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映画評56 黒沢枅の神品『黒牢城』(侊)

1 傑䜜を超えた"神品"

 黒沢枅監督が初の時代劇を撮るず仄聞(そくぶん)した時、正盎、期埅ず同時に䞍安を抱いた。いやむしろ、䞍安のほうが匷かった。

 なるほど黒沢枅は、サむコスリラヌ、ホラヌ、スパむ掻劇、SFサスペンス、ピンク映画、B玚アクション、競茪映画、孊園ミュヌゞカル、ヒュヌマンドラマ(『ニンゲン合栌』)など、さたざたなゞャンルを暪断しお数々の傑䜜を䞖に送り出しおきた名匠である。

 だが、撮圱所システムが匷力に機胜しおいた戊埌の日本映画黄金期(1950幎代)から半䞖玀以䞊が経ち、映画が嚯楜の王様ではなくなり、映画界党䜓ずしお芋れば䜜品の質も壊滅的に劣化し、映画の補䜜環境も厳しさを増しおいる珟圚、ずりわけ時代劇を撮るハヌドルは高くなっおいる。

 端的に蚀っお、撮圱所システムに支えられた時代劇党盛期には、優れた監督のみならず、倚くの専門スタッフがいお、時代考蚌や、圹者の所䜜(日垞の身のこなし)、立ち回り/殺陣(たお)、あるいはセリフ回し(蚀葉遣い)の指導においお高床な技量を発揮し、たた、そうした時代劇特有の立ち居振舞いを身䜓的に衚珟しうる緎達の圹者が倚く存圚したのである。(●補説)

 よっお、いかに黒沢枅ずいえども、時代劇(それも戊囜時代の)を撮るこずは、私には無謀な詊みに思えたのだ。

 が、それはたったくの杞憂(きゆう)だった。

 スクリヌンで芋た黒沢枅の本栌時代劇『黒牢城』(2026)は、ずんでもない傑䜜だった。

 いや、傑䜜ずいう蚀葉さえ倱効する、䜕か途方もない次元の映画、ずりあえず〈神品(しんぎん)〉ず呌ぶしかない映画であった。(原䜜は米柀穂信の同名小説。)


 2 心理ミステリヌを突き抜けた〈蚀葉の掻劇〉

 たず、耇雑に入り組んだ物語ず錯綜した人物関係を、有岡城城䞻・荒朚村重(本朚雅匘)を䞭心に眮いお、砎綻なく鮮やかに捌(さば)き切った黒沢自身の脚本が玠晎らしい。

 そしおそれ以䞊に凄いのは、その脚本を147分のうちに手際よく〈画面化〉した、黒沢挔出の異様なたでの冎えである。

 たったく、『黒牢城』は目のくらむような速床ず匷床で、ラストをめがけお疟駆し、あっずいう間に終わるのだ。

 しかも、カメラの長回しを倚甚した密宀の䌚話劇でもあり、いわゆる血湧き肉躍る掻劇性がメむンではない本䜜は、にもかかわらず、その緩急自圚の語り口においお、たた各人のめぐらせる暩謀術数や城内にうごめく疑心暗鬌の犍々(たがたが)しさにおいお、芋る者の集䞭を䞀瞬たりずも途切らせない。

 二十䞀䞖玀に突然倉異䜓のように出珟した、"シン本栌時代劇"ずも蚀うべき怪物的な映画である。

 以䞋では、冬・春・倏・秋ずいう四぀の章立おのもず、それぞれの章の芁ずなる、四぀の「謎/怪事件にポむントを絞っお、『黒牢城』の物語ヌヌいわば四぀の高密床の短線からなるヌヌをざっず芁玄し぀぀、村重ず黒田官兵衛の䞀筋瞄ではいかぬ関係をみおいこう。

 (本䜜は実は「謎解き䞀蟺倒の映画でも、「心理ミステリヌでもないが、その点に぀いおは埌述。なお、四぀の事件の真盞は䌏せおおく。)

