芋出し画像

二぀の「たった䞀぀のもの」

 ã€€ç›®ã®å‰ã«ã„る猫、目の前にある愛読しおいる本――そんなふうに誰にでも掛け替えのない存圚があるず思いたす。

 存圚ず蚀いたしたが、人、生き物、無生物、党郚ひっくるめおの話です。

 掛け替えのない「たった䞀぀のもの」が、「猫」ずか「本」ず呌ばれおいるし、文字にもされおいたす。

 掛け替えのない「たった䞀぀のもの」に、䞀本化された「たった䞀぀のもの」が圓おられおいる。そんなふうにも蚀えそうです。

 これは蚀葉を぀かう以䞊、臎し方ないこずだず思いたす。

 蚀葉は誰にずっおも生たれたずきに既にあったものだからです。それを誰もが真䌌お孊んできたのですから。

 蚀葉は誰にずっおも借りたもの、借り物、仮のもの、ずりあえず仮そめのものだず蚀えたす。

     

「猫」は猫ではなく、猫に䌌おもいないのに、猫ずしおたかり通っおいる。

「猫」ずいう文字は猫ではなく、猫に䌌おもいないのに、猫ずしおたかり通っおいる。

「猫」ずいう文字や蚀葉音声は、珟実にある掛け替えのない䞀぀ひず぀の存圚にくらべるず、空っぜの蚘号なのだずも蚀えるでしょう。

 具象に抜象を、有に無を、色に空を、実に虚を、圓おおいるのですから。

「ねこ・neko」ずいう音声は、発せられたずたんに、泡のように消えるではないですか。

「猫」ずいう文字は、玙や薄い画面に茉っかるくらいですから、薄っぺらいものにちがいありたせん。

     

 蚀葉は誰にずっおも借り物だずいうのは、蚀葉は共有物だず蚀い換えるこずができたす。

 みんなが、各人の掛け替えのないものを、みんなが口にする蚀葉で呌んでいる。

 自分が口にするものをみんなで口にしお共有するのですから、歯ブラシやマスクを共有するのず同じです。

 冗談はさおおき、掛け替えのない「たった䞀぀のもの」に、䞀本化された「たった䞀぀のもの」が圓おられおいるずいう蚀葉のありように、ささやかながらも抗う方法がありたす。

 前回の「音声ずしお立ち珟れるもの、文字ずしお立ち珟れるもの」ずいう蚘事で取りあげた、唱歌「故郷ふるさず」䜜詞高野蟰之、䜜曲岡野貞の歌詞をご芧ください。

 この歌詞に、掛け替えのない「たった䞀぀のもの」に、䞀本化された「たった䞀぀のもの」が圓おられおいるこずを回避するための方法が、蚀葉のありうようずしお立ち珟れおいるのです。

兎うさぎ远おいしかの山
小鮒こぶな釣りしかの川
倢は今もめぐりお
忘れがたき故郷ふるさず

劂䜕いかにいたす父母
恙぀぀がなしや友がき
雚に颚に぀けおも
思い出ずる故郷

     

 方法は二぀ありたす。

 䞀぀は、歌詞の冒頭に反埩されおいる「かの」です。

「かの」はたった二語で二音ですが、衚珟が凝瞮された詩では看過できない圹割をになうこずがありたす。

 䞀本化された「山」ず「川」に「かの」をかぶせるこずによっお、自分にずっお掛け替えのない「かの山」ず「かの川」ぞず転じる。冒頭の二行にはそんな技巧が感じられたす。

 技巧ずいうず語匊がありたすが、時間的にも空間的にも隔たった掛け替えのないものぞの思いが蟌められおいるずいう蚀い方もできるでしょう。たさに「巧たずしお巧む」ずいう感じです。

「かの」は「あの」ですが、「圌の」ずも曞けたす。「圌岞ひがん」の「圌」です。はるかかなた、はるか向こうずいうむメヌゞでしょうか。

「かの山」、そしお「かの川」で終わる行に続けお「倢は今もめぐりお」が来たす。「圌の」ず「倢」が、隔たりを共通項にしお呌応する展開の仕方が芋事で、私は奜きです。

 そう蚀えば、「この」は「歀の」ずも曞けたす。同様に「ここ」は「歀凊」ずも曞け、「圌岞」の察極である「歀岞しがん」の「歀」でもありたす。

 倢は、ある意味圌岞です。「あの䞖」なのです。倢は毎日蚪れる「向こうの䞖界」だず私は思っおいたす。リハヌサルずも蚀えるでしょう。

 話が逞れそうになっおきたので、前に進めたす。

     

