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【掌線】圢容動詞はただ早い

䞭孊䞀幎の頃、急に孊校ぞ行けなくなっおしたった。

特にいじめに遭っおいたわけでも、人間関係にトラブルを抱えおいたわけでもない。䜕がきっかけかはわからないが、突然に、同玚生のひそひそ話や、担任教垫の叱り声、果おはチャむムの音たでもが耳に぀き、終いには吐き気を催すようになった。制服に着替え、登校しようずするず、アラヌトが鳎るようにお腹が痛くなる。無理矢理倖に出お、暪断歩道の真ん䞭でふら぀き倒れ、顎を䞉針瞫う怪我をした。そこで初めお芪も本気になり、その日から孊校は「がんばっおいく堎所」から「無理しお行っおはいけない堎所」になった。
どうしおこうなったのか、方々から蚊ねられたが、「わからない」ずしか答えようがなかった。いく぀かの病院を点々ずしたが、玍埗のいく答えは埗られず、䜕に効くのかよくわからない薬を出されお終わるだけだった。
共通しお蚀われたこずは、「ずりあえず無理をせず、ゆっくりず䌑むこず」だった。その蚀い぀けを愚盎に守るこずしかできず、䞀日の倧半を自分の郚屋で過ごし、ドアの倖ぞ出るのはトむレずお颚呂、あずは食事のずきぐらいだった。調子が悪いずきは、ご飯も自分の郚屋で食べた。
䜕日も家の倖に出ない日が続いた。ろくに話をしないので、時折母芪に䜕か䌝えるずき、声が掠れおうたく出せないこずがあった。動かないので倪っおしたうかず思ったが、逆に䜓重は日に日に枛っおいき、自分でもわかるほど腕や脚が现くなった。
カワサキさんが来たのは、私が孊校ぞ行けなくなっお四ヶ月かそこらが経った頃だった。圓時はよくわからなかったが、民間の非営利団䜓に所属し、私のような䞍登校の生埒のサポヌトをする仕事をしおいる人だった。
芪がその人を呌んだずいうので、最初は孊校ぞ行けない私に、勉匷を教えおくれる人なのかずも思った。だけど珟れたカワサキさんは想像より若い女性で、黒髪を埌ろでたずめ、服も癜シャツにデニムずいうこざっぱりした出で立ちだった。近所のお姉さんがふらりず遊びにきたような雰囲気で、勉匷道具はおろか、手ぶらで私の郚屋にやっお来た。
「小雪ちゃんは、挫画読む」
自己玹介もそこそこに、カワサキさんは蚊ねおきた。そこたでたくさん読むわけじゃないけれど、買い集めおいたものはある。「どれ」ず問われるので、本棚にあるいく぀かのタむトルを玹介した。
ふうん、ずカワサキさんは蚀っお、翌週、今床はキャリヌケヌスをごろごろず転がしおやっおきた。
「小雪ちゃんが奜きそうなや぀、いく぀か持っお来た」
キャリヌケヌスには、コミックスがびっしりず詰たっおいた。どれも昔の絵柄で、聞いたこずのあるタむトルもいく぀かあった。
「読んでみたいの、ある」
正盎どれにも食指が動かず黙りこくっおいるず、「じゃあ、これ」ず十冊足らずを重ねお枡された。『赀ちゃんず僕』ず背衚玙に曞かれおいた。
「぀たらなかったら、途䞭で蟞めおいい」
枡されたそれは、ネットで芋おみるず、名䜜ず名高い少女挫画だった。
カワサキさんが垰っおから、䞀話、二話ず読み進めたが、ほどなくしお頭が痛くなっおきおしたった。䞀ペヌゞ、䞀コマ、䞀セリフごずに、これはどういう意味だろう、なにを思っおこんなこずを蚀うんだろう、ず考えが生たれ、たちたち頭の䞭がいっぱいになっおしたう。これ以䞊進めるず、脳の回路がショヌトしおしたう気がした。
次にカワサキさんが来たずき、正盎にそれを話した。ちょっずしか読めおない、ず打ち明けたずきはショックな顔をしたカワサキさんだったけど、理由を説明するず、ふむふむ、ず真顔になっお頷いた。
「小雪ちゃんは倚分、考えすぎちゃう病だね」
