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コルマー超分析 ―― 韓国化粧品が輸出産業になるまでに、誰が何を代行したのか

この記事の要約は、韓国コルマーの本質が「速く作る工場」ではなく「ブランドが自力では越えられない規制と試験の壁を代行する装置」であること、同社が推し進めた水平分業は容器という隣接領域では逆に摩擦を生んでいること、米国の関税環境が化粧品の生産地図を書き換えつつありその主役はブランドではなくODMであること、そして日本と韓国のOEM/ODMを分けたのは技術力ではなく「誰を顧客として設計されたか」という一点であること、である。詳細は以下に述べる。

◾︎ 「TSMC流」という補助線は、もう一段引き伸ばせる 半導体ファウンドリとの類比は、自社ブランドを持たないことによる中立性、設計と製造の分離という二点で確かに機能する。ただしODMは製造だけでなく処方設計まで引き受けるため、実態としてはファブレス設計会社とファウンドリを一社に束ねた形に近い。比喩を精緻化すると、韓国コスメの参入コストがなぜここまで下がったのかが見えてくる。

◾︎ 真の参入障壁は処方ではなく、申請・試験・規制適合にある 日焼け止めは米国ではOTC医薬品として扱われ、臨床試験と当局対応が必須になる。韓国コルマーは2013年に業界で初めてFDAのOTC登録を得て、2022年には紫外線専門の研究所を設け、自前の臨床試験設備まで内製化した。個人事業主がここを自力で越えることは事実上不可能であり、この代行機能こそが同社の堀である。

◾︎ 水平分業の推進者が、垂直統合では苦戦している 容器メーカーの買収による「中身から容器まで一気通貫」構想は、多品種少量というインディブランドの発注特性と、金型・射出という固定費産業の経済性が噛み合わず、パッケージング部門は2025年に営業赤字へ転じた。分業を武器にした企業が統合で躓く構図は、この産業の力学を最もよく示している。

◾︎ 日韓を分けたのは技術ではなく顧客設計である 日本にも厚いOEM/ODMの集積があるが、その多くは大手ブランドの後工程として最適化されてきた。韓国のODMは当初から無名の小規模事業者を顧客と想定して設計され、結果として「化粧品を作りたい個人」の数そのものを増やした。輸出額の差は、この顧客セグメントの違いが数十年かけて累積した差である。


1. 名前の系譜は、一度アメリカへ還った

韓国コルマーの出自は韓国ではない。「コルマー(Kolmar)」は1921年に米国で創業した化粧品受託製造企業の名であり、そのビジネスモデルが太平洋を渡って1968年に日本コルマーを生み、さらに1990年、大熊製薬の副社長だった尹東漢が日本コルマーを訪ねて合弁を提案したことで韓国コルマーが生まれた。米国から日本へ、日本から韓国へという、戦後の技術移転の典型的な経路をたどっている。

興味深いのはその後である。2022年、韓国コルマーは「KOLMAR」のグローバル商標権を本家である米国側から100%取得した。名前を借りた側が名前の持ち主になったのだ。さらに2024年、日本コルマーは社名をTOAへ変更している。技術提携によって得た名前を返上した日本側と、名前ごと買い取った韓国側という対照は、単なる商標の話にとどまらない。

もっとも、資本関係は今も残る。TOA(旧日本コルマー)はコルマーホールディングスの株式を7.8%保有し続けており、後述する経営権紛争の局面でも一定の存在感を持つ株主であり続けた。日本の受託製造業と韓国の受託製造業は、切り離された二つの産業ではなく、いまも同じ資本の帳簿の上でつながっている。

社歴の節目を並べると、成長の設計思想が見えてくる。

  • 1990年:日本コルマーとの合弁で設立。韓国の化粧品業界で初めてODM方式を導入

  • 1992年:中央研究所を設置。設立からわずか2年で研究機能に投資している

  • 1996年:コスダック上場

  • 2012年:持株会社体制へ移行。化粧品・製薬部門を新設法人として分離

  • 2018年:CJヘルスケアを買収(2020年にHK inno.Nへ改称)

  • 2022年:紫外線専門研究所を新設、KOLMAR商標を取得

  • 2025年:米国第2工場を稼働

設立2年目の研究所設置は、この会社が「安く作る下請け」として出発していないことを示す。受託製造で価格競争に入れば利益率は下がる一方だが、処方を自ら設計できれば価格ではなく能力で選ばれる。ODMという言葉の「D(Development / Design)」に最初から賭けていたわけである。

