サウジでサウジコーヒーを飲みたかっただけなのに、あるいは僕がnoteを始めた理由【インシャラー王国見聞録#010】
困惑、そして怯え、だった。
僕の前に佇む背の高い若い青年。
サウジアラビア人らしく、白いスラッとした衣装に赤いスカーフを頭からかぶり、黒い輪っかを乗せている。正装だ。
黒い輪っかはどうやって頭に固定されているのだろうか?
顔を動かしたりしたら転がり落ちないものなのだろうか?
見るたびに「いつか現地のヒトに聞いてみたい」と僕は思っている。
だがしかし。残念ながら今はそういった疑問をたずねるタイミングではないらしい。
ホテルロビー。
我々の真ん中には2杯のサウジコーヒー。
我々は顔を見合わせて怯えていた。
どうしてこうなったのか?
話は数分前にさかのぼる。
◆サウジコーヒーを飲みたかっただけなのに
リヤドの中心地にあるホテルに到着し、チェックインまで約1時間、僕はロビーで待つことにした。
周りには何か小さなコップを持って楽しんでいる人々。
あれは・・・サウジコーヒーだ!
ホテルエントランスの方を見やると、どうもあそこのサウジ人がサウジコーヒーを配ってくれているらしい。
僕が入った瞬間はどうもタイミングが合わず、通り過ぎてしまったようだ。
後から行くのもなんだよなと少し迷いつつ
「いいやきっとあれは歓迎の印。“サウジはおもてなしの国”と言うぐらいなのだから、飲まない方が失礼ってもんだ!」
と自分に言い聞かせ、勇気を振り絞って受け取りに行くことに。
ロビーを横切り、彼の前に立つ僕。
「コーヒーもらえるんですか?」
英語で聞いてみる。彼は少し困った表情でこちらを見つめている。
「コーヒー、もらってなかったので」
ゆっくり伝えると
“No… English”
強いアラビアなまりで返ってきた。ああ、そうか、そうだよね。いくらホテルと言えど、英語が通じると勝手に話し始めた僕が悪かった。
「ええと、コーヒー、OK?」
今度は身振り手振りでサウジコーヒーが欲しいことをアピールする。
すると彼は無言のままサウジコーヒーをついでくれた。どうやら通じたようだ。良かった。
ここで一点・・・これはサウジ流で、サウジコーヒーのカップはとても小さい。陶器製で、中国茶を飲むときの小さな茶器に似ている。エスプレッソサイズ。正直これだと飲んだ気がしない。長旅の後なので、ぜひもう一杯と思い、彼に尋ねてみる。
「ワンモア、OK?」
彼が困惑の表情を浮かべる。

そりゃそうか。二杯も頼むヒトはなかなかいないだろう。
引き下がろうとしたその瞬間、彼がアラビア語でべらべらっと何かを話し、もう一つ空のカップを左手に取って持ち上げ、こちらを見つめてきた。
そうそう!そういうこと!もらっていいの?
明らかに「それ!」という顔をした僕の意図が通じたのか、彼はまた無言でコーヒーをついだ。
そして恐る恐る僕に差し出してきた。二杯目をくれるらしい。
「サンキュー!」
そういって彼の手から器を受け取ろうとする。
しかし。
彼の手は器を離さない。
えっ・・・
という空気が流れる。
それは僕が発したものでもあるし、明らかに彼から発せられたものでもあった。
この時二人ともこう感じていたであろう。
「なにかが通じてない」
「ええと・・・」困惑する僕。困惑する彼。
彼はなおもカップを僕に向かって掲げている。
なぜカップをこちらに渡してくれないのか?
◆見えたっ!
そこで僕は雷に撃たれたようにひらめいたのだ。
初めての土地、初めてのコミュニケーション。少し緊張していたあの時僕はまさに、天啓を受けた気持ちになった。
そうか、これはおもてなしだ!
これは乾杯をしようということなんだ!
サウジではこれが普通なんだ!
そう思うと、彼の表情は柔和に見えた。
戸惑う東洋人(僕)をあたたかくむかえようとする、慈愛に満ちた表情。
少し顔にとまどいが浮かんでいるが、無理もない、日本人は初めてなのだろう。僕だって初めてのアラブ人には緊張をする。
ならば僕が彼とコミュニケーションをとった日本人第一号として、恥ずかしくないようこのおもてなしを受け入れよう!そうだ、僕は日本代表なのだ!
僕の右手にあるサウジコーヒーであふれそうなカップを、彼の掲げるコーヒーカップにそっと合わせる。
乾杯!
サウジアラビアと日本の友好を願って!
◆違った
そして冒頭に戻る。
カップを合わせたその瞬間、彼の目に、先ほどとは比べものにならないほど激しい困惑と怯えが広がった。
え
僕も固まり怯えだす。
言語を超えたコミュニケーションとはこのことを言うのだろう。
「意思が疎通できなかった」という意思疎通。
お互いがお互いに何かを伝えそこねた、しかも思いっきり・・・という決定的な現実に気が付き、動揺から小刻みに震えている。
僕らは何かを間違った。
そのことだけは二人の心に強く共通していた。
◆もう一杯くれた
もう一度だけ、と彼のカップを受け取ろうと試みる。彼はスッとカップを手放す。
くれるんかい。
たぶん僕は「さんきゅー」とか「そーりー」とかそんなことを口走っていたと思う。それ以降の記憶はない。
足早に自席に戻り、二杯のサウジコーヒーを机に置いて目を閉じた。
あの事件から数か月たった今補足をすると、
サウジではサウジコーヒーで乾杯する文化はない。
少なくとも僕が見た限り、ない。
受け取り、飲む。それだけ。
我々が湯呑みで乾杯をしないように、彼らもサウジコーヒーのカップで乾杯はしないのだ。
このことを伝えるために僕はnoteを始めたと言っても過言ではない。
みなさん、サウジにいらっしゃる際はお気をつけください。
もしくは不要な超言語コミュニケーションをとることになることでしょう・・・

◆結論として
それ以降 、ホテルに滞在した約1か月の間、僕らは互いを見かけると怯えるようになったことはここだけの話としたい。
では。今日はここまで。
今日も読んでくださりありがとうございます。
インシャラー、また次回!
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