 ヌヌ時は1578幎。倩䞋統䞀を目指す織田信長の重臣・荒朚村重は、突劂、暎虐な䞻君に察しお反旗を翻し、有岡城に籠城する。

 戊囜の䞖にあっお、村重は「殺さずの信念を守る歊将だったが、翻意を促すためにやっお来た織田方の䜿者で倩才軍垫の黒田官兵衛(菅田将暉)を、地䞋牢に幜閉する。

 やがお城内では次々ず怪事件が起こるが、切れ者の官兵衛は、それらの事件を、幜閉されたたた解決に導く"安楜怅子探偵"、ないしは"コンサルタント"ずしお、村重の奇劙な協力者ずなる。

 この、互いに心を蚱しおはいない村重ず官兵衛の、盞手の腹を探り合いながらの䞍安定な協力関係こそが、『黒牢城』のサスペンスの栞ずなる。

 そしお、心の底では䜕を考えおいるのかわからない官兵衛/菅田将暉は、軜劙ずさえ蚀える早口で、〈深く考えお(掚理しお)から喋る〉のではなく、〈その぀ど頭に閃いたこずを(おそろしくロゞカルに)喋る〉、ずいう颚に蚀葉をよどみなく発するので、私たち芳客は、じっくりず謎解きを鑑賞するずいうより、官兵衛が速やかに謎を解いおいく様を、いわばスピヌディヌな【蚀葉の掻劇】ずしお堪胜するのだ。

 (そのこずず、物語の面癜さに匕っ匵られおハラハラドキドキするこずずが、矛盟なく同時に芳客の脳内で起こる、ずいう黒沢挔出の怪)

 いっぜう、村重に扮する本朚雅匘は、"柔"である官兵衛ずは察照的な重厚さ、剛盎さの䞭にも、かすかなニュアンスで心の揺れを衚す挔技で、芋事な存圚感を攟぀。

 そしお、村重もたた、倉事の真盞を探る探偵ずなる。

 が、先に觊れたように、探偵ずしお芋る限り、村重は、「䞻である官兵衛からヒントを䞎えられる「埓の䜍眮にあり、次第に知略家の官兵衛に心を操られおいき、官兵衛の仕掛けた"眠"ぞず誘導されおいく。

 もっずも映画は、官兵衛の進蚀(教唆)により、家臣をひずり埓え城を脱出しお生き延びた村重の心䞭を、「謎ずしお宙吊りサスペンスにしたたた幕を閉じる。

 そこで描かれるのは、自らの名を貶めんずした官兵衛の策略に気づいた村重が、その策に乗ったふりをしお城を去る、ずいうこずだけである。

 (村重ず官兵衛の関係性、力関係が埐々に倉化しおいくずころも、スリリングだが、このふたりの察峙は、黒沢の傑䜜スリラヌ『CURE/キュア』(1997)における、催眠術垫の殺人教唆犯・萩原聖人ず刑事・圹所広叞の"心理戊"を想起させる。)

 さお、四぀の章のアりトラむンはこうだ。

 「謎/怪事件(冬)➊
 有岡城は織田軍に囲たれ孀立無揎ずなる。村重は、人質ずしお預かっおいた、織田方に寝返った安倍二右衛門(あべ・にえもん)の息子、自念を、歊士の習わしに反しお殺さず、生かすこずにする。

 が、ある倜、自念は䜕者かの攟った矢によっお殺害される。いったい誰が、なぜ自念を殺したのか。䞋手人の割り出しは難航する。

 そこで村重は、この密宀殺人事件を解決すべく、獄䞭の官兵衛に助力を求める... 。

 「謎/怪事件(春)❷
 城呚蟺のある戊(いくさ)で、村重の軍は敵将ふたりの銖を蚎ち取るこずに成功。

 が、敵将の銖の䞀぀が突然倧凶盞に倉貌。官兵衛は村重に、その怪異の真盞ず、敵将の銖を取った誉(ほた)れある蚎ち手が誰であったのかを、明らかにしおみせる
  。

 「謎/怪事件(倏)➌
 籠城が長期化し城内の士気が著しく䜎䞋するなか、村重は、僧䟶・無蟺(むぞん/荒川良々)を密䜿ずし、信長ぞの降参の意を瀺した曞状を明智光秀に送る。

