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『海軍四等兵衞生參考書』昭和十四年四月 海軍省教育局(1/3)


海軍四等兵衞生參考書

緖言

 軍隊ノ生命タル戰闘力セントウリョクハ武器ノ精巧セイコウナルヨリモ寧ロムシロ兵ノ勇敢ユウカンツ、勇敢ナル精神ハ精力セイロク旺盛オウセイナル肉體ニクタイ宿ルヤドル、故ニ兵ハ常ニ各自ノ健康ケンコウ保持增進ホヂゾウシンニ心掛ケザルベカラズ、之ヤガテ國家ニ對スル御奉公ノ第一步ナリ。
 如何ニセバ健康ヲ保持ホヂシ增進シ得ルカ居常キヨジャウ身體被服居住ヲ清潔セイケツニシ飮食ニ注意シ諸慾ショヨクセイシテ身神ノ鍛錬タンレンツトムルニアリ。
 精神ノ鍛錬ニハ五箇條ノ聖訓セイクン奉戴ホウダイシ起居之ヲ念ズレバ足リ身體ノ鍛錬ニハ日課ヲハゲメバ可ナリ、故ニ本參考書ニ於テハ身體被服居住ノ淸潔ト飮食ノ注意及諸慾ノ制御セイギョヲ說キアハセテ日常須知シユチノ病氣及咄嗟トツサ傷病シヨウビヨウニ對スル應急處置オウキユウシヨチヲ教ユベシ。

【現代語訳】
 軍隊の生命である戦闘力は、武器の精巧さよりも、むしろ兵士の勇敢さに依るところが大きい。そして、勇敢な精神は精力旺盛な肉体に宿るものである。したがって、兵士は常に各自の健康の保持増進に心掛けなければならない。これこそが、やがて国家に対する御奉公の第一歩となるのである。
 どのようにすれば健康を保持し増進できるかといえば、それは普段から身体、衣服、居住区を清潔にし、飲食に注意し、さまざまな欲望を抑えて、心身の鍛錬に励むことにある。
 精神の鍛錬においては、五箇条の聖訓を奉戴し、日常生活の中で常に念頭に置いていれば十分であり、身体の鍛錬においては、日々の訓練や日課に励めばよい。それゆえ、本参考書においては、身体、衣服、居住区の清潔と飲食への注意、および諸欲の制御について説き、あわせて日常的に知っておくべき病気や、とっさの負傷・病気に対する応急処置を教えるものである。

第一章 身體ノ淸潔

(手足ト口ト尻ハ不潔トナリ易シ)
 健康ケンカウ淸潔セイケツハ形ト影トノ如シ、身體常ニ不潔フケツナルモノハ何時カハ健康ヲ損ジソンジ病ヲ得、就中ナカンヅク注意スベキハ皮膚ヒフ、口、陰部インブ肛門コウモン、手足トス。

【現代語訳】
(手足と口と尻は不潔になりやすい)
 健康と清潔は、表裏一体、形と影のようなものである。身体がいつも不潔な者は、いつかは健康を損なって病気になる。とりわけ注意すべきなのは、皮膚、口、陰部、肛門、手足である。

(毎朝齒ヲ磨ケ)
 毎朝起床ノ時齒楊子ハヤウジト齒磨粉ヲ以テオモテヨリウラヨリタテニ橫ニ充分ニミガキテ、淸潔ナル冷水ニテ口中ヲススギ淸メ、頭部ヅブ顏面ガンメン頸部ケイブヲ水ト石鹼ニテヨク洗フベシ、事業ヲ終リタル時行軍ヨリ歸リタル時モ亦顏ト手足ヲヨク洗フベシ、使用シタル齒楊子手拭ハ後ニテヨク洗ヒ水ヲ切リテカハカスベシ、決シテ他人ノ物ヲ使用スベカラズ。

【現代語訳】
(毎朝歯を磨け)
 毎朝の起床時には、歯揚子(歯ブラシ)と歯磨き粉を使って、歯を表からも裏からも、縦にも横にも十分に磨いて、清潔な冷水で口の中をすすぎ清め、頭部、顔面、首回りを水と石鹸でよく洗いなさい。作業を終えた時や、行軍から帰ってきた時もまた、顔と手足をよく洗いなさい。使用した歯揚子や手ぬぐいは、後でよく洗って水を切り、乾かすべきである。決して他人の物を使用してはならない。