2. 数字で見る現在地

2025年の実績を並べる。

  • 韓国コルマー:連結売上高2兆7,224億ウォン(前年比11.0%増)、営業利益2,396億ウォン(同23.6%増)。いずれも過去最高

  • コスマックス:連結売上高2兆3,988億ウォン(同10.7%増)、営業利益1,958億ウォン(同11.6%増)。こちらも過去最高

  • 国内ODM上位4社合計:6兆503億ウォン(同11.5%増)。4社合計が6兆ウォンを超えたのは初

売上・利益の絶対額では韓国コルマーが上回るが、注意すべき補助線が一つある。韓国コルマーの連結には製薬子会社HK inno.Nが含まれる一方、コスマックスの連結売上はほぼ全額が化粧品である。純粋な化粧品事業の規模ではコスマックスが優位という見方が業界では一般的だ。実際、国内法人単体の営業利益で見ると2025年はコスマックス1,546億ウォンに対し韓国コルマー1,495億ウォンと、差は51億ウォンまで縮んでいる。2020年から2024年にかけての年平均差が130億ウォン程度だったことを踏まえると、化粧品本業での追い上げは相当に速い。

グループ全体では、2026年に公正取引委員会の公示対象企業集団に初めて指定された。公正資産総額は5兆2,430億ウォン。化粧品ODM企業としては初の指定である。内訳を見ると、HK inno.Nが2兆969億ウォン、韓国コルマーが1兆5,290億ウォン、コルマーホールディングスが5,461億ウォン、コルマーBNHが5,206億ウォンとなっており、資産規模で最大なのは化粧品ODMではなく製薬・バイオ部門だ。

事業別の2025年業績も押さえておきたい。

  • HK inno.N:売上1兆631億ウォン、営業利益1,109億ウォン。新薬「K-CAB(テゴプラザン)」と輸液事業が牽引し、初めて売上1兆ウォンを超えた

  • コルマーBNH(健康機能食品ODM):売上5,749億ウォン(6.6%減)、営業利益266億ウォン(8.2%増)

化粧品ODMで築いた「受託開発生産」というモデルを、医薬品と健康機能食品へ横展開している構造である。同じ受託でも規制の厳しさと参入障壁は分野ごとに異なり、化粧品で磨いた規制対応能力が製薬・健康食品でも効くという読みは、結果として当たっている。

3. 「TSMC流」という比喩を、もう一段掘る

半導体ファウンドリとの類比は的確な補助線である。自社ブランドを持たないから顧客と競合しない、という中立性の構造は、TSMCがファブレス各社の信頼を得た理由そのものだ。設計と製造を切り離すことで、設計側の参入コストが劇的に下がるという効果も共通している。

そのうえで、比喩をさらに伸ばすと違いも見えてくる。

第一に、技術ロードマップの有無である。 半導体には微細化という単一軸の進歩指標があり、そこに全産業の資本が集中する。化粧品にはそれがない。ヒットの要因は処方だけでなく、香り、質感、パッケージ、SNS上の文脈にまで分散する。したがってODM側は「一本の技術で勝つ」のではなく「多方向の要求に短時間で応える」能力で勝負することになる。日経の記事が指摘する商品化までの期間短縮は、まさにこの多方向対応の帰結である。

第二に、資本集約度が桁違いに低い。 最先端半導体工場の建設費は数兆円規模だが、韓国コルマーが米国第2工場に投じたのは約6,000万ドルである。参入障壁が資本ではないということは、逆に言えば「資本以外の何か」で差がついているということだ。それが次節で述べる規制対応力である。

第三に、顧客の寿命が違う。 ファブレス半導体企業は一度立ち上がれば数年から数十年生きる。一方、化粧品のインディブランドは数か月で消えることも珍しくない。ODMにとって顧客ポートフォリオは常に入れ替わり続ける前提であり、与信管理、最小ロットの設計、回収リスクの分散が、そのまま競争力になる。

なお、この三点の違いは優劣ではない。むしろ重要なのは、両者が共有している一点のほうである。すなわち「顧客と競合しない」という約束を、長期にわたって破らずに積み上げてきたことだ。受託製造業にとって自社ブランドの誘惑は常にある。目の前で顧客の商品が売れていれば、同じものを自分で売ればより多く稼げると考えるのは自然だ。しかし一度でもそれをやれば、顧客は処方の相談を持ち込まなくなる。韓国コルマーが自社ブランドを持たず研究開発と受託生産に集中し続けている事実は、能力の制約ではなく、信頼という資産を毀損しないための自己拘束として読むべきである。ファウンドリの中立性が半導体産業で果たした役割と、ここは正確に重なる。

