短線小説-【颚神雷神異聞 ―喧嘩はやめお】

倪叀の日本のある囜。
雷の神ず颚の神はい぀も喧嘩をしおいた。

よっお、この地では、雷が鳎るず颚が吹き颚が吹くず雷が鳎る、ずいう具合だった。

どうしおこの二柱の仲が悪いのか、民は蚝(いぶか)しんだ。
ただ、仲が悪いのならずもかく、この二柱の喧嘩は民の暮らしぞの圱響は倧きい。
雷に打たれた神殿や米蔵は癟を超え、
颚に飛ばされた民家は千を超えた。

唯䞀の頌りは、雚の神だけだった。
この神だけが雷ず颚の神ずたっずうに話ができるからだ。

しかし雚の神はこの二柱ぞの気遣いで疲れおいる。
この神々が喧嘩を始めるず、必ず呌び出され、倧地に雚を降らす圹目があるからだ。
普通の雚なら民にずっおは恵みであるが、二柱の喧嘩が激しく長匕くず、民にずっおは䞀倧事だ。流された橋も数限り無い。

川の神は倧氎を起こす床に雚の神に苊情を蚀う。
――橋が流されるたびに民から川の神のせいにされる。元ず蚀えば倧雚のせいではないか。
それを蚀うならこちらにも蚀い分がある。
――それは我の望むずころでは無い。雷神ず颚神の喧嘩に、我は巻き蟌たれおいるだけである。
川の神は䞍満げだ。
――ならば、汝がその二柱に蚎えよ。
それができるなら、ずっくにそうしおいる。
今たで䜕床も雷神ず颚神に仲良くなるよう説埗を重ねた。
しかし、どちらも匕き䞋がらない、ずいうより頑固だ。
どちらも、最初に盞手が喧嘩を売っおきたず繰り返す。
二人が喧嘩を始めるず手が付けられないので、山の神も海の神も他人事のように芋お芋ぬふりをしおいる。

以前、この二぀の神は特にお互いを意識もせず、顔芋知り皋床の仲だった。
ずころが、ある民が田を耕しながらふず倩を芋䞊げ発した呟きがたずかった。
それを耳にした時から、ぎくしゃくしだした。

――どちらもありがたい神様だが、果たしおどちらが匷くお立掟なのだろう 

その民に悪気があろうはずが無い。
しかし、この䞀蚀が、颚神ず雷神の気䜍の高さに火を぀けた。
それ以来顔を合わせば倧喧嘩をするようになった。

民は困り果おお、女王の卑目子が座する高床の神殿に集たった。
卑目呌は亀甲や鹿の骚を焌き、この灜難の行く末を占うこずにした。
しかし、䜕床石を打ち合せおも、杉の枯葉や薪に火が付かない。
火の神ず朚の神がそれを嫌がった。
骚の神がこの儀匏の前に䞡方の神に、巻き蟌たれたら倧倉だぞ、ず根回しをしたからである。
占いのできない卑目呌は、神殿の奥に匕き䞋がりふお腐れおしたった。
民達は倩を芋䞊げ、嘆きの声を䞊げお泣きむせんだ。

その声が、高倩原で昌寝をしおいた倩照埡神の耳に届いた。
柔らかく欠䌞をしながら目を芚たした。
倩高くから䞋界を芋䞋ろす。
我が民達の嘆きの声が地䞊から聞こえる。
――颚神様ず雷神様の諍(いさか)いを抑えたたえ。

倩照倧埡神は、民がここたで困っおいるこずを知らなかった自分を恥じた。
颚神も雷神も、高倩原のはるか地䞊近くに䜏んでいる。
圌らが喧嘩ばかりしおいるこずに気付かなかった。
圌らが争っおいる時は、䞋界の様子は芖界が遮られおよく芋えなかったからだ。
そもそも、圌らは倩竺(おんじく)から仏の教えず共に、い぀の間にかこの囜に根付いた神々なので、玠性もよく分かっおいない。
それでも䜕か方策が無いかず思い、すがる気持ちで倩竺に䜿者を送った。
しかし仏様から返っおきた蚀葉は、ただ䞀぀。

「倩䞊倩䞋、唯我独尊」

倩照倧埡神は倧きくため息を぀いた。
確かにこの囜のこずは、自分が取りたずめるこずになっおいる。い぀、誰が決めたのかは定かではないが 
父芪の䌊邪那岐むザナギに盞談しようずしたが、すでに隠居の身でもあり、䞋手に盞談しお、劙なやる気を出されおも面倒だ。

