「管理薬剤師になりたい」の正体は、不安だった
「管理薬剤師になりたい」んじゃなくて、本当は不安なだけだった話
店長が異動する、という噂を聞いた日
「今度、店長が異動するらしいよ」
休憩室でその話を聞いたのは、先週の水曜日でした。
シフト表を見ながら、パートさんが何気なく口にした一言です。
正直、最初は聞き流していました。
でも、その日の帰り道、ふと頭の中で同じ言葉がリピートしていることに気づいたんです。
「異動するらしいよ」
気づけば、信号待ちの間もずっとそのことを考えていました。
もし本当に異動するなら、次の管理薬剤師は誰になるんだろう。うちの店舗には、自分より年上の先輩もいます。
でも実務経験だけで言えば、自分もそろそろ条件は満たしています。
「もしかしたら、自分に声がかかるかもしれない」
そう思った瞬間、体の中で何かがざわついたのを覚えています。
それは、期待でした。
でも同時に、期待とは違う何かも、確かに混ざっていました。
うまく言葉にできない、もやっとした感覚です。
その日は、なんとなく夕食の味がしませんでした。
家に帰ってからも、スマホで「管理薬剤師 なる方法」と検索している自分がいました。
出てくるのは、転職サイトの記事ばかりです。
「必要な実務経験年数」
「求められるスキル」
「向いている人の特徴」
一通り読みました。
でも、読み終わっても、あのざわつきは消えませんでした。むしろ、少し増えたような気さえしました。
自分でも、なぜこんなに落ち着かないのか分かりませんでした。
管理薬剤師になりたいのか。
なりたくないのか。
そこすら、実はよく分かっていなかったんです。
もしあなたも今、似たようなざわつきを抱えているなら。
それは、あなただけではありません。
同じ場所に立っている薬剤師は、思っているより多いはずです。
「管理薬剤師になりたい」は、本当の願いじゃなかった
あの夜、検索を続けながら、ふと自分に聞いてみました。
「そもそも、自分は管理薬剤師になりたいのか?」
即答できませんでした。
なりたい、と言えばなりたい気がします。
でも、なぜなりたいのかと聞かれると、うまく答えが出てきません。
「給料が上がるから」
それもあります。
でも、それだけではない気がしました。
スマホを閉じて、SNSを開きました。
タイムラインには、同期の投稿が流れてきます。
「本日付で店舗管理者を拝命しました」
「新しいスタートです」
いいねが、何十件もついていました。
その投稿を見た瞬間、胸のあたりがきゅっと締めつけられました。
嫉妬、というほど強い感情ではありません。
でも、置いていかれているような感覚は、確かにありました。
その同級生は自分より特別優秀だったわけではありません。
むしろ、同じような研修を受けて、同じように新人時代を過ごしてきた仲間です。
その人が先に進んで、自分はまだここにいる。
その事実だけが、静かに重くのしかかってきました。
ここまで考えて、ようやく気づいたことがあります。
自分が本当に欲しかったのは、「管理薬剤師という肩書き」ではなかったのかもしれません。
欲しかったのは、「このままでいいんだ」という安心感だったんです。
このまま調剤を続けて、このまま歳を重ねていって。
それで本当にいいのか。
その問いに、自分の中で答えが出せていませんでした。
管理薬剤師になることは、その問いから目をそらすための、分かりやすい目標だったのかもしれません。
たとえるなら、進路に迷っている学生が、とりあえず偏差値の高い大学を目指すようなものです。
その大学で何を学びたいかより先に、「とりあえず難しい方を目指しておけば安心できる」という感覚。
それに近いものが、自分の中にもあった気がします。
もしあなたが今、「管理薬剤師になりたい」という気持ちの奥に。
うまく言葉にできない焦りや不安を感じているなら。
それは、あなたの気持ちが定まっていないからではありません。
多くの人が、同じ場所でつまずいています。
先輩に相談しても「そのうち分かるよ」しか返ってこない理由
答えの出ない問いを抱えたまま、次の日を迎えました。
このままモヤモヤしているのも良くないと思い、思い切って先輩に相談してみることにしました。
相手は、今の店舗で管理薬剤師をしている先輩です。
昼休み、休憩室に二人きりになったタイミングを見計らって、切り出しました。
「管理薬剤師って、実際どうやってなるものなんですか」
先輩は少し驚いた顔をして、それから笑いました。
「ああ、なるようになるよ」
「そのうち分かるから、大丈夫」
その言葉に、悪意はなかったと思います。
むしろ、優しさから出た言葉だったのかもしれません。
でも、欲しかった答えとは、少し違いました。
「そのうち分かる」ということは、今は分からなくていい、ということです。
でも自分は、今、分かりたかったんです。
先輩はそのあと、別のスタッフに呼ばれて席を立ちました。
結局、それ以上踏み込んで聞くことはできませんでした。
家に帰って、今度は本屋に寄ってみました。
管理者向けの本を、一冊買いました。
期待して読み始めましたが、内容のほとんどは制度の話でした。
薬機法上の義務。
在庫管理の考え方。
労務管理の基本。
たとえるなら、車の免許を取りたい人に、道路交通法の条文だけを渡すようなものです。
法律は大事です。
でも、知りたかったのは「実際にどう運転すればいいか」でした。
検索しても、本を読んでも、先輩に聞いても。
同じところで止まってしまう。
そのときふと、気づいたことがあります。
情報がないわけではないんです。
「なるための要件」や「仕事内容」は、探せばいくらでも出てきます。
でも、本当に知りたかったのは、そこではありませんでした。
誰が、どういう基準で選ばれているのか。
なった後、実際に何が起きるのか。
そして、自分のこのモヤモヤは、一体何なのか。
そのあたりの話は、誰も書いていませんでした。
たぶんそれは、実際にその立場を経験した人にしか、書けない話だからだと思います。
ここから先は、エリアマネージャーとして候補者を見てきた側の視点と、管理薬剤師になってから気づいた「聞いていなかった現実」を、実体験ベースでお伝えします。
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