 もう䞀぀は、二番の出だしにある「父母」です。

「劂䜕いかにいたす父母」ずいう䜓蚀止めは、呌び掛けにも読めたす。呌び掛けず取るず、固有名詞な甚法だず蚀えそうです。

 人や生き物や無生物を固有名詞で呌ぶこずは、盞手や察称を掛け替えのないものずしお、呌び掛ける、さらには話し掛けるこずに通じたす。

 もっずも、固有名詞ず蚀っおも䞇胜ではなく、同名や同姓同名がありたすけど、蚀葉が誰にずっおも借り物であり仮そめのものでもある以䞊、莅沢は蚀えたせん。

こころざしをはたしお
い぀の日にか垰らん
山はあおき故郷
氎は枅き故郷

 この歌詞の「父母」だけでなく、「故郷ふるさず」も固有名詞的に぀かわれおいるように私は思いたす。

 䞀番で䞀回、二番で䞀回、䞉番で二回ず、連呌されおいるからです。英語なら倧文字になる感じです。

 英語ず蚀えば、別の歌を思いだしたした。

     ◆

 思いだしたのは、サむモンずガヌファンクルSimon & Garfunkelの「Homeward Bound」です。邊題が「早く家ぞ垰りたい」。か぀お故郷を離れおいた孊生時代の自分にすっず心が飛びたす。

 私はポヌル・サむモンの詩が奜きです。「巧たずしお巧む」ような機知を感じるこずがしばしばありたす。

     

 タむトルの homeward bound ずいうフレヌズが出おくるずころを芋おみたしょう。

And every stranger's face I see
Reminds me that I long to be
Homeward bound
I wish I was
homeward bound

 long to be ずいう切望を衚わす動詞ず、 I wish I was ずいう珟実ではない状態を述べる仮定法過去が、「故郷ふるさず」の「倢は今もめぐりお」ず通じる気がしたす。切なくお奜きな箇所です。

 现かいこずですが、to be ず was に、今は I am homeward bound では「ない」事実があらわれおいたす。Homeward bound ずいうタむトルのこの詩は、今自分は駅にいるず歌い出しながら、 homeward bound では「ない」ずくり返し歌っおいるのです。

     

「である」ず「でない」ずの隔たりが、この詩のテヌマだず蚀えるかもしれたせん。その隔たりのテヌマが railway station ずいう堎所ず呌応するかのようです。

 駅や空枯は、空間的な隔たり距離、時間的な隔たり蚘憶、珟実ず倢想ずの隔たり乖離などが重なっお、そこにある堎ではないでしょうか。

 Homeward bound は詩ずしお優れおいるず思いたす。歌詞党䜓を芋るずわかりたすが、随所で緩やかに韻を螏んでもいたす。音読しお快いずいうこずでしょう。

Home, where my thought's escaping
Home, where my music's playing
Home, where my love lies waiting

 呌び掛けるようにしお歌う Home に固有名詞を感じたす。歌詞を文字で芋るず、行頭なので倧文字になっおいたすが、そうでなくおも固有名詞的な甚法ではないかずいう意味です。

 私には、Home ずいうずころが Mom に聞こえおなりたせん。

     

 ふるさず、くに、いなか、さず、うち、いえ――ず同じように普通名詞ず考えれば特定の堎所を指しおいるわけではありたせんが、だからこそ、各人が自分だけの思いを重ねるこずができる蚀葉なのではないでしょうか。

 誰もが持っおいるにちがいない掛け替えのない「たった䞀぀の蚀葉」なのです。

#思い出の曲 #歌詞 #音声 #文字 #名詞 #固有名詞 #高野蟰之 #岡野貞 #サむモンずガヌファンクル #ポヌル・サむモン #英語


この蚘事が参加しおいる募集