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可愛いくしゃみを習埗しようずした女子高生が、人前で錻にこよりを突っ蟌んでいた│短線小説

おっさんず劖粟さんずお嬢様



昌䞋がりの校舎裏、杉原矎䜑ず匊朚未歩の颚玀副委員長コンビが䞊んでのんびり歩いおいた。
四時間目が終わっおすぐ飛び出しおきたくせに、二人の足取りはどう芋おも哚戒のそれではなかった。

「ねえ未歩ちゃん、これっお䞀応パトロヌルっお名目だよね」

矎䜑が空を芋䞊げながら、どこか遠い目をしお蚀う。
六月の空は薄く霞んでいお、校舎の癜い壁に光がやわらかく反射しおいた。

「そうだよ孊園の颚玀を守るために歩いおるんだよ」

匊朚が胞を匵る。
腕章はちゃんず぀けおいるのに、なぜかポケットに手を突っ蟌んでいた。

「じゃあなんで私達が䞀番のんびりしおんの」

「それは  䜓力を枩存しおるの。いざずいう時のために」

「いざずいう時、ね」

矎䜑はそれ以䞊远及しなかった。
远及しおも䜕も出おこないこずを、長い付き合いで孊んでいた。
それに、正盎なずころ自分だっおのんびりしたかった。

校舎の陰を抜け、䞭庭に面した枡り廊䞋に差し掛かった頃——突然、匊朚が立ち止たった。

「  来る」

「え」

「矎䜑ちゃん、来る。でかいのが来る」

「䜕が」

倩を仰ぎ、顔をくしゃくしゃに歪めながら匊朚が矎䜑の袖を掎む。
䞡目が涙でうっすら最んでいた。

「地球の裏偎たで届くや぀  矎䜑ちゃん、距離取っお  」

「ちょっず、こっち匕っ匵らないで——」

「ぶぇあっくしゅいチキショヌ」

炞裂した。
廊䞋の窓ガラスが埮かに揺れたような気さえした。
枡り廊䞋の向こうで鳩が二矜、驚いお飛び立っおいった。

数秒の沈黙のあず、矎䜑が目を现めおぜ぀りず蚀う。

「  あんたっおさ、くしゃみがおっさんくさいよね」

「えっどこが"ぶぇ"のずこかなあ"ふぇ"の方がいいくしゃみっお䜕が間違いずかあるの」

「どこがっお  党郚」

「党郚っおどういうこず具䜓的に教えお」

矎䜑はしばらく考えおから、冷静に分析を始めた。
腕を組み、指を䞀本ず぀立おながら。

「たず"ぶぇ"の濁音。それから"くしゅい"の末尟の跳ね方。あず最埌の"チキショヌ"。あの残響が䞀番いか぀い。誰に察しお怒っおんの」

「くしゃみっお䜓内の悪霊を远い出す儀匏なんだよ党力で嚁嚇しないず負けちゃうの」

「そんな文化、䞖界のどこにもないよ」

「じゃあ"ぷぇ"にしたらいい"ぷぇあっくしゅい"なら劖粟さんっぜくない」

「音量が同じなら劖粟は無理」

「じゃあ音量を䞋げたら  」

「未歩ちゃん、くしゃみっお意図的に倉えられないから」

匊朚は唇をずがらせながら、自分のくしゃみの構造に぀いお深く考え蟌んだ。
考えれば考えるほど答えが出なそうな顔をしおいた。
眉をひそめ、芖線を宙に挂わせ、䜕かを口の䞭でぶ぀ぶ぀蚀っおいる。

そんなくしゃみ談矩の最䞭、矎䜑の芖線がふず䞭庭の芝生に向いた。

「  あ、サバチヌ」

芝生の䞊、倧の字に寝そべる人圱。
制服のたた仰向けになり、腕を広げ、完党に無防備な栌奜で目を閉じおいる。
颚に揺れる草の音だけが静かに響いおいた。
孊ランの前がはだけお、䜓育の授業垰りみたいにだらしない。

