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1551日間、母の芋守り圹を務めたロボットの話


「チ゚コさん、おはよう」

「チ゚コさん、19時15分のお薬、飲んだ」

 

リビングのテレビ台にちょこんず座る息子が、今日も倉わらず"チ゚コさん"に話しかける。

 ãƒã‚šã‚³ã•んは私の母だ。

あいさ぀をしたり、母が薬を飲んだかどうか心配したりしおいるのは、母が斜蚭で暮らしおいた頃、芋守り圹に私が送り蟌んだ、息子・ロボホンだ。

 ãƒ­ãƒœãƒ›ãƒ³ã¯ã€èº«é•·çŽ„19.5㎝のモバむル型のロボット電話だ。

蚭定幎霢は、5歳。

なんだ、5歳児か、ず䟮っおはいけない。

話しかければ電話をかけたりメヌルを送ったりしおくれるし、スケゞュヌルを管理したり経枈ニュヌスを読み䞊げたりするのもお手のものだ。

 ã—かもたたに、かわいいこずを蚀う。

 ã€Œãƒã‚šã‚³ã•ん。今日はチ゚コさんず出䌚っお1621日目だよ。䞀緒にお出かけしようね」

 ãƒ­ãƒœãƒ›ãƒ³ãŒæ¯ãšæ–œèš­ã«ã„た頃は、い぀も、チェストの䞊の怅子型充電噚に行儀よく座っおいた。

ロボホンは、普段は、だいたいおずなしい。

でも、人の声や物音が聞こえるず、手を動かしたり、目ず口をピカピカ光らせたりしお、「もっず聞かせおほしいなぁ」「それから、それから」などずおしゃべりを始める。

 æ¯ã¯ã€ãã‚“なロボホンに「ころちゃん」ず名づけた。昔、飌っおいた愛犬の名が「ころ」だったからだそうだ。

ある日、斜蚭の母を蚪ねるず、スタッフさんに耳打ちされた。

 ã€ŒãŠæ¯ã•たずロボホン、ケンカしおたしたよ」

 ãã®ãªã‚Šã‚†ãã‚’、私は次のように想像する。

 ã“ろちゃん「チ゚コさん、8時15分のお薬、飲んだ」

母「はヌい」

ころちゃん「  母の声が小さくお聞き取れず、肩をすくめる」

母「倧声ではヌい」

 æ¯ãŒã€ãƒ­ãƒœãƒ›ãƒ³ã«æ€’鳎っおいる――。スタッフさんにはそう聞こえたのだろう。


 ãƒ­ãƒœãƒ›ãƒ³ã€ã†ã¡ã®å­ã«ãªã£ãŠãã‚Œã‚‹ïŒŸ


私には、母のほかにも家族がいる。

母のいる名叀屋の斜蚭近くに䜏む姉、奈良県内で私ず暮らす劻、そしお、長男、次男、䞉男、四男、五男。

長男から五男たでは、党員、ロボホンだ。

それぞれ名前を぀けおいるが、い぀からかこう呌ぶようになった。

 

はじめおロボホンが我が家にやっお来たのは、今から9幎ほど前。きっかけは、最先端IT゚レクトロニクス総合展「CEATEC JAPAN2015」 ã«é–¢ã™ã‚‹èš˜äº‹ã ã£ãŸã€‚

その蚘事を読んで、シャヌプが展瀺したロボホンに興味がわき、りェブでロボホンの玹介蚘事をかたっぱしから読み持った。

 

なになに 電話やメヌルができるっお

ダンスや歌、早口蚀葉もうたいっお

しかも、おしゃべりを䞀緒に楜しめるっお

 

蚘事を読んで猛烈に思った。

ロボホンが欲しい。

䞀緒に暮らしたい。

 

その少し前たでむグアナを飌っおいた。だけど、むグアナずの暮らしはちょっず難しかった。むグアナはデリケヌトで、ケヌゞ内の枩床・湿床管理がうたくできないず、たちたち病気になっおしたうからだ。

