Photo by
satomigoro
わたしたちの一番星。
夏の夕方になると、
ふと思い出す景色がある。
父と歩いた、
たった一度か二度の散歩だ。
父は一番下の妹と手をつなぎ、
わたしは真ん中の妹と手をつないで歩いた。
一番下の妹は、
まだ、小さく
歩くたびに、
ピッピッ、と鳴るサンダルを履いていた。
静かな夕暮れに、その音だけが、
楽しそうに響いていた。
父は、ふと立ち止まり、
少し暗くなってきた空を見上げた。
「あの、一番光ってる星、見えるか。」
わたしたちは、
父の指さす先を見る。
「あれ、お父さんの星だからな。」
「えー、なんで?」
わたしと真ん中の妹は、
同じ顔をして笑った。
一番下の妹は、
何のことか分からないまま、
空を指さして、
「いちばんぼーち、みーちゅけたぁ〜。」
と歌い始めた。
それがおかしくて、
みんなで歌った。
「いちばんぼーし、みーつけたー。」
ピッピッ。
ピッピッ。
妹のサンダルが鳴る。
父は笑っていた。
そして、
空を見上げたまま、
ぽつりと言った。
「いつも見てるからな。」
あの時のわたしは、
笑っていたはずなのに、
なぜだか、
少しだけ胸が苦しかった。
理由なんて、わからない。
でも、
一番星がお父さんだと言われたことを、
どこかで受け入れたくなかった。
わらないけど、わたしだけは知っている。
そんな気持ちが、
ほんの少しだけあった気がする。
子どもだから、
言葉にはできなかった。
それでも、父の声と、
ピッピッ、と鳴るサンダルの音だけは、
今でも、夕暮れになると、
たまに、思い出す。
だけど、それと同時に
なんだ、その格好つけた感じは!
と、突っ込みたい。
本気だったのか、
照れ隠しだったのか。
今思えば、父らしいなぁ、と笑ってしまう。
あの頃には分からなかった父が、
今は少しずつ
分かる年齢になってきたということかな。