これらを踏まえると、韓国のODMはTSMC単体というよりも、設計会社とファウンドリを一社に束ね、さらに規制対応の代行と少額多頻度の与信管理まで抱え込んだ複合体に近い。比喩を精緻にするほど、この産業が「工場の話」ではなく「参入コストの設計の話」であることが浮かび上がってくる。

4. 本当の堀は、処方ではなく規制対応にある

韓国コルマーの技術的な看板はサンケアである。国内のサンケア市場で約7割のシェアを持つとされ、高機能紫外線遮断に関する特許は50件を超える。2022年には業界で初めて紫外線を専門に研究する組織を立ち上げ、約40人の研究員を配置した。UV-AとUV-Bにとどまらず、ブルーライトや近赤外線、高エネルギー可視光線まで制御する処方を開発し、紫外線を反射・吸収するのではなく皮膚表面で屈折させる技術にまで踏み込んでいる。

ただし、ここで見落としたくないのは処方そのものよりも、その手前にある制度の壁だ。米国では日焼け止めはOTC医薬品として規制され、有効性の臨床評価と当局対応が必要になる。韓国コルマーは2013年、業界に先んじてFDAのOTC登録を取得した。さらに自社の研究所内に紫外線臨床試験設備を持ち込み、外部機関へ委託する際の待ち時間を削っている。研究開発費は2023年に1,273億ウォン、2024年に1,392億ウォンと、売上比で5%前後を継続的に投じている。

ここに、この産業の構造が凝縮されている。処方を自作できる個人事業主は存在しないわけではない。しかし、SPFの臨床評価を回し、各国の成分規制に適合させ、輸出先ごとに異なる申請書類を整えることは、資本と人員を持たない事業者には事実上不可能だ。ODMが代行しているのは製造能力ではなく、規制を通過する能力である。米国のドラッグストアやアマゾンのサンケア部門で韓国発の無名ブランドが上位に並ぶ現象の背後には、この代行機能がある。

日本の事業者にとっても、この視点は実務的に有用である。海外向けに化粧品を出そうとするとき、真に高い壁は処方開発ではなく、輸出先の規制適合と試験のリードタイムに現れる。そこを外部化できる相手を持っているかどうかが、事業計画の成否をかなりの部分決める。

5. 「多産多死」の分母を見る

日経の記事が紹介する通り、韓国では工場を持たないファブレス型の事業者が急増し、その大半を占める化粧品責任販売業者は2025年末時点で2万8,412社に達した。10年前と比べれば4.4倍である。

ここに一本、補助線を足したい。この数字は単調に増え続けてきたわけではない。責任販売業者は2023年に3万1,524社でピークを打ち、翌2024年にいったん減少し、2025年に再び増加へ転じている。同じ2025年末の製造業者数は4,158社で、前年から26社減った。つまり「多産多死」はブランド単位の現象であると同時に、事業者そのものの単位でも起きている。

この観察はODMの戦略にとって重要な含意を持つ。顧客が入れ替わり続ける市場では、個々の顧客を当てにするのではなく、打数を確保しながら、育つ顧客を早期に見分ける仕組みが競争力になる。実際、コスマックスでは上位20社に占めるインディブランドの比率が2023年の約50%から2025年には65%へ上がり、売上1,000億ウォンを超える大型インディ顧客は2024年の24社から2025年には42社へ増えている。多死の裾野が広いほど、そこから育つ少数の大型顧客の絶対数も増えるという構造だ。

これはキャラクタービジネスやシード投資の力学とほぼ同型である。展開方針、打率、打数の三変数のうち、ODMが直接操作できるのは打数と、初期段階の顧客を低コストで受け入れる仕組みの設計である。最小ロットを下げ、開発期間を縮め、規制対応を巻き取ることは、慈善ではなく打数を最大化するための投資として理解したほうが実態に近い。

6. 「死ぬ場所」が安いことの意味

多産多死のサイクルが回るためには、生む側のコストが低いだけでは足りない。死ぬ場所が安く用意されていることが同じくらい重要である。開発費を切り詰めて商品を作れても、それを棚に並べて消費者の反応を見る場所がなければ、検証は始まらない。

