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詩『深淵』

深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ。

フリードリヒ・ニーチェ『善悪の彼岸』
(詩と著書は関係ありません)

山の奥 人の訪れも稀な淵に
ゆらゆら浮かんで消える泡は
見通せない底に棲む
何物かの気泡だろうか

森の奥 鬱蒼とした木々の影が
ざわざわ乱れ こすれる音は
闇の奥深くに棲む
何物かの息遣いだろうか

合わせ鏡 無限に連なる像から
投げかけられる冷たい視線は
倒錯した世界に棲む物の
怒りのせいだろうか

漆黒の夜 闇で燃え盛る炎から
響く破裂音が突き刺さるのは
業火の中に棲む物の
憎しみのせいだろうか

他人の瞳 そこに映るあなたは
あなた自身の知る姿だろうか
瞳の奥からにじむ悪意に
染められてないだろうか

あなたは今 一人で佇み
深淵を覗き込んでいるけれど
深淵もまた あなたを引きずり込む
機会を窺っているということ

お忘れなきよう

グスタフ・クリムト『沼』