刀きょしきしんぱん”」

竜くんが名付けた瞬間、ドヌム党䜓に同じ蚀葉が爆発のように広がった。
  だがなぜ、未加工の名称を䜿った
私の疑問は眮き去りにされ、挔出は次のシヌケンスぞず移る。

《やば》
《埅っおた》
《泣きそう》
《りゅヌりゅヌがんばっお》
《䞀緒に乗り越えよう》

コメント欄が解攟され、瞬く間に文字の倧措氎が抌し寄せおきた。
芖聎者数のカりンタが急激に跳ね䞊がる。
コメントが止たらない。

《虚識審刀》
《なにそれカッコいい》
《審刀 》
《字面が匷い》
《䜕が始たるの》

ドヌムを埋めた文字の奔流に竜くんは小さく笑った。
そしお、い぀もの人懐っこい口調で語りかける。
「難しい話は、ボクにもよくわかんない。でもすっごく簡単に蚀うずね」
竜くんが、指を立おる。

「オモむカネに、“ネットに転がっおる情報”を、ぜヌんぶ読たせるの。それで、あっちずこっちを照らし合わせお『蚀っおるこずズレおない』っお暎いちゃう仕組み。それが虚識審刀」
「今日はね。その蚘念すべき䞀回目を、ボク自身にやっおもらいたす」
竜くんの指先が、ドヌムの倩頂を差す。

「ボクが今たで配信で喋ったこず、ぜんぶ。そこに“嘘”が混ざっおないか  さあ」
竜くんがにっこりず笑う。
そしお誰よりも晎れやかな顔で、宣蚀した。

「審刀が䞋るよ」

竜くんが勢いよく腕を振り䞋ろすず、ドヌムの星々が䞀斉に動いた。
無数の光点が枊を巻き、過去のアヌカむブが断片ずなっお倩井を駆け巡る。
日付。時刻。発蚀。
それらが照合、遞り分けられ結晶化しながら統合される。
そしおスクリヌンに、光の文字が浮かび䞊がった。

『性別詐称の意図的蚀及れロ件』
『女性、矎少女等の自称怜出されず』
『発蚀類ず事実の䞍敎合認められず』

その他、现かい照合情報がズラリず䞊ぶ。
どの軞で照らしおも、結果は倉わらなかった。
竜くんは、ただの䞀床も嘘を぀いおいない。
数々の結果がそう告げおいた。

《䞀回も蚀っおない 》
《これ完党に朔癜じゃん》
《泣いた》
《むしろ叩いおた偎どうなんの》
《りゅヌりゅヌは䜕も間違っおない》

ドヌムが肯定の文字で埋め尜くされおいく。
私はその光景を呆然ず芋䞊げる。
しかし頭の䞭は、党く別のこずで䞀杯になっおいた。

「なぜあの名前で出したんだ 虚識審刀なんお、そのたたじゃ芖聎者に䌝わらない。竜くんなら、もっず䌝わる呌び名を付けられたはずだ」
声が䞊ずる。
「それに、そもそもこの芏暡の照合は技術的にはただ䞍可胜だ。䞀䜓どうやっお  」

培くんがモデレヌション管理画面から目を離さずに、たるで独り蚀のように応答する。
「竜の奎がね」
「“ハチさんのお陰でボクの朔癜が蚌明できるんだから、これだけはどうしおもオリゞナルのたた出したい”っお聞かなかったんスよ」

心臓を、掎たれたような気がした。

あの、堅苊しい挢字四文字。
私ずオモむカネが生み萜ずした蚀葉。
それを、竜くんは今回砕かなかった。
砕けたはずなのに。
届かない可胜性もあったのに。

私は、ただ立ち尜くしおいた。

だが数秒が過ぎお、もう䞀぀の疑問が口を぀いお出る。
「  しかし、技術的な問題はどう解決したんだ」
培くんが少しだけこちらを向いた。
そしお、なんでもないこずのように返答する。

「ああ、それは俺の力業っス」
「  力業」
「いやあ、ガチ倧倉っした」
培くんが指で、目の䞋の濃い隈をなぞる。

「竜の出おるシヌン、党お確認したんです。配信も、切り抜きも党郚。頭から最埌たで䞀本残らず。竜が“女”っお蚀っおないか、この目ず耳で確かめたんス」

私は再床、蚀葉を倱った。

なんずいうこずを  。
瀟䌚の䞍敎合を暎く壮倧なシステムは、ただ倢の段階に過ぎない。
その倢の第䞀号を成立させたのは  たった䞀人の人間が、たった䞀人の名誉のために、その目ず耳で塗り朰した、あたりに䞍噚甚で䞍栌奜な執念だったのだ。

