芋出し画像

川の街リュオヌレの物語⑚ 第話 䞃色の虫䞘の子どもたち

森の小道に笑い声が響く。
けれど、リツホはその茪に入るのをためらっおいた。

「祠たで競争だっ」
息を切らせお道を䞊がる子どもたちの䞀番埌ろで、少し距離を眮いお
朚の根元や倒朚に目をやりながら走っおいた。
 
あっ、あそこに  
このあたりの地圢は知り尜くしおいる。
埌で、採りにこよう。少し立ち止たり、堎所を頭の䞭に刻み぀けた。
そしお、ずっず前に行っおしたったほかの子たちの埌を远った。

最近、この道にむノシシが出たずいう。
だから今日はゞャンゎを連れおきた。
ちょっず頑固だけど、頌れる犬だ。

ただ朝なのに、耳を芆うようにセミが鳎いおいる。
 
分かれ道の脇にある祠の前で、匟のディアッキたちは
汗だくでリツホのこずを埅っおいた。
蚊が寄っおこないよう手足を振っおいる。

ゞャンゎも、舌を出しお息を荒くしおいた。
 
「がくが、トップだったんだよ」
いちばん幎䞋のマッカがリツホの手を぀かんで埗意げに蚀った。
葉物の野菜を぀くる家の子だ。
 
䞘に暮らす蟲家の子どもたちは、毎日のように䞀緒にいる。
家の手䌝いの合間に来おいるのか、こっそり抜け出しお来たのか。
そんなこずは誰も聞かない。
 
あたしも、少し前たではこんなふうに走っおたっけ。
ずいぶんず昔のこずのように感じる。
 
䞡芪ず䞀緒に家の果物づくりをしおいた兄が、䞉か月前にリュオヌレの街を出た。
前から、「ほかにやりたいこずがあるんだ」ず
よく䞡芪ず蚀い合っおいた。
 
蟲家が嫌なら、ならなければいい。
でも兄は、本圓に「やりたいこず」があるのだろうか。
リツホはずきどきそう思う。
 
兄がいなくなり、リツホが果物づくりに加わるようになった。
 
昔から果暹園を歩くのが奜きだったから、たったく嫌ではない。
たわりの子どもたちず遊べなくなる寂しさよりも、
䞡芪ず同じこずをする誇らしさの方が倧きかった。
 
でも、仕事はやはり、遊ぶのずは違う。
 
リツホの家では数皮類のみかんの朚を育おおいる。
冬に色ず圢のいいみかんが採れるよう、いたは指先ほどの小さな実を
遞んでもぎ取ったり、枝を切り萜ずしたりしおいる。

どんなに日差しがき぀くおも、ハチやアブが飛び回っおいおも、
この時期にやらなくおはいけないこずだ。
 
うちのお金のこずが少しわかるようになったのも、最近のこずだ。

みかん蟲家は、収穫のある冬にしかお金が入っおこない。
 
昚幎、秋の嵐でみかんがあたりできなかった。
だからだろう、母さんが難しそうな顔で垳簿を開いおいる姿をよく目にする。
 
森を歩くずき、リツホは぀い呚囲を芋回しお
垂堎に持っおいけそうなキノコを探しおしたう。
それが、最近身に぀いた癖だった。
 
「リツホ、よろしくな」
兄が家を出る前の倜、二人でいるずきにかけおきた蚀葉が思い浮かぶ。
少しだけ、寂しそうな声だった。
 
「もう䞀回䞊たで競争しよっ」
「もうやだ」
セミの鳎き声よりも倧きな声が亀差した。
 
匟たちはも぀れ合うように䞘の道をふたたび䞊り始めた。

祠のくがみに乱雑に眮かれた花を揃えお、リツホも䞘の道を進む。

突然、隣にいたゞャンゎが動きを止めた。
耳を立お、䜓を緊匵させお道の右偎を芋぀めおいる。

ガササッず藪の䞭で音がした。
束の間、淡く光る䜕かが芋えたように思う。
でも次の瞬間には、䜕の気配もなくなっおいた。

ゞャンゎは、藪に飛び蟌むこずもなく
たた道を歩き始めた。
 
「ねえ、カマキリがいた」
「長い、鳥の矜根」
 
子どもたちが入れ替わり、手に䜕かを持っお知らせにくる。
 
みかんの朚を匱らせるカミキリムシを突き出されたずきだけは、
顔がこわばっおしたったかもしれない。

道の先で、フクロりの声がした。
いや、ディアックの鳎きたねだろう。
ネズミかリスを驚かせようずしたのか。
 
ふず、甘酞っぱい銙りが挂っおきた。
父さんがたたに飲むお酒のような匂いだ。

こんな暹液を出す朚には、虫が集たっおくる。
芋るず、倧きなハチが䜕匹かずたっおいた。
リツホはあわおお先に進んだ。

やかたしいほどに響き合っおいた子どもたちの声が静かになった。
ずたんにセミの鳎き声が耳を芆う。
 
誰かが道を䞋っおきたようだ。

  あの人だ。
子どもたちの向こうに、その姿が芋える。
 
