忙しいからこそAIを使えた──逆説的な気づき
「時間がない」「忙しすぎる」。これが口癖だった私が、今では「忙しくてよかった」と思っています。なぜなら、その多忙さが、AIを食わず嫌いしていた私を、気づいたらAIなしでは仕事を組み立てられなくなっていた私を生み出してくれたからです。忙しさが、実は私の味方だったのです。
1. 忙しい人ほどAIを使い始める逆説
一般的に、新しいツールを導入するには学習コストがかかるため、時間的な余裕がある人から試していくものだと思われがちです。しかし、AIに関しては逆の現象が起きているように感じます。
暇な人・余裕がある人: 「今のやり方で十分間に合っている」「新しいことを覚えるのは面倒」と考え、現状維持を選択しがちです。変化をリスクと捉え、様子見に徹します。
忙しい人: 「このままでは仕事が終わらない」「何かを効率化しないと物理的に回らない」という切迫感を抱えています。もしかしたら自分が悩んでいることを解決するヒントが出てきたら嬉しいな、ぐらいの気持ちで色々とAIツールを試す気持ちをもっています。
結果として、日々の業務に追われる多忙な人ほど、未来の働き方にいち早く適応していくという、一見すると逆説的な状況が生まれているように思います。
2. 社内でAI導入時にありがちな「壁」
先日、私のチームでAIコーディング支援ツールの導入を検討した際にも、この現象が現れました。
新しいツールの話が出ると、決まってこんな声が上がります。
「今使っているツールで十分じゃないか」
「両方入れたら混乱しそうだし…」
特に根拠があるわけではない、一種の「未来予知」です。変化を恐れる気持ちが、漠然とした不安を煽ります。しかし、面白いことに、こうしたブレーキをかけるのは、比較的業務に余裕があるメンバーなのです。
一方で、複数のタスクを抱え、常に時間に追われているメンバーたちの反応は全く違いました。
「今すぐ助けてくれるなら何でも試したい!」「いつ使えるようにしてくれるんですか??」
彼らにとって、ツール同士の競合といった些細なリスクよりも、目の前の業務が終わらないことのほうが、はるかに大きなリスクでした。
結局、この「今すぐ助けろ!」という切実な声が後押しとなり、導入はスムーズに進みました。
3. なぜ私たちはAIコーディング支援ツールを選んだのか
プロダクト開発業務の中に既にツールが導入されている中で、なぜあえて新しいコーディング支援ツールを追加したのか。それは、私たちがAIに求める役割が変化したからです。
既存ツール: これらは思考の速度を上げてくれる「速書きマシン」です。短いコードの補完や定型的な処理の記述では絶大な効果を発揮します。
AIコーディング支援ツール: こちらは単なる補完ツールではなく、共に考える「相棒」です。
私たちの開発スタイルは、複雑な業務ドメインの「文脈理解」と、それをコードに落とし込むための「仕様整理」です。
単にコードを速く書くこと(補完)よりも、「この業務を、どうコードに結びつけるべきか?」 という問いに答えてくれる能力が不可欠でした。新しいツールの持つ深い文脈理解能力と対話による思考整理の力は、まさに今の私たちのフェーズで試してみたいと思っていたツールだったのです。
4. 「もう一人で考えなくていいんだ」という感動体験
AIの真価を実感したのは、新しい機能開発でテーブル設計を任された時でした。
以前の私なら、関連するテーブルを洗い出し、正規化やパフォーマンスをうんうん唸りながら何時間も、時には何日もかけて考えていたでしょう。しかし、今回は違いました。Geminiにデータベースの要件と現在のスキーマを伝え、対話形式で設計を相談したのです。
すると、どうでしょう。私が一人で悩んでいたであろう論点が次々と整理され、納得感のある設計案がものの数十分で完成したのです。その瞬間、鳥肌が立ちました。
「もう、ひとりで全部考えなくてもいいんだ」
AIを使った開発では、重要なのは個人の記憶力や知識量ではなく、「AIに課題をいかに正しく、深く伝えられるか」 という能力、つまり「課題の言語化能力」なのだと確信しました。
5. 結論:俺は忙しくてよかった──AI時代の新しい幸福論
振り返れば、すべては「忙しさ」から始まりました。
忙しいから、 AIを使わざるを得なかった。
忙しいから、 「学習コストが…」などと悩む暇もなく、実践投入するしかなかった。
忙しいから、 目の前の課題が解決されるという成果に直結し、その威力に心から感動できた。
もし私に十分な時間があったなら、「今のままでいいか」とAIから距離を置いていたかもしれません。皮肉なことに、私をAIへと導き、新しい働き方への扉を開いてくれたのは、他の誰でもない「多忙な自分」だったのです。
「忙しいことは、不幸だ」。そう思っていた価値観が、180度変わりました。AI時代において、「忙しさ」は変化を受け入れ、自らをアップデートするためのきっかけなのかもしれません。