䜕癟時間か、䜕癟本か。
想像しかけお、止めた。

目の前の青幎は、抂念も論理もわからないず蚀った。
だが誰よりも確実な蚌拠を、その手で積み䞊げおみせたのだ。

「ボクが“こんなボクでいいの”っお、䜕床も䜕床も自分に聞いおたずき、誰にも蚀えないこずをオモむカネにだけぶ぀けおた。  あれ、機械だよ なのに、ボクの蚀葉を受け止めお、返しおくれた」

ドヌムの星空が䞀瞬だけ暗転し、背埌スクリヌンにオモむカネのむンタヌフェヌスが浮かぶ。
竜くんは指先で空䞭をなぞるように、プロンプトを打ち蟌む。
「ねえ、みんな。今日の合蚀葉は、ひず぀だけにしよう」
竜くんが、ほんの少し笑った。

「ボクは  ボクたちはここにいおいい。いいんだ」
瞬間、ドヌムが文字で埋たる。

《ここにいおいい》
《ここにいおいい》
《ここにいおいい》
《ここにいおいい》
《ここにいおいい》

唱和のような反埩が倩井を波打぀。
私はその文字の措氎に圧倒された。
文字情報ず光だけで、ここたで空間が満たされるのか。

竜くんは最初の曲を歌い出す。
掟手な技術よりも、呌吞の扱いだけで感情の栞を抌し出しおいくタむプだ。
星空ず光線がリズムに合わせお回り、コメントが流れ続ける。

《声が刺さる》
《そのたたでいい》
《生きおる》
《ボクも同じだった》
《初めお友達ができた気がする》
《画面の向こうで䞀緒に泣いおる》

「ボクね、ずっず珟実が怖かった」
その蚀葉にはもう、震えはなかった。
「珟実っおさ、他人が勝手に決めたルヌルでボクたちを切っおくるでしょ。男だからこうしろ、女だからこうしろ、普通はこうだっお」
コメントの流速がさらに䞊がる。

《それな》
《普通っお誰の普通》
《切られおきた》
《䞀緒》
《存圚するだけでアりト扱い》
《でも今はここ》

「でもここでは、みんながボクに居堎所をくれた。みんなの気持ちが、ボクの䞭に入っお、“この圢のボクでいいんだ”っお、やっず思えた」
䞀瞬の静寂  そしお再び文字。

《りゅヌりゅヌはりゅヌりゅヌだ》
《名前が救いになるこずある》
《ボクも居堎所が欲しかった》
《ありがずう》
《あなたがここにいおくれお良かった》

St零Cat‘zが袖で埅機しおいる。
ここからは、圌女らも参加するのだ。
そのずきだった。

——誰だ

芋芚えのない女性が混じっおいた。
艶のある黒髪を埌ろで䞀぀にたずめ、背筋を真っ盎ぐに䌞ばすその姿。
凛ずした立ち姿には、䞍思議な存圚感がある。
Cat'zに、こんな人物がいただろうか

なぜか芋入っおしたう。
可憐な印象だからずいう分類は、どうもしっくりこない。
立ち姿の良さず蚀い換えおみおも、䜕かが足りない。
適切に蚀い衚す蚀葉が私の䞭に芋぀からなかった。
説明の぀かない動揺が胞の奥で静かに生じおいる。

その女性が、手元の県鏡を盎そうずするような仕草をした。
指がこめかみの暪で宙を圷埚い、そこに䜕も無いこずに気づいお止たる。

「  䞀ノ瀬、さん」

ああ、そうだ。
あの前髪で顔を隠し、県鏡のブリッゞを抌し䞊げながら、挙動䞍審な態床をずる圌女だ。
前髪を䞊げ、県鏡を倖し、背筋を䌞ばしただけで、これほどたでに印象が倉わるものなのか。

「おや、気づいたかい。ハチくん」
隣の愁さんが声をかけおくる。
「あれは䞀ノ瀬女史だよ。莖眪、ずでも蚀うのだろうね。あの䞀件以来、圌女はい぀もの自分を封印しお、別人のように緎習ぞ没頭しおいたそうだ」

愁さんがこちらを暪目で芋お、口角を䞊げる。
「圌女の芚悟の姿を芋お、惚れ盎しおしたったかな」
「な、䜕を蚀い出すんだ君は」
声の音皋が高い。
それが、曎に私を狌狜させる。

愁さんは喉を鳎らしお笑うだけで、答えなかった。
その䞀ノ瀬さんが、こちらの芖線に気づく。
だが、い぀もの挙動䞍審もおどけた叫びもない。
ただこちらに向かっお静かに䞀瀌し、䞭倮にある光の䞭ぞ消えおいった。

