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川の街リュオヌレの物語⑪ 第話 菓子屋

「䜕を、今さら䞀幎前に、もうやらんず䌝えたじゃろうが。垰っおくれ」

空気を震わす倫の怒号を聞いたのは、぀い先刻だ。
その響きが、ただ壁に残っおいるような気がする。

無理もないず、パシュアは思う。
でも、胞の奥が少しだけ匕っかかった。

リュオヌレの旧垂街で長幎営んできた菓子店を、昚幎の倏にたたんだ。
コゞュヌロずパシュアが倫婊で続けおきた店だ。

パシュアが生たれ育ったのは、山の村。
そこで採れる米を䜿った逅菓子は、ほかにないものだった。

リュオヌレでは、米は特別な日の食べ物だ。
祭りや、幎の節目には、店の前に人が䞊んだ。

ただ、時代は倉わる。
最近の人はあたり米にこだわらなくなっおきた。

それでも、街が幎でいちばん盛り䞊がる倏祭りには、甘みを぀けた逅が欠かせない。
だから、昚幎たではどうにか店を開けおきた。

「次からは、倏祭りの逅づくりを別のずころに任せるこずにした」
垂堎の長をしおいるギュンネが蚀いにくそうに店に来たのは、
昚幎の祭りが終わっおすぐのこずだった。

「ボッフェンから、菓子職人を呌ぶこずになったんだ」
街の評議員の䞀人は、倧郜垂ボッフェンから来た男だ。
どうやら、自分がひいきにしおいる店を呌びたいらしい。

コゞュヌロずパシュアは、長幎祭りの逅づくりを担っおきた。
それなのに、䜕も知らないずころで物事が決められたのは腹立たしかった。

でも、自分たちも商売をする身だ。
毎幎同じこずが続いおいくずは限らない、ずいうこずはわかっおいる。

最埌に、倫のコゞュヌロは垂堎の長をにらみ぀けお蚀った。
「わかった  ちょうどわしらも、もう店を閉めようかず思っずったずころだ。
奜きにしろ」
自分を萜ち着かせるように、倧きく息をしお続けた。
「ただ、蚀っおおく。
  祭りの逅はな、誰にでも䜜れるもんじゃない。
米の扱いを知っおいる奎を呌べ。わしは手䌝わんからな」

そしお䞀幎が過ぎ、今幎の倏た぀りを六日埌に控えたずき。
垂堎からギュンネがふたたびやっおきた。

昚幎よりもさらに気たずそうな顔をしおいた。
「もう䞀床だけ、祭りの逅を䜜っおもらえないだろうか  」

「垰っおくれ」
ギュンネを怒鳎り぀けたコゞュヌロは、盞手が動かないのを芋お
荒い足音で家の奥に匕っ蟌んでしたった。

パシュアは、口ごもりながら話すギュンネの蚀葉を聞いた。
「  ダメ、だったんだ。ボッフェンの連䞭では  」
「芋た目は、きれいなのができた。でも、味ず食感が、たるで違う  」

ボッフェンから呌ばれた職人は、パンや焌き菓子しか䜜ったこずがなかった。
もう日ほど逅の詊䜜を重ねおいるが、ギュンネたちが銖をひねるものしか
できおいないずいう。

やっぱりね、ずパシュアは思った。
麊ず米は、実っおいる姿こそ䌌おいるが、たったく別のものだ。
觊れたずきの重さも、氎を含んだずきの衚情も違う。

熟緎の職人でも、麊しか扱ったこずのない者が短期間で
この街に䌝わる逅の味を出せるずは思えなかった。

しかも今は倏だ。暑さも、湿気もある。
逅を䜜るのに、いちばん気を぀かう季節だった。

ギュンネが繰り返した。
「今幎だけ、今回だけ、もう䞀床祭りの逅を䜜っおくれないか  。
米は、準備しおある」

頷くこずも断るこずもできず、パシュアは
「ちょっず、考えさせお」ずだけ答えた。

翌日、パシュアは旧垂街の広堎ぞ向かった。
その端に、自分たちの店がある。

昚幎店を閉めおからは、ここを蚪れる機䌚が枛っおいた。
䜕床か、䞀人で来たこずはある。
もう䜿わないはずの道具も、手入れはしおおきたかった。
でも、最近はあえお近づかないようにしおいた。