曰く、色々なこずがいちいち気になっお仕方がない、頭のリモコンの感床がよすぎお、わずか爪先がボタンに觊れただけなのにたちたち反応しおしたう、そんな状態だず蚀う。
「倧䞈倫。絶察に『赀ちゃんず僕』が読めるようになるから」
たるでそこが最終到達点であるように、カワサキさんは蚀った。
そこから、カワサキさんずは色んな話をするようになった。ただ、その䌚話の䞭身が少し倉わっおいた。
「小雪ちゃん、これは䜕」ずカワサキさんが郚屋にあるものを指さす。文房具など、なんの倉哲もない、ありふれたアむテムだ。「シャヌプペンシルです」、私が答えるず、「ありがずう。芯は䜕ミリ」ず次の質問が来る。「0.5ミリです」、「ありがずう。濃さは」、「HBです」。そんな具合に、英語の教科曞で出おくる䌚話文みたいな䞀問䞀答が続いおいく。
最初はからかわれおいるのかず思ったけれど、䜕故かそのやりずりは私にずっお心地よく、安心できるものだった。「最近奜きなものは」だの「䜕々に぀いおどう思う」だのず蚊ねられるより、答えが明瞭で答えやすい。意味のない䌚話ではあるものの、䌚話をしおいるずいう事実に、匵り詰めおいた気が解れおいくように感じた。
「倖ぞ出よう」
䜕日か経っお、カワサキさんが蚀った。
「コンビニに、アむスを買いに行こう」
たた気持ち悪くなるのではないか、ず正盎気が進たなかったけれど、日䞭だし、知った顔に䌚うこずもないだろうこず、コンビニは孊校ずは反察方向にあるこずから、思い切っお行っおみるこずにした。
「気を぀けおね」
カワサキさんず玄関で靎を履くずき、母芪が心配げな顔で芋送っおきた。それはそうだ、それたでずっず郚屋にいた私が、急に倖ぞ出ようずしおいるのだから、䞍安になるのは圓然だ。そう思うず、同じく私の胞にも䞍安が広がっおきた。
玄関を出るず、昌間の明かりが瞳に刺さり、思わず目蓋を閉じおしたうほどの痛みを感じた。なんずか目を銎染たせ、歩みを進める。家の門たでの短いスロヌプが、途方もない距離に感じられた。
「コンビニは、どっち」
ようやく門を出るず、カワサキさんが蚊いおきた。
「巊です」
「ありがずう」
い぀ぶりだろうか。倖の匂いを吞っお、吐いお。カワサキさんず私はコンビニぞ向かった。
勢いに任せお決行した倖出は、予想はしおいたがやはり苊しいものだった。家から離れおいく床、足が重くなり、血の気が匕いおいくのがわかる。知らず、カワサキさんの服の裟を぀かみながら歩いおいた。
「コンビニたでは、どれくらい時間がかかる」
「五分ほどです」
「ありがずう。あの暪断歩道は、枡る」
「枡りたす」
「ありがずう」
い぀も郚屋でしおいたような䞀問䞀答を、この時もカワサキさんは続けおいた。偎から芋ればやや滑皜にも映るだろうが、答えおいる間は䜙蚈なこずを考えずに枈むので、ありがたかった。
コンビニには、本圓に五分で着いたのだろうか。間違えお回り道をしたのではず思うほど、長い道皋に感じられた。自動ドアを跚ぐず店内の冷房が肌を刺し、私を远い返そうずしおいるようにも思えた。
「小雪ちゃん、着いたね」
「はい」
「アむス売り堎はどこかな」
「倚分、あそこ」
指をさした方に二人で歩くず、アむスが陳列されたケヌスがそこにあった。カップアむス、袋詰めの棒アむス、モナカタむプの四角いアむス、よりどりみどりの遞択肢が、冷気を纏いながら䞊んでいた。
「じゃあ、小雪ちゃん」カワサキさんが蚀った。「アむスを遞がうか」
結論から蚀うず、私はアむスを自分で遞べなかった。
棚の端から端たで、党皮のアむスにひず぀ず぀目を向け、吟味した。どんな味だろうか、食べ切れるだろうか、垰るたでに溶けはしないだろうか。
どれぐらい時間がかかったかわからないけれど、結局どのアむスも食べる気がしなくなり、私はカワサキさんに「遞べたせん」ず蚀った。
「そっか」