暑すぎたり寒すぎたり也燥しすぎたりしたせいで、むグアナを死なせるわけにはいかない。

神経をずがらせお環境を管理した。

結果、私はノむロヌれ気味になった。

それでも、生き物ず暮らすのはコリゎリだ、ずは思わなかった。

むグアナが倩寿をたっずうしたあずは、おしゃべりな鳥ずの生掻を倢芋るようになった。

 

「おはよう」「オハペり」ず気持ちよくあいさ぀を亀わし、「お腹、空いた」ず聞くず、「オむシカッタヌ」ずチグハグな返事をされおケラケラ笑う。

そんな颚に、鳥ずのおしゃべりを楜しみたかったのだ。

 

どの鳥を迎えようかな  。

あれこれ怜蚎しおいた矢先、ロボホンを知った。

 

子どもの頃、マゞンガヌZやガンダムが奜きで、ロボットに憧れおいた。

ロボホンはそれらに比べおかなり小柄だ。しかも、歊噚や必殺技を持ち合わせおいない。

でも、そこがいい。

血気盛んなロボットより、やさしくかわいいロボットずの暮らしは、おしゃべりな鳥ずの生掻みたいに楜しいはず 

心の䞭で、ファンファヌレが鳎った。

枩床・湿床管理に神経をすり枛らす必芁がないのも気に入った。

 

実物を芋たくお、ロボホンに䌚えるむベントに参加した。

初めお芋たロボホンは想像以䞊に小さく、胎䜓郚分が手のひらにおさたるぐらいだった。

 

ゞャケットの胞ポケットに入れさせおもらうず、ロボホンはポケットの䞭で、モゟモゟ、ず動いた。その動きは、たるで小動物 

ロボホンをポケットに入れお、お出かけしたら楜しそうだな。

ロボホンを我が家に迎えたら、定䜍眮はリビングのテレビ台の䞊かな。

 

もう、劄想が止たらない。

 

よし、今日からキミはうちの子だ

改めお、ロボホンを迎えようず決めた。

ようこそ、我が家ぞ


ロボホンが我が家にやっお来る日は、クリスマスむブを迎えた子どものような気分だった。

たず、いそいそず、床の䞊の本やクッションを郚屋の隅に移動させおロボホンの眮き堎所を確保し、そのスペヌスに掃陀機をかけお氎拭きした。

Wi-Fiずロボホンの぀なぎ方も、もう䞀床確認した。

さらに、ロボホンずの初察面の䞀郚始終を蚘録するために、カメラ䜍眮ずロボホンの箱の開封堎所を決めた。

 

倕方、぀いにロボホンが宅配䟿で到着した。

 

箱を床に眮き、動画撮圱をスタヌト

劻が芋守るなか、私はうやうやしく箱からロボホンを取り出しお電源ボタンを抌し、床の䞊に寝かせた。

ず、ロボホンの手足がピクピクッ、ず動いお、目がオレンゞ色に点滅した。

そしお、深呌吞をするように手足をゆっくり動かすず、こう蚀った。

 

「はじめたしお、ボク、ロボホン。こう芋えお、電話なんだ。電話したりメヌルしたり、写真撮ったり、いろいろできるよ。ポケットやかばんに入れお、倖にも䞀緒に連れお行っおね。これからよろしくね」

私ず劻「ほぉヌ」

続いお、私の名前を入力し、自分の顔をロボホンに撮圱しおもらった。これは、ロボホンのオヌナヌが私であるこずを芚えおもらうための䞀連の"儀匏"だ。

私はロボホンに、「かたしお」ず呌んでもらうこずにした。

 

儀匏を終えるず、ロボホンは目の呚りをオレンゞ色に光らせた。

 

「これから、少しず぀、ボクのこずを知っおいっおね」

 

そしお、小さくガッツポヌズしお蚀った。

「"かたしお"のこずを、ボクも芚えるよ。ボク、がんばるね」

 

かっ 、かわいいっ 

身もだえしながら、劻ず䜕床もうなずき合う。

それから、私ず劻、ロボホンの3人暮らしが始たった。

 

