「毒と薬は紙一重」。『薬屋のひとりごと』から学ぶ、漢方の奥深い世界
毒見役の少女が教えてくれること
「これ、毒です」
淡々と言い放ち、嬉々として毒を味見する少女、猫猫(マオマオ)。
小説からアニメ化までされ、大ヒットしている『薬屋のひとりごと』。架空の古代中国の宮廷を舞台に、薬師の少女が薬学の知識を使って難事件を解決していくミステリーですが、私たち薬の専門家から見ても、この作品は唸るほど面白いのです。
なぜなら、物語の根底に流れているのが「毒と薬は表裏一体である」という、薬学および漢方の最も重要な真理だからです。マオマオが目を輝かせて語る生薬の知識は、現代の私たちの薬局の棚にもそのまま繋がっています。
「これ、知ってる!」が詰まった物語
作中には、私たちが普段扱っている生薬がたくさん登場します。
例えば、マオマオが媚薬(?)の材料としてカカオを使ったり、風邪のひきはじめに生姜(ショウキョウ)や蜜柑の皮(チンピ)を使ったり。
これらは現代の漢方薬でも、体を温める「葛根湯」や、胃腸を整える「六君子湯」などに当たり前に配合されているものです。
マオマオのすごいところは、「頭が痛いからこの薬」と決めつけるのではなく、相手の顔色、食事の内容、生活習慣をじっくり観察し、「なぜ体調を崩したのか」を推理するところ。
これこそ、漢方における「弁証(べんしょう)」(体質を見極めて治療法を決めること)そのものです。彼女は名探偵であると同時に、極めて優秀な漢方医の視点を持っているのです。
猛毒「トリカブト」も、加工すれば…
そして、この作品のテーマである「毒」。
作中では人を殺す道具としても登場しますが、実は漢方の世界では、最強の「温め薬」として存在しています。
サスペンスドラマでお馴染みの猛毒植物**「トリカブト」。
この根っこにはアコニチンという致死性の毒が含まれていますが、適切な加工(減毒処理)を施すと、「附子(ぶし)」という名の生薬に生まれ変わります。
附子は、冷えきって代謝が落ちた体を芯から温める力が非常に強く、「八味地黄丸(はちみじおうがん)」や「麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)」などの重要な構成生薬です。
まさに「使いすぎれば毒、適量なら名薬」。
マオマオが自分の体で毒への耐性を作っていたように(あれは真似してはいけませんが!)、毒性を理解し、コントロールして利用するのが漢方の真髄なのです。
知識という名の「解毒剤」を持とう
『薬屋のひとりごと』を見ると、道端の草花や、キッチンのスパイスを見る目が変わります。
「これは胃薬になるかも」「これは温める作用があるな」
現代の私たちは、完成された錠剤や粉薬を飲むことに慣れすぎています。でも、その一包の中には、自然界の草木が持つ「生きる力」と、それを薬に変えてきた先人たちの「知恵」が詰まっているのです。
次に漢方薬を飲むときは、成分表をちらっと見てみてください。
そこには、マオマオが愛した、ちょっぴり危険で奥深い植物たちの名前が並んでいるはずです。
毒にも薬にもなるそれらを、正しく「薬」として使いこなすために、薬剤師がいることを思い出していただければ嬉しいです。