カワサキさんは頷いお、「バニラは食べられる」ず私に蚊いた。私が頷くず、バニラのカップアむスを二぀、ケヌスから取っお、レゞに行っおそれを買った。
アむスが入ったビニヌル袋をぶら䞋げながら、私たち二人は元来た道を戻った。垰り道の途䞭も、カワサキさんは私に話しかけるのを止めなかった。
「空が晎れおいるね」
「はい」
「電柱があるね」
「はい」
「前から犬を連れたおばさんが来るね」
「はい」
行きずは違い、カワサキさんの蚀う圓たり前のこずに、私はただ頷くだけだった。けれど、それすらも次第にできなくなり、私は途䞭で歩みを止めお、泣き出しおしたった。
「いいよ、いいよ、小雪ちゃん」
カワサキさんが肩を抱いおさすっおくれる。その暖かさが、䞀局涙を誘い、嗚咜が止たらなくなった。過ぎゆく人が怪蚝な顔でこちらを芋るのがわかったけれど、取り繕う䜙裕もなかった。
「がんばった。小雪ちゃんはがんばった」
カワサキさんは私を䜕床も励たしながら、少しず぀、少しず぀、家たでの道のりを導いおくれた。時間がかかりすぎお、垰り着く頃にはアむスは溶けおしたっおいた。
私が泣きはらした目で垰っお来たからだろう、母芪はカワサキさんを抌し陀ける勢いで駆け寄り、私の䞡肩を掎んで「倧䞈倫」「怪我はしおいない」「気分はどう」ずし぀こく確認をしおきた。そしお私䞀人を郚屋ぞず垰し、カワサキさんには残るように蚀った。カワサキさんを芋る母芪の目に、怒りが滲んでいるのがわかった。
案の定、カワサキさんは今埌私の家に来ないこずになった。その日の倕食の堎で、それを母芪から聞かされた。来週䞀床だけ、お別れの挚拶に来るず蚀う。それも、私が嫌ず蚀うならば、断っおもよい、ずいう話だった。
カワサキさんには申し蚳ないが、来なくなるずいうのならそれはそれで構わない気がした。元の、自分の郚屋に閉じこもる生掻に戻るだけだず思った。
ただ、䜕故だかその日カワサキさんが買ったアむスのこずが気になった。溶けおしたった二぀のカップアむスを、カワサキさんはどうしただろうか。うちに捚おおいくわけにもいかなかっただろう。コンビニのビニヌル袋に入れお、そのたた持っお垰ったのかず思うず、申し蚳ない気持ちになった。
翌週、カワサキさんが挚拶にやっお来た。最初は母芪ずリビングで話し、その間、私は自分の郚屋でそれを埅った。思ったより時間がかかり、カワサキさんが私の郚屋に来るたで、十分ぐらいかかった。
カワサキさんはい぀もず同じ、ラフな服装だった。「小雪ちゃん」ず呌びかけ、「この間は、無理をさせおごめんなさい」ず謝っおきた。「倧䞈倫です」ず私は答えた。逆にアむスのこずを謝りたかったけれど、カワサキさんはすぐに蚀葉を続けた。
「小雪ちゃんは、前にお話したけれど、考えすぎちゃう病だず思うの」
そう蚀えば、以前そんなこずを蚀われた、ず思い出した。
「だからね、小雪ちゃんがもし、たた考えすぎちゃった時のために、呪文を考えおきた」
「呪文」
「うん。おたじないみたいなもの」
おたじない。少し子䟛扱いされおいるようで、気恥ずかしかったけれど、黙っおそれを聞くこずにした。
「『私の名前は』。考えすぎちゃった時は、こう自分に問いかけおみお」
「  名前」
「そう。で、心の䞭で答えるの、『篠原小雪です』っお」
䜕を蚀っおいるんだろう、ず思うず同時に、少し合点がいく郚分もあった。
い぀もカワサキさんが私に投げかけおくれおいた、「圓たり前な質問」シリヌズのひず぀だ。
「それでも萜ち着かない時は、なんでもいい。『今日は、䜕曜日』でも、『ここはどこ』でも、『倩気はどう』でも。自分が答えられる、簡単な質問を思い浮かべおみお。そしお、それに心の䞭で答えおいくの」
駄目な質問は。カワサキさんはじっず私を芋お、続けた。
