「自転車に乗る子」
その子の自転車には、
いつも補助輪がついていた。
初めにそれをつけたのは、
転んでケガをさせないため。
まだ身体も小さく、
ハンドルを握る手にも
力がなかった頃だから。
道に少し勾配が
ついただけで、
自転車はふらふらと
左右に揺れていた。
そのたびに
補助輪が地面に触れる。
補助輪が地面に触れると、
からからと乾いた音がした。
その音を聞くと、
周りの大人は
安心したのだった。
その子も、
意識せずとも
補助輪を頼りにしていた。
転びそうになると、
左右の小さな車輪が
車体を支えてくれるのだから。
自分一人では進めない道も、
それがあれば
進むことができるのだから。
そうして
いつの頃からか、
その子は、
強くペダルを
踏めるようになった。
曲がり角では
早めにハンドルを切り、
重心を曲がりたい方に寄せる。
坂道では立ち上がって、
自分の体重をペダルにかける。
補助輪は、
その間も絶えず
地面に触れていた。
左右の小さな車輪は、
道の凹凸にぶつかるたび、
がらがらと音を立てた。
周りの大人たちは
その音に遮られて、
その子がどれほど
自分の身体を使っているのかに、
よく気づけなかった。
大人は、
「危ないから
ゆっくり走りなさい」
と
たびたび言った。
いつか
颯爽と自転車に跨る
日を夢見ながら。
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