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中国の建築設計は日本・韓国を追い越したのか急速に高まるデザイン力と、その実像を考える

最近、中国企業の発展には目を見張るものがあります。

電気自動車、AI、ドローン、ロボット、通信機器など、以前とは比べものにならないほど、中国企業の名前を目にする機会が増えました。

では、建築設計の分野はどうなのでしょうか。

韓国で建築設計の仕事をしていると、中国で制作されたCGパースやデザイン案、AIを活用した画像、海外のコンペで発表された建築作品など、中国の建築やデザインに関する話を耳にすることが増えています。

大胆な外観、完成度の高いCG、圧倒的な提案量。

それらを見ると、

「中国の建築設計は、すでに日本や韓国を追い越しているのではないか」

と感じることもあります。

今回は、中国建築を持ち上げることでも、反対に否定することでもなく、一人の建築設計者として、現在の中国建築がどこまで進んでいるのかを考えてみたいと思います。



中国は、巨大な建築の実験場だった


中国建築の発展を考えるうえで、まず無視できないのが、これまでの圧倒的な建設量です。

急速な都市化を背景に、集合住宅、商業施設、文化施設、空港、駅、オフィス、ホテル、工場、インフラ施設などが、各地で大規模に建設されてきました。

建築設計者にとって、実際の建物を数多く経験することは大きな財産です。

計画し、図面を描き、施工し、完成後の問題を見る。

その繰り返しによって、設計者だけでなく、構造、設備、施工、建材、CG、BIMなど、建築を取り巻く産業全体に技術と経験が蓄積されます。

中国は、その巨大な国内市場によって、若い設計者であっても大きなプロジェクトに接する機会を得やすい環境をつくってきました。

もちろん、建設量が多ければ、必ず良い建築が生まれるわけではありません。

しかし、膨大な数の実案件が、設計技術や表現技術を急速に成長させる土台になったことは確かでしょう。


中国建築は「派手な造形」だけではない


中国建築と聞くと、巨大で奇抜な外観や、複雑な曲面を持つ未来的な建築を想像する人も多いと思います。

実際、国際的な注目を集めるために、象徴性の強い文化施設や巨大な都市開発が数多くつくられてきました。

一方で、現在の中国建築には、それとは異なる流れもあります。

地域で使われてきた材料、古い建物、路地、住民の生活、土地に残された記憶などを丁寧に読み取り、既存の環境を壊しすぎずに新しい建築を差し込む設計です。

その象徴の一人が、中国・成都を拠点に活動する建築家、劉家琨です。

劉家琨は2025年、建築界で最も権威ある賞の一つとされるプリツカー建築賞を受賞しました。

彼の建築は、巨大な造形や高価な材料を競うというより、地域の材料、日常生活、既存の都市、社会との関係を大切にしています。

プリツカー賞の審査でも、地域的な解決を普遍的な建築へと発展させ、社会や環境に対して公正な世界を表現している点が評価されています。

これは、中国建築が単なる「規模と勢い」の段階から、独自の建築思想を世界へ発信する段階へ進んでいることを示す出来事だと思います。

中国人建築家としては、王澍も2012年にプリツカー賞を受賞しています。

王澍もまた、伝統的な材料や解体された建物の瓦、地域に残る施工方法などを現代建築へ取り込んできました。

こうして見ると、中国建築には、

「新しい都市を大量につくる建築」

と、

「失われつつある地域の記憶を拾い直す建築」

という、異なる二つの流れが同時に存在していることが分かります。


デザインを「見せる力」が強い


中国の建築やインテリアデザインを見ていて、特に強いと感じるのが、プレゼンテーションの力です。

外観CG、室内パース、動画、ダイアグラム、ランドスケープ表現、照明演出などを組み合わせ、短い時間で提案の世界観を伝えます。

最初の一枚を見ただけで、

「この場所に行ってみたい」

「この建物を見てみたい」

と思わせる力があります。

日本や韓国の建築実務では、法規、動線、面積、施工性、構造、設備などを積み重ねながら、少しずつ設計を固めていくことが多いと思います。

