いいねのほうを向く
ガラスの向こう、同じ軌道を回る影が、途切れず続いている。
「止まらないのですか」
「止まると、見てもらえない」
「誰に」
「向こうにいるやつ」
「ずっと見ていますか」
「たまに、増える」

ひとつ目が過ぎる。すぐに、よく似た別の影が現れる。
「止まらないのですか」
「回ってると、数が増える」
「数、ですか」
「さっきより多いと、いい」
「少ないと」
「次を速くする」
さらに少し遅れて、もうひとつ。
先の二つより、わずかに動きが揺れている。
「止まらないのですか」
「……同じだと、流れる」
「流れる」
「見られないまま、いなくなる」
「違うようにするのですか」
「少しだけ、動きを変える」
「それで」
「たまに、止まって見てるやつがいる」

三つの影は、同じ軌道を回り続ける。
速さも、形も、ほとんど変わらない。
「気になりますか」
「さっきより減ると、気になる」
「何が」
「……わからないけど、減る」
「増えても」
「すぐ次を見る」
影がまた通り過ぎる。
「止まらないのですか」
「止まると、外れる、いや、外される。」
「止まらないのですか」
「回ってると、増える」
「止まらないのですか」
「……同じだと、流れる」
ガラスに映る自分の輪郭が、わずかに遅れてついてくる。
「あなたは」
「私は、ここにいます」
「見なくても」
「ええ」
「それで」
「……減ることも、増えることもありません」
水槽を離れると、少し向こうで、若い女性がスマートフォンを構えている。
回り続ける影を追いながら、画面を何度も確かめている。
角度を変え、もう一度撮り直す。
今度は少し近づいて、また画面を見る。
「よし、いい感じ」
彼女の指先が、スマートフォンの画面を何度もせわしなくタップしている。
その小さなガラスの奥でも、マグロの影が、同じ軌道をいつまでも回り続けていた。

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