見出し画像

なにが”絶滅”しようとしているのか|杉本博司 絶滅写真(東京国立近代美術館)

今回は、東京国立近代美術館で9月13日(日)まで開催されている「杉本博司 絶滅写真」についてご紹介します。

▼ 展覧会の様子はこちら ▼



展覧会概要

写真、建築、舞台芸術の演出など、ジャンルを越えて活動を続ける現代美術作家、杉本博司。その活動は、国内にとどまらず、ヨーロッパの各都市やニューヨークへも広がっています。
そんな多彩な杉本の芸術の原点には、銀塩写真にあります。彼独自のコンセプトのもと表現された作品は、銀塩写真ならではの表現を極限まで追求しています。
写真がデジタル化し、簡単に撮れる今、銀塩写真はまさに「絶滅が危惧される」ものと言えます。

杉本博司《Opticks 087》2025年 タイプCプリント 119.4×119.4cm © Hiroshi Sugimoto / Courtesy of Gallery Koyanagi

本展では、杉本の初期(1970年代後半)から現在に至る銀塩写真 約60点 を公開し、3つの章、全13シリーズにより、時系列に沿ってその作品世界の展開をたどります。写真作品で構成する美術館での個展は、国内では2005年の森美術館以来、約21年ぶりの開催となります。さらに、所蔵品ギャラリー3階にて東京国立近代美術館所蔵の杉本作品全点、また制作の秘密を明かす未公開資料「スギモトノート」も展示されます。

「スギモトノート」
写真作品制作における、撮影時および暗室での作業工程の覚書を記したノート。1970年代半ばより記録は始まる。

みどころ

初期代表シリーズ〈ジオラマ〉の新作はじめ世界初公開作品も多数

杉本博司《スタイアライズド・スカルプチャー 120[クリスチャン・ディオール、Bar、1947]》2025年 ゼラチン・シルバー・プリント 149.2×119.4cm © Hiroshi Sugimoto / Courtesy of Gallery Koyanagi
杉本博司《ポコット族》2025年 ゼラチン・シルバー・プリント 119.4×185.4cm © Hiroshi Sugimoto / Courtesy of Gallery Koyanagi

本展では、杉本博司の初期代表作品で知られる〈ジオラマ〉〈海景〉のシリーズ、そして〈スタイアライズド・スカルプチャー〉〈Qpticks〉において、初公開となる新作が公開されます。特に、杉本のデビュー作として知られる〈ジオラマ〉では、《ポコット族》などの新作を通して、半世紀をかけて構想された人類史の物語が初めて提示されます。

“絶滅”をめぐって

杉本博司《U.A. プレイハウス、ニューヨーク》1978年 ゼラチン・シルバー・プリント 119.4×149.2cm © Hiroshi Sugimoto / Courtesy of Gallery Koyanagi
杉本博司《カリブ海、ジャマイカ》1980年 ゼラチン・シルバー・プリント 119.4×149.2cm © Hiroshi Sugimoto / Courtesy of Gallery Koyanagi

本展のタイトルでもある「絶滅写真」。銀塩写真というメディアの終焉と自らの作家活動の終幕を見すえて生まれた主題です。しかし、本展が問いかける“絶滅”はそれだけではありません。それでは一体何が絶滅しようとしているのでしょうか。半世紀にわたり写真表現を追究してきた杉本博司の歩みを通して示される「絶滅」という主題にご注目ください。

member's pick

私たちリムゼは、開幕前日のメディア内覧会を取材しました。ここからは実際に鑑賞して印象に残った作品をご紹介します。

pick 1

《パレス・シアター、ゲーリー 》2015年
© Hiroshi Sugimoto / Courtesy of Gallery Koyanagi

最初に紹介するのは『廃墟劇場』です。
この作品は映画の上映中ずっとシャッターを開いたまま撮影されており、映画の全ての場面が重なることでスクリーンが白く写し出されています。劇場シリーズの中でも私はこの作品に特に惹かれました。
人の姿はなく建物も朽ちていますが、スクリーンだけは今も光を放っています。その光を見ていると、まるで別の時間へ続く入口のように感じられました。作品解説によると、このスクリーンにはディズニー映画「白雪姫」が投影されています。私はその光の中に吸い込まれ、映画の世界や過去の時間へ行けるような感覚を覚えました。

