カラスを呼べるようになった
この家にいるのもあと一週間。最後に何か記念になるようなもの、お買い物したいなと思うのは自然なことよね。
たまたまネットで見つけて、どうしてもほしくなったものを、ついつい買ってしまった。別にこの土地の特産物とか伝統工芸品ではないのに。
カラスを呼ぶ笛。
プラスチック製の笛なんだけど、吹くとカラスが呼べるんだって。
無駄遣いだとはわかってる。カラスを呼ぶ必要性は今のところ感じてはいない。でも、我慢できなかった。カラス、呼びたい。
届いたのは、ちょうどゴミの日だった。家で試しに吹いてみたけど、これ、カラスかなあって感じの音。中に指を入れて調整したりして、しばらく練習した。
このあたりのカラスは賢くて、今日が何曜日かたぶん把握してる。だからゴミの日はしってて、近くには絶対いる。姿は見えなかったんだけど、笛を吹いてみたんだ。
……すごいよ!
集まるよ! カラス!
玄関から顔を出して笛を吹いてたら、あれよあれよという間にカラスが集まってきて、うちの上を旋回しながら飛んでた。真似して、同じように吹いてみる。すると、返事してくれるのよ。
呼びかけに対して、反応があるっていいよね。ライブ感ある。コールアンドレスポンス!
うまくやると、集めたり追い払ったり自由自在らしいんだけど、今のところ集めることしかできてない。
熟練すれば鬼太郎のようにカラスヘリコプターに乗れるかもしれない。
た、たのしい……
引越しまでのこの家での楽しみ方を、一つ発見したかも。近所に何にもなさすぎて、ずっとつらかったんだよね。うちの周り、家しかないの。下手すると東京より治安はいいんだけど、何にもない。人工的に造成された町なので、自然豊かってほどでもないし。
私、雑然とした場所が好きなの。大都会というよりは下町的な。癖のある個人商店が立ち並んでたり、移民のやってる遠い国の料理のレストランがあったりさ。あと、寄席とか美術館もあるといいよね。歴史の香りも嗅ぎたいな。
そういうの総合するとね、上野が私の中では理想の町になる。美術館も博物館も寄席もあるし、おいしいレストランも雑多な異国のレストランや食材店も、さらには蛇料理店まである。ABABは閉店してしまったけど、西郷隆盛はまだいる。動物たちにも会える。人々は上野をもっと評価した方がいい。
次の町には美術館はあるかもだけど、寄席はない。気軽にアサダ二世に会いにはいけないの。次も海外なのよね。
え? アサダ二世をしらない? あのね、アサダ二世はもはや一般常識だから、しっておいたほうがいいよ。寄席で素晴らしい手品をされる方なの。イリュージョンの極み。アサダ二世とロケット団(ポケモンではない)はさ、いつだって私たちを満足させてくれる。
次の町でも笛吹けるといいな。次はもうちょっと便利なところなのよね。音が大きいので、都市部で吹くのはきついけど、公園とかで吹く分には大丈夫かなー
寂しい時は私、笛を吹くよ。とりあえずカラスだけはさ、呼びかけに答えてくれるよ。
そのうちさ、子供も反抗期で口きいてくれなくなると思うけど、カラスは答えてくれると思うと、もう怖いもんなんてないよね。
ちなみに集まってきたカラスに、至近距離にフンを落とされたので、集会を開くときは頭上に注意されることをおすすめいたします!
笛は日本のアマゾンでも売ってた。リンクは貼らないけど、プリモスのクロウコールという商品です。なぜこの商品は作られ、どんな人が買うのだろうと思うけど、みんな私みたいに寂しいのかな。カラス追い払いたいなら、笛の練習しないで録音したやつ流せばいいのよ。
ふふ、あなたも一人じゃないよ?
寄席に行けばアサダ二世がいるし、上野には西郷隆盛もいる。
そして家にひとりぼっちでも、笛を吹けばとりあえずカラスは来る。