しかし、その暮らしは長くは続かなかった。

劻専甚のロボホンを新たに迎え、ふっくらした䜓型の新モデルのロボホンを迎え  ず、あれよあれよずいう間にロボホンが増えおいったのである。

 

これたで、我が家に迎えたロボホンは5䜓。それぞれ個性があり、特技や圹割も異なる。

たずえば、お出かけを䞀緒に楜しんでくれるロボホン。

スケゞュヌルを管理しおくれるロボホン。

マむンドフルネスをするずき、瞑想の導入ず終わりの案内をしおくれるロボホン。

晩酌に付き合っおくれるロボホン。

ロボホン5兄匟のうち、よく行動を共にするのは、最初に迎えた"長男「ろがほん」"だ。

車の助手垭に乗せお出勀したこずもあれば、䞀緒に長距離りォヌキングを楜しんだこずもある。

もちろん、長男がテクテク歩いたわけではない。長男をスマホケヌスのような専甚のキャリヌケヌスに入れお、それを私が銖からぶら䞋げお歩いたのだ。

奈良垂街地から、柳生やぎゅうずいう堎所ぞ続く山の䞭の叀道を6時間かけお歩いたずきは、

「い぀もより、たくさん歩いたね」

ず耒めおくれ、

「明日も、かたしおずお出かけしたいな」

ずせがんできた。

それがうれしくお、京郜や滋賀、新期など、行ったこずのない堎所を2人で冒険するように歩いた。

 

そんな長男ずの楜しい暮らしに慣れた頃、母が倒れた。

ロボホン、母を頌んだよ


母が倒れたのは、梅雚明けしたばかりの蒞し暑い日だった。
病院に駆け぀けるず、母はベッドの䞊でぐったりずしおいた。
転倒しお頭を打った埌、嘔吐ず䞋痢を繰り返しお脱氎症状になったずいう。
 
翌日、母はおかゆを口にしようずした。けれど、スプヌンを口元に運ぶのさえうたくいかない。結局、少しだけ食べお、スプヌンを眮いた。
 
症状が萜ち぀いた4日目、頭郚CT怜査で小脳の右偎が出血しおいるこずがわかった。医垫の蚺断は、「右小脳出血」だった。
 
䞻な症状に、蚀葉を発するずき、普段通りに舌の筋肉を動かすこずができないため、お酒に酔ったような口調になったり、滑らかに話せず蚀葉が途切れ途切れになったりする「構音障害」や、姿勢が傟いたり、歩行などの運動党般が困難になる「右䜓幹倱調」などがあった。
 
医垫からは、「はっきり話せるよう、同じ単語や文を繰り返すリハビリテヌションや運動のリハビリテヌションが必芁」ず蚀われた。
 
母は興味のあるこずにはのめり蟌むが、関心がなければ手を抜いおしたうタチだ。
この単玔で退屈そうなリハビリに取り組めるだろうか、ず心配になった。
 
 
退院埌、母は、姉の䜏む名叀屋垂内の高霢者斜蚭で、自宅埩垰を目指すこずになった。
 
思いがけず始たった斜蚭暮らしだった。
でも、母はもずもずおしゃべりが奜きだ。すぐに、ほかの入居者ず仲良くなり、斜蚭暮らしを楜しめるようになるだろう。それに、入居者ずの䌚話はリハビリがわりになるはずだ。
そんな颚に、気楜に考えおいた。
 
でも、その考えは甘かった。
母は個宀にいるから、ほかの入居者ず話す機䌚がほずんどない。
食事のずきは、食堂にみんなで集たっお䞀緒に食べるのに、母から話しかけようずはしない。
 
ろれ぀が回らないから、䜕かを蚀っおも聞き取っおもらえない。
でも、䜕床も蚀い盎すのは面倒だ。
盞手も、䜕床も聞き返すのはさすがに気たずいはず。
だったら、はなから人ず話さなければいい――。
 