「ほんずだ〜気持ちよさそう」

「サボっおんのかな  いや、今は昌䌑みか」

その錻先に、䞀匹の蝶がふわりず舞い降りおきた。
癜ず黄のアゲハ。
矜を緩やかに開閉しながら、サバチヌの顔の真䞊でほんの䞀瞬だけ迷っお——ちょんず止たった。

二人は息を飲んだ。

匊朚が矎䜑の袖をそっず぀たむ。
矎䜑は黙っおうなずいた。

錻先に蝶が止たったサバチヌの衚情が、ゆっくりず倉化しおいく。
眉間に皺が寄り、目がぎゅっず぀ぶれ、口元がゆるんで——

「ぞ  ぞ  くちゅんっ  あ〜  」

静寂。

蝶は驚く様子もなく、ふわりずたた宙に浮いた。

「えっ」

矎䜑ず匊朚の声が、完党に重なった。

匊朚が先に動いた。
芝生の瞁たで駆け寄り、䞡手を頬に圓おお叫ぶ。

「わああああサバチヌすごいすごい今のくしゃみ劖粟さんすぎるよどうなっおんの教えお私にもそのくしゃみ教えお」

「  なんであい぀があんな女の子くしゃみなの」

矎䜑の声は䜎かった。
䜎く、か぀玍埗がいかない響きを垯びおいた。

「キャラ違うでしょ、絶察。倉態王っお呌ばれおる人間のくしゃみじゃないよ、あれ」

起き䞊がったサバチヌは、二人の芖線に気づいおぶっきらがうに蚀った。
草の葉が䞀枚、肩に぀いおいた。

「うるせぇな。コンプレックスなんだよ」

「コンプレックス」

「仮にも倉態王ず呌ばれる男がくしゃみしお呚りに"ふふっ"お埮笑たれおみろ。ナメられおんだよこっちは。くしゃみひず぀で嚁圧感出しおナンボだろうが」

「  その悩み、私には䞀生分からないず思う」

「なんでなんでなんでなんで矚たしいよ教えお教えおよぉ〜」

「矚たしがるずこじゃないず思う、そこは」

矎䜑が額を抌さえる暪で、匊朚はポケットからティッシュを取り出しおいた。
䞀枚取り出し、慣れた手぀きで现く䞞め始める。

「教えおくれないなら自力習埗したす」

「は」

「可愛いくしゃみ、習埗する今ここで」

「やめなさい」

「我が家に代々䌝わる——」

「こよりを代々䌝えおるお家なんお断絶だよ」

制止も虚しく、匊朚は噚甚にこよりを䜜り䞊げ、おもむろに錻ぞず差し蟌んだ。
矎䜑が頭を抱える。
サバチヌが「おっ」ず声を䞊げお身を乗り出す。

「ふぇ  ふぇ  」

「やめなよほんずに。仮に可愛いくしゃみが出せおも、人前でこよりで錻くすぐる子は可愛くないよ」

「ふぇ  ふぇぇ  ぶぇあっくしんっだあああああ」

盛倧に倱敗した。
匊朚は䞡手で錻を抌さえながら、涙目で矎䜑を芋䞊げる。
制服の袖がくしゃくしゃになっおいた。

「    あれぇ〜〜〜"ふぇ"たでは䞊手くいったのになんで最埌ぶぇになるのおかしいよねおかしくない」

「おかしいのは未歩ちゃんの  もういいや」

そこぞサバチヌが立ち䞊がり、地面を叩いた。

「うおおおおおおおおそのくしゃみかっけええええええええええなんだあれ"くしんっ"の埌に爆発するや぀絶察぀よい」

「絶察぀よいじゃないよ」

「匊朚そのくしゃみどうやっお出すんだ 教えお教えおくれ俺にそのくしゃみ腹筋か 䞹田かチャクラなのかあああああ」

「魂で鳎らすの」

「魂」

「くしゃみっお喉で出すんじゃなくお魂で鳎らすもんなのだから"チキショヌ"が出るの」

「なるほどなぁぁ」

「なるほど、じゃないんだけど  」

矎䜑は枡り廊䞋の手すりに肘を぀いお、遠くを芋た。
六月の䞭庭は静かで、芝生の緑が午埌の光を受けおやわらかく光っおいる。
颚玀委員ずしお校舎裏に立っおいるのに、目の前では副委員長がこよりで錻を刺激し、倉態王が「魂のくしゃみ」を習埗しようずしおいる。

「今この校舎裏が過去最高に颚玀乱れおんだけど」

誰も聞いおいなかった。

匊朚ずサバチヌが互いのくしゃみの技術に぀いお熱く語り合う声が、䞭庭に響く。
颚に揺れる芝生、どこかで鳎く鳥の声。
のどかな昌䞋がりだった。

そしおそのずき——矎䜑の錻が、ムズムズした。

「  っ」

たずい、ず思った。
二人の隒がしさに巻き蟌たれたのか、さっき匊朚のくしゃみをたずもに济びたのか、あるいは芝生から飛んできた䜕かのせいなのか、理由はわからない。
わからないが、確実に来おいた。

気づかれないように、そっず顔を暪に向ける。

「ぞ  」

「矎䜑ちゃん」

気づかれた。

「  くしゅっ」

静寂。

今床は匊朚ずサバチヌの声が重なった。

「えっ」「えっ」

矎䜑は錻を抌さえたたた、目を现めた。

「  蚀わないで」

「お䞊品  」「激レアじゃないか  」

「蚀わないでっお蚀っおんだけど」

「矎䜑ちゃんそのくしゃみどうやったの"くしゅっ"っお錻に収めおる党郚錻に収めおるの」

「収めおない。自然にそうなるだけ」

「うそだあ」

「ほんずだよ」

「くしゃみっお  個性なんだな  」

サバチヌが遠い目をしお、芝生の䞊に再び腰を䞋ろした。颚がひず぀吹いお、草をさわさわず揺らした。

䞭庭に、今日䞉床目の沈黙が萜ちた。
そしおそれを砎ったのは匊朚だった。

「これが  くしゃみトリニティ  」

「䞀緒にしないで」

蝶はずっくにどこかぞ飛び去っおいた。




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