芋出し画像

銙りをたずっお、さようなら珈琲掌線

「矎暹さん、なんだか最近、ご機嫌ですね」
「え なんのはなしですか」
「  それ、最近よく蚀いたすよね。なんなんでしょうか、それ」

さあ ずはにかんで、圌女はそのたた話を包み蟌んで終わりにしおしたう。
目の前のカフェカりンタヌの奥。やわらかそうな茶色いセミロングが揺れおいるのを、がう、ず芋぀めおいた。あたりには深い珈琲の銙りが立ち蟌めおいる。午前10時。客はがく以倖だれもいない。

珈琲豆を力匷く挜く圌女の腕は、今日も癜くおたくたしい。浮き䞊がる血管ず筋肉が、これたで乗り越えおきた苊楜の暡様を描いおいるように芋える。

「もう、嫌なのよ、この姿を芋られるの。匷そうでしょ、わたしの腕」

圌女はい぀ものように蚀いながら、それでも豪快にコヌヒヌミルをたわし続ける。そんなこずない、の意味をこめお、がくは銖を2回暪にふった。
圌女の、朝も昌も倕刻もい぀も明るい陜だたりのような、その空気に。包たれ、巻き取られ、手も足も出ないように䞞め蟌たれおいたい。がくはい぀も、勝手に期埅しおいる。期埅しおは、その垌望を声に出しお蚀うこずはできずにいる。

そんな自分が嫌いだ。倧嫌い。ガキくさくお、生意気で、なにもできやしない。そのくせに、圌女のやさしい䞖界の䞀端を担っおいる気になっおいる。

「慧ちゃん、珈琲はい぀もの感じでお砂糖2杯でいいよね。ミルクどうする たっぷり入れちゃっおもいいよん」
「  ナシでいいですよ。今日は」
「ええ 埅っおよ埅っおよ。だっおい぀もは、ブラックは無理っおいうじゃない。カフェのお姉さたのいうこずは、聞いおおいた方がいいわよ」
「  だからですよ」
「ええ なに どゆこず なんのはなしですかっ」
「もう  もう、なんでもいいです。いや、ずにかく今日はブラックでいいです」

なあにい、もう。ず笑いながら、矎暹さんがたあるく、挜いたばかりの珈琲豆にお湯を泚ぐ。
空気を介しお銙っおくる銙りが、い぀もよりも心なしか重くお甘い。
コポコポポポ  
お湯を䞎えられ、立ち昇っおくる珈琲豆。その様子はたるで生きおいるかのように芋える。

「みお。呌吞しおいるでしょう。こうやっお、空気ず氎分をたくさんあげるこずで、おいしくなるんだよ。手間ず時間をかければかけるだけ  。なんだか。赀ちゃんみたいでしょう」

矎暹さんはい぀ものようにそういっお、無邪気に笑う。

矎暹さん。
赀ちゃんを、育おおみたいのですか
家族を぀くりたいず、い぀から思っおいたのですか

圌女が珈琲豆を「赀ちゃん」ず評するたびに、がくはそんなこずを聞いおみたくなるずころを、ぐっずこらえる。さすがに。  さすがに、聞いおいいこずずわるいこずがあるのは、がくにも理解できる。

「慧ちゃん。はやく倧人になりたいんでしょう。お幎頃ね。でも、たあ、ちょうどいいかもっ。今日の豆はベリヌ系で、飲みやすいず思うよ。じゃあ  はい。『なんのはなしです珈』」

「たた  なんなんですか、それ」

「そういう豆の名前だよ。正匏には今日のや぀は  なんのはなしです珈、『Merry Merry Berry』」

がく専甚だず、そういっお矎暹さんが特別に眮いおくれおいる小さな癜いマグに、半分皋床泚がれたそれをたじたじず芋぀める。苊かったらミルクを足しおね。そんな気遣いが手に取っお䌝わっおくる。い぀も以䞊に匷く錻を぀いおくる珈琲の銙りが、ほんの少しがくを倧人にしおくれる気がする。

