カウンターの中で、アプリを作った──コードが書けないバーの店主が、月額課金を通すまで(第1回)
都内の、二階にある小さな店をやっている。
18時に開けて、朝の5時に閉める。定休日はない。十年以上、そうやってきた。
カウンターは八席。そのうち、一番端の席が、いつも最後まで空かない。壁を背にできて、入口から遠い。落ち着くのだろう。長居する客は、たいていそこに座る。
閉店後、私はその席に座る。
客がいた場所に、店主が座る。グラスを片づけて、おしぼりを洗って、それから自分の分のコーヒーを淹れて、その席にノートパソコンを置く。朝の5時半。誰もいない店で、これを書いている。
去年の今ごろ、私はHTMLが何の略か知らなかった。
今、自分で作った九星気学のアプリが動いている。月額480円。年額3,000円。決済は実際に通っている。誰かのカードから、私の口座に、お金が入っている。
プログラミングスクールには行っていない。誰にも教わっていない。店は一日も休んでいない。
やったのは、閉店後のこの席で、AIに話しかけ続けたことだけだ。
先に、はっきりさせておきたいこと
この連載には、こういう話は出てきません。
• 才能の話
• 「誰でも簡単に」という話
• 三日で人生が変わったという話
出てくるのは、こういう話です。
• 三日まるまる無駄にした勘違い
• 「動きました」と言われて動かなかったときに、どうしたか
• 恥ずかしくて人に言えなかった思い込み
• 実際にいくら入ってきたのか
私はプログラマーではありません。バーの店主です。だから、プログラマーが書く入門記事は書けません。書けるのは、何もわからない側から見た景色だけです。
それは、たぶん、プログラマーには書けないものだと思っています。
この連載で書くこと(全10回予定)
|回 |内容 |
|----|-----------------------------------|
|第1回 |「何もわからない」の正体(本記事・無料) |
|第2回 |最初の一週間で挫折しかけた場所(無料) |
|第3回 |GitHubとVercelを、意味がわからないまま使えるようにした手順|
|第4回 |AIへの頼み方——効いた言い方/無駄だった言い方 |
|第5回 |決済を通すまでに詰まった全ポイント |
|第6回〜|集客の失敗、実際の数字、次にやること |
第1回と第2回は無料です。
読んで「これなら自分にもできるかもしれない」と思ったら、続きへ来てください。思わなかったら、そこで閉じてください。それでいいと思っています。
第1回:「何もわからない」には二種類ある
ここからが、今日の本題です。
最初の一ヶ月、私はまったく前に進みませんでした。AIに聞けば何でも教えてくれるはずなのに、進まない。当時はその理由がわからず、自分の頭が悪いのだと思っていました。
今ならわかります。「わからない」には、二種類あるからです。
① 知識がない
これは、AIがきれいに埋めてくれます。
「Gitって何ですか」「ターミナルってどこにありますか」「このエラーの意味を教えてください」——こういうものは、聞けば答えが返ってきます。恥ずかしがる必要もない。相手は人間ではないので、何度同じことを聞いても、ため息をつかれません。
② 何がわからないのかが、わからない
問題はこちらです。
質問を作るには、その分野の言葉を最低限知っていなければならない。ところが、まったくの未経験というのは、その言葉を知らない状態のことです。
だから「アプリを作りたいです」としか言えない。すると返ってくるのは、立派で、正しくて、そして自分にはまったく手が出ない長い説明です。それを読んで、また閉じる。この繰り返しでした。
私が一ヶ月潰したのは、この②です。知識がなかったからではなく、質問が作れなかったからでした。
抜け出した方法は、ひとつだけ
「作りたいもの」を考えるのをやめて、「今日中に終わる、ひとつのこと」を決めるようにしました。
私が最初に決めたのは、こうです。
画面に、自分の名前を出す。
アプリでもサービスでもない。ただ、真っ白な画面に「〇〇〇〇」と名前を表示させる。それだけ。
これなら、質問が作れます。「画面に文字を表示させたい。何をすればいいか、順番に、一つずつ教えてください」。
その日、名前が画面に出ました。所要時間は、たぶん四十分くらいだったと思います。
それだけのことなのに、私は少し笑ってしまった。カウンターの端の席で、朝の五時に、自分の名前が出ただけのパソコンを見て笑っている四十代の男。われながら妙な絵でした。
でも、あの日を境に、止まらなくなりました。
今日の持ち帰り
一つだけです。
「アプリを作る」と考えている限り、質問は作れません。「今日中に終わる、ひとつのこと」に絞ってください。
絞れないうちは、まだ大きすぎます。もっと絞ってください。「画面に文字を出す」まで絞れたら、そこがスタート地点です。
小さすぎて意味がないように思えるかもしれません。私もそう思っていました。でも、実際に月額課金まで届いたのは、あの「名前を出しただけの日」からです。
うちの店に来るお客様も、たいてい同じです。「人生をどうにかしたい」と言う人は、だいたい何も動きません。「明日の朝、六時に起きる」と言った人が、半年後に別人になっている。
規模の話ではなく、絞り方の話なのだと思います。
次回
第2回は、その次に来た壁の話です。
「AIが書いてくれたコードが、動かない」。このとき、素人には原因を切り分ける手段がありません。何が悪いのかを推測することすらできない。ここで大半の人が消えます。
私がどうやってそこを抜けたか、実際のやりとりごと書きます。こちらも無料です。
この連載について
• 筆者は都内でバーを営んでいます。プログラミングの実務経験はありません。
• 本連載に書くことは、すべて実際に自分でやったことです。うまくいかなかったことも書きます。
• 事実と、私個人の意見は、分けて書くようにしています。
• 記事内で触れるサービスは、実際に公開されているものです。
閉店後の、カウンターの端の席から書いています。
(第1回・了)
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記事に共感いただきとても幸せです。
嬉しい気持ちを糧に今日も邁進していきます♪