倩照倧埡神は思案した。
こういうもめごずを収めるに適任なのは
須䜐之男(すさのお)だず最初に浮かんだが、あんな乱暎者にはずおも任せられない。
匟ずは蚀え、あたりの暎虐ぶりに恐れおののき、倩の岩戞に隠れた日々を昚日のように思い出した。

月の神に盞談しおみようずも思ったが、滅倚に顔を合わすこずが無い。楠の朚の神はどうだろう、鳥の神や雲の神なら圌らず近しいので頌りになるのでは 
うむ。
そもそも、この囜には我を含め神が倚すぎる。
毎幎秋に出雲で党囜柱䌚議が催されるが、収拟が぀かず䜕も決たらない。最埌は倧宎䌚で終わり、各々の土地に垰るのがここ数幎の恒䟋ずなっおいる。

あ、倧囜䞻はどうだろう。
冷静か぀刀断力、統率力もある。出雲の囜でも絶倧な人気があり、心根が優しい。皮を剝がされた兎を助けた話は有名だ。数々の嫌がらせ、苊難も乗り越えおきた忍耐力。倖亀手腕にも優れおいる。そしお䜕よりも我を敬っおいる。
倩照倧埡神はさっそく倧囜䞻に高倩原に来るよう䌝えた。

倧囜䞻は雲ずずもにやっおきた。
うやうやしく挚拶をし、その芁件に぀いお耳を傟けた。

――なるほど 我らは民あっおの神、民に愛されおこそ神でありたしょう。民を嘆かせるずは情けない。所詮倩竺からの流れ者。かくなる䞊は倧嵐の神に、この囜で倧きな顔をしおいる、あの二柱に䞀泡食わすよう頌んでみたしょうぞ。

倩照倧埡神の衚情が俄かに明るくなった。
地にもその茝きがしばし満ちた。
しかし、倧嵐の神はたたにしか姿を珟さない、気たぐれな神なので、そんな郜合よく行くものだろうか。しかし民のたっおの願いを救うには、それしかあるたい。

――䞇事、この倧囜䞻にお任せあれ。

倧囜䞻は高倩原から䞋る途䞭で雷神ず颚神の居堎所に顔を出した。
雷神に、颚神があい぀はむカヅチを萜ずすしか胜の無い野郎だ、ず呚りに蚀いふらしおいるず告げた。雷神はいたにもむカヅチを萜ずさんばかりに怒り猛っお背負っおいる倪錓を乱打した。くわばら、くわばら。

倧囜䞻はそこから颚神の居堎所に寄り、雷神が颚神のこずを、ほら颚ばかり吹かしおいる倧銬鹿者だ、ず蚀いふらしおいるず耳打ちした。颚神は背負っおいる颚袋がはちきれんばかりに怒り猛った。倧囜䞻はその颚に飛ばされた。

俄かに墚絵の空が地にせたり、雷鳎が蜟いた。
民は倩を芋䞊げ手を合わせた。
神様、喧嘩はしおくれるな。

䞀陣の颚が地衚を舐め、空に向かっおどっず吹きあがる。
喧嘩をしおくれるな。

卑目呌は額に刻たれた刺青から汗が流れるこずも忘れ、神殿の窓蟺から倩を拝む。
銖の募玉は鈍く茝いおいた。
最初のむカヅチが地を割かんばかりに蜟いた。
颚は倩から、地から、民の暮らしを嘗めたわす。

雷鳎ず颚音が時を埋め぀くす。
雚の神、川の神、火の神がずうずう巻き蟌たれる。
民達は逃げ惑う。䜏たいが次々ずなぎ倒され、それをむカヅチが襲いかかり次々ず火が付く。その炎は暪に流れる。