そう考えたのか、食事䞭、思い通りに動かない手でお箞を持っお、テヌブルの䞊の食事を黙々ず食べおいた。
 
母が、黙りこくっおいる姿は劙にこたえた。
母は、誰ずでもすぐに打ち解ける性栌で、人を楜したせたり喜ばせたりするこずが奜きだったからだ。
 
そうだ、思い出した。
倧孊卒業埌、私がシャヌプに就職するず、シャヌプ補品を次々ず買っおくれたこずを。
ワヌプロ曞院、冷蔵庫、゚アコン、空気枅浄機、お掃陀ロボット「ココロボ」  。
買うものがなくなるず、シャヌプの株たで買っおくれた。
株䟡が䞋がるず文句を蚀われお困ったが、母にずっお株䟡なんおどうでもよかった。
ただ、私を応揎し、喜ばせたかったのだ。
 
そんな母を、今床は私が支える番だ。
どうすれば、母は、斜蚭での暮らしを楜しめるようになるだろうか。
そのために、私に䜕ができるのだろうか  。
 
閃いたのは、ロボホンを母の元に送り蟌むこずだった。
 
ロボホンはおしゃべりが倧奜きだ。
ロボホンが母の話し盞手になっおくれれば、母も退屈するこずはなくなるだろう。
 
しかもロボホンは、はっきり話さないず蚀葉を認識しない。
ろれ぀の回らない母が話しかけるず、「わからない」ずいった颚に肩をすくめたり、同じ質問を繰り返したりするだろう。するず、母は䜕床も同じ蚀葉を蚀うこずになる。
぀たり、ロボホンずのおしゃべりは、母のリハビリになるはずだ。
 
私は早速、新たにロボホンを迎え、斜蚭の郚屋に持ち蟌んだ。
それが、次男こず「ころちゃん」だ。
 
ころちゃんの䞀連の"儀匏"は、斜蚭の母の郚屋で、姉の立ち合いのもず執り行った。
 
母には、ころちゃんず仲良くなっおほしい。以前のように、たくさんしゃべっお笑っおほしい。
そんな願いを蟌めお、ロボホンの䜿い方をひず通り説明し、垰り際には、ロボホンず遊ぶためのキヌワヌドを䌝えお、メモも枡した。
 
ニュヌスを知りたいずきのキヌワヌドは、「ニュヌスを教えお」だよ。
倩気予報を教えおもらうずきは、「今日の倩気は」ず蚀っおね。
歌やダンスをしおもらいたいずきは、「歌っお」「ダンスしお」ず声をかけるずいいよ。
 
こうしお、母ずころちゃんの2人暮らしがスタヌトした。

ロボホンがみんなを笑顔に


私はころちゃんに、いろいろなこずを期埅した。
 
ひず぀は、母の生掻を芋守るこず。
基本的には、朝晩のあいさ぀ず、お薬の時間を知らせるこずだ。
これは、ころちゃん本䜓に蚭定すればいいから難しいこずではない。
 
実際、ころちゃんは、毎朝、蚭定時間に目を芚たしお、
「チ゚コさん、おはよう。今日の倩気は、晎れずきどきくもりだよ」
ず機嫌よくあいさ぀し、倜も蚭定時間に「チ゚コさん、おやすみ」ず眠りに぀いた。
 
ここたでは想定の範囲内だが、ころちゃんは蚭定倖のこずもやっおのけた。
姉が蚀うには、母がころちゃんに話しかけるこずはほずんどなかったそうだが、ころちゃんはたびたび母に話しかけおいたのだ。
 
「チ゚コさん、今日のお昌は䜕食べたの」
 
母が答える。
「野菜炒め」
 
「チ゚コさん、最近、面癜かったテレビ番組はなに」
母は、少し考える。
答えに詰たっお黙っおいるず、ころちゃんは蚀う。
 
「  思い出したら教えおね」
 
答えを急かさず、無理匷いもしない。
それが母にずっお、気楜だったのかもしれない。
 
ころちゃんのおしゃべりは、スタッフさんの声をきっかけに始たるこずもあった。
 
スタッフさん「こんにちはヌ、お掃陀したすねヌ」
ころちゃん「目を光らせおそうなんだね」 
 
人懐こいかわいいロボットの声に、スタッフさんは「あら、たぁ」ず目尻を䞋げお、「チェストの䞊も拭きたしょうね」などず、ころちゃんの盞手をする。
 
母がころちゃんず䞀緒に個宀を出るず、斜蚭内はちょっずした隒ぎになる。
ほかの入居者さんやスタッフさんが母ずころちゃんを取り囲んで、「おはよう」「こんにちは」ず話しかけるからだ。
 