(湯ニ入ル前ニ指趾ノ間ト尻ヲヨク洗へ)
 入浴ハ毎週二三回ナルヲ適當テキタウトス、入浴ノ際ハ先ヅ石鹼ト湯ニテ丁矃テイネイニ陰部肛門ト手足指趾シシノ間ヲ洗ヒタル後ニ浴槽ヨクソウニ入ルベシ、然ラザレバ浴槽ノ水ヲゴシ傳染性デンセンセイノ病ヲ同僚間ドウリヨウカン撒蔓サンマンセシムル危險キケンアリ、身體ウルホアタタマリルトキハ浴槽外ニテ石鹼ヲ充分ニ手拭ニリテ全身クマナク丁矃ニ迅速ヂンソク摩擦マサツシタル後湯ヲカブリテ石鹼ノ泡沫ハウマツ汚垢ヲコウヲ洗ヒ流シ全身ヲ拭ヒ乾カシ着衣スベシ身濕ヒタルママ衣服ヲクルハ宜シカラズ。

【現代語訳】
(湯に入る前に指趾の間と尻をよく洗え)
 入浴は毎週二、三回とするのが適当である。入浴の際は、まず石鹸と湯で丁寧に陰部、肛門、そして手足の指と趾(足のゆび)の間を洗った後に浴槽に入りなさい。そうでなければ浴槽の水を汚してしまい、伝染性の病気を同僚の間に蔓延させる危険がある。身体が潤い温まったときは、浴槽の外に出て石鹸を十分に手ぬぐいに塗って、全身くまなく丁寧に、かつ迅速にこすり洗いをした後、湯をかぶって石鹸の泡と垢を洗い流し、全身を拭いて乾かしてから衣服を着なさい。身体が濡れたまま衣服を着ることは、よろしくない。

(湯ノ中デ口ト頭ヲ洗フナ)
 入浴中浴湯ニテ口ヲススグ勿レ、頭髮トウハツ顔面ハアガ又ハ冷水ヲ用ヒ石鹼ニテ
ヨク洗フベシ。
 手拭ハ丁矃テイネイニ洗ヒ淸メテカタクシボリ乾燥カンソウセシムベシ。

【現代語訳】
(湯の中で口と頭を洗うな)
 入浴中、浴槽の湯で口をすすいではならない。髪の毛と顔面は、上がり湯または冷水を用い、石鹸でよく洗いなさい。
 手ぬぐいは丁寧に洗い清めて、固く絞り、乾燥させること。

(食卓番ト烹炊員ハ手ヲヨク洗フコト)
 手指ハ汚レ易キヲ以テ度々洗フベシ、特ニ飮食物ヲ取扱フ者ハ其ノ前ニ丁寧ニ洗ヒ淸メ後消毒スルヲ要ス。

【現代語訳】
(食卓番と烹炊員は手をよく洗うこと)
 手の指は汚れやすいので度々洗いなさい。特に飲食物を取り扱う者は、その前に丁寧に洗い清めた後、消毒することが必要である。

(爪ハ短カク)
 ツメハ浴後尙ヤワラカキ間ニ短ク切リ取ルベシ、爪ヲ延ビタル儘ニ放置ホウチスレバウラ不潔物フケツブツ集積シユウセキシ黑色ヲテイス、加之シカモノミナラズ作業中怪我ケガマネヤスシ。

【現代語訳】
(爪は短く)
 爪は入浴後のまだ柔らかい間に短く切りなさい。爪を伸びたままにして放置すると、その裏に不潔な物が溜まって黒くなり、それだけでなく作業中に怪我を引き起こしやすくなる。

(五分刈ハ頭腦ヲ良クス)
 頭髮ハ五分刈トシ毎朝洗面時冷水ニテ洗フベシ、頭腦ヅノウ明晰メイセキナラシメ意志イシ強固キヨウコナラシム、長髮ニハ此ノ便利ナク、且手入ニ困難ナル爲不潔ニオチヤスシ。
 理髮リハツノ際ハ耳鼻ジビアナル勿レ、其ノ毛ハ外敵防禦グワイテキバウギヨ天然物テンネンブツナレバナリ。

【現代語訳】
(五分刈りは頭脳を良くする)
 髪の毛は五分刈りとし、毎朝の洗面の時に冷水で洗うこと。これは頭脳を明晰にし、意志を強固にする。長髪にはこのような利点がなく、しかも手入れが困難であるために不潔に陥りやすい。
 理髪の際には、耳や鼻の穴の毛を剃ってはならない。その毛は外敵(チリや細菌など)を防ぐための天然の防壁だからである。

(髭ヲ逆剃リスル勿レ)
 鬚髯シユゼンハ石鹼ト湯ヲ以テ軟カニシタル後ルベシ、可成ナルベク自身ニテ剃ルヲヨシトス、逆剃サカゾリハ宜シカラズ、又若キ人ニ普通ナル痤瘡ニキビヲ切ルベカラズ、共ニ丹毒タンドクノ如キオソルベキヤマヒマネク事アレバナリ。