杉本博司は写真を「タイムマシン」と表現していますが、この作品はまさに時間を超える体験を与えてくれる作品だと感じました。

pick 2

《スペリオル湖、カスケード川》1995年
© Hiroshi Sugimoto / Courtesy of Gallery Koyanagi

次に紹介するのは『海景』シリーズです。海と空だけで構成されたとてもシンプルな作品ですが、私はこの作品の白く静かな風景に惹かれました。水平線だけが広がる光景はとても美しく、しばらく見入ってしまいました。
図録を読むと、杉本博司は海景を通して人類が誕生する以前から存在していた時間を見つめようとしていたことが分かります。最初はただ綺麗な風景だと思っていましたが、鑑賞後には古代の人々も同じような景色を見ていたのかもしれないと想像するようになりました。シンプルな作品でありながら、人間と時間の関係について考えさせられる作品でした。

pick 3

《陰翳礼讃 98.0001》1998年
© Hiroshi Sugimoto / Courtesy of Gallery Koyanagi

最後に紹介するのは《陰翳礼讃》です。一本の蝋燭の光だけを写した作品で、写真作品の展示の最後に展示されていました。

「陰翳礼讃」は私もとても好きな言葉なので、タイトルを見つけた時は特に印象に残りました。説明文には「闇を撮ろうと思い、闇を照らす光を撮ることにした」とありましたが、実際に作品を見ていると、蝋燭の光そのものよりも、その周囲に広がる闇の存在を強く感じます。
添えられた「ひかりの粒子ゆらいでは爆ぜ」という言葉の通り、光は静止しているのではなく、生き物のように揺らいでいるように見えました。小さな光だからこそ、その周囲の暗さや静けさが際立ち、とても印象に残った作品です。

感想

廃墟となった劇場や揺らぐ蝋燭の光には、いつか失われてしまうものの美しさがあり、一方で海景には人間の一生を遥かに超えた時間が流れているように思えました。私は写真はその一瞬を記録するものだと思っていましたが、杉本の作品はその一枚の中でも時間を自在に操り、長い時間や記憶を想像させるものでした。

この展覧会のタイトルである「絶滅写真」には、銀塩写真の終焉だけでなく、人類文明の絶滅という二つの意味が込められています。最初はなぜそのようなタイトルなのだろうと不思議でしたが、作品を鑑賞していく中で、時間の流れや物事の有限性というテーマが展示全体を通して一貫していることに気が付きました。

展示を見ながら「諸行無常」という言葉が何度も頭に浮かびました。杉本の作品は過去や記憶を見つめながらも、私たち人間や文明もまた永遠ではないことを静かに問いかけているようでした。(宮本百合香)

開催概要

【 展覧会名 】
杉本博司 絶滅写真
【 美術館名 】
東京国立近代美術館
【 開催期間 】
2026年6月16日(火) - 9月13日(日)
【 開館時間 】
10:00 - 17:00(金・土曜は20:00まで)
*入場は閉館の30分前まで
【 休館日 】
月曜日(ただし7月20日は開館)、7月21日(火)
【 アクセス 】
〒102-8322 千代田区北の丸公園3-1
(Google Maps)
東京メトロ・東西線[竹橋]駅(1b出口より徒歩3分)
東京メトロ・東西線・半蔵門線・都営新宿線[九段下]駅(4番出口より徒歩15分)
東京メトロ・半蔵門線・都営新宿線・三田線[神保町]駅(A1出口より徒歩15分)

画像提供:東京国立近代美術館

リムゼへのコメント

最後まで読んでくださりありがとうございます★
ぜひ読んでくださったご感想・ご意見をお聞かせください :)

next ▶︎▶︎▶︎
こちらも併せてぜひ!次回もお楽しみに〜

いいなと思ったら応援しよう!