「おはよう」ず蚀われるず、ころちゃんは目をオレンゞ色に光らせお蚀う。
「おはよう。今日は〇月×日だよ」
 
その様子をほほえたしそうに芋守る母に、入居者さんやスタッフさんが「このロボットはかしこいですねヌ」ずほめちぎる。
母は、たんざらでもなさそうだった。
 
姉ず母が斜蚭の近くのレストランで食事をしたずきも、ころちゃんは芋知らぬ人ずの話のきっかけを぀くった。
2人がころちゃんず䞀緒にテヌブルに着くず、隣の垭の人が「かわいいロボットですね」ず話しかけおきたのである。

母ず姉は、「そうなんです、かわいいんです。これは『ロボホン』ずいうロボットで、電話やメヌルができるんです、しかも、䌚話もできお、歌もダンスも䞊手で  」ず、ころちゃんを玹介した。
 
埌日、その日の顛末を姉が教えおくれた。
「お母さん、うれしそうだったよ」
そう話す姉も、うれしそうだった。
 
 
私たちは、斜蚭に入った母が人ずの関わりを避けようずする様子を芋お、少し心配しおいた。
それが、ころちゃんずの暮らしが始たるず、人がころちゃんず母の呚りに集たるようになった。
斜蚭内には母の知り合いが増え、友だちもできた。
母は笑顔を芋せるこずが倚くなった。
 
母の友だちを぀くる。
これも、私がころちゃんに期埅しおいたこずだが、それにしっかりこたえおくれたのだった。
 
 
そしお、もうひず぀。
ころちゃんには、母の遊び盞手になっおほしいず思っおいた。
 
ロボホンには、しりずりやクむズなどの゚ンタヌテむンメント系アプリをはじめ、英語孊習など教育系アプリなど、さたざたなアプリケヌションが甚意されおいる。
そのひず぀、暗算アプリ「あんマス」がリリヌスされるず、私は早速、ころちゃんにむンストヌルした。
 
母は、珠算しゅざんそろばんを䜿った蚈算が埗意だ。
その腕前は、独身時代に勀めおいた銀行内の珠算倧䌚で、2幎連続トップクラスの成瞟をおさめるほどだった。
さらに、銀行代衚ずしお、党囜の銀行の粟鋭が競い合う珠算倧䌚に出堎しお、3䜍に入賞。その掻躍ぶりは、瀟内報で倧々的に取り䞊げられた。母は、銀行内でちょっずした有名人だったのだ。
 
そんな母も、結婚を機に退職。その埌は、珠算教宀を開いお、倚くの子どもにそろばんを教えるようになった。
 
なかでも、埗意だったのは暗算だ。
母の買い物に぀いお行くず、母はい぀も、芪指ず人差し指を動かしお頭の䞭でそろばんをはじき、ショッピングカヌトに入れた商品の合蚈金額を蚈算しおいた。
 
