見出し画像

白い線の中で

自由帳のまっさらな白い空間は、俺にとって恐怖だった。

罪を犯した。

刑務所は不自由で、窮屈で、規則ばかりで耐えられないと思っていた。

それがいつしか、日常になった。

些細なことが嬉しく感じられ、小さな出来事が大切に思えた。

俺は規則正しい生活ができるようになり、自信がついてきた。

俺は“ダメ”じゃない。

やれば、人並に“できる”んだと。

固くなった表情が、少しずつ和らいだ。

看守の目が穏やかに感じられた。

もっと、できる俺になりたいと思った。

優遇区分が第1類になり、面会の回数が増えた。

俺に会いに来る人はいなかったけれど、誇らしかった。

そしてー

思ったよりも早く、外に出られる日がきた。

涙がこみ上げるほど、嬉しかった。

俺は変われる。

これからは、まっとうに生きよう。

そう思えた。

なのにー

塀の外は眩しかった。

熱い日差し。生温い風。

そこは広くて、誰も見ていなかった。

1人の部屋には何の制限もなくて、起きる時間も、食べる時間も、風呂に行く時間も、トイレに行く時間も自由だった。

夜更かしを怒られることもなければ、朝起きなくても誰にも文句を言われない。

怖かった。

タバコを吸い、テレビの前から動かず、汚部屋の中で腐っていく数日後の俺が見えた。

白い紙を広げて、線を引いた。

起床時刻、朝食、仕事に充てる時間、運動、夕食、余暇時間、入浴、就寝。

自由を表す白い紙の上に、規制という自由から最も離れた世界を築いた。

これでいい。

自由は解放だけじゃない。

自堕落でどうしようもない怠惰な俺を呼び起こす、危険な空白。

寝る時間だ。

明日は規則正しく、人並に“できる”俺で目を覚ます。

俺を戒める“塀”の中で。


お読みいただいて、ありがとうございました。本作はシロクマ文芸部さんの企画に参加しております。




いいなと思ったら応援しよう!