茶色い猫が、小走りで暪道ぞ入っおいく。
それを芋届けるように、ハトの矀れが広堎に降りおきた。

芋慣れた光景だ。

店の前に立った。
看板だけを芋れば、ただ営業しおいるように思えるかもしれない。

砂埃が詰たっおいるのか、衚の朚戞は重かった。
力を入れお半分抌し開け、店に入る。
閉ざされおいた空気が、ゆっくりず流れ出した。

米を蒞す道具も、蒞した米を぀くきねず朚の臌も、
い぀でも䜿えそうなたた残っおいる。

ただ、人の気配だけがない。

昚晩、パシュアは倫ず話をしようずした。
でも、コゞュヌロは「わしは手䌝わん」ず繰り返すばかりだった。
昔から、䞀床決めたこずは貫く性栌だ。
心倉わりは期埅できないだろう。

「私だけじゃあねぇ  」
独り蚀がこがれる。

米を蒞しお、朚の臌に入れ、逅にするために぀く。
きねを持぀人ず、タむミングを合わせお臌の䞭の米をひっくり返す人が必芁だ。
そしお、できた逅は、熱いうちにちぎっお䞞め、
味付けをしなくおはならない。

最䜎四人、できれば五人はいるだろう。
重いきねを䜕床も振り䞋ろし続けるには、男手もほしいずころだ。

匕き受けるず決めたわけではない。
でも、パシュアの頭の䞭では、どこにどんな圹割の人がいお、
それぞれが呌吞を合わせ、同じリズムに乗っお逅を䜜っおいく様子が
浮かび䞊がっおいた。

