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短編小説|恋愛|サンキューチェック|1085文字

恋愛3級。でも、先輩の気持ちは特級だった。

あらすじ
憧れの苗原先輩との距離を縮めたくて、バグだらけのAI「ほめ之助」で「恋愛3級チェック」に挑む女子高生・星澤サキ。判定が出た瞬間、よりによって先輩本人に見られてしまう。穴があったら入りたいその時、先輩がスマホを差し出した——。


「よし、これで先輩との距離、爆速で詰めるよ!」

女子高生の星澤サキは、視聴覚室でタブレットを起動した。画面の中で怪しく光るのは、自己肯定感アップAI「恋愛・チェックほめ之助」だ。
しかし、連日の酷使がたたったのか、画面の端々にノイズが走っている。度重なるバグのせいもあってか、その人格はもはや限界を迎えていた。

「サキちゃん、ログイン動作を検知……。来てくれて、サンキュー……いや……いや、ご苦労さんやで!」

(途中で壊れないでよ……)

サキはこのアプリを使って、憧れの苗原先輩との「恋愛度」を判定しようとしていた。画面には『恋愛3級チェック』と禍々しく表示されている。

もちろん現実では、上手くいかない。同じ文芸部の活動中、苗原先輩に話しかけるのもたどたどしい状態だ。

「サキちゃん、相性診断の起動をチェック完了! 恋する乙女の熱気で、CPUがトロトロに溶けそうでっせ! おおきに!」

不調かと思いきや、少し息を吹き返したほめ之助の声に驚いた。
あわててスピーカーの音量調整をタップして音を小さくする。
サキは震える指を画面に置いた。

これは先輩に関する質問を解き、その結果を「級」で判定するシステムだ。ようやくこのステージまで辿りついた。3級をとれば、意中の人との恋愛成熟度が高いと保証書が発行される。

もちろん、それは何の保証にもならない。だが、サキにとってそれは、自分だけの大切な誰かを好きになった証である。

(よし。慎重に進むわよ!)

「第一問! 先輩がタイピング中に、ふと見せる伏せ目。その角度は?」

A:30度(初々しい)
B:45度(セクシー)
C:90度(寝てる)

「サキはん、愛は観察や! 迷わず選んでや、あんがとよ!」

ほめ之助の音声は、すでに場末のスナックのママのような濁声に変わっていた。

「じゃあ……B!」

「正解や! よう観察しとる! メルシー!」

言語回路が崩壊したAIに背中を押され、サキは最後の一問に挑む。

「第二問! 先輩のパソコンがフリーズした時、君がかけるべき言葉は?」

A:「再起動しましょうか?(実用的)」
B:「私があなたの人生を上書き保存してあげようか?(重い)」
C:「ごっつぁんです!(意味不明)」

「サキちゃん、応援してるで!わてがバックアップしたるで!違うか。 とりあえず、グラッツェ!」

(ほめ之助……あんたが壊れたらあんたの骨は拾ってやるよ)

「Bよ!」

サキが画面を強く押した瞬間、画面がピンク色に点滅した。ほめ之助 が狂ったように叫び出した。

「相性チェック完了! 判定は……『恋愛3級』や! 惜しい! あざーーーっす!!」

スピーカーから「スパシーバ!」「まいど!」「サンキューな!」と多言語の感謝が爆音で溢れ出す。
その時、最悪のタイミングで後ろから声がした。

「……星澤さん?」

振り返ると、そこには苦笑いをした苗原先輩が立っていた。サキのタブレットには「恋愛3級:おめでとう!」という巨大な文字が踊っている。

「先輩! これは、その、AIと一緒にパソコンの資格をとる為の勉強で……!」

あわてふためくサキの横で、ほめ之助が最後の一言を絞り出した。

「先輩、ウチのサキを……返品不可でよろしゅう。ダンケシェーン!」

(ほめ之助……あんたいい奴だったよ)

タブレットはプスリと音を立てて暗転した。重い沈黙が流れる。サキは顔から火が出るほど真っ赤になり、ここから逃げ出したくなった。

「……ごめんなさい、変なAIで……」

消え入るような声で謝るサキに、苗原先輩は自分のスマホを取り出した。

「いや。実は俺も、そのアプリ……入れてるんだよね」

先輩が画面を見せると、そこにはサキと同じ「ほめ之助」のアイコンが。
そして画面には『特級チェック☆合格:星澤サキ様へのお気持ちは純度100と認定されました!!』という文字が表示されていた。

「俺のほめ之助もさ、うるさくて……」

「えっ……?」

サキは状況が上手く飲み込めないでいた。

すると、手元のタブレットが奇跡的に再起動し、画面いっぱいに特大の文字が躍った。

『恋のチェック、完了! お付き合い開始! お幸せに!あんがとよー!!』

ほめ之助 の無茶苦茶な感謝の言葉が、この日、一番の「サンキュー」に変わった瞬間だった。

(了)