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キオクシア 負けた側の技術で残った会社

日本に半導体メモリの会社が残っていること自体が、40年前の想定からはかなり外れた結果だと思っています。

そしてその会社が残った理由は、当時の本命だった技術を守り抜いたからではありません。むしろ逆で、本命ではなかったほうの技術に残ったからです。

本命はDRAMでした

1980年代、日本の半導体産業の中心はDRAMでした。世界シェアの過半を握り、日米の通商摩擦の主題にもなりました。1985年にはインテルがDRAMから撤退し、日本勢が市場を取り切ったように見えた時期があります。

その後の経過はよく知られている通りです。韓国勢と台湾勢の設備投資に押され、価格競争に耐えられなくなりました。日立とNECのDRAM事業が統合されてエルピーダメモリとなり、2012年に会社更生法の適用を申請しています。

DRAMという本命では、日本は残れませんでした。

一方で、東芝が1980年代に発表したフラッシュメモリは、当時それほど期待されていた技術ではありません。書き換え回数に制限があり、速度でもDRAMに及ばない。用途が限られると見られていました。

その限られた用途が、後にデジタルカメラ、携帯電話、スマートフォン、そしてデータセンターのストレージへ広がっていきます。

会社としての経過

この40年の流れを、粗く並べておきます。

・1980年代前半 東芝がフラッシュメモリを発表。当初は用途が限られると見られていた ・1980年代後半 日本勢がDRAMで世界シェアの過半を握る。日米の通商摩擦の主題になる ・1990年代以降 韓国勢と台湾勢の設備投資に押され、DRAMで価格競争が激化 ・2000年前後 フラッシュメモリの生産で四日市の合弁事業が始まる ・2012年 エルピーダメモリが会社更生法の適用を申請 ・2017年から2019年 東芝が半導体メモリ事業を分社し、外部資本のもとで独立。のちにキオクシアへ社名を変更 ・2024年 東京証券取引所に上場 ・2026年8月 北上工場の第3製造棟の建設に向け土地等の整備に着手。サンディスクと共同で2032年までに国内約5兆円の投資計画を公表

DRAMで負けた会社の一部が、分社と資本の入れ替えを経て、フラッシュメモリの専業として残った、という形です。

途中で二度、会社の形が変わっています。事業を統合したり、分社したり、資本を入れ替えたり。技術が残ったというより、技術を載せる器を作り替え続けた結果として残った、という見方のほうが実態に近いと思っています。

二つの選択

キオクシアの現在を説明するときに、私が重要だと思っている選択が二つあります。

一つは、外部と組んだことです

フラッシュメモリの開発と前工程の生産では、サンディスクとの協業が25年以上続いているとされています。四日市工場は合弁の形で運営され、2026年1月には合弁契約の期間を2034年12月まで延長したと発表されています。

半導体の設備投資は、単独の企業が単独の期で判断するには重すぎます。相手と折半することで、投資判断の閾値そのものを下げてきた、という読み方ができます。

もう一つは、拠点を絞ったことです

生産は四日市工場と北上工場に集中しています。8月27日に発表された第3製造棟も、既存の北上工場の敷地内に建てるとされています。

集中は効率を生みます。同じ場所に人と設備と技術を積み上げるほど、歩留まりが上がります。

ただ、集中は同時にリスクでもあります。地震のある国で二か所に集約するという構造は、強みと弱みが同じ場所にあるという意味です。今年7月の熊本の地震は九州でしたが、同じことが三重や岩手で起きない保証はありません。

いまの立ち位置

8月27日の発表では、サンディスクと共同で2032年までに国内で総額約5兆円を投資する計画が示されました。北上の第3製造棟は2029年度中の稼働開始を目指すとされ、報道では約1兆8000億円規模と伝えられています。両社の国内設備投資は、これまでの累計で約9兆円に達しているとのことです。

いずれも政府からの支援を前提としています。

この規模は、単独企業の判断としてはもう成立していないことを示しています。相手企業と分け合い、さらに国の支援を前提にして、ようやく次の一棟が決まる。それが現在の半導体投資の重さです。

同時に、足元では別の動きも出ています。調査会社によると、2026年第2四半期のNAND型フラッシュメモリの出荷シェアで、中国のYMTCがキオクシアをわずかに上回り3位に浮上したと伝えられています。YMTCは上海の市場での株式公開の準備を進めているとも報じられています。

中国にいると、この動きの速さは肌で分かります。国内需要と政策支援が同じ方向を向いたとき、シェアの移動は数年ではなく数四半期で起きます。かつて日本がDRAMで抜かれたときの速度と、あまり変わらない気がします。

この会社から読めること

三つあると思っています。

・本命の技術で勝った会社ではなく、外れたはずの技術に残った会社が生き延びました。どの部材が将来の主役になるかは、その時点では分かりません ・投資の重さが単独判断の閾値を超えたとき、生き残り方は自前ではなく組み合わせになります。合弁、長期契約、政府支援は、その組み合わせの形です ・集約は効率とリスクを同時に増やします。どちらを取るかではなく、どちらも増えることを前提に設計する必要があります

調達の側から見ると、三つめが一番効きます。供給元が効率を上げるほど、こちらの単一拠点依存が深まる、という構造だからです。相手の効率化は、こちらのリスクとして戻ってきます。

調達側から見た注意点

この会社を供給元として見るとき、実務上の論点は二つに絞られると思っています。

一つは、拠点の集約度です。四日市と北上に集約されているということは、どちらかが止まったときに代替が効きにくいということでもあります。自社が買っている品番が、どちらの工場で作られているかまで押さえている会社は、そう多くないはずです。

もう一つは、投資の条件です。政府支援を前提とする投資計画は、支援の枠組みが変われば計画も変わり得ます。稼働年度が後ろにずれる可能性を、こちらの供給計画に織り込んでおく必要があります。

供給元の投資計画を前提に自社の生産計画を組むのは、たいてい早すぎます。装置が入ったという情報が出るまでは、計画ではなく意思として扱うほうが安全だと思っています。

この記事で使った情報の確度

A級として扱ったもの。キオクシアの8月27日発表(北上工場第3製造棟の建設に向けた土地等の整備着手、2029年度中の稼働開始目標、サンディスクとの協業が25年以上、2032年までに国内約5兆円、これまでの国内累計投資約9兆円、政府支援が前提、2026年1月の四日市合弁契約延長)。エルピーダメモリが2012年に会社更生法の適用を申請したこと。

B級として扱ったもの。北上の新棟が約1兆8000億円規模であること。2026年第2四半期のNAND出荷シェアと順位。YMTCの株式公開準備。

1980年代の技術評価に関する記述は、当時の一般的な受け止めを要約したものです。

結びにかえて

半導体の歴史を振り返ると、勝った側が次も勝つという例は意外に少ないと感じます。

DRAMで世界を取った日本は残れず、外れたはずのフラッシュメモリで残りました。そのフラッシュメモリでも、いま順位が動き始めています。

だから、いま強い供給者を前提に調達の設計を固めるのは、たぶん危ういです。5年後に誰が主要な供給元になっているかは、その会社の技術力より、その国の投資判断の速さで決まる部分が大きいと思っています。

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