夫の結婚指輪を、メルカリで売ろうと思った。
消しゴムやハサミが入っている引き出しを整理していたら、夫の結婚指輪が出てきた。
パテックの腕時計は、トレーの上に置いてある。
結婚指輪は、文房具入れに入ってる。
ほほう、おもしろいじゃないの。
指輪を手の中に隠して、二階に上がった。
寝室のドアをぴったりと閉めて、
スマホに「プラチナ 今いくら」と入れる。
よし、美容皮膚科、一回分ぐらいにはなりそう。
いや、待てよ。
これ、ティファニーだ。
メルカリの方が高く売れるかも。
どうせなら、二個セットの方がいいでしょう。
ドレッサーの引き出しを開けて、もう一つの指輪を探した。
夫の指輪と私の指輪。
重ねてみると、私の方がずいぶん小さい。
こんなに大きな手の人だったかなと思う。
ああ確か、指輪の裏に名前を入れた。
これがあると、価値が下がりそう。
裏返して刻印を探す。
よく見ると、私のは新品みたいにピカピカで、夫のは、白っぽかった。傷だらけで、輝きもない。
夫が結婚指輪をいつ外したのかは知らない。
でも、この指輪をして、仕事に行っていた時期があったんだろう。
ネクタイを締めて、上着を羽織る姿は悪くなかった。車が見えなくなるまで手を振って、「今日は何時に帰って来るんだろう」と思った日もある。
でもいつからか、帰りのLINEがなくなって、生きて帰ってくればそれでいいと思うようになった。
結局、夫の指輪は引き出しに戻して、
私の指輪は、ドレッサーにしまった。
文句を言うことは何もない。
生活だけは、悲しいくらいちゃんと回っている。
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