「パパはスカート着る?」
最近、娘はプリンセスに夢中だ。
スカートを履けばプリンセス。
ピンクならもっとプリンセス。
三歳なりの世界ができあがっている。
私は、男だから、女だからという押し付けは、できるだけしたくないと思ってきた。
そして、自分は偏見の少ない人間なのだと思っていた。
そんなある日、娘が店でピンク色のTシャツを見ながら言った。
「ピンクは女の子のお洋服なんだよ。」
なぜそう思ったのだろう。
家では言ったことがない。
きっと、こども園で誰かがそう言っていたのだと思う。
私は慌てて言った。
「男の子だってピンクを着ていいんだよ。自分の好きなお洋服を着るのが一番すてきなんだから。」
その勢いで、普段は選ばないピンク色のTシャツまで買った。
すると娘が聞いた。
「じゃあ、パパはスカート着る?」
私は少し考えて答えた。
「パパはスカートが好きじゃないから着ない。でも、男の子だって着てもいいんだよ。」
その場は、それで終わった。
でも、終わらなかったのは私の方だった。
私は本当にそう思っているのだろうか。
男の人がスカートを履いてもいい。
人に迷惑をかけていないなら、それはその人の自由だ。
今でもそう思っている。
でも以前、年配の男性がゴスロリの服を着て歩いているのを見かけたとき、私は心の中で思った。
「すごいな。」
そして同時に、
「似合っていないな。」
とも思った。
その瞬間、気づいてしまった。
私は偏見がない人間ではなかった。
偏見を持っていないと思いたかった人間だった。
家に帰って妻へ話すと、
「私も同じ。」
と笑った。
それ以来、何かを見て違和感を覚えたときは、一度だけ自分に問いかけるようにしている。
「『似合っていない』と思ったのは、本当にその人のことなのか。
私が、見慣れていないだけではないのか。」
偏見をなくすことは、きっと簡単ではない。
でも、自分の偏見に気づくことはできるかもしれない。
いつか娘が大きくなって、
「パパ、それ偏見じゃない?」
と笑いながら言ってくれる日が来たら。
そのときは、素直に認めようと思う。
娘に追い越されることは、親として少し悔しい。
でも、そんな負け方なら悪くない。