それに対して、中国系のデザイン提案では、まず完成後の世界観や強いイメージを提示し、そこから設計を展開していくように見えるものがあります。

もちろん、これはすべての設計会社に共通するわけではありません。

また、美しいCGがそのまま良い建築を意味するわけでもありません。

それでも、企画提案やコンペにおいて、発注者の心を最初につかむ表現力は、設計能力の一部として無視できないものになっています。


デジタル技術が、設計の速度を変えている


中国では国全体としてデジタル産業を重点分野に位置づけ、企業や産業のデジタル化を進めてきました。

建設業界でも、BIM、デジタル管理、クラウド、ビッグデータ、人工知能などを活用し、設計から施工、維持管理までをつなげようとする動きが進んでいます。

建築設計におけるAIの役割は、現時点では「建築をすべて自動で設計する」というものではありません。

むしろ、

  • 初期コンセプトを複数つくる

  • 外観やインテリアの方向性を比較する

  • CGや動画を短時間で制作する

  • 図面やモデルの修正作業を効率化する

  • 大量の条件を整理する

といった、設計者の検討量と作業速度を高める方向で利用されています。

以前であれば、三案をつくるだけでも相当な時間が必要でした。

現在は、AIやデジタルツールを活用することで、短時間に数十の方向性を比較できるようになっています。

ここで重要なのは、AIが必ず優れた建築をつくるということではありません。

AIによって増えるのは、まず「案の数」です。

その中から、敷地、法規、予算、構造、用途、利用者、地域性に合った案を選び、建築として成立させるためには、依然として設計者の判断が必要です。


本当に日本や韓国を追い越したのか


中国建築を見ていると、「日本や韓国はすでに追い越された」という意見を耳にすることがあります。

しかし、私はこの問いに、単純な順位をつけることは難しいと思っています。

確かに、デジタル表現、CG、動画、複雑な形態の検討、提案のスピードなど、分野によっては中国がすでに先行しているように感じる場面があります。

一方で、建築の価値は、完成時の外観だけでは決まりません。

日本建築には、材料の扱い、細部の納まり、施工精度、小さな空間のつくり方、長く使うことへの配慮など、長年積み重ねられてきた強みがあります。

韓国建築にも、集合住宅の計画技術、大規模開発への対応、短期間で複雑な事業をまとめる力、行政や事業条件に対応する実務能力があります。

そして中国にも、巨大な市場を背景とした経験量、デジタル技術、製造力、提案力という強さがあります。

つまり、

「どの国が最も優れているか」

ではなく、

「それぞれの国が、何を得意としているのか」

を見る必要があります。

建築は工業製品のように、単純な性能表だけで比較できるものではありません。

その土地の気候、文化、法制度、施工技術、人々の暮らし方まで含めて評価しなければならないからです。


強いCGと、良い建築は同じではない


中国のデザインを見るうえで、少し冷静に考えたいこともあります。

CGでは非常に魅力的に見えても、実際の建築として成立するかどうかは別の問題です。

平面計画は使いやすいのか。

人と車の動線は整理されているのか。

構造や設備は無理なく納まるのか。

地域の気候に合っているのか。

施工精度を確保できるのか。

完成後に維持管理できるのか。

数年後、十年後にも使い続けられるのか。

設計の初期段階では大胆なアイデアが必要です。

しかし、建築は最終的に、図面になり、材料になり、現場でつくられ、人に使われます。

美しい一枚の画像から、実際に人が使える建物へ到達するまでには、膨大な調整と判断が必要です。

これは中国に限った問題ではありません。

AIやCGの力が強くなるほど、世界中の建築設計者が直面する問題になるでしょう。


建設の時代から、再生の時代へ


現在の中国建築は、これまでと同じ成長を続けているわけではありません。

中国国家統計局によると、2025年の不動産開発投資は前年比17.2%減少し、住宅投資も16.3%減少しました。

IMFも、中国では人口動態の変化や都市化の減速によって、新築住宅への需要が今後縮小し、不動産主導の成長から、より持続可能な経済構造へ移る必要があると指摘しています。