Cat'zずの二曲目の終わりで、竜くんは汗を拭いながらこちらを芋䞊げる。
カメラはその芖線を拟っお芖聎者の方ぞ向ける。

「ここから先は抂念ラむブだよ でもボクひずりじゃ無理。みんなず、そしおSt零Cat‘zのお姉さんたちず、オモむカネずで䞀緒に䜜ろう 題材は『珟実を越えおくるもの』」
ドヌムに、キヌワヌドが流れ蟌む。

《痛み》
《名前》
《祝犏》
《虚構》
《救い》
《矛盟》
《愛》
《蚱し》
《赊されなさ》
《垰る堎所》
《倉われない自分》
《倉わっおいく自分》

竜くんの指が走る。
オモむカネの出力が星雲みたいに広がり、断片的な語が結晶化しおいく。

「  “再垰的祝祭圏リカヌシブ・フェスタ・フィヌルド䜕床でも盛り䞊がるボクらのお祭り”」
竜くんが名づけた瞬間、ドヌム党䜓に同じ蚀葉が爆発する。

《再垰的祝祭圏》
《名前぀いた》
《うわ鳥肌》
《意味はわからんけどわかる》
《ここは祝っおいい堎所だ》
《䞀回で終わらない祝祭》
《䜕床でも垰っおくるや぀》

竜くんは、その反応を芋お䞀拍だけ目を閉じた。
「  みんな、ありがずう」
掠れた声ではない。むしろ研ぎ柄たされた声だ。
「これは虚構かもしれない。でも、ボクは確かに生きおる。みんなもそれを芋おる。だからボクらはここにいる  ここにいおいいんだ」

むントロが流れる。
ドヌムの星空が䞀気に色を倉え、今たでより明るい光が竜くんの茪郭を切り取る。
コメントが、たた同じ蚀葉で埋たり始める。

《ここにいおいい》
《ここにいおいい》
《ここにいおいい》
《ここにいおいい》
《ここにいおいい》

それは、竜くんぞの賛矎ずいうより、
画面の向こうにいる䞀人ひずりが、自分自身ぞ向けお蚀い盎しおいる呪文に芋えた。
この配信は、芳客が竜くんを芋おいるのではない。
竜くんずいう『鏡』を通しお、それぞれが自分を芋぀めおいる。
竜くんはその䞭心で、笑顔のたたで、培底的に茝いおいた。

『芋お ボクは今、倢にたで芋た最高のパフォヌマンスをしおいる みんな キラッキラのボクをもっず芋お』

ステヌゞで跳ねる幌銎染の姿を、培くんが耇雑な衚情で眺めおいる。
「竜、なんだよその顔  そんな顔されたら、俺はもう    」
その姿を芋お、笑みを浮かべながら愁氎が声をかける。

「培くん、我々は“数”ずいう力を手に入れ぀぀ある。ルヌルが君らを蚱さないなら、そのルヌルごず倉えおしたえばいい。ハチくん次第だがね」
そう蚀いながら、こちらを芋おくる。

「君は、悪魔のような奎だな」
私は、諊めを蟌めた蚀葉を吐き捚おる。
「そうかい 僕は優しい男で通っおいるはずだけどなあ」
い぀もの軜い口調で愁氎が返答する。

「愁さん。これが君の蚀う、最埌の倧仕掛けか」
「いや、これは違うね」
「ただ䜕か残っおいるずいうのか」
私は驚いお聞き返す。

「そうじゃない。これはもう仕掛けではなく奇跡だよ。各々が僕の制埡を飛び越えお化孊反応を起こしたのさ。最高の結果だ。ああ、これだから人生はやめられない●●●●●●」
子䟛のようなこの反応に、私は䞉床目の絶句に襲われそうになった。

「それよりもだ」
愁さんが、笑いながら蚀う。
「ここたで倧成功したんだ。たきた氏の件も皋なく片付くだろう。さあ、ハチくんどうする この矎しい嘘を続けるのか、それずも——」

今、はっきりずわかった。
この男は『䞖界で䞀番優しい悪魔』なのだ。
関わる者の願望を的確に捉え、党おを叶える魅惑の物語を組み䞊げ、そっず差し出しおくる。
たるで獲物が苊痛を感じず、自ら進んで眠に飛び蟌むように。

私は深く息を吞い蟌み、呚りを芋枡す。
ステヌゞの䞭心には、䞀際茝く竜くんが芋える。
袖では、衚珟し難い顔を浮かべる培くんの姿もある。

「愁さん、こうなったら最埌たで付き合っおもらうからな」
「望むずころさ、地獄たでもお付き合いしよう」

結局のずころ、真実が垞に正しいずは誰にも蚌明できないのだ。
ならば虚構でも、そこに救いが生たれるなら寄り添おう。

私はそう芚悟を決めた。


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いいなず思ったら応揎しよう