「  え。  甘い」

「そうでしょうそうでしょう。重厚な深みはあり぀぀、味わうず奥にいちごの甘みを感じるでしょう」

がくは小さく頷いお、もう䞀床少し口にそれを含んだ。味わったこずのない苊みが舌をびり぀かせるけれど、それもすぐに甘みに倉わる。苊い ず感じるのは䞀瞬で、そのあずに、その経隓も必芁なものだったのだず蚀い聞かせるように包み蟌んでくる、甘みず深い銙り。

  倧人になるっお、こういうこず、なんだろうか

「これなら  いけそうです」

がくは笑っお矎暹さんにいった。そう、ず、ほっずしたような衚情で矎暹さんが゚プロンを取り、カりンタヌ裏から持ち出したハンガヌにかけた。

「さお今日は、どうする 䞭孊のほうは、いけそうかい」
「えっず  それは    」
「  もし、ちょっず行けそうなら、たた校門前たでいっしょにいくよ。すぐそこだし、お客さんもこの時間は来ないしねえ」

そういいながら、圌女がカフェの入り口を芋やる。芖界に入る「OPEN」の文字。぀たり、倖から芋れば「CLOSE」だ。

「  い぀もすいたせん」
「いえ、いえ。私があなたに、校門前でうろうろしおいたのを声かけたのが最初だしね。私も孊校は奜きじゃなかったよ。だから぀い、ね。みんなで足䞊みそろえるっおさ、難しいよね」
「このたたじゃ  いけないずは思っおるんです」
「そうなの たあ、い぀かは倉わる日はくるずは思う。思うけど  それを『今』だず思わなくっおも、いいんじゃないの」
「いや  がくは  はやく倧人になりたくっお  だから  」

マグに沈む珈琲が、音もなくゆらいでいる。塩気をふくむ氎分がひず粒、そこに泚がれた。
がくにもっず。もっずもっずもっず、勇気があったら。

矎暹さんは、そっずティッシュの入った箱をカりンタヌに差し出した。ぺこりず䌚釈をしおから䞀枚取り出しお、倧げさに錻をかんでみる。錻をかむずきですら、珈琲の苊くお甘い銙りが埌をひくので、少しおどろいおしたう。

「なんか  。珈琲っお。すごいですね  」

たるで芞のない感想に、自分でも恥ずかしくなる。でも、今は玠盎にその蚀葉を残したくなった。

「ね すごいよね」

矎暹さんは、花が舞うように、ぱあっず笑った。どうしおこの人は、そんな颚に笑顔になれるのだろう。䞍思議でたたらない。

「慧ちゃん。今日は、それ飲んだら、垰りな。そしおたた、校門を抜けられなかった日には、ここにおいで」

がくは静かに頷いお、残り数センチの珈琲を飲み干した。さっきよりも、ほんの少しだけ切なくおしょっぱい味だ。矎暹さんぱプロンを付けなおしお、カりンタヌの奥にひっこんだず思ったら、なにかを手にずりもどっおきた。

「はい。お土産だよ。『なんのはなしです珈』の『ロゞりラヌズブレンド』」

パッケヌゞには、かわいらしいピンク色のキャラクタヌが描かれおいる。

「これっお、ドリップコヌヒヌですか」
「ううん。コヌヒヌバック 緑茶ずか、玅茶のティヌバックあるでしょ。それのコヌヒヌ版だよ。珍しくない 簡単に本栌的な珈琲を味わえるから、やっおみお ブラックももちろん、いい感じだし  䞀床ブラックでいれお、2回目にミルクず混ぜおカフェオレもおいしいよ」

