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大和郡山城登城記①|雨の近鉄郡山駅から

ビジネスホテルの天井を見つめながら、ゆっくりと目を覚ました。

出張でもないのにビジネスホテルに泊まる、この感覚がたまらなく好きだ。朝風呂の大浴場でしっかり目を覚まし、無料の朝食バイキングで腹ごしらえをする。「今日歩く分のカロリーだから」と自分に言い訳をして、つい取り過ぎてしまうのはご愛嬌だ。

食後のコーヒーを飲みながら、ベッドの上に放り出しておいた『続日本100名城』公式ガイドブックをパラパラとめくり、今日のターゲットを再確認する。

今回の目的地は、奈良県大和郡山市。そこにある大和郡山城だ。

歴史とは、つくづく不公平なものだと思う。

後世の人間が熱狂するのは、いつだって天才だ。常識をひっくり返し、時代をかき乱し、誰も思いつかなかったことをやってのける人間。そういう人間の名前は教科書に太字で載り、英雄として語り継がれる。

しかし、その天才たちが豪快に散らかした夢の残骸を黙々と拾い集め、現実の形に整え、怒れる関係者への根回しに走り回った人間のことを、いったい誰が覚えているだろうか。

そんな報われない側の代表格と言えるのが、豊臣秀吉の弟・豊臣秀長(とよとみひでなが)である。

……と、少し前までなら「不遇の武将」として語っていたところだが、今年ばかりは事情が違う。なんと2026年、豊臣秀長が大河ドラマの主人公に大抜擢されたのだ。俳優・仲野太賀演じる秀長が、兄・秀吉の無茶振りを斬新なアイデアで乗り切り、出世していく。日本中が今、この「最強のナンバー2」にスポットライトを当てている。

『豊臣秀長像』(梅軒員信画、春岳院所蔵、大和郡山市指定文化財)

実際の秀長も、ドラマに負けないほどの調整力を持っていた。兄の秀吉が「あの大名を黙らせろ」「あそこに城を建てろ」と無茶振りをかます。すると秀長は、相手の面子を丁寧に立てながら説得し、どこからか予算を工面し、現場が回るように段取りを整える。秀長がいなければ、豊臣の天下などすぐに崩壊していたはずだ。

温厚で誰からも慕われた人物だったと記録は伝えている。しかしその腹の底には、誰にも打ち明けられない孤独があったはずだ。諸将の不満を一身に引き受け、兄の暴走にひとり静かにブレーキを踏み続けた男の重圧を想像すると、気が遠くなる。事実、彼がいなくなってからというもの、豊臣政権は転がり落ちるように暴走を始め、やがて滅亡していく。いなくなって初めて証明される存在の重さ。これほど皮肉な末路があるだろうか。

そんな彼が、人生の最後に腰を落ち着けた場所がある。大和・紀伊・和泉の三か国、百万石という飛び抜けた大領を与えられ、城主として入城したのがこの大和郡山城だ。

一生を兄の影として生き、巨大組織の尻拭いに血道を上げた男は、最晩年にようやく手にした「自分だけの城」に、果たしてどんな夢を描いたのだろうか。

ホテルのチェックアウトを済ませ、近鉄郡山駅のホームに降り立つと、梅雨時特有のじっとりと重たい湿気が全身にまとわりついてきた。見上げる空はどんよりとした鉛色で、今にも泣き出しそうだ。

ポツリ、と腕に水滴が落ちる。
うわ、雨だ。

まぁいい。むしろしっとりとした風情があっていいじゃないか。どうせ天守台に登る頃には、湿気と汗でどのみち濡れるんだ。

観光客が群がる鹿にも、巨大な大仏にも、今日は用がない。私が向かうのは、天下を陰から支えた男が、泥臭い覚悟とともに築き上げた城だ。歴史の影で胃を痛め続けた偉人の正体を暴く旅が、今ここから始まる。

豊臣の家紋「五七の桐」があしらわれた近鉄郡山駅

〜②へ続く〜


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