この先に䜏んでいる。
昔、茶畑の䜜業堎だったずいうずころだ。
子どもたちは、お茶小屋ず呌んでいる。
 
この䞘は、以前は茶畑が広がっおいたず
䜕床も聞かされおきた。
リツホの家も、以前はお茶を䜜っおいたそうだ。
 
「こんにちは、ハルナギさん」
匟が挚拶しおいる。
 
暑いこの時期でも、袖の長い服を着おいる。
蟲家ではなく、街の人ずも雰囲気が違う。

どうやっお接すればいいかよくわからず、
近くで䌚うずリツホは少し緊匵しおしたう。
 
でも、幎少の子どもたちには関係ないようだ。
ハルナギも、しゃがんで目線を合わせ
差し出される鳥の矜根や小さな花を眺めおいた。

そしお、譊戒心が匷いゞャンゎも、なぜかあの人には吠えかかったこずがない。
 
意倖ず柔らかい顔぀きをする人なんだな。
リツホは思った。
 
ハルナギがこちらに気づいお立ち䞊がった。
リツホが声をかけようずしたずき  
 
「あれ芋お光っおる」
匟のディアッキが、ひずきわ倧きな叫び声を䞊げた。
 
指さす方を芋るず、䞀匹の虫が
朚の幹から飛び立぀ずころだった。
 
広げた矜が、日の光を受けお茝いおいる。
芋たこずもない色だった。
 
ディアッキは、その虫の方に走り出しおいた。
倧きな声を出しお手を突き出すが、届かない。
 
虫は、ハルナギのすぐ脇を通り、道に沿っお飛んでいる。
ハルナギは眺めるだけで、手を出そうずはしなかった。
 
「姉ちゃん、そっち」
ディアッキがふたたび叫んだ。
 
リツホの方に飛んできおいる。
動きはあたり速くない。
 
䜕かを察したゞャンゎが続けお吠えた。
「静かに」
それを制しお、リツホは玠早く
虫が飛ぶ道筋の前方に向かった。
 
今だ
思い切り䞊に䌞ばした右手の手のひらが、
固いものに觊れる。
 
手を握り、でも匷く握り過ぎないように、䜓の前ぞ降ろした。
 
巊手を添え、しっかり䞡手で芆っおから小さな隙間を䜜る。
 
入っおいる。
手の䞭で動くのがくすぐったい。
 
「぀かたえた」
倧声が出た。

子どもっぜかったかなず、思わずハルナギの方を芋る。ちょっず、恥ずかしい。
 
「どこ」「芋せお」
子どもたちが䞀気に駆け寄っおきた。
 
リツホの手のひらにいるのは、䜕ずも蚀えない色をした虫だった。
倧きさは、リツホの芪指ぐらいだ。
 
「芋぀けたのはオレなんだけどなぁ」
ディアッキが悔しそうに蚀う。

魚も虫も、捕たえた人のものになる。皆、それを知っおいる。

リツホは虫を指で぀たみ、たじたじず芋぀めた。

緑がかった背䞭は茝き、赀い瞊筋が入っおいる。
そしお、光が圓たる郚分は玫にも金色にも芋えた。

子どもたちが順番に虫を手のひらに乗せおいく。みんな、目を䞞くしおいた。

虫が矜を広げお飛びそうになり、リツホは慌おお自分の手を䞊にかざした。

「䞃色虫、っお呌がうよ」
虫の背䞭に目を寄せおいたマッカが蚀った。
ほんず、そんな名前がぎったりだ。

ゞャンゎは道の端に寝そべっおあくびをしおいる。

自分のもずに戻っおきた虫を改めお眺め、リツホはハルナギのずころに行った。

「これ、知っおたすか」

「昔、䞀床だけ芋たこずがある」
ずハルナギ。

「うちで飌えないかな」
ディアッキが蚀った。

たるで宝石のような虫だ。垂堎に持っおいけば、売れるかもしれない  
ほんの少しだけ、リツホはそう思った。

でも  

この虫は、森にいおほしい。
滅倚に芋られない虫ならば、なおさら、この䞘の森に。

「䞃色虫は、䜕を食べるのかわからないしね。
さよならしよっか」

リツホは子どもたちに向かっお蚀った。

ディアッキは、ちょっず残念そうな衚情を浮かべた。
「あい぀らに芋せたかったけど  。たあ、いいや」

リツホは手のひらを高く䞊げた。

少しの間じっずしおいた䞃色虫は、指先の方ぞず歩き、そこでもう䞀床止たった。
そしお、矜を広げおゆっくりず飛んでいった。

日の光を受けお茝く虫を、皆眺めおいた。
誰も、しばらく声を出さなかった。

やがお、その姿が芋えなくなり  
セミの倧合唱が、耳に戻っおきた。


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リュオヌレの物語は、少しず぀続いおいきたす。
第話の最埌に、各話ぞの道しるべを眮いおいたす。

川の街リュオヌレの物語 第話 橋守湖䞊珊歩