【現代語訳】
(髭を逆剃りする勿れ)
 ひげは石鹸と湯で柔らかくした後に剃りなさい。なるべく自分自身で剃るのがよく、逆剃り(毛並みに逆らって剃ること)は良くない。また、若い人に特有のニキビを切ってはならない。どちらも丹毒(皮膚の細菌感染症)のような恐ろしい病気を引き起こすことがあるからである。

(脂足ニ水虫生ズ)(水虫ハ早ク癒セ)
 足ハ特ニ不潔トナリ易シ、特ニアセ多キ人ノユビノ間ヲ然リトス、毎日ヨク洗ヒ乾カスベシ、之ヲヲコタルトキハ汗腐敗アセフハイシテ悪臭オシウハナツノミナラズ、趾間爛シカンタダシンヲ生ジハゲシキカユミヲオボゾク水虫ミヅムシト云フモノ之ナリ、水虫生ジタル時ハ速ニ診察ヲモトムベシ、コノ病進行シンカウスレバ難治ナンチトナリ、行軍作業ニ當リ苦痛クツツクカンズルノミナラズ他ノ重キ病ヲ招ク事アリ。

【現代語訳】
(脂足に水虫生ず)(水虫は早く癒せ)
 足は特に不潔になりやすい。特に汗っかきな人の足の指の間はなおさらである。毎日よく洗って乾かすべきであり、これを怠ると汗が腐敗して悪臭を放つだけでなく、指の間がただれて発疹が生じ、激しい痒みを覚える。俗にいう「水虫」がこれである。水虫が生じたときは速やかに診察を受けなさい。この病気が進行すると治り難くなり、行軍や作業の際に苦痛を感じるだけでなく、他の重い病気を引き起こすことがある。

(尻ヲヨク拭へ)
 陰部肛門ハ體内ニ生ゼル不用物ヲ排泄ハイセツスル門ニシテ特ニ不潔ニオチリ易キナリ、故ニ毎用便ヨウベンノ後ハ必ズヤハラカキ日本紙ニテ町矃テイネイ反覆ハンプク之ヲヌグヒテ排泄物ハイセツブツ殘留附着ザンリウフチヤクフセグベシ。

【現代語訳】
(尻をよく拭え)
 陰部と肛門は、体内に生じた不要物を排出する門(出口)であって、特に不潔に陥りやすい場所である。そのため、毎回の用便の後には必ず柔らかい日本紙(ちり紙)で丁寧に繰り返しこれを拭き、排泄物が残って付着するのを防ぐこと。

(常ニ塵紙ヲ持テ)
 事業中等ニ不意フイニ便ヲモヨウス時ハ塵紙チリガミハザル事アルヲ以テ紙ハ常ニ「ポケット」ニ用意スル習慣シフカンヲ養フベシ、上圊時ジヤウセイジ(カハヤニイクトキ)ニ紙ノ持合モチアワセナキ時ホド不都合ナル事ナシ。

【現代語訳】
(常に塵紙を持て)
 作業中などに不意に便意を催したときは、ちり紙が間に合わないことがあるので、紙は常にポケットに用意しておく習慣をつけるべきである。上圊時(トイレに行くとき)に紙の持ち合わせがない時ほど、不都合(無様で困ること)なことはない。

(田虫ハ不潔ニ伴ヒ生ズ)
 身體ノ淸潔充分ナラズ又汗ニテ濕ヒタル襯衣シヤツヲ其ノ儘長ク着用スル時ハ、腋窩エキクワ股間コカンクビ背部ハイブ等ニ銅貨ヲ並ベタル如キ發疹ハツシン(フキモノ)ヲ生ジ、搔痒ソウヨウ甚ダシ、俗ニ田虫ト言フ、放置スレバ全身ニ擴ガリ他人ニ傳染ス、速ニ診療ヲ受クベシ。

【現代語訳】
(田虫は不潔に伴い発生する)
 身体の清潔が不十分であったり、また汗で湿ったシャツをそのまま長く着用していると、わきの下、股間、首、背中などに銅貨を並べたような発疹が生じ、非常に激しくかゆくなる。俗に「タムシ」と言うもので、放置すれば全身に広がり、他人に伝染する。速やかに診療を受けるべきである。

(凍傷)
 寒風ニサラサレ又ハ寒中手足ヲウルホシタル儘ニ置ク時ハ凍傷トウシヨウヲ生ズ、卽チ耳手足赤クレ且カユシ、之ヲ防グニハ其ノ部ヲ乾カシ且摩擦マサツスベシ、若シ治セザレバ速ニ診療ヲ受クベシ。

