踊るクマたちが、恋を連れてきた
踊るクマたちが、恋を連れてきた。
美咲は、しばらく恋愛から遠ざかっていた。
仕事は順調。
生活も悪くない。
友人と食事をしたり、旅行をしたり。
一人の時間も、それなりに楽しんでいた。
だから、
「恋人がいないと寂しい」
というわけではなかった。
ただ、ときどき思う。
「この先も、ずっとこんな感じなのかな。」
そんなある日、美咲は一枚の絵に出会った。
そこには、二頭のクマがいた。
一頭は、まるで音楽に合わせるように、楽しそうに踊っている。
そしてもう一頭は、その隣にちょこんと座って、
踊るクマを見ながら、楽しそうに笑っている。
その二頭を見ていると、なぜかこちらまで楽しくなってくる。
「なんだか、いいな。」
美咲は、その絵を家に迎えることにした。
リビングの、毎日目に入る場所に飾った。
朝、コーヒーを飲みながらクマを見る。
帰宅すると、二頭のクマが迎えてくれる。
踊っているクマと、
それを笑って見ているクマ。
二頭は、何も言わない。いや、何か言っているのかもしれない。
言っているようにも見える。
美咲にはなぜか、
「楽しい時間だぜ。」
そう言っているように見えた。
それから、美咲は少しずつ変わっていった。
仕事が終わったらまっすぐ家に帰る。
そんな毎日だったのに、
「今日は、ちょっと寄り道してみようかな。」
「久しぶりに、誰かとご飯を食べようかな。」
「今度の休日、何か新しいことをしてみようかな。」
そんなことを考えるようになった。
ある日、友人から連絡が来た。
「今度、知り合いの人も一緒に食事しない?」
以前の美咲なら、
「また今度ね。」
と断っていたかもしれない。
でも、その日は少し違った。
「うん。行ってみようかな。」
食事の日。
そこで出会った人とは、初対面だった。
それなのに、不思議なくらい話が弾んだ。
好きなもの。
旅行の話。
動物の話。
これからやってみたいこと。
笑っているうちに、時間はあっという間に過ぎていった。
別れ際、その人が言った。
「また、会いませんか?」
美咲は少し笑って、
「はい。」
と答えた。
その夜、家に帰ると、
いつもの場所に二頭のクマがいた。
踊っているクマ。
そして、それを見て笑っているクマ。
美咲は絵を見ながら、ふと思った。
「もしかして……あなたたちが、私を外に連れ出したの?」
もちろん、クマが動いたわけではない。
……たぶん。
それから二人は、何度か会うようになった。
一緒にご飯を食べたり、
旅行に行ったり、
くだらないことで笑ったり。
ある日、美咲はその人を家に招いた。
リビングに飾られた二頭のクマを見て、彼が笑った。
「この絵、いいね。」
「どこが?」
「こっちのクマ、すごく楽しそうに踊ってる。」
そして、もう一頭を見て、
「こっちは、それを見て笑ってる。」
美咲も笑った。
「私、この二頭を見てると、なんだか元気になるの。」
すると彼が言った。
「じゃあ、僕もこのクマたちに連れてこられたのかもしれないね。」
「どういうこと?」
「だって、僕がここにいるのも、この絵がきっかけだったんでしょ?」
二人で笑った。
二頭のクマは、今日もそこにいる。
一頭は、楽しそうに踊っている。
もう一頭は、その姿を見ながら笑っている。
どちらが正しいわけでもない。
踊る人がいてもいい。
それを見て笑う人がいてもいい。
そして、そんな二人が一緒にいるからこそ、
毎日が少し楽しくなることもある。
美咲は思う。
人生って、案外こんなものなのかもしれない。
自分がほんの少し動き出すと、
思いがけない誰かが、そこに現れる。
そして、その人と笑っているうちに、
いつの間にか人生が変わっている。
二頭のクマは、何もしていない。
ただ、踊って。
ただ、笑っている。
それなのに――
一枚の絵が、
一人の女性を家の外へ連れ出した。
そしてそこに、
思いがけない恋が待っていた。
絵を飾ったら、恋が始まりました。
そんな偶然があっても、
いいんじゃない?
もしかしたら絵には、
私たちには見えないところで、
人生を少し動かす力が
あるのかもしれない。
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