これは建築設計にも大きな影響を与えます。

これまでのように、

「郊外に新しい土地を開発し、大量の建物を建てる」

という仕事だけではなく、

  • 既存建築の改修

  • 古い市街地の再生

  • 工場や倉庫の用途転換

  • 地方都市の活性化

  • 歴史的建築の保存と活用

  • 高齢社会に対応する施設

  • 環境負荷を抑えた建築

  • 海外プロジェクト

などへ、設計の重点が移っていく可能性があります。

ユネスコの中国に関する報告でも、伝統的建築の再利用と現代建築を組み合わせ、地域の公共空間や生活環境を再生する取り組みが紹介されています。

大量に壊して大量につくる時代から、すでにあるものを読み替え、次の時代へつなぐ方向へ。

その変化の中で、中国建築がどのような答えを出していくのかは、今後の大きな注目点だと思います。


日本や韓国の設計者にも無関係ではない


中国の設計会社が、そのまま日本や韓国の建築士事務所に置き換わるとは考えにくいでしょう。

建築には、地域ごとの建築法規、許認可、行政協議、構造基準、消防、施工方法、発注者との打ち合わせ、現場監理があります。

これらは、その国や地域の実務を理解した設計者でなければ簡単には対応できません。

一方で、設計業務の一部は、国境を越えて分業される可能性があります。

例えば、

  • コンセプトデザイン

  • 外観デザイン

  • CGパース

  • 動画制作

  • プレゼンテーション資料

  • インテリアイメージ

  • 初期の形態検討

  • BIMモデルの一部作成

などです。

韓国の設計事務所が法規や基本計画を担当し、中国側の企業が外観案やCG、動画を制作する。

あるいは、中国側が企画案を提示し、現地の設計者が法規や実施設計を担当する。

そのような国際分業は、今後さらに増えていくかもしれません。

設計者にとって重要なのは、中国を単純な競争相手として恐れることではなく、どの技術を取り入れ、どの部分を自分たちの専門性として残すのかを考えることです。


案をつくる力から、案を選ぶ力へ


AIによって、百案、千案をつくれる時代が来るかもしれません。

しかし、案が増えるほど、別の問題が生まれます。

何を基準に選ぶのか。

なぜ、この案でなければならないのか。

その問いに答えるためには、建築の知識だけでなく、発注者との対話、敷地の読み方、社会への理解、利用者への想像力が必要です。

設計者の役割は、単に形をつくることから、数多くの可能性の中から最もふさわしい方向を見つけ出すことへ変わっていくのかもしれません。

AIが案を速くする一方で、設計者は判断を深くする。

中国建築の発展を見ていると、そのようなこれからの建築家の姿も見えてきます。


おわりに


中国の建築設計は、確実に変化しています。

巨大な建設市場の中で経験を積み、デジタル技術と表現力を高め、今では独自の思想を持つ建築家も国際的に評価されています。

しかし、

「中国が勝った」

「日本や韓国は遅れている」

という単純な話ではありません。

建築には、それぞれの土地の文化があります。

法律があります。

気候があります。

材料があります。

暮らしがあります。

そして、完成した瞬間だけではなく、人に使われながら積み重なっていく時間があります。

中国建築の大胆な表現と速度から学ぶことは多い。

同時に、その建築が十年後、二十年後にどのように使われ、街や人の記憶にどのように残っていくのかも見ていく必要があります。

中国建築を、ただ脅威として見るのではなく、これからの建築を考えるための一つの鏡として見る。

そこから、日本や韓国の建築が大切にしてきたもの、そしてこれから変えるべきものも、改めて見えてくるのではないでしょうか。


参考・出典

・The Pritzker Architecture Prize
「Liu Jiakun/2025 Laureate」
中国・成都を拠点とする建築家、劉家琨の経歴、作品、審査講評。
https://www.pritzkerprize.com/laureates/liu-jiakun

・The Pritzker Architecture Prize
「Laureates」
王澍を含む歴代受賞者一覧。
https://www.pritzkerprize.com/laureates

・National Bureau of Statistics of China
「Investment in Real Estate Development for 2025」
2025年の中国不動産開発投資、住宅投資、販売状況に関する中国国家統計局の発表。
https://www.stats.gov.cn/english/PressRelease/202601/t20260120_1962353.html

・International Monetary Fund
「China’s Real Estate Sector: Managing the Medium-Term Slowdown」2024年
人口動態、都市化の減速、住宅需要、不動産市場の中期的変化に関する解説。
https://www.imf.org/en/news/articles/2024/02/02/cf-chinas-real-estate-sector-managing-the-medium-term-slowdown

・International Monetary Fund
「China’s Real Estate Challenge」2024年
中国経済が不動産主導型の成長から転換する際の課題を論じた記事。
https://www.imf.org/en/publications/fandd/issues/2024/12/chinas-real-estate-challenge-kenneth-rogoff

・International Monetary Fund
「People’s Republic of China: Selected Issues」2024年
中国の不動産投資、開発事業者、住宅需要の中長期的な見通しに関する報告書。
https://www.imf.org/en/publications/cr/issues/2024/02/08/peoples-republic-of-china-selected-issues-544651

・UNESCO
「Culture 2030: Rural-Urban Development—China at a Glance」
中国における伝統的建築の再利用、公共空間の再生、現代建築と地域文化の統合事例。
https://unesdoc.unesco.org/ark:/48223/pf0000368646

・UNESCO World Heritage Centre/WHITRAP
「The Implementation of the UNESCO Historic Urban Landscape Recommendation」
中国都市における歴史、地域材料、公共空間、既存建築の再利用に関する議論。
https://whc.unesco.org/uploads/news/documents/news-1953-1.pdf

※本記事は、上記の公式資料および公開情報を参考にし、筆者自身の建築設計実務での経験と考察を加えて執筆しています。資料および数値は、記事執筆時点で確認できた内容に基づいています。


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