築126年の駅舎をホテルに—奈良・天理から始める、私たちの地域再生
奈良盆地の北部、JR万葉まほろば線の沿線に「櫟本(いちのもと)」という駅があります。
1898年(明治31年)の開業以来、木造の駅舎がそのまま残るこの場所に、2026年7月、私たちはホテルを開きます。

立志社は、京都で空き町家の再生事業や旅館運営事業を行っています。
今回新たにオープンするのは櫟本駅舍を活用したホテルです。
櫟本駅は、1898年(明治31年)に、当時の奈良鉄道が京終(きょうばて)〜桜井間を開業させた際に設置されました。駅舎には「明治31年4月」と記された建物財産票が現在も残っており、木造平屋建ての駅舎には当時の面影がそのまま残されています。

128年を経た駅舎は老朽化が進み、JR西日本鉄道から天理市に譲渡されました。この駅舎の活用事業に私たちは手を上げました。
そしてこの度、天理市の公募審査を経て、駅舎の活用事業者に選定いただき、櫟本駅舍は電車を間近に堪能できる宿泊施設としてリニューアルオープンすることになりました。
私たちが天理市に向かった理由
全国の駅のうち、無人駅の割合は約48%に達します(出典:国土交通省、2020年3月時点)。
2002年と比較するとその数は約400駅増えており、利用客の減少と鉄道事業者の経費削減を背景に、その数はこれからも増え続けるとみられています。
無人化された駅舎は、多くの場合そのまま放置されます。かつて地域の玄関口だった建物が使われなくなると地域の求心力が少しずつ失われていきます。京都の町家と同じ構造が無人駅舍にも訪れようとしています。
天理市は、大和三山(耳成山・畝傍山・香久山)を望み、三輪から奈良へ通じ日本最古といわれる古道・山の辺の道、そして数多くの古墳が並ぶ豊かな歴史文化資源を持つ地域です。

無人駅舍を活用することで、天理市の豊かな自然と歴史文化資源、そして何よりも旅の楽しさを堪能してほしい。
奈良を堪能できる拠点として櫟本駅舎ホテルは誕生します。
「まほろばプロジェクト」——沿線でつながるホテルプロジェクト
立志社が天理市の公募に提案したのが、「JR櫟本駅直結ホテルプロジェクト(まほろばプロジェクト)」です。
このプロジェクトのコンセプトは、ホテルの開発のみではありません。
JR万葉まほろば線・和歌山線・大和路沿線の地域全体を「ひとつのホテル」とみなし、無人駅の駅舎や沿線の古民家・空き家を「客室」として活用します。フロントは櫟本駅舎に置き、JR柳本駅舎のレストランをカフェ、天理トレイルセンター内の飲食店をメインダイニングとして位置づけます。接客・運営は地域住民の方々に担っていただく設計です(出典:天理市 JR櫟本駅舎利活用)。

起点となる櫟本駅舎は明治31年の建築。築126年の木造駅舎を改修し、2026年7月4日のオープンを目指しています。
その後は古民家客室を5〜10棟追加し、沿線に宿泊拠点を順次拡充していく予定です。
代表・前田弘二に聞く
このプロジェクトにどんな思いで向き合っているのか。代表取締役の前田弘二に、率直に話してもらいました。
Q. 前田さんと奈良の出会いを教えてください。
同志社大学に進学して初めて京都に下宿したのが、京都の南部・京田辺でした。同志社大学の1年生が通うキャンパスが京田辺にあります。
大学には、奈良県出身の友人も多くて「こっちにいいバイト先があるよ」と連れていってもらったのが奈良県の百貨店でした
奈良は、その前に修学旅行では大仏だけ見てバスで移動して終わりでした。ですが、バイトで通い始めて、初めてちゃんと歩いて、古墳の横を通って。「古墳って本当にあるんだ」と驚きました。
その感激が今も残っているから、奈良は良い所だなと思い続けていました。
Q. 天理市のプロジェクトに応募した経緯を教えてください。
2017年頃から京都で町家ホテルの展開数が増えてきたタイミングで、奈良県の方々から「こっちでもやってくれないか」という声が増えてきました。
町家にも奈良出身の方が「奈良でもやりたい、作ったら働きます」と言ってくれていた方もいて。いくつかお話をいただく中で、天理市に関わる方を紹介していただくことになりました。
車で一緒に移動していた際に櫟本駅を見る機会があって、「あの駅、なんとかならないか」という話をいただきました。櫟本駅者は既にJRから天理市に払い下げられていたのですが「利活用する方法がわからなくて放置している」と聞いて、「うちでだったら再生できるかもしれない」と思ったのがきっかけです。
その後、天理市から正式に公募の発表があったので、応募し採用になりました。

Q. 駅舎にホテルをやろうと決めた瞬間はありましたか。
私は高校時代は野球漬けで休みがなかったので、寝る前に小説を読むのが大好きでした。
特に、日本一周ローカル線の旅をテーマにした小説がお気に入りで、その頃から電車の旅が大好きです。大学の入学式には、親と夜行列車に乗って京都に来ました。そのインパクトは今でも忘れられません。
今回の部屋のテーマも「夜行列車」なんです。
中2階部分は屋根を丸くくりぬいて窓にして、寝ながら外を見える設計にしています。1日1組限定でいいから、あの感覚を体験してもらいたいと思っています。
Q. 安全面や建物へのこだわりを教えてください。
建築は、奈良で1〜2番を争う宮大工さんに入ってもらっていて、神社を作るのと同じレベルで仕上げてもらいました。
安全基準に関しては、JRの駅舎を活用させていただくこともあり、JRさんの厳しい基準を満たす水準で整えています。
木材は「燃えやすい」「崩れやすい」という欠点がありますが、京都の町家再生で積み上げたノウハウを活用して耐震工事を行いました。また、キッチンはIHにして火を使わない設計にしています。
もちろん、路線に電車が通過しても音が気にならないよう防音工事も行っています。(以上)

まほろばの地で、もう一度
「まほろば」とは、古代日本語で「素晴らしい場所」を意味する言葉です。
山の辺の道を歩けば、大和王権ゆかりの古墳が次々と現れます。景行天皇陵、崇神天皇陵、黒塚古墳——これだけの密度で古代の遺構が残る場所は、日本でも他にありません。
自然豊かなこの地は時間がゆっくりと流れます。

地元の食がダイニングになり、町の玄関口である駅に温かな明かりが灯る客室になっていく——その連鎖の中で、観光消費が地域の中で生きるようになると考えています。
まほろばプロジェクトはそのための仕組みづくりです。
築126年の木造駅舎は、夜行列車に見立てられた客室を備え間もなく新たなお客様を迎えようとしています。屋根をくり抜いた窓から星を見上げ、電車の往来に耳を傾けるながら眠る——そんな一夜が、まもなくここで生まれます。
【会社概要】
株式会社立志社 代表取締役:前田弘二 設立:2014年7月 所在地:京都市(登記:東京都渋谷区)
事業:京町家ホテル直営・ホテル営業委託・遊休宿泊施設の再生
公式サイト:https://www.risshisha-group.com
