子どもたちの未来を支える睡眠教育【ドクターズ・インサイト】
医療の最前線で活躍するドクターたちの素顔と、その信念に迫る『ドクターズ・インサイト』。今回は愛知県名古屋市にある『めいほう睡眠めまいクリニック』の院長、中山明峰先生にお話を伺いました。
睡眠・めまい医療のパイオニアとして、また『一般社団法人 寝る子は育つ協会』設立者として、患者さんと子どもたちの明るい未来を願う中山先生の熱い想いに迫ります。
Q. 大学病院を経て、なぜ睡眠とめまいの専門クリニックを開設されたのですか?
中山:日本の医療は専門分野ごとに細分化されているため、めまいや睡眠障害の患者さんが複数の科をたらい回しにされるケースが非常に多くあります。「めまいなら耳鼻科、眠れないなら精神科」といった縦割りの医療が、患者さんを苦しめている現状を、私はずっと課題に感じていました。
耳鼻科医として長く診療を続ける中で、めまいや睡眠障害には耳鼻科の知識だけでは対応しきれないと痛感したのです。患者さんが安心して頼れる専門施設がないならば、「自分で作るしかない」と決意しました。
そこで精神科や脳神経外科での研修も積み、領域の垣根を越えた包括的な医療を提供できる環境づくりを目指しました。その集大成として、2021年6月に『めいほう睡眠めまいクリニック』を開設したのです。

Q. 先生が掲げる「増やす医療」から「減らす医療」について教えてください
中山:「増やす医療」とは、患者さんが症状を訴えるたびに薬を一つずつ追加していく医療のことです。その結果、高齢の患者さんが数十種類もの薬を服用する異常な状態が生まれてしまっています。これは決して患者さん本位の医療とは言えません。
現在の日本の医療は、例えるなら「ファストフード店方式」のようになっています。画一的で効率は良いのですが、患者さんの状況や気持ちを置き去りにした流れ作業の医療になっているのです。
日本は医療先進国と言われますが、実際には薬を大量に処方し、ビジネスとして利益を得る仕組みが優先されていると感じます。そのために、患者さんの体や人生が犠牲になっているのではないでしょうか。
特に問題なのが、睡眠薬として広く処方されている精神安定剤です。
WHOはこれを「麻薬に近い依存性がある」と警告しており、アメリカでは精神安定剤による薬物依存が深刻な社会問題となっています。
しかし日本では、今なお気軽に処方され続けています。
その結果、薬物中毒のような状態となり、人生が破綻してしまった患者さんを私は何人も見てきました。
だからこそ私は、「減らす医療」への転換を強く提唱しています。
患者さんの話を丁寧に伺いながら、薬を整理し、本当に必要な治療だけを提供することで、患者さんの負担を軽くし、人生そのものを豊かにすることを目指しています。

Q. 患者さんと向き合う上で、心掛けていることを教えてください
中山:私は「オーダーメイドの医療」こそが、現代医療における唯一のホスピタリティだと考えています。同じ「めまい」や「眠れない」という症状でも、その原因や抱えている状況、背景は人それぞれ違います。
「この薬を出しておけばよい」という画一的な治療で、本当に患者さんを支えることはできません。だからこそ、患者さん一人ひとりの悩みや背景をじっくり伺いながら、一緒に最善の治療法を見つけていくことを心掛けています。
私のカルテには、病気の情報だけでなく、患者さんが話してくれた日常の小さな出来事まで書き留めています。たとえば、「来週家族旅行に行く」とおっしゃっていた患者さんには、次の診察で「旅行はいかがでしたか?」とお声掛けします。
その瞬間、患者さんの表情が明るくなり、自然と信頼関係が生まれます。
そんな「ちょっとした心遣い」が医療の場にあることで、患者さんが安心し、「ここに来てよかった」と感じていただける。
私は、そうした温かい信頼関係こそが、医療の本質であり、究極のホスピタリティだと思っています。