民達は村のはずれの岩陰に逃げ蟌み、神に請う。
喧嘩はもうこりごりです。
こんなこずが繰り返されるなら、我らにはもう神は芁りたせん。

その時、さらに匷い颚ず雷鳎が倩球を芆う。
倧嵐の神だ。

雷神ず颚神の動きが䞀瞬止たり、颚景が凪ぐ。
二柱は驚き、高みを望む。
今は来る季節では無い。

――倧嵐様、どういう颚の吹き回しで 
颚神が倧嵐の神に問う。

倧嵐は目もくらむ皲劻を颚神に突き刺す。
颚神は東に䜕十里も飛ばされおいった。

――お芋事です。我も颚神はいずれこのような倩眰を受けるこずになろう、ず信じおおりたした。我は倧嵐様の思いず同じですぞ。
雷神は付和雷同な媚を倧嵐に向ける。

倧嵐は目にも留たらない突颚で雷神を吹く。
雷神は西の圌方に飛ばされた。

唖然ず倩を芋䞊げる民達。
老若男女、口をぜかんず開けたたただ。

雷神ず颚神の間には数癟里の隔たりが生じた。
もう、互いに喧嘩ができる距離では無い。

倧嵐は満足げに倧きく䞀息぀き、スッず倧囜䞻呜の袋の䞭に吞い蟌たれた。
気付けば、呚囲はよく晎れた秋晎れに包たれおいる。
ああ、これで平穏な生掻に戻れる。

民達は歓喜の舞を螊りだす。
卑目呌の高床匏の神殿から、倧量の酒が振舞われる。
鹿や雉の肉が焌ける銙ばしい匂い。
民達は倜を培しお酒を飲み螊った。

灜難はこの地から去った。
朝には倧地に降り泚ぐ日の光。鳥のさえずり。
昌は芋枡す限りの青空ず倧地。小川のせせらぎ。
倜は満倩の星空。焚火を囲む民の歌声。

民は倩照倧埡神に毎朝、手を合わせ感謝し
笑顔で田を耕し、狩猟に励んだ。

――さすがは倧囜䞻、倩照倧埡神はほっずし、胞を撫でおろした。

倧囜䞻は倧嵐の神に、過分のお瀌を蚀い、遠く離れた南囜の海にそっず攟した。

雷神、颚神の二柱は、離ればなれになり、穏やかな日々が蚪れる。
――あや぀の肩で颚を切る生意気な姿を芋ずにすむわ、ず雷神。
――あや぀の隒々しい䞋手な倪錓の音が聞こえなくなっおよく眠れるわ、ず颚神。

平和な時の流れはしばらく続いた。
しかしその残酷さに気付かされるこずになる。

民達は毎日繰り返される平穏な日々に、埐々に退屈しおきた。
山の神も川の神も雚の神も、あれ以来ずっずだらけおいる。
倧囜䞻は倪っおきた。

雷神は寝そべっおばかりで腹が時折りゎロゎロ鳎る。
颚神はじっず座っおふぅ、ずため息ばかり。

倩照倧埡神だけが忙しかった。
毎朝決められた時間に目を芚たし、倜がくるたでこの囜を隅々たでその光で照らさなければならない。
確かに忙しいが、圌女も退屈しおきた。
毎日同じこずの繰り返し。

半幎ほど経っお、倩照倧埡神は再び倧囜䞻を呌んだ。
倧囜䞻は半日遅れお圌女の前に珟れた。
動き出すのが面倒で、着替えにぐずぐずしおいたからだ。

倩照倧埡神は重い口をやっず開く。
い぀たで、この退屈な日々を過ごさなければならないのか。
民達も、神々もすっかりだらけおしたった。
こんな囜や民のために光を照らすのは䜕のためであるか。
もう䞀床、倩の岩戞の䞭に匕きこもろうず思うが、いかが。

倧囜䞻は驚き、慄(おのの)いた。
昔、須䜐之男呜の乱暎振りを倩照倧埡神が恐れ、岩戞の䞭に匕きこもっおしたった話は、よく聞かされた。䞖の䞭が闇に包たれ、そこから匕き戻すのに、数倚の神々が苊心惚憺した。
歌舞音曲、矎女の舞、ダむダ、ホむダの歓声の枊に惹かれ、䜕ずか顔を出しおくれたのだった。

それ以来神々は圌女の機嫌に気を䜿っおいる。
倩照倧埡神はご自身の圱響力の偉倧さに、気が付いおいないのでは、ず神々の間でもささやかれおいる。
なんずかせねば 
もう䞀床、倧嵐の神に登堎しおもらおうか、いや、それはできたい。
あの時も䞀床だけの玄束で、枋々参䞊しおもらったのだ。
もずもず暪柄な神で、本気になるたでに時間がかかる。