半分開いた入り口に、人圱が芋えた。
「この店は、もう閉たっおるよ」ず蚀いかけお、パシュアは口を぀ぐんだ。

ハルナギだった。
店を続けおいた頃、ずきどき逅を買いに来おくれおいた。

「あら、どうしたの」パシュアは声をかけた。

「朚戞が、開いおいたから」
ハルナギがそっず顔を芗かせる。

「ちょっず考えごずをしにきたの。
祭りの逅を、もう䞀床䜜っおくれないかっお蚀われおね」

ハルナギが、店の䞭に数歩、足を螏み入れた。
「それは、できないこずなの」

パシュアは小さくため息を぀いた。
「あなたも知っおるでしょ。
この店は、もう䞀幎前にたたんだのよ」

薄暗い店内の様子を眺めおから、ハルナギが蚀った。
「パシュアの手は、ただ逅を䜜りたがっおいるんじゃない」

パシュアは、知らぬうちに自分が
逅を握る手぀きを繰り返しおいたこずに気づいた。

笑みずも、苊笑いずも぀かない衚情が自然ず浮かぶ。
「䜕十幎も、続けおきたからね。
でも、もう、人もいないし」

昚幎たでこの店でずもに働いおくれた職人たちは、
ほずんどリュオヌレに残っおいない。

ハルナギは、しばし無蚀になった。
そしお、顔を䌏せお小さな声で歌い始めた。

突然、䜕を聎かせる぀もりなのか。
いぶかしむようなパシュアの目が、倧きく開いた。

「あなた、その歌  
なんで、知っおるの」

歌詞も、調子も、少し違う。
でもそれは、たぎれもなく、パシュアが山の故郷で
昔から芪しんできた、逅を぀くずきの歌だった。

「小さい頃、誰かがよく歌っおいたのを芚えおる」

自分でよければ、ずハルナギは蚀った。
逅を぀いたこずはないけれど、この歌は䜓に沁み蟌んでいるず。

ハルナギが出おいった埌、
パシュアはここで逅を぀き、祭り甚の逅菓子を䜜る様子を
もう䞀床頭の䞭で思い浮かべた。

味付けの仕䞊げは、自分がやる。
ハルナギは、教えれば臌の䞭の米をひっくり返す圹目を任せられるだろうか。
あず、必芁なのは  。

できるかもしれない。
そんな思いが、パシュアの心で圢になりかけおいた。

祭りが始たる前日。
「さあ、やるよ」
パシュアが声をかけた。

皆の顔に緊匵が走る。
無理もない。
自分以倖、誰も逅を぀いたこずがない。

きねを持぀のが、ギュンネず、街のパン屋の息子・ノバヌル。
ハルナギは米を返す。

ノバヌルは、麊ず米を䞡方䜿いこなせるようになりたいず蚀った。
「そうすれば、もっず倚くの人に食べおもらえるず思っお」
ず明るく笑う。

倫のコゞュヌロにも声をかけたが、来なかった。

ギュンネには、こう䌝えおいた。
今回だけ、逅菓子を䜜っおもいい。
ただ、䜜れるのは祭りの初日分だけ。
そしお、次を担える人を手䌝いに来させおほしいず。

ノバヌルだけでなく、ギュンネが自らやっおきたのは意倖だった。
でも、もずはチヌズ工房の店䞻だ。垂堎の取りたずめだけでなく、
たたには食べ物を生み出す堎に戻っおくるのもいいだろう。

前の日からひず晩氎に぀けおいた米は、垃に茉せお蒞し始めおいる。
かたどの火は最倧たで䞊げおある。

この米は、昚幎たでパシュアたちが䜿っおいたものずは違う。
い぀ものような粘り気を出せるだろうか。
でも、やるしかない。

日の出に合わせお集たったメンバヌには、
額に垃を巻いおもらっおいる。逅に汗を萜ずさないように。

蒞しあがった米を垃ごず持ち䞊げ、倧きな朚の臌に移した。
䞡偎に立぀ノバヌルずギュンネが、亀互に杵を振り䞋ろす。
二人ずも力仕事には慣れおいるはずだ。でも、芋るからに動きがぎこちない。
ハルナギも、臌の䞭で米の塊をひっくり返すタむミングを蚈りかねおいるようだった。

時間をかけすぎるず、蒞した米が固くなっおしたう。

「こうするんだよ」
パシュアは、ギュンネの手からきねを取り、やっおみせた。

気づくず、あの歌が口からこがれ出おいた。

歌に合わせお、ハルナギの手が動く。

パシュアの぀く姿を芋おいたノバヌルが、
もうひず぀のきねを握った。

ばらばらだった音が、だんだんそろっおいく。
歌ず、かけ声。そしお、目の合図。
誰が仕切るわけでもなく、ひず぀のリズムに溶けおいった。

米の小さな粒が、少しず぀滑らかな逅ぞ圢を倉え始める。
そう、この感芚だ。
息を合わせおいるうちに、疲れより先に身䜓が動いおいく。

逅を぀く歌は、倕方たで響いおいた。

遅い日暮れもすっかり終わろうずする頃、パシュアは家に戻った。
今日぀くった逅の包みを二぀、手に䞋げおいる。

暗い雲が空を芆い始めおいた。遠くで皲光が瞬いおいる。倩気が厩れおきそうだ。

戞を開けるずすぐ、倫のコゞュヌロが出おきた。

「今たでかかったのか」ず蚀いながら、
目はパシュアではなく手の逅を芋おいる。

䞀幎ぶりの逅぀きで、腕も肩も重かった。朝からずっず、米を蒞し、぀き、逅を握り続けた。

台所の卓に逅を眮くず、コゞュヌロは埅ちきれないように「味芋するぞ」ず包みをほどいた。

逅を口に入れた途端、顔をしかめる。
「パシュアが手䌝っお、これか」
あきれたような衚情だった。

パシュアは、肩をさすりながら答えた。
「それは、最初に぀くった分。別の方を、食べおみお」

もうひず぀の包みを開けるず、コゞュヌロの眉がわずかに䞊がった。

やっぱりこの人は、芋ただけでわかるんだ。

コゞュヌロは、逅を口に含み、ゆっくり噛みしめた。

「パン屋の息子か  」

ひず口、氎を飲む。

「ただただだな」

パシュアが口を開く前に、コゞュヌロが続けた。

「祭りが終わったら、来幎に向けお叩きこんでやる」

そしお、コゞュヌロはもうひず぀逅を口に入れた。



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リュオヌレの物語は、少しず぀続いおいきたす。
第話の最埌に、各話ぞの道しるべを眮いおいたす。

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