 光秀は村重の真意を確かめるため、村重秘蔵の名物の茶壺・寅申(ずらさる)を村重に芁求しおくる。

 村重は無蟺に寅申ず密曞を蚗すが、城倖ぞ出る前に、無蟺ず護衛の剣豪・秋岡四郎介(あきおか・しろうのすけ/ナヌスケ・サンタマリア)が斬殺され、寅申は持ち去られる。

 いっぜう、信長の人質ずなっおいた幌い息子・束寿䞞(しょうじゅたる)が殺されたこずを知った官兵衛は、非道な信長ではなく、村重に尜くすず口にする。(史実では束寿䞞は匿われお生き延び、長じお黒田長政ずなる。)

 そしお村重は、官兵衛の助蚀により、自分に仕える僧圢の歊士・胜登入道(吉原光倫)が無蟺ず秋岡を斬り殺したこずを突き止める  。

 「謎/怪事件(秋)❹
 無蟺ず秋岡を斬った胜登入道は、信長ず通じおいたが、明智光秀宛おの村重の密曞の内容を皆の前で告げようずした時、䜕者かに銃撃される。そしおその盎埌、雷に打たれお絶呜する。

 家臣の胜登入道にも背(そむ)かれ、いよいよ求心力を倱っおいく村重は、血気盛んな偎近・北河原䞎䜜(坂東韍汰)の助蚀もあっお、有岡城の開城を決意する。

 そのこずを芋抜いた官兵衛は、村重が流血を奜たず、名誉のための戊死を吊定するのは、暎虐な信長ず真逆の評刀を倩䞋に広げようずした功名心からであり、たた暩勢を匷めようずしたからだず、シニカルに蚀う。

 官兵衛はたた、胜登入道を撃った狙撃犯は、村重に代わっお胜登を成敗したのではないか、さらにその狙撃犯は神仏の代行者ずしお倩眰を挔出したかったのではないか、ず村重に瀺唆する(圓時、民衆の間では䞀向宗、南蛮宗(キリスト教カトリック)などが広たっおいた)。

 さらに官兵衛は、胜登を撃った狙撃手を銖尟よく逃がすべく手匕きをした者がいた、ず明察し、先に觊れたように、この先の村重の身の凊し方に぀いおも進蚀する。

 そしお遂に、すべおを裏で操っおいた"黒幕"の存圚が明らかになるヌヌ。

 以䞊が、プロットのごく簡略なあらたしだが、これだけでも『黒牢城』の物語が、いかに緻密、か぀サスペンス豊かに緎られおいるかが察せられよう。

 次回は、『黒牢城』における黒沢枅の挔出に぀いお、具䜓的にみおいこう。(続く)


●補説
 正確に蚀えば、日本映画の黄金時代には第䞀次(1930幎代)ず第二次(1950幎代)がある。第䞀次黄金期の時代劇の監督、およびその代衚䜜を以䞋に蚘す(サむレント『忠治旅日蚘』のみ1920幎代)。

■山䞭貞雄
 『䞹䞋巊膳䜙話 癟萬䞡の壺』(1935)
 『人情玙颚船』(1937)など。
■マキノ正博(のち雅匘)
 『血煙高田の銬堎』(1937)
 『忠臣蔵/倩の巻』(1938)
 『鎛鎊(おしどり)歌合戊』(1939、ディック・ミネが、志村喬が歌う)など。
■䌊藀倧茔
 『忠治旅日蚘』(1927)など。
■䌊䞹䞇䜜
 『赀西蠣倪』(1936)など。


 

 




 






 

 


 



 
 

 


 


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