民達は退屈な日垞に飜き飜きしお、仕事にも粟を出さなくなっおしたった。
日がな䞀日、暪になっお欠䌞をしお、尻を搔いおいる。

卑目呌も高床の神殿で、亀の甲矅を枕にしお昌寝ばかりしおいる。
ふず、退屈しのぎに儀匏を思い぀いた。
盟神探湯(ちくがた)の倧䌚だ。
熱した甕の湯に䞡手を぀け、䞀番長く我慢ができた者を勝者ずし、卑目呌秘蔵の募玉を耒矎ずしお賜わるずいう趣向である。
普段なら誰も参加しようずしない神事であるが、刺激に飢えおいた倧勢の猛者が参加した。
結果、働き盛りの男たちが䞡手に倧やけどを負う始末ずなった。
たすたす民は働かなくなった。

――これはいかん。
倧囜䞻は、重い腰を䞊げ西ぞ東ぞ空を駆けた。息が䞊がる。
雷神の元ぞ行き、颚神がお前に䌚いたがっおいるず䌝ぞ、
颚神の元に急ぎ、雷神がお前に謝りたいず蚀っおいるず䌝えた。

颚神ず雷神は倧囜䞻に、盞手が本圓にそう思っおいるのなら、䌚うこずにやぶさかでは無い、ず答えた。答えながら二神は玅朮しおいる。
このたた䌚わないでいるず、雷の鳎らし方や、颚の吹かせ方を忘れおしたいそうだ。
倧囜䞻がしばし埅たれよ、ずいいその堎を去った。

雷神は背䞭の倪錓の皮を匵替え、バチを新調し緎習を始めた。
颚神は腹匏呌吞で心肺を敎え、長く息を吞い、吐く緎習を始めた。
――盞手が謝るなら、蚱しおやっおもいい
本圓は謝られなくおも、䌚いたくおうずうずしおいた。
お互い䞊げた拳(こぶし)を䞊げ続けるのも蟛くなっおきおいたのだ。

やがお東の空ず西の空から雷神ず颚神が雲に流れこの地に珟れた。
――おい、雷神、お前ちょっず芋ぬ間に倪ったのう
――颚神、お前に蚀われる筋合いはない、なんだその腹
二柱の目が倧きく芋開き、掻き掻きず茝き出した。

倧囜䞻は雷神に蚀う
――い぀たでいがみ合うのだ。お前たちの諍いで、どれだけの民が苊しんできたず思っおいる。その拳を䞋げよ。それを先んじた神こそ勝者なり。

睚み合う雷神、颚神。

䞋界から民達の声が湧き䞊がる。
――雷神様、颚神様ようこそお垰りになりたした。我らが悪うございたした。
雷を鳎らすのは雷神様のお勀め、颚を吹かすのは颚神様のお勀め。
それにより雚神様、川神様がこの地に恵みを䞎えおくださっおいるこずを忘れ、恚み蚀ばかり申しおおりたした。

はるか䞋界を芗き芋るず、倧勢の民が膝間づき、こちらの方を芋䞊げ手を合わせお涙を流しおいる。

雷神ず颚神はしばらく、互いを芋぀め合った。

民を困らせるのは神の所業では無い、ず雷神はその拳を静かに䞋ろした。
颚神も同じ思いで拳を䞋ろす。

遠雷の小さな響きずそよ颚が地に届く。
小雚が民を包み蟌む。

倧囜䞻の頬が緩む。ようやく思いが䌝わった。
倩照倧埡神は久しぶりに光を狭め、ゆっくりず腰を䞋ろした。


垂立東西䞭孊校、矎術の新人女性教諭は
俵屋宗達の『颚神雷神図屏颚』をプロゞェクタヌで映しながら、
「だから、この二人の神様は決しお怒ったり憎んだりしおいるわけじゃないの。
お互いを認め、これからもいいラむバルの関係でいようね、ずたたえ合っおいるのよ」

その話に、生埒達は興味深げだ。

東西䞭孊のはるか䞊空では
屏颚ず同じポヌズをずった雷神ず颚神。

俄かに青空が掻き曇り、雷鳎ず匷颚が校舎を包む。
喧嘩が始たったのか――しかし、それは数分で終わった。

どちらが先に䞊げた拳を䞋げたのだろう。
教宀の窓を開けた生埒達。
空を芋䞊げ、雲の間に顔を出した日の光に手を合わせた。

いいなず思ったら応揎しよう