韓国のエコシステムが特異なのは、この川下側にも受け皿が整っている点だ。日経の記事が触れる通り、流通大手のCJオリーブヤングは韓国内に約1,400店舗を持ち、化粧品量販店としては最大規模である。新興ブランドにとってこの種のチェーンは、少数のSKUを短期間だけ置いて売れ行きを測れる検証装置として機能する。売れなければ棚から消えるが、消えること自体のコストが低い。

川上のODMが企画から量産までの期間と最小ロットを圧縮し、川下の量販チェーンが検証の期間と単位を圧縮する。両端が同時に圧縮されているために、一回の試行あたりのコストが下がり、試行回数が跳ね上がる。ヒット率そのものが劇的に上がっているわけではなく、分母が増えたことでヒットの絶対数が増えていると理解したほうが、この現象の説明としては素直だろう。

この観点から日本を見ると、川上のOEM/ODMは存在するが、無名ブランドが低コストで検証できる全国規模の棚は限られている。バラエティショップやドラッグストアは存在するものの、新興ブランドの試行を回すための導線として設計されているとは言いにくい。生む装置と殺す装置は対になって初めて機能する。片方だけを整えても、サイクルの回転数は上がらない。

7. 水平分業の推進者が、垂直統合で躓く

韓国コルマーは容器メーカーの延雨を傘下に収め、中身から容器・パッケージまでの一気通貫を構想した。理屈のうえでは自然な統合である。しかし数字は別の物語を語っている。

  • 延雨の連結売上は2024年の2,748億ウォンから2025年に2,500億ウォンへ減少し、営業利益9億ウォンから営業損失3億ウォンへ転じた

  • 韓国コルマーのパッケージング部門でも、2024年の売上2,754億ウォン・営業利益14億ウォンが、2025年には売上2,229億ウォン・営業損失30億ウォンとなった

  • 2026年第1四半期も同部門は売上532億ウォン・営業損失12億ウォンと、赤字が続いている

原因は需要不足ではなく、経済性の不一致にある。容器事業は金型と射出成形という固定費の重い産業であり、一定量以上の発注がなければ採算に乗らない。ところがインディブランドは発注単位が小さく、製品の入れ替わりが速く、容器の高級化よりも価格と変更の速さを求める。ODM本体にとっての追い風が、容器子会社にとっては体質転換の圧力として作用しているわけである。

ここに、水平分業モデルの射程が現れている。分業が有効なのは、工程ごとに最適なロットサイズが揃っている領域までであって、固定費構造が根本的に異なる工程を同じ屋根の下に入れると、片方の強みが片方の重荷になる。中身は多品種少量に最適化できても、容器は簡単にはそうならない。「TSMC流」という比喩の限界が、最も具体的な形で表れているのがこの部門である。

8. 関税が地図を書き換え、その主役はブランドではない

もう一つ、直近で構造を変えつつある要素が通商環境である。韓国コルマーは2025年7月、ペンシルベニア州スコットタウンシップに米国第2工場を稼働させた。延床面積1万7,805平方メートル、年間約1億2,000万個の生産能力、投資額は約6,000万ドル。2016年に買収した第1工場(色調中心、年間約1億6,300万個)と合わせると米国内で年間約3億個、カナダ法人を含めれば約4億7,000万個の体制になる。第2工場は基礎スキンケアとサンケアを主軸とし、韓国工場よりも自動化率が高い設計だという。

同社はこれを「関税の安全地帯」と位置づけている。韓国から米国へ輸出する限り、関税政策の変更は原価に直撃する。コストパフォーマンスを武器に北米で伸びてきたK-ビューティにとって、価格競争力の毀損は成長の前提を壊しかねない。現地生産であればこのリスクを回避でき、加えて「MADE IN USA」表示を戦略的に選ぶグローバル顧客の受け皿にもなる。韓国の化粧品企業が米国の工場を買収するのではなく、自ら建設した初の事例である点も、意思の強さを示している。

注目すべきは、この地理的再配置を主導しているのがブランドではなくODMだという点だ。インディブランドは自前で海外工場を建てられない。だが取引先のODMが現地に工場を持っていれば、ブランド側は生産地を選ぶだけで関税リスクを移し替えられる。通商リスクへの適応能力が、川上に外部化されているわけである。ブランドの競争力の一部が、実はODMの設備投資判断に依存している構造は、この産業を見るうえで押さえておきたい。

9. ガバナンス:創業家の紛争が終わった意味

2025年から2026年にかけて、コルマーグループは経営権をめぐる紛争を抱えていた。発端は、長男である尹相現副会長が、次女が率いる健康機能食品子会社の業績不振を理由に取締役会の改編を求めたことである。これに対し創業者が娘の側に立ち、2019年に長男へ贈与した持株会社株式の返還を求める訴訟を提起した。兄妹の対立が親子の法廷闘争へ発展した形である。