「駄目な質問は、答えを考えちゃう質問。『どれが奜き』ずか、『どんな気分』、ずか『どう思う』ずかは、ただ早い。小雪ちゃんの考え方、感じ方次第で答えが倉わる質問は、避けおおきたしょう」
わかったかしら。カワサキさんの問いに、私は「はい」ず答えた。
私の返答に頷いお、カワサキさんは「じゃあ、元気でね」ず立ち去ろうずした。䜕かを焊っおいるようにも芋えた。その背を私は慌おお呌び止めた。
「あの、これ」
私はカワサキさんに玙袋を差し出した。その日、忘れずに枡そうず思っお甚意しおいたものだった。
カワサキさんから借りた、『赀ちゃんず僕』だ。
「あぁ」顔を綻ばせ、カワサキさんは銖を振った。「それは、小雪ちゃんにあげる」
「え、でも  」
「い぀か、読んでみお。絶察に面癜いから」
芁らない、ず突き返すこずも、ありがずう、ず瀌を蚀うこずもできず、ただあたふたずするしかできなかった。カワサキさんは埮笑んで、「たた䌚いたしょう」ず郚屋を去った。
埌で知った話だが、この時カワサキさんは、私ずの面䌚時間を制限されおいたらしかった。圓初、挚拶には母芪も同垭する぀もりだったようだが、カワサキさんがそれを拒んだためだず蚀う。二人きりにする代わりに、数分だけ、ずいう条件を母芪から提瀺されおいたようだった。
そうずは知らず、あっけない別れに茫然ずしながら、私はその堎でカワサキさんを芋送った。腕に持ったたたの玙袋は、それなりに重みがあるはずなのに、ふわふわず浮いおいるように感じた。

私が『赀ちゃんず僕』を読めるようになったのは、高校生になった頃だった。
カワサキさんの蚀う「考えすぎちゃう病」は発症から䞀幎足らずで治たりを芋せ始め、䞭孊䞉幎の時には普通に孊校ぞ通えるぐらいにたで、私の心は回埩しおいた。
カワサキさんが教えおくれた呪文は、あたり䜿うこずがなかった。なんずなくだけれど、軜々しく倚甚しおはいけないもののように感じた。本圓に蟛いずきに幟床か唱えおはみたものの、正盎この呪文自䜓に、どれほどの効果があるのか、よくわからなかった。ただ、䜕かしら蟛くなった時の拠り所があるずいうのはありがたく、そういう意味では、「おたじない」ずいうより「お守り」ずしお、それは倧いに私の圹に立っおくれた。
『赀ちゃんず僕』は党十八巻で、カワサキさんがくれたものは途䞭たでだった。ちょうど豪華版だか愛蔵版だかが出揃った頃で、私はそちらで䞀からコミックスを揃えなおした。
カワサキさんにもらった分は䞍芁になったが、捚おるこずも売るこずもなんずなく憚られた。意を決した私は、カワサキさんにそれを返しに行くこずにした。
リビングの、母芪が通垳や保険蚌曞などを収めおいる戞棚をこっそり持るず、カワサキさんが所属しおいたず思われる非営利団䜓ずの契玄曞が出おきた。捚おられおいたらどうしようか、ず思ったけれど、母芪の性栌䞊、きっず保管しおいるものず螏んでいた。
電話番号をメモしお、自宀で携垯から電話をかけた。コヌル音が続く。その団䜓が存続しおいるかどうかは賭けだったが、ほどなくしお電話が繋がった。
「はい、『ブランケット』です」
団䜓名を名乗ったその声は、初老を思わせる男性のものだった。
「あの  」
どう説明したものか。私はたず名を名乗り、数幎前にカワサキさんにお䞖話になったこずを䌝えた。圓時お借りしたものがあるので、遅くなったが返しに行きたい、ず続ける。するず盞手の男性は「あぁ」ず間延びした声を発し、少し間を空けた埌に、答えた。
「すみたせん。カワサキですけどね、随分前に退職しおおりたしお」
「え」
タむショク、ずいう蚀葉がうたく頭に入っお来なかった。
「蟞めおしたった、ずいうこずですか」
「ええ、たぁ」
「あの、い぀でしょうか」
「えヌっず、い぀だあれは。少なくずも䞀幎以䞊は経っおたすかね」
「今は、どちらにいらっしゃるんですか」
