【公務員✖️AI】財政課・課長・議員をAIで5人作って、自分の要求書を査定させた話
「その数字、根拠は?」
予算要求のヒアリングで、この一言は大体聞かれます。
「昨年度と同じです」で乗り切れるならいいですが、さらに詰められることもあります。
そうなった時、上司の顔をチラチラ見る。でも上司もなんだか目を逸らしている。あの空気感は何度も経験しましたが、できれば避けたいです。
私はいま、そんな状況にあります。引き継ぎゼロで、去年の資料は分かりにくく、合っているかを判断する知識も私にはありませんでした。
RAGでは限界
前々回は資料120件をRAG(手元の資料をAIに検索させて答えさせる仕組み)に読ませて引き継ぎゼロを乗り切った話を、前回はその限界を書きました。
予算要求で詰まるのは、どこにも書いていないことでした。
- なぜ、その額なのか
- なぜ、今年度なのか
- 落とされたら、何が起きるのか
RAGは「書いてあること」を出してくれます。でも査定で聞かれるのは「書いていないこと」でした。
庁内のAIは、「哲学」を汲んでくれなかった
今回つまずいたのは、大規模改修に伴う減収補填です。改修の間は指定管理者が事業を一旦お休みするので、その分減る収入を市が補填する。一行だとこれだけですが、積算はかなり複雑です。
そして、複雑な事業には大抵、哲学のようなものがあります。
自治体の都合で改修をしてもらうのだから、法人にもある程度の旨味を持たせたほうがいい、という考え方。逆に、おいしい思いをさせすぎるのはまずい、という考え方。どちらも成り立ちます。
目の前の資料がどちらの方向で書かれているのか。それすら分からないまま説明する側に立つのが、いちばんしんどいところでした。

庁内のAIに「分かりやすく説明して」と頼んでも、古いモデルなのもあり、要約は返ってきますが、ニュアンスまでは汲み取ってくれません。
答えを探すのをやめて、詰める側を作った
行き詰まって、AIと壁打ちをして整理していました。ただ、話が複雑になってくるとAIの言っていることへの理解に時間がかかり、行き詰まりました。
そこで思い出したのが、ソフトバンクの孫正義さんのAIの使い方を紹介した記事です。3人の天才を登場させて議論させる、という話でした。
喋った内容を一般論として整理して、立場の違う3人に議論させる。いわゆるペルソナ(AIに役割を与えて、その人になりきって答えてもらう使い方)です。
やってみたら、議論が深まりました。考え方が逆だったのだと思います。答えを探すのではなく、質問する側をAIにやらせる。
味をしめて、Claude Codeでスキルにしました。作ったのは、査定の場にいる5人です。
-財政課の査定担当— 削る。根拠を詰める。電卓を持ってくる
-直属の課長— 「俺は聞いてない」が一番怖い人
-議会の議員— 住民に説明できるかを見る
-法人の責任者 — 逆に「それでは現場が困る」と増額側を突く
-直属の係長— 詰めるのではなく、一緒に骨格を組む
この5人に要求書を読ませて、内容を詰めさせ、点数をつけます。といっても、読ませるのは現物ではなく、AIと壁打ちして作らせた架空の要求書です。中身は似せていますが、実物とは違います。
決めたルールは1つだけ。「答えを聞く前に、点をつけない」
ルールとしては、実際の査定をイメージし、点をつける前に2回3回、AIの側からこちらに質問させて、それに答えてから採点するようにしました。
質問に答えていないことを理由に点を下げられても、意味がないからです。自分の中には考えがあるけれど資料には書いていない、というものが必ずありますよね。それは聞かれないと出てきません。
ラリーを挟むようにしてから、指摘がとても良くなりました。
70点の査定結果を、そのまま見せます
文章より、見本を見てもらったほうが早いと思います。
※ 架空の案件で作った見本です。自治体名・施設名・数値はすべて架空で、実在の団体・事業とは関係ありません。
見てほしいのは3つです。
① 指摘が、資料の該当箇所に紐づいている
「ここが弱い」ではなく「この一文が、こう攻められる」まで出ます。例えば上昇率の掛け方が二重で計算が合わない、補填期間が表紙と本文で食い違う、など。
② ラリーをもとに、深く理解して回答している
課題であった事業哲学の部分も、AIとのラリーがあってから指摘があるので、深く理解して回答してくれます。逆に通じない部分は何を書けば通じるのか提案してくれます。
③ 良い設計は、良いと言う
見本では財政課役が一度「むしろそこがこの算式の良いところ」と言います。褒めない査定は使い続けられません。殴られるだけなら、たぶん3日で開かなくなります。

なぜ、これは中の人にしか作れないのか
技術的にすごいことは何もしていません。作るのにかかったのも1時間程度。やったのは、査定の場を思い出してAIに話しただけです。実際にあった質問を書き出したら、人物像のほうはAIが組み立ててくれました。
- 課長は、サプライズを何より嫌う
- 財政課は、答えを聞く前に判定しない
- 議員は、削ることより「住民にどう説明するか」を見ている
こういう像が返ってくるかどうかは、渡した質問が本物かどうかで決まります。調べて出てくる質問ではありません。
AIに詳しい人はたくさんいます。でも「財政課が実際に何を聞いてくるか」を知っている人は、たぶんそんなにいない。中にいることが強みになるとは、正直これまで思っていませんでした。
なかでも「法人責任者」の枠は面白いです。査定するだけのペルソナだと減らされることばかり指摘がでますが、「増やしてほしい側」の立場を入れることで、要求漏れも拾えます。
減らす側と増やす側を、同時に見られる。そこがこのスキルの強みです。
庁内は、通していません
このスキルは、自宅の環境で、私が個人の範囲で使っているだけです。庁内のAIは古いモデルのチャットのみで、こうした査定はできません。庁内の資料をそのまま外部のAIに読ませるのもNGです。要求書を架空のもので作ったのは、そのためです。
私が異動したら、この5人は私と共に異動します。残りません。作れるのに、職場では動かせない。ここが今のところの結論です。
真似するなら、この順番で
ここまで読んで「うちの職場では無理だ」と思った方へ。
やったのは、査定でありがちな質問や指摘を思い出して書いただけです。
1. 予算要求で実際に飛んできた質問を、一つ思い出す。誰が言ったかも一緒に。
2. その時のやりとりを3行書く。「俺は聞いてない」でも「それ、去年いくらだった?」でも
3. その3行をAIに渡して、自分の要求を口で説明してみる
資料を丸ごと渡す必要はありません。5人そろえるのも、あとでいい。一人でも、聞かれたくないことを聞いてきます。
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そんなことをしていたら、ここ一ヶ月ぐらいなかなか忙しくて更新ができていませんでした。次回予告との内容も違う内容となりましたが、ご了承ください。
次回は、AIに中身を書かせずに、器だけ作らせて予算資料を仕上げた話を書きます。