【現代語訳】
(凍傷)
 寒風にさらされ、または寒さの中で手足を濡らしたままにしておく時は凍傷(しもやけ)を生じる。すなわち耳や手足が赤く腫れ、かつかゆくなる。これを防ぐには、その部分を乾かし、かつ摩擦するべきである。もし治らなければ速やかに診療を受けるべきである。

第二章 衣服ノ淸潔


(窮屈ナル被服ハ災害ヲ招ク事アリ)
 兵ノ衣服ハ旣製キセイノモノヲ官給セラルル故ニ皆ノ者ニ恰好カツコウヨク身體ニ合フトハ限ラズ、サレドクワン(ユルキ)ニ過ギ又ハ餘リ窮屈キユウクツナルモノハ共ニ健康ニ宜シカラズ、エリノ廣サハクビトノ間ニ二本ノ指ヲ通ジ得ルヲ適當トス、ワキ下窮屈シタキユウクツニ過グレバ皮膚ヲ損ジセツヲ生ジ或ハ作業中不測フソク(ハラカザル)ノ災害ヲ招ク。

【現代語訳】
(窮屈な被服は災害を招くことあり)
 兵の衣服は既製品が支給されるため、全員の体にちょうどよく合うとは限らない。しかし、緩すぎたり、またはあまりに窮屈なものは共に健康に良くない。襟の広さは首との間に二本の指を通すことができるのを適当とする。脇の下が窮屈すぎれば皮膚を傷つけて癤(腫れ物)を生じ、あるいは作業中に不測の災害を招く。

(「シャツ」ト「ズボン」下ト靴下トハ度々洗へ)
 身體ニ直接スル被服則チ襦袢ジユバン袴下ハカマシタ皮脂ヒシアセ等ニテヨゴレ易キヲ以テ度々之ヲ交換コウカンスベシ、又作業ノ種類ニヨリテ發汗ハツカン甚シカリシ後ハ其ノ都度之ヲギテ乾カシ、其ノ際身體ヲモ乾キタル手拭ニテ手早ク拭ヒ、乾キタル別ノ肌衣ハダギヲ着スベシ。
 靴下ハ特ニ汚レ易キヲ以テ度々交換スベシ、脂足アブラアシノ人ハ毎日之ヲ替ヘテ洗濯センタクスルヲ可トス。
 被服ノ洗濯ニ當リテハ必ズ充分ニ石鹼ヲ以テ洗ヒタル後、ヨクソソギ上ゲヨク乾カスベシ、特ニ肌衣ハダギ、靴下等ハ洗濯不充分ニシテ脂垢アブラアカ殘ル時又ハ乾燥全カラザル時ハ著シク皮膚ヲ害シ感冒ヲ招ク。
 濕ヒタル衣服ハ室外ニ吊シテ乾カスベシ、室内ニテ乾カス時ハ空氣ヲガシ且室内ノ濕氣ヲ増シ衛生上ヨロシカラズ。

【現代語訳】
(「シャツ」と「ズボン下」と「靴下」は度々洗え)
 体に直接触れる衣服、すなわち襦袢(肌着)や袴下(ズボン下)は皮脂や汗などで汚れやすいため、度々これを交換しなさい。また、作業の種類によって発汗が激しかった後は、その都度これを脱いで乾かし、その際、体も乾いた手ぬぐいで手早く拭き、乾いた別の肌着を着るべきである。
 靴下は特に汚れやすいため、度々交換するべきである。脂足の人は毎日これを替えて洗濯してもよい。
 被服の洗濯に当たっては、必ず十分に石鹸をもって洗った後、よくすすぎ、よく乾かしなさい。特に肌着や靴下等は、洗濯が不十分で皮脂汚れが残る時、または乾燥が完全でない時は、著しく皮膚を害し風邪(感冒)を招く。
 湿った衣服は室外に吊るして乾かすべきである。室内にて乾かす時は、空気を汚し、かつ室内の湿気を増して衛生上良くない。

(刷毛ハ外ニテカケヨ)
 衣服ハ時々刷毛ハケニテ塵埃ジンアイ(ホコリ)ヲ去ルベシ、毛織物ハ特ニ塵埃ヲフクミ易キヲ以テ之ヲ怠ルベカラズ、刷毛ハ必ズ室外ニテカケヨ、然ラザレバ室内ノ空氣ヲガス事大ナリ。