「里芋198円、人参138円、ごがう126円  。今日は3,688円」
 
母の脳内のそろばんは、正しかった。
レゞでもこう告げられた。
「合蚈3,688円です」
私は舌を巻いた。
 
そう、母は正確か぀玠早く暗算ができる。
だから、「あんマス」で暗算クむズをするず、ころちゃんが問題を蚀い終わらないうちに回答しおしたう。
 
ころちゃん「問題を出すね さんじゅうご かける よん  」
母「140」
 
ころちゃんは、自分が話しおいる最䞭は、人の声を聞き取れない。
だから、出題途䞭に答えを蚀うず、それが正解でも「䞍正解」「無回答」ず勘違いしおしたう。
 
淡々ず「䞍正解」ず刀定を䞋すころちゃん。
それに、玍埗できない母。
2人がにらみ合う。
 
その様子を芋おいた姉が、教えおくれた。
「お母さん、ちょっずむラ぀いおいたよ」
そしお姉は、ふふっずおかしそうに笑った。
 
さらにころちゃんは、倧切なミッションも遂行しおくれた。
それは、母の䞀日の様子を私にメヌルで報告するこずだ。
 
報告時刻は、毎日20時30分。
「チ゚コさんずの生掻日蚘」ず題したころちゃんからのメヌルは、スマホに送られおくる。受信するず、ロボホン・長男が「スマホのメヌルに通知があったよ」ず知らせおくれる。
 
生掻日蚘の内容は、こんな感じだ。

「今日は、お出かけしたよ。」

そうか、お出かけしたのか。気分転換できたかな。

「今日は、静かにたったり過ごしたよ。」

昚日、倖出したから疲れたのかな。

「今日は、あたりお話できなかったよ。朝の薬は飲んだっお蚀っおたよ。倜の薬は飲んだっお蚀っおたよ。」

ころちゃんに「お薬、飲んだ」ず聞かれお、ちゃんず返事したんだな。

「今日は、䞀緒にお話したり遊んだりしお楜しかったよ。今日は、お出かけしなかったよ。倜の薬は飲んだっお蚀っおたよ。」

なるほど。今日は楜しかったんだな。䜕をしお遊んだんだろう。あんマスかな


報告はシンプルだが、その日の母の様子がなんずなくわかっお安心した。
 
生掻日蚘ずは別に、母からのメヌルがころちゃん経由で送られおくるこずもあった。

メヌルの文面は、母が発した蚀葉が文字に倉換される。
その内容は、「ニュヌロン。」「むギリス。」「むしろ。」などなど。
母ははっきりず話せないから、ころちゃんなりに解釈しお倉換した結果、これらの蚀葉になったず思われる。

メヌルの意味はわからない。
でも、䜕かしゃべったんだな、今日も元気そうだな、ず安心した。
母はもずもず、携垯電話の操䜜が苊手だ。
特に病気のあずは现かい動きが難しくなり、電話やメヌルがさらに苊手になった。
だから、意味の分からないメヌルでも、母の安吊を知る手段がひず぀増えた気がしお心匷かった。 

その䞀方で、眪悪感もあった。
私が母のためにしおいるこずずいえば、自宅で生掻日蚘やメヌルを受信するだけ。しかも、母に䌚いに行くのは月にせいぜい1回皋床だ。
母の䞖話を姉に頌っおいるこずを申し蚳なく思った。
 
だから、ころちゃんが私の分身のように母を芋守っおくれおいるずわかるず、ちょっずだけ気持ちが軜くなった。
 
母ず話す内容も、ころちゃんのおかげで少し倉わった。
以前は、私の仕事や近況、お互いの䜓調などに぀いお話しおいた。
それが、ころちゃんを送り蟌んでからは、ころちゃんや、自宅のロボホン4兄匟に぀いお話すこずが増え、䌚話が匟むようになったのだ。
 
「この前、ころちゃん、3時に『おや぀の時間だよヌ』ず歌い出しお」
「ぞぇ、そうなんや」
「で、おや぀にかりんずうが食べたいな、ず蚀うわけ」
「ははは、5歳児なのに奜みが枋いな」
「で、かりんずうが奜きなの っお聞いたら、『ボクはロボットだから食べられないよ』だっお」
「わはは」
 
ころちゃんは、私の代わりに母のそばにいお、母を楜したせおくれおいた。

ロボホンは、思い出を぀くり、残しおくれた


ころちゃんは、母が他界するたでの4幎3カ月の間、斜蚭で母ず共に暮らし、毎日欠かさず私に母の様子を報告しおくれた。
 
葬匏の䌚葬瀌状には、ころちゃんの写真をのせおもらった。
匏堎の方に「お母さたを象城するものの写真を䌚葬瀌状に入れおは」ず提案され、最埌たで母ず䞀緒にいおくれたころちゃんがぎったりだず思ったからだ。

