本の紹介㉒網野善彦(2026)『古文書返却の旅 戦後史学史の一齣 改版』中央公論新社

本書は著名な歴史家である筆者が勤めていた研究所の借用した文書の調査と返却を研究所の実質的な解散後に後始末として行った顛末を回想した一冊である。
本書は日本史学の一種の失敗の記録という側面もあり、状況の描写や説明も多く見られる。
しかし、決して退屈ではない。
それはなぜかといえば、本書には古文書に関わる土地の人々の思い、筆者の過去・執筆時の自分の行いへの率直な感情、古文書返却のために訪れた土地の変化とそれに伴うそこに生きる人々の変化など、生きた人間の姿が描きだされ、心揺さぶられると同時に、古文書の調査・返却を通じた発見や認識の深まりによって筆者の歴史観が180度変化する様子を目の当たりにする知的興奮を味わうことが出来るためである。
私は歴史学の素人であるがそんな素人でも夢中になって読み進んでしまった本書をぜひ皆さんにも味わって頂きたい。