背景には、米系アクティビストファンドが持株会社の株式を5%台保有し、経営に関与していたという事情もある。株主構成は長男が3割強、次女夫妻が1割強、TOA(旧日本コルマー)が7.8%、当該ファンドが5%台と分散しており、少数株主の判断が帰趨を左右しうる構図だった。

決着は2026年に相次いだ。3月末に長男が健康機能食品子会社の代表を退き、4月に次女も代表職を辞任、5月には創業者が株式返還請求訴訟を取り下げた。公示対象企業集団の指定における同一人は長男とされ、支配構造は一本化された。紛争の終結と大企業集団入りがほぼ同時期に起きたことは偶然ではないだろう。開示義務の強化を伴う指定は、内輪の争いを続けたままでは負担が大きすぎる。

投資家の視点で言えば、ここで解消されたのは「オーナー家リスク」であり、次に問われるのは収益性である。外形の拡大は達成された。資本効率と、紛争の火種となった健康機能食品子会社の業績正常化が、次の評価軸になる。

10. 日本への含意 ―― 差は技術ではなく顧客設計にある

2025年の化粧品輸出額を国別に見ると、フランスが242億ドルで首位、韓国が114億ドルで米国の107億ドルを初めて上回り2位、中国が72億ドル、日本は38億ドルで8位である。

この差を技術力の差として説明するのは無理がある。日本には長い歴史を持つOEM/ODMの集積があり、旧日本コルマー(現TOA)は2024年3月期に売上635億8,000万円を計上している。処方技術や品質管理の水準が韓国に劣るという証拠はない。

分岐点は、誰を顧客として設計されたかにある。日本のOEM/ODMの多くは、大手ブランドの生産を担う後工程として最適化されてきた。大口の安定発注に応えるための品質保証体制と原価管理は精緻だが、その体制は「今月から化粧品を売りたい個人事業主」を顧客として想定していない。一方、韓国のODMは、無名の小規模事業者が自分のブランドを持てるようにするための装置として育った。開発期間の短縮も、小ロット対応も、規制対応の巻き取りも、すべてその顧客像から逆算されている。

結果として何が起きたか。韓国では化粧品を始めるコストが下がり、事業者の数そのものが増えた。事業者が増えれば試行の数が増え、試行が増えれば当たりの絶対数も増える。輸出額の差は、商品の差ではなく、参入コストの設計思想の差が数十年かけて累積したものと見るのが妥当だろう。

日本で同じ流れを作ろうとするなら、模倣すべきは特定のヒット商品でも工場の自動化率でもない。誰が、どの工程を、どこまで代行するのかという分業の線引きを引き直すことである。具体的には、小ロットの受け入れ、規制申請の代行、輸出先ごとの試験の内製化といった、地味で資本効率の悪い機能を誰が引き受けるかという問題になる。

11. これから見るべき指標

最後に、この会社と産業を継続的に観察するうえで有効と思われる指標を挙げておく。

  • 米国法人の稼働率と利益率:第2工場の減価償却を吸収できるかどうか。現地生産の優位は、稼働率が上がって初めて利益に変わる

  • 顧客ポートフォリオの構成:上位顧客に占めるインディブランドの比率と、大型顧客へ育った件数。打数と打率の両方が見える

  • パッケージング部門の損益:垂直統合の成否を判定する最も直接的な指標

  • 中国事業の位置づけ:現地法人の収益性は長く課題であり、北米重視への傾斜がどこまで進むか

  • 化粧品単体での対競合ポジション:連結ではなく国内法人単体の数字で比較すること

これらの指標に共通するのは、いずれも売上高の伸びからは読み取れないという点である。K-ビューティの好況が続く限り、受託側の売上は自動的に伸びる。問われるのは、その追い風が止まったときに何が残るかであり、それは稼働率、顧客構成、部門別損益といった内側の数字にしか現れない。

韓国が作ったのは、優れた化粧品というより、化粧品を作れる環境である。そしてその環境の中核には、ブランドの名前が表に出ることのない受託企業が座っている。日経の記事が「川上」と呼ぶ層を、もう一段掘り下げて眺めると、そこにあるのは工場ではなく、参入コストを引き下げるために設計された一連の代行機能だった。投資でも事業でも、見るべきはヒット商品の側ではなく、ヒットが生まれる確率を上げている側である。


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