【超短編ホラー小説】ジョイントマット
金本の家には、何度も遊びに来ている。おかげで、この男の意味不明な家ルールにも慣れてきた。
「お、遂に! 今日はそこにしたんだ」
キッチンで飲み物を用意していた金本が、俺が座るところを見て声をかけてきた。
「意外とここに座ってなかったよな」
金本のやたら広い平屋には、パズルのようにつなげて使える、所謂ジョイントマットが敷かれている。子供部屋に敷かれているようなマットだ。この家の特殊なルールは、このマットに関係している。
金本はなぜか、家に訪問するたび、違うマットの上に座るように促すのだ。例えば、一回目に訪れたとき座ったのは、あのソファ右前、端のマットだ。それ以来、あのマットの上に座ろうとすると、そこに座らないでよと、金本は悲し気な顔をする。二回目に座ったマットも、三回目に座ったマットも、もう座らせてもらえない。とにかく、今まで座ったことのないマットに座るように言うのだ。
全く理解はできないが、家主の言うことだからと、四回目以降は自分で今まで座ったことのないマットを探すようになった。今日は、部屋の中央のマットに座ってみた。
「なんで、同じマットに座っちゃいけないんだ?」
純粋な疑問を金本にぶつけてみる。今更ながら、気になった。
「なんでだと思う?」
金本は、妙に機嫌の良さそうな声で聞き返してきた。キッチンでばたばたと何かを取り出す音が聞こえる。
「うーん、マットの潰れ具合が均一になるようにしたいとか?」
「うわ、なるほどな。それいいわ。今度から使わせてもらお」
「なんだそれ」
なぜか、教える気はないようだ。「あいてっ」という声と同時に、金本が頭を打った音が聞こえた。どうやら、キッチンの収納に頭をぶつけたらしい。飲み物を用意しているだけではないのだろうか。
「マジでなんでなんだよ」
誤魔化されたからか、俄然知りたくなってきた。キッチンから飲み物を持って出てきた金本が、困ったように首を傾げた。
「知りたい?」
「うん。知りたい」
「じゃあ、隣のマットめくってみていいよ」
俺の前に、麦茶を置きながら金本が微笑んだ。俺は、言われるがままに隣のマットをめくる。すると、ちょうどマットと同じサイズくらいの床下収納が出てきた。金本の顔をちらりと見ると、開けていいよ、という。なぜだか緊張して喉が渇いたので、麦茶を一気に飲んでから、収納の戸を開く。
すると、突っ張り棒のようなものが、戸の前に張ってあった。
その棒には、紐が括り付けてあって、なにかがぶら下がっている。きつい匂いがして咳き込んだが、ここで断念するわけにはいかぬ、と意を決して覗き込んだ。
紐でつられていたのは、人間だった。
反射的に、身を引くと、頭がくらっとしてそのまま後ろに倒れこむ。
「コレクションしてるんだ。いいでしょ。長く過ごすことになるから、場所くらい自分で選ばせてあげることにしてるの」
相変わらず機嫌の良さそうな金本が、俺の顔を見下ろしている。
「もう、佐倉が、なかなか空いてるところ選んでくれないから、どうしようかと思ってたんだよ」
俺は、生との別れを悟り、遠のく意識の中で、最後の力を振り絞ってかすれた声を出した。
「端っこに座ればよかった」
角部屋がよかった。
