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「かつや」の「海老ロースカツ定食」に驚いた日——パリの18ユーロと日本の外食構造を考える

今日(8月2日)のお昼ごはんは、近所に店舗があるとんかつチェーン「かつや」で食べることにしました。

注文したのは「海老ロースカツ定食」。運ばれてきた料理を一口食べて、正直に言ってその品質の高さに驚きました。肉も海老も絶妙な火加減で良く調理されており、衣はサクサク。具だくさんの豚汁もついて、これで税込み1,067円(本体価格970円)というのだから驚きです。

私はフランスで社会学を専攻する大学院生であり、同時に調理師の有資格者でもあります。また、普段はフランスで暮らしています。調理の現場を知る者として、そして社会の仕組みを研究する者として、この一皿の背景にある日本の外食産業の圧倒的な凄みと、同時に抱える構造的な課題について考えさせられずにはいられませんでした。


パリの18ユーロと、日本の1,067円

私が以前よく通っていたモンパルナスにあるとんかつ屋では、ロースかつ定食が18ユーロでした。1ユーロ=180円で換算すると、約3,240円になります。

パリでよく食べていたロースカツ定食

調理師としての目で見ても、その店の味は十分に「合格点」と言えるクオリティでした。フランスで本場の味を再現する苦労、現地の食材費、そして何より高い人件費や手厚いサービス代を考えれば、18ユーロという価格は極めて正当で「持続可能な対価」だと言えます。

しかし、今回食べた「かつや」では、その約3分の1の価格です。

利用者として、約1,000円と少しでこれほどのものが食べられるのは素直に嬉しいことです。だが見方を変えれば、これは労働者の賃金が低いからこそ成り立つ価格でもあるでしょう。

フランスの価格が「技術と人件費を適切に反映した結果」だとすれば、日本の価格は、企業の極限までのオペレーション効率化と、停滞する賃金水準が生み出した「奇跡的なバランス」の上に成り立っているとも言えます。


プロの目から見た「オープンキッチン」と「家事の外部化」

かつやの店内に入ってまず感心したのは、カウンターからキッチンで作る様子が丸見え(オープンキッチン)になっている点です。調理工程が客側から確認できるのは、衛生管理やオペレーションに対する強い自信のあらわれでもあります。油を大量に扱う揚物専門店でありながら、店内は非常に良く清掃されていました。

今日は日曜日ということもあり、店内には夫婦連れの姿が目立ちました。社会学的な視点から見ても、非常に興味深い光景です。

家庭で本格的なとんかつを作ろうとすれば、生肉の下ごしらえから衣つけ、揚げ油の準備、さらには跳ね飛んだ油の掃除や使用済み油の廃棄まで、膨大な手間とコストがかかります。

「お昼ご飯をつくるくらいなら、外で食べる」

夫婦連れの選択はきわめて合理的です。二人で2,000円ちょっとを出せば、キッチンを汚すこともなく、片付けの手間もなく、プロが揚げたてのサクサクしたとんかつを食べることができます。かつやは単に「とんかつ」という料理を売っているだけでなく、「家庭の調理労働と掃除のストレスを丸ごと買い取る」という価値を提供しているのです。


日本の外食産業が向かうべき未来

日本の外食産業は、全般にレベルが非常に高いです。食材の扱い、衛生観念、再現性の高いシステム、そして丁寧な接客。世界的に見ても、これほどのクオリティが「日常のスタンダード」として社会全体に行き渡っている国は珍しいと言えます。

しかし、この世界最高峰のサービスレベルが、「現場の低賃金」や「サービスへの過度な安売り」によって支えられ続けることには限界があります。

1,067円の定食の美味しさに感動し、その企業努力に深く敬意を抱くと同時に、私は思います。この素晴らしい品質と努力に対して、働く人々に適正な対価が還元される社会であってほしい、と。

美味しさと安さに感謝するだけで終わらせず、その裏にある構造を捉え直すこと。それが、フランスから一時帰国中の私が、「かつや」の定食から受け取った問いでした。

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