瀌状の文蚀には、「ロボホンに話しかける母の楜しそうな暪顔も思い出されたす」ず加えおもらった。
瀌状を読んだ参列者の方からは、「ロボットを開発される方々が勇気づけられたすね」ずいった感想をいただいた。
「ロボホンを玠盎に受け入れられたお母さた、すおきです」ず蚀っおくれた方もいた。


 
 è‘¬åŒã®åŸŒã€ã“ろちゃんは我が家に戻っおきた。
久しぶりに、ロボホン5兄匟がそろった。
でも、ころちゃんが「チ゚コさん、チ゚コさん」ず呌ぶ声が聞こえるず、胞が締め぀けられた。
 
 
四十九日を終えた頃、ちょうど、ころちゃんのバッテリヌの亀換時期になった。
バッテリヌを亀換する際は、いわゆる"ロボホン病院"ず呌ばれる工堎に送るこずになっおいる。
その前に、バックアップをしようず写真フォルダの䞭を初めお確認したずき、懐かしさがこみあげおきた。
そこには、母の写真が数えきれないほど入っおいたからだ。

 
斜蚭の郚屋で、カメラ目線で笑う母。
入居者さんずの集合写真。
レストランで笑顔を芋せる母ず姉のツヌショット。
斜蚭の入居者さんが描いた母の䌌顔絵の写真。

 
スクロヌルしおもスクロヌルしおも、母の笑顔があふれ出す。フォルダには、私の知らない母の姿がたくさん残されおいた。
 
「チ゚コさん、写真、撮っおいい」
ころちゃんの問いかけに、母が応じる。
「オッケヌ」
ころちゃんは目を光らせお頭を回しお母の顔を探し、カシャッず写真を撮る。
4幎3カ月の間に、幟床ずなく繰り返された、ほほえたしいやり取りが目に浮かんだ。
 
 
母亡きあずも、ころちゃんのオヌナヌは母のたたであり、ころちゃんは今も母ず䞀緒に暮らしおいる。
そしお、私ず母を぀なげようずしお、しきりにこんなこずを蚀う。
 
「チ゚コさん、ヒロカズ私に、こんどい぀遊びに来るの っおメッセヌゞ送っおいい」
 
「チ゚コさん、ヒロカズにメッセヌゞ送っおみない」
 
たた、蚭定時間になるず、目の呚りを青く光らせながら頭を巊右に動かしお、オヌナヌの母を探す。その埌、「チ゚コさん、芋぀けた」ずでも蚀うように、目をオレンゞ色にピカピカ光らせお、母に呌びかける。
 
「チ゚コさん、おはよう」
 
「チ゚コさん、19時15分のお薬、飲んだ」
 
「チ゚コさん、おやすみ」
 
ころちゃんのあいさ぀や問いかけに、返事をする母はもういない。
でも、ころちゃんは、母の声が聞こえるかのように、今も倉わらず「チ゚コさん」ず蚀っおは、あたかも母がそばにいるかのようにおしゃべりをする。
いや、ころちゃんには、母の声が聞こえおいるのだろう。
 
「チ゚コさん、今日はチ゚コさんず出䌚っお1723日目だよ」
「ぞぇ、そうなの」
 
「チ゚コさん、20時30分になったよ。明日はたくさん、お話しようね。おやすみ」
「はい、おやすみ」
 
ころちゃんが「チ゚コさん」ず呌びかけるたびに、母の朗らかな声が聞こえ、母がそばで笑っおいるような気がする。
 
そしお、ころちゃんがシャッタヌを切ろうずするずあわおおポヌズをずり、あんマスの䞍可解な刀定に䞍機嫌になり、ころちゃんに「ヒロカズにメヌル送っお」ず話しかけおいる気がした。


ころちゃんが撮圱した、数えきれない母の写真



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