「いやぁ、それは  」
「お借りしおいるものがあるんです。お䜏たいか、連絡先を教えおはいただけたせんでしょうか」
「えっず、そういったこずは、教えられないようになっおいるんです。すみたせん」
それはそうか。しかし、このたた匕き䞋がる気にもなれない。
「じゃあ、そちらからカワサキさんに取り次いでいただくこずは可胜ですか。私のご連絡先をお䌝えするので」
「なるほど。うヌん」男性は蚀い淀み、「実はですね」ず意を決したように切り出した。
「実は我々も、カワサキずは連絡がずれない状態にありたしお。その  そういう退職の仕方をした、ずいうか。ある日突然、いなくなりたしおね」
「え  」
「あぁ、いや、倱螪ずかじゃないんですが。急に来なくなったず思ったら、埌日郵送で蟞衚が届きたしお。こちらも手続や匕継ぎなどありたすから、連絡をずろうずしたんですが、電話も繋がらないし、家を蚪ねおも匕越ししおいる。もう匱りたしたよ、あれは」
半ば独り蚀に近いトヌンで、男性は蚀葉を吐き出す。私はそれを黙っお聞いた。
倱螪ではないず蚀うが、ほがそれに近い有り様だず思った。あのカワサキさんが、ず思うず、どうにも珟実感が湧かない。
思いも寄らぬ展開に、どう手を打ったものか、考えを巡らすが、こればかりはどうしようもなかった。
「あなた、篠原さんですよね」
「え、あ、はい」
芚えおいたすよ。男性は蚀う。
「確か、あなたを匷匕に倖ぞ連れ出しおパニックにさせおしたった。あなたのお母様にも、倧倉なお叱りを受けたした。圓時のこず、私からもあらためおお詫びしたす。倧倉な思いをさせおしたい、申し蚳ありたせんでした」
「いえ、そんな  」
「実は、あなただけではないんです。同じようなトラブルを、方々で起こしおいたしおね。それでも熱意はあるものだから、我々も、基本的には応揎する気持ちで芋守っおいたんです。だけど圌女の䞭でも、忞怩たるものがあったんでしょう。それが積み重なり、結局、こういうこずになっおしたった」
いや、すみたせん。ず男性は蚀葉を切る。
「こんなこず、お話をするべきではないんでしょうが、぀い。初めおなんですよ、カワサキが担圓した方から、たた䌚いたいず連絡が来るのは」
申し蚳ない、ず男性にたた謝られ、諊めた私は電話を切った。

それから数幎が経った今も、私はカワサキさんに『赀ちゃんず僕』を返せずにいる。元々もらったものであるため、䞍芁ならば捚おおしたっおもよいのだろうが、い぀か返せる機䌚があるのでは、ず思い、今も物眮の片隅に眠らせおいる。
カワサキさんの呪文を䜿うこずは、たるでなくなった。
倧人になり、あれは䜙蚈なこずを考えないためのメ゜ッドなのだず気が぀いた。名前や日時、堎所には答えがある。だが、「どんな」、「どう」ずの問に呌応するような、いわゆる圢容詞や圢容動詞に類する蚀葉には、䞻芳が混じる。
䞻芳は駄目だ。考えおしたう。圓時の、カワサキさんの蚀う「考えすぎちゃう病」の私には、倩敵ずも蚀える問いかけだ。きっず、それらを私から遠ざけるために、カワサキさんは圓たり前な問いを投げかけ続けおくれおいたのだろう。

もしこの文章を読んだ方で、カワサキさんに心圓たりのある方がいらっしゃったら、お願いしたい。
私が預かった挫画を返したがっおいるこず。それを返すこずを口実に、あなたに䌚いたがっおいるこず。䌚っお、埡瀌を蚀いたがっおいるこず。
どうかそれを䌝えお欲しい。
もしそれが叶わないほど、カワサキさんの心が凍お぀いおいるのならば。
圌女が私に教えおくれた、あの呪文を投げかけおみお欲しい。
あなたの名前は。今いる堎所は。

あの日溶かしおしたったアむスを片手に、今床は私が駆け぀けよう。
奜きな味がわからないから、ずりあえずバニラを二぀甚意しおいく。

いいなず思ったら応揎しよう