Photo by
pasteltime
水の音が、夏休みになる。
水の音がする。
娘が水を蹴るたび、きらきらとしたしぶきが上がる。
顔にかかるのも気にせず、何度も足を動かしては笑っている。
夏休みも、もう残りわずか。
今年の夏、娘にどれくらい思い出をつくってあげられただろう。
幼稚園は休みでも、私は仕事がある。
娘は預かり保育へ行き、私はいつもと変わらず出勤する。
海へ連れていきたい。
花火も見せたい。
もっと夏らしいことを、たくさん経験させてあげたい。
そう思いながら、カレンダーの空いている日を探していた。
けれど、目の前の娘は、ただ水があるだけで楽しそう。
両手ですくっては、こぼす。
流れていく水を追いかける。
同じことを何度も繰り返し、そのたびに初めてのような声をあげる。
特別な場所でなくてもいい。
遠くへ出かけなくてもいい。
水の冷たさや、跳ねる音や、まぶしそうに笑う顔。
夏の思い出は、予定表の中につくるものではなく、こんな何気ない時間の中に、いつの間にかできているのかもしれない。
夜、お風呂に入ると、また水の音。
昼間よりも小さく、湯船の中でちゃぷちゃぷと響く。
いつか娘が大きくなったとき、今日のことは忘れてしまうだろう。
私も、細かな出来事までは覚えていられないかもしれない。
それでも、どこかで水の音を聞いたとき、理由もなく懐かしくなる夏があればいい。
思い出をつくらなければ、と焦っていた私のそばで、夏はもう、ちゃんと音を立てていた。
あとがき
「水の音」から始めて、娘との夏休みを綴りました。
遠くへ出かけた日だけでなく、何気なく水に触れた時間も、いつか大切な夏の記憶になるのかもしれません。
#シロクマ文芸部 に参加させていただきます。
いいなと思ったら応援しよう!
サポート頂けると飛んで喜びます!
本を買う代金に充てさせて頂きますね〜
感謝の気持ちいっぱいです!!