【昼と夜の番人】第一章|選定の年|あと七日(リリア編3)
近所の人たちがお祝いの準備を始める中、
母はリリアの手にある封筒を見つめていた。
家の前の騒ぎから少し離れた場所で、
父も腕を組んで立っている。
兄と姉は玄関先から様子を見ていた。
妹だけが落ち着かず、
リリアの周りをぐるぐる回っている。

「ちょっとみんな集まって」
母が静かに声を上げた。
「まずは手紙の中を確認しましょう」
その言葉に、
父が小さく頷く。
「兄ちゃんも姉ちゃんもおいで」
玄関先にいた兄と姉も近づいてくる。
兄は封筒を見ながら、
「どんなことが書かれてるんだ?」
と呟いた。
妹は駆け寄って、
「早く見ようよ!」
と、ぴょんぴょん跳ねている。
気がつけば、
家族全員が食卓を囲んでいた。
その真ん中には、
神殿の紋章が押された封筒。
誰も喋らない。
さっきまで賑やかだった家の前が、
嘘みたいに静かに感じた。
「リリア。開けてみなさい」
母が優しく言う。
リリアは小さく頷いた。
封筒を手に取る。
指先に力を入れる。
けれど、
なかなか封が切れない。
「お姉ちゃん?」
妹が首を傾げた。
「あ……」
その時になって初めて気づく。
自分の手が震えていることに。
みんなの視線が集まる。
リリアは小さく息を吸った。
そして封蝋を割る。
乾いた音が静かな部屋に響いた。
中から一枚の羊皮紙を取り出す。
整った文字が並んでいた。
リリアはゆっくり読み始める。

『リリア・フェルナ』
『汝を神殿選定候補者として認める』
妹が目を輝かせる。
兄が感心したように息を吐く。
姉は口元を押さえた。
母は何も言わない。
ただ、
リリアの声に耳を傾けていた。
『七日後、神殿へ出頭すること』
リリアの視線が止まった。
もう一度読む。
けれど文字は変わらない。
七日後。
あと七日。
思わず羊皮紙を持つ手に力が入る。
胸の奥が、
ぎゅっと締めつけられた。
部屋の中が静まり返る。
「七日後か……」
兄がぽつりと呟く。
「思ったより早いな」
誰も言葉を続けなかった。
さっきまで家の前で聞こえていた笑い声だけが、
遠くから聞こえてくる。
「……みなさんを待たせちゃうわね」
しばらくして、
母が小さく息を吐いた。
「村長にも報告に行かなきゃ」
その一言で、
止まっていた時間が少しだけ動き出した。
家の外では、
相変わらず楽しそうな声が聞こえている。
けれどリリアには、
七日後という言葉だけが、
いつまでも胸の中に残っていた。


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