Q. CPAP治療など、治療を「辛い・我慢するもの」と感じる患者さんには、どのように向き合われていますか?
中山:私は、患者さんが治療を「辛い」「我慢するもの」と感じてしまう最大の原因は、医師側が「なぜその治療が必要なのか」をきちんと伝えていないからだと考えています。
残念ながら現在のCPAP治療は、全国的に『ファストフード店方式』になってしまっています。多くの施設が患者さんの生活背景や考え方を深く考えずに、ただ機械を渡してレンタル料を受け取るだけになっているのが現状です。
これでは、患者さんが治療を前向きに考えることは到底できません。
私が大切にしているのは、「押し付ける医療」ではなく、「患者さんが納得して選べる医療」です。
無呼吸症候群は、重症度によってはすぐに命に関わる病気ではなく、段階的に症状が深刻化する病気です。ですから、「今はまだ治療しなくても大丈夫ですよ。ただ、こういう兆候が見られたら真剣に検討しましょうね」と、患者さんにとってのセカンドチョイスや段階的な治療の必要性をきちんと説明します。
また私は外科医としての経験もあるため、手術やマウスピースといった他の治療法の選択肢も提示できます。患者さんそれぞれのライフスタイルや価値観を尊重し、「こういう方法もありますよ」と一緒に考えることで、治療への不安や負担感を軽減しています。
患者さんが「治療を自分で選択した」と実感できるようサポートすることが、私の目指す医療です。

Q. 「一般社団法人 寝る子は育つ協会」を設立された背景や、想いについて教えてください
中山:長年の診療や研究を通じて、「引きこもり」「不登校」「若者の離職」など、日本が抱える深刻な社会問題の背景には、睡眠リズムの乱れが深く関係していることを痛感してきました。
例えば、親の年金を頼りに50代になっても自立できない『8050問題』の根底にも、睡眠や発達障害の問題が隠れていることが多いんです。彼らは決して怠けているわけではありません。
ただ、周囲が睡眠や生活のリズムを含めて十分に理解しないまま「早く寝なさい」と画一的な指導を繰り返し、それがかえって孤立を深めてしまうケースが非常に多いのです。
私はかつて名古屋市と協力し、市民講座を通じて『睡眠コンシェルジュ』という資格を持つ人を育成し、学校や地域で睡眠教育を普及するプロジェクトを始めました。
しかし、この取り組みはコロナ禍で中断せざるを得ず、その時の「やり残した宿題」を今こそ果たしたいと思い、2025年6月『一般社団法人 寝る子は育つ協会』を立ち上げました。

Q. 「寝る子は育つ協会」の睡眠教育への取り組みを教えてください
中山:私たちの最終目標は、文部科学省を動かし、睡眠教育を学校教育に正式に取り入れてもらうことです。かつて日本の給食制度が子どもの栄養状態を劇的に改善し、国の未来を支えたように、睡眠教育もまた、子どもたちの心身の健康や生きる力を育む重要な鍵となります。
現在協会では、「大人が正しい睡眠知識を学べる」オンライン講座をスタートします。講座を修了し、「睡眠育成士」の資格を取得した方々が地域の学校や家庭で、子どもたちに睡眠教育を行っていくという『循環型の仕組み』を全国規模で広げていきたいと考えています。
睡眠教育の普及を通じて、子どもたちが自分の特性や生活リズムを理解し、自信を持って生きられる社会を実現するために、協会は全力で取り組んでまいります。
Q. 読者へメッセージをお願いします
中山:「眠れない」「めまいが治らない」と悩む患者さん、そしてお子さんの睡眠問題で苦しむ親御さんへお伝えしたいのは、「睡眠の『ABC』をもう一度、一緒に学び直しませんか」ということです。
私たちはこれまで、睡眠の"A"さえ知らずに暮らしてきました。
だからこそ、薬だけに頼るのではなく、睡眠の正しい知識を身につけて、子どもたちが明るく元気に育つ社会を作っていきたいのです。
この取り組みを進めるにあたり、私自身も私財を投じ、スタッフも最低限の報酬で、皆が知恵を出し合いながら活動しています。
正直、決して楽な道のりではありませんが、それでも私たちが諦めずに頑張れるのは、「子どもたちの未来のために」という共通の想いがあるからです。
現在、『寝る子は育つ協会』では睡眠教育を広めるためのクラウドファンディングを実施しています。この社会問題を解決するためには、皆様のご協力がどうしても必要です。
子どもたちが心身ともに健康で、希望を持って生きられる社会を、一緒につくっていただけませんか。
皆様の温かいご支援を、心よりお願い申し上げます。
▼クラウドファンディングの詳細はこちら