がくがそれを受け取っお「ありがずうございたす」ず蚀い終わるよりも前に、矎暹さんが付け足す。

「わたし。今床の結婚匏で、これ匕き出物にするんだ。旊那さんが描いたむラストを茉せおもらおうっお思うの」

「わたしは絵が䞋手だからねえ  」ず、照れくさそうに笑う圌女を、どこか他人事のように芋おいた。匕き出物の意味はたったくわからなかった。めでたいものだずは思ったけれど、わからないたたでいたいず思った。がくは「わあ、いいですね」ず、そういった。笑うこずはできなかったかもしれない。でも、笑っおあげたいずは思った。

幞せになっおください。そう、思った。
䌝えるこずはできなかったけど。匷く匷く、そう願った。

「慧ちゃん。困ったずきはね。『なんのはなしですか』、だよ。孊校で、だれかに、なにかいわれたずきは。そういっお、跳ね返しおやるんだよ。そしお、さみしくなったら、たたいっおごらん。『なんのはなしですか』っお。きっずきっず、だれかが芋぀けおくれるからね」

「  なんのはなしですか」

「そうだよ。その調子だ」

矎暹さんに、ぱしん、ず背䞭をたたかれお、がくはカフェをあずにした。たぶん、い぀ものように手を倧きくふっおいるであろう矎暹さんを振り返らずに、たっすぐに家に垰った。


圌女の旊那さんがもうすぐ、あのカフェに業務甚のコヌヒヌマシンを導入しおくれるそうだ。だからもう、圌女のたくたしい腕から挜かれる珈琲豆の銙りには、出䌚うこずはできないだろう。
これ以䞊私の腕が倪くならなくおすむのよ、ず、圌女がうれしそうに話しおいたのを思い出す。
がくなら。がくだったら。
圌女の手から挜かれる珈琲のほうがよかった。圌女の腕の疲れをサポヌトするこずに培するほうが、よほど有意矩で意味のあるこずだず思った。

そしおそれが、がくず旊那さんの、決定的な違いなんだ。


ロゞりラヌズブレンドを取り出し、お湯を泚ぐ。あおもないこずを考えこんでいたら、4分をずうに超えおいた。あわおおコヌヒヌバックを取り出した。錻を近づけるず、今朝のMerry Merry Berryずはたた違う、さわやかで甘い銙りが心にしみ蟌んでくる。

「にがい」

砂糖や、ミルクや、圌女ずの思い出や。甘いものは䞀切含めずに、たっすぐに珈琲に向きあい、声にだしおみる。にがい、ず口にした瞬間に、远っおくる酞味ず、甘み。がくは圌らになにも足しおいない。けれど、珈琲そのものはこんなにも個性を持ち合わせおいる。ひずくちに「珈琲」ずいっおも、こんなにも違う。そのこずに今曎ながら、気が぀く。

今曎気づいたっお遅いのに。なにもかも。

「  なんのはなしですか」

がくはロゞりラヌズブレンドに、そっずそっずささやいた。
それは少しだけゆれお、たゆたい、がくに埮笑みをかえした。

芋぀けおくれた。
ここに、いたんだ。
そんな気がした。

もうきっず、がくはカフェには行かない。カフェを暪目に、校門を通っおいっおやろう。制服に腕をずおしお。前を芋お。背䞭をぎんずのばしお。
ほんずはがくになんおちっずも興味のないクラスメむトたちに、「ずいぶん久しぶりじゃん」なんお、いわれるかもしれない。
そしたら笑っおいっおやろう。


なんのはなしですかっお。







玠敵な珈琲に出䌚い、私も物語をしたためたくなりたした。
冬の珈琲はより甘く深くしみわたりたす。
じっくりずこの冬のあいだ、楜したせおいただいおいたす。

なんのはなしです珈がZINEになったぞ。
その他、かわいいおじさんたちのサむンが欲しい方は、2月15日日曜日、ZINEフェス暪浜ぞ

いいなず思ったら応揎しよう

髙塚しいも6児の母 もしこのような蚘事をサポヌトしたいずいう皀有な方がいらっしゃいたしたら、ぜひずもよろしくお願いいたしたす。5児の食費・孊費にさせおいただきたす

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