免許取り立ての娘、はじめての給油
「今日、ひとりでガソリン入れてくる。」
免許を取ったばかりの娘は、そんな大仕事を任されたような顔で車を出した。
セルフでは心配だからと、昔ながらのガソリンスタンドへ向かったのは正解だった。
ところが、最初の難関は給油口だった。
店員さんに「給油口を開けてください」と言われ、娘は車の周りを一周。二周。三周。
「すみません。給油口って、どうやって開くんですか?」
店員さんは笑いをこらえながら、運転席横の小さなレバーを教えてくれた。
ようやく給油が終わると、今度は店員さんが一枚のタオルを差し出した。
「どうぞ、お使いください。」
娘は「サービスがいいなあ」と感心しながら、そのタオルを広げ、顔へ持っていく。
「いやいやいや、それ車の中を拭くタオルです!」
店員さんが慌てて止める。
危うく車より先に、娘の顔がピカピカになるところだった。
帰宅した娘は、照れ笑いしながら一部始終を話してくれた。
「給油って、ガソリン入れるだけじゃないんだね。」
なるほど。
車を動かすにはガソリンが必要だが、人を育てるには、こんな失敗談が必要なのかもしれない。
給油口が開かなかったことも、タオルの使い道を間違えたことも、その日は本人にとっては大事件だっただろう。
でも、きっと数年後には笑い話になる。
そして次に誰かが「給油口って、どこで開けるんですか?」と困っていたら、今度は娘が笑顔で教える側になる。
あの日、店員さんが渡した一枚のタオル。
あれは車内を拭くためだけではなく、初心者の緊張まで、そっと拭き取ってくれていたのかもしれない。
