短編小説|恋愛|サンキューチェック|1085文字
恋愛3級。でも、先輩の気持ちは特級だった。
あらすじ
憧れの苗原先輩との距離を縮めたくて、バグだらけのAI「ほめ之助」で「恋愛3級チェック」に挑む女子高生・星澤サキ。判定が出た瞬間、よりによって先輩本人に見られてしまう。穴があったら入りたいその時、先輩がスマホを差し出した——。
◇
「よし、これで先輩との距離、爆速で詰めるよ!」
女子高生の星澤サキは、視聴覚室でタブレットを起動した。画面の中で怪しく光るのは、自己肯定感アップAI「恋愛・チェックほめ之助」だ。
しかし、連日の酷使がたたったのか、画面の端々にノイズが走っている。度重なるバグのせいもあってか、その人格はもはや限界を迎えていた。
「サキちゃん、ログイン動作を検知……。来てくれて、サンキュー……いや……いや、ご苦労さんやで!」
(途中で壊れないでよ……)
サキはこのアプリを使って、憧れの苗原先輩との「恋愛度」を判定しようとしていた。画面には『恋愛3級チェック』と禍々しく表示されている。
もちろん現実では、上手くいかない。同じ文芸部の活動中、苗原先輩に話しかけるのもたどたどしい状態だ。
「サキちゃん、相性診断の起動をチェック完了! 恋する乙女の熱気で、CPUがトロトロに溶けそうでっせ! おおきに!」
不調かと思いきや、少し息を吹き返したほめ之助の声に驚いた。
あわててスピーカーの音量調整をタップして音を小さくする。
サキは震える指を画面に置いた。
これは先輩に関する質問を解き、その結果を「級」で判定するシステムだ。ようやくこのステージまで辿りついた。3級をとれば、意中の人との恋愛成熟度が高いと保証書が発行される。
もちろん、それは何の保証にもならない。だが、サキにとってそれは、自分だけの大切な誰かを好きになった証である。
(よし。慎重に進むわよ!)
「第一問! 先輩がタイピング中に、ふと見せる伏せ目。その角度は?」
A:30度(初々しい)
B:45度(セクシー)
C:90度(寝てる)
「サキはん、愛は観察や! 迷わず選んでや、あんがとよ!」
ほめ之助の音声は、すでに場末のスナックのママのような濁声に変わっていた。
「じゃあ……B!」
「正解や! よう観察しとる! メルシー!」
言語回路が崩壊したAIに背中を押され、サキは最後の一問に挑む。
「第二問! 先輩のパソコンがフリーズした時、君がかけるべき言葉は?」
A:「再起動しましょうか?(実用的)」
B:「私があなたの人生を上書き保存してあげようか?(重い)」
C:「ごっつぁんです!(意味不明)」
「サキちゃん、応援してるで!わてがバックアップしたるで!違うか。 とりあえず、グラッツェ!」
(ほめ之助……あんたが壊れたらあんたの骨は拾ってやるよ)
「Bよ!」
サキが画面を強く押した瞬間、画面がピンク色に点滅した。ほめ之助 が狂ったように叫び出した。
「相性チェック完了! 判定は……『恋愛3級』や! 惜しい! あざーーーっす!!」
スピーカーから「スパシーバ!」「まいど!」「サンキューな!」と多言語の感謝が爆音で溢れ出す。
その時、最悪のタイミングで後ろから声がした。
「……星澤さん?」
振り返ると、そこには苦笑いをした苗原先輩が立っていた。サキのタブレットには「恋愛3級:おめでとう!」という巨大な文字が踊っている。
「先輩! これは、その、AIと一緒にパソコンの資格をとる為の勉強で……!」
あわてふためくサキの横で、ほめ之助が最後の一言を絞り出した。
「先輩、ウチのサキを……返品不可でよろしゅう。ダンケシェーン!」
(ほめ之助……あんたいい奴だったよ)
タブレットはプスリと音を立てて暗転した。重い沈黙が流れる。サキは顔から火が出るほど真っ赤になり、ここから逃げ出したくなった。
「……ごめんなさい、変なAIで……」
消え入るような声で謝るサキに、苗原先輩は自分のスマホを取り出した。
「いや。実は俺も、そのアプリ……入れてるんだよね」
先輩が画面を見せると、そこにはサキと同じ「ほめ之助」のアイコンが。
そして画面には『特級チェック☆合格:星澤サキ様へのお気持ちは純度100と認定されました!!』という文字が表示されていた。
「俺のほめ之助もさ、うるさくて……」
「えっ……?」
サキは状況が上手く飲み込めないでいた。
すると、手元のタブレットが奇跡的に再起動し、画面いっぱいに特大の文字が躍った。
『恋のチェック、完了! お付き合い開始! お幸せに!あんがとよー!!』
ほめ之助 の無茶苦茶な感謝の言葉が、この日、一番の「サンキュー」に変わった瞬間だった。
(了)
