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14年連れ添った石窯ドームとお別れの日

入籍前に買った石窯ドームは我が家で一番古い家電だ。
『結婚します』と両家に挨拶したときに、お互いの家からもらったお祝い金。その一部を使いたいと主人に強請って、ドキドキしながら電気屋さんに行ったのを覚えている。

もともと、製菓が趣味だったわたしはそれまで小型の回転皿タイプの……懐かしいあのタイプを使っていた。
重い回転皿はグラグラ揺れながら歪な回転をするし、天井が低い。そのため、クッキーは焼けたとしても、シフォンケーキなどは非常に厳しい戦いを強いられた。

それが劇的に改善するのでは!という期待と共に買ったのが石窯ドーム。
パンも高温で焼ける!ピザも!なんて夫にプロモーションした。白状するが、最初の8年はあまり焼かなかった。
手ごねでパンを焼くなどと言う重労働をやれるはずがなかった。すまん。

でも、お菓子環境はとてつもなく向上。
シフォンが理想的な焼き上がりになった日を忘れない。嬉しくて嬉しくて、狂ったように焼いた時期だってある。

レンジ機能にはやや不満があったものの、パンとお菓子の製造機としては文句のつけようがないほど活躍してくれた。
後半の5年間はパン作りも高頻度で行うようになったので、週に3,4回はがっつりオーブンを使用。

そんな過酷な労働環境にも、耐えてくれたキッチン最古のパートナー。癖だって理解しきっているし、スチーム機能が死に、エラーを吐く日が増えたとて、宥めすかして連れ添ってきた。

だけど、ある日ふっと気がついた。
コンセント部分に茶色い液体が付着していることに。これは埃が油と混ざって……というのではなくて、明確な劣化のほうだった。

賃貸マンションでボヤなど出そうものなら、一大事。
背に腹は代えられないと、それを確認した瞬間に新しいオーブン候補を探す。

ここまで、相棒のように語っておいてなんだけど……次に選んだのはビストロ(小声)。

――ビストロを購入しに行くとき、石窯ドームを買いに行った日ほどの高揚感は正直なかった。頭の片隅で赤い石窯ドームがちらつく。
オーブンとして使用できないわけじゃなかったので、天寿を全うした感がないというのか。まだいけたかもしれないのに(実際はだめだと思う。エラーの吐き方てきにも)、とつい思ってしまう。

こんなに大きな買い物をするわりにはテンションが上がりきっていないなあという空気のなか、事務的に手続きを済ます。

そんなこんなではあったものの、ビストロが我が家に到着する日を迎えた。
愛しの石窯ドームとお別れの日でもある。搬入と同時に引き取ってもらうプランだったので。

朝から夫婦でキッチンの清掃を行い、石窯ドームが床におろされた。
その瞬間に役目を終え、命の光を失ったようにみえる。猛烈に寂しい。
夫の目を盗んで思わずそっと撫でる。

新しいオーブンを迎えるための新居(オーブン設置予定の場所)を整える。
その間も床にいるオーブンがじっとこちらを眺めているような……そんな気配を背後に感じた。

心の中でごめんごめんと詫び続けていたけれど、夫がお世話になったねえと言ったのにハッとする。
思わず声のトーンが上がりつつ、『そうだねえ』と相槌を打つ。

そして、何度も言ったごめんの言葉をありがとねに上書き。

14年間も一緒にキッチンで戦ってくれてありがとう。

心なしか、赤いオーブンがいっそう赤くなったような。
案外、照屋さんだったのかもしれない。


石窯ドームで最後に焼いたのは食パンでした

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