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恋する男、児島で困惑する

遠い昔の話をひとつ。

当時付き合っていた彼女と、

「たまには遠出しようか」

そんな話になった。

「岡山の倉敷でも行く?」

私がそう提案すると、彼女は少し考えてから言った。

「岡山行くなら、久しぶりに児島競艇行きたい」

「ほえ? 競艇行くん?」

当時の私は、ギャンブルというものにまったく縁がなかった。

パチンコ屋にすら入ったことがない。

そして今思えば、なかなか失礼な偏見なのだが、

女の子が自発的に競艇を好きになるなんてことがあるのだろうか。

そう思っていた。

しかも彼女は、

「久しぶりに」

と言った。

私は以前、彼女から元彼が競輪選手だったと聞いていた。

競輪選手。

競艇。

同じ公営競技。

あー、なるほど。

きっと元彼の影響だ。

知らんけど。

そう思った瞬間、かなりテンションが下がった。

別に今も連絡を取っているわけでもない。

目の前にいるのは私なのだから、何も気にする必要はない。

頭では分かっている。

でも、なんか嫌なんだなー。

とはいえ、彼女が行きたいと言っている。

結局、私たちは児島競艇場へ向かった。

初めて入った児島競艇場は、とにかく広かった。

そして、古かった。

当時すでに、どことなく昭和後期の遊園地みたいな雰囲気が漂っていた。

さらに真夏。

くっそ暑い。

そんな競艇場を、彼女は普通に歩いていく。

この日は短いスカートを履いていた。

途中、知らないおっさんに、

「たまらんなあ」

みたいなことを言われたらしい。

彼女はめちゃくちゃ怒っていた。

「ほんま腹立つ!」

「いやー、おっさんの気持ちは分かるよ」

おっさんの分まで怒られた。

舟券の買い方も分からない私は、彼女に教えてもらった。

「ここに書くんよ」

マークシートの記入方法から、舟券についての浅い知識まで。

私は言われるままに書いた。

彼女は慣れている。

やっぱり元彼と来たんかな。

そんなことが、また頭をよぎる。

めんどくさい男である。

ただ、実際にレースが始まると、これが思ったより面白かった。

目の前に広がる水面。

間近をものすごい勢いで走っていくボート。

音も、迫力も、映像で見るのとは全然違う。

暑い。

古い。

元彼の影がチラつく。

それでも、ちょっと楽しい。

彼女が競艇場に馴染んでいる姿を見ながら、私は言った。

「○○ちゃん、なんか競艇場似合うなー」

怒られた。

私としては、彼女の少し派手な見た目も含めて、妙にこの場所に馴染んでいると思っただけなのだが。

元彼の影が私の口を悪くしたんだ。

ひとしきり競艇場を楽しんだあと、帰りにサーティワンに寄った。

私はシェイクを頼んだ。

すると注文した瞬間、近くのテーブルにいた家族が、こちらを振り向いた。

私は彼女に言った。

「あのファミリー、わいがシェイク頼んだら、びっくりしてたで」

「そりゃ、普通はサーティワンならアイスでしょ」

「いや、絶対、次来たときはシェイク頼んでるはずよ」

「なんでよ」

「そんなお洒落なもんがあったんか、って」

「はい、はい」

若い頃。

好きな人の過去に、自分の知らない男の影が少し見えるだけで、私は勝手にザワザワしていた。

誰に教えてもらったのか。

誰と来たことがあるのか。

そんなことは、今ここにいる二人には何の関係もないのに。

それでも気になった。

今思えば、

ずいぶん忙しい男である。




・・・ということで。

親愛なる「s.a.k.a.i0115さん」さんから、またエッセイしりとり、回ってきました( ´Д`)y━・~~

前の人の記事タイトルの最後の一文字から始まるタイトルで、エッセイを書く企画らしいです。

↑エッセイしりとりについては、こちらのマイキーさんの記事をご確認下さい。

↑私にバトンを渡したs.a.k.a.i0115さんの記事はこちらです。

s.a.k.a.i0115さんの「うまくいかない男」の「こ」を受けて、

『恋する男、児島で困惑する』

を書いてみました。

ということで、次は「る」です。

……誰に渡せばええんや😇

さすがに「る」を渡すのは可哀想なので、今回はここでフィニッシュさせて下さい🙏

マイキーさん、ごめんなさい🙇


↑その後、s.a.k.a.i0115さんが、私の「る」を回収して下さいました。
みなさん、ぜひご覧になって下さい🙌

#エッセイしりとり

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佐藤さん|コンビニオーナー 祖父母の記憶、コンビニの日常、家族のこと。 地方で踏ん張る45歳が、 日々の出来事を少しずつ書き残しています。 応援いただけると嬉しいです。