父の戦記|第三話 南寧攻略作戦
父の戦記を読み進めていると、祖父たちが経験した「上陸」の話が出てきた。
昭和14年11月。
祖父たちは、南寧攻略作戦のため、海南島・三亜港から輸送船団に乗り込み、中国大陸へ向かった。
上陸地点は、鉄州湾。

だが、その海は想像を絶する荒れ模様だったという。
父の戦記には、祖父のこんな言葉が残されていた。
「上陸の時は台風みたいに海が荒れとった。上陸用舟艇ちゅうのは、船底が平らになっとって、そこへおれら兵隊が装備を着けてズラーッと並んでしゃがんどるんよ」
「波がごっついもんじゃけん、船がスーッと下がったか思たら、今度は2階の家ぐらいの高さまで持ち上がるんよ」
祖父は、
「こりゃ船が沈んでしまえへんかいなと思うた」
とも語っていたという。
祖父たちは、ぎっしり詰め込まれた舟艇の中で、何時間も揺られ続けた。
当然、皆船酔いした。
「皆、ゲーゲー吐くんじゃ。ぎっしり並んどるけん、前のやつの背中にゲーッと吐きかけるんよ」
「小便もそのままたれ流しじゃ。ほなけんど、頭の上からバサーッと波をかぶるけん、きれいに流れてしもうとるんよ」
戦争というと、映画やドラマでは勇ましい“敵前上陸”の場面が描かれる。
だが、祖父たちが最初に戦っていた相手は、敵軍よりも、荒れ狂う海と、自分たちの吐き気だった。
それでも、舟艇は進み続けた。
ようやく上陸した時、祖父たちは「敵前上陸」だと覚悟していた。
だが――
「敵はいっこもおらなんだわ」
祖父は淡々と話したのかもしれない。それは拍子抜けだったのか、安堵だったのか。
極限まで緊張し
恐怖し
吐き続け
命懸けで辿り着いた場所に、敵はいなかった。
私は、戦争とは「常に戦うこと」だと思っていた。
だが実際には、いつ敵が現れるか分からない恐怖と緊張の中を、ひたすら進み続けるものでもあったのだろう。
そして祖父たちは、そのまま濡れた軍服のまま進軍を始めた。
足に、マメを作りながら。
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