【現代語訳】
(ブラシは外でかけなさい)
 衣服は時々ブラシ(刷毛)にて塵埃(ほこり)を払い落としなさい。毛織物は特に塵埃を含みやすいため、これを怠ってはならない。ブラシは必ず室外にてかけるべきである。さもなければ室内の空気を汚すことが大きい。

(ドンナ靴ガヨキカ)
〔靴〕歩行ノ際足ハ常ニ前方ニスベリ動クモノナルヲ以テ、靴ノ大キサハ拇趾ボシ(オヤユビ)ノサキヨリ凡ソ三四分位ノ餘裕ヨユウアルヲ適當トス、足尖アシサキハバ廣クシテ各趾ヲ壓迫セザルモノヲエラブベシ、甲低コウヒクキニ過グル靴ハ足背ニ靴傷クツシヨウ(クツヅレ)ヲ生ジ其ノ高キニ失スルモノハ足蹠ソクセキ(アシウラ)ヲキヅツケ易シ。

【現代語訳】
(どんな靴が良いか)
〔靴〕歩行の際、足は常に前方へ滑り動くものであるため、靴の大きさは足の親指(拇趾)の先からおよそ三、四分(約9〜12ミリ)ほどの余裕があるものを適当とする。つま先(足尖)の幅が広く、各指を圧迫しないものを選ぶべきである。甲が低すぎる靴は足の甲に靴擦れ(靴傷)を生じ、高すぎるものは足の裏を痛めやすい。

(靴傷ト其ノ豫防法 靴ノ手入)
 靴ハ時々油ヲ塗リテ磨クベシ、之レカワ柔軟ジユウナン(ヤハラカ)ニ保ツ爲ナリ、特ニ雨天ノ時ニ穿ウガチタルモノハ適宜ニ乾キタル後ニ充分ニ油ヲ塗ルヲ要ス。
 行軍時等ニ靴傷ヲフセグニハ靴下ニシワナキ樣ニ注意シ休憩ノ時ハ靴ヲ脫ギテ靴下ヲ穿キ直シ趾ノ間ヲ紙ニテ拭ヒ乾カスベシ、出來得レバ乾キタル靴下ト穿キ更フベシ。
 靴傷生ズレバ皮膚赤クナリ又ハ水疱スイホウヲ生ズ、速ニ軍醫官ノ診療ヲ乞フベシ。

【現代語訳】
(靴ずれの予防法、靴の手入れ)
 靴は時々油を塗って磨きなさい。これは革を柔軟に保つためであり、特に雨天の時に履いたものは、適宜乾いた後に十分油を塗る必要がある。
 行軍時などに靴擦れを防ぐには、靴下に皺がないように注意し、休憩の時は靴を脱いで靴下を履き直し、足の指(趾)の間を紙で拭いて乾かしなさい。できれば乾いた靴下と履き替えること。
 靴擦れが生じれば皮膚が赤くなり、または水ぶくれ(水疱)を生じる。速やかに軍医官の診療を乞うべきである。

(釣床ノ注意)
 釣床ヲ疊ムニ當リテハ靜ニ毛布ノ塵ヲ拂フベシ、釣床ハ毎週一囘晴天ノ日ヒロゲテ日光ニサラシタル後ヨク毛布ノ塵ヲ拂フベシ、釣床中ニ汚レタル靴下、褌等フンドシトウヲ包ミ置クベカラズ。

【現代語訳】
(釣床の注意)
 ハンモック(釣床)を畳むに当たっては、静かに毛布のほこりを払い落とすこと。ハンモックは毎週一回、晴天の日に広げて日光に当てた後、よく毛布のほこりを払いなさい。ハンモックの中に汚れた靴下やふんどしなどを包み置いてはならない。

第三章 居室ノ清潔

(毎日室ヲ掃除セヨ)
 居室ハ常ニ整頓シ塵埃ジンアイ(ホコリ)ナキヲ要ス、然ラザレバ空氣不潔トナリ衛生ニ害アリ、軍艦ノ如クセマキ室内ニ多人數密集ミツシウスル所ニ於テハ特ニ然リトス。
 室内ハ毎日規則正シク掃除ソウジスベシ、先ヅ窓戶マドトヲ開放シホウキニテ靜カニ隅々スミズミキテ塵ヲ去リ戶、障子、窓、棚等ハ雑巾ゾウキンニテ拭フベシ、使用シタル雑巾ハヨク洗ヒ日光ニテカワカスベシ。

【現代語訳】
(毎日部屋を掃除せよ)
 居室は常に整頓し、塵埃(ほこり)がないようにする必要がある。さもなければ空気が不潔となり衛生に害がある。軍艦のように狭い室内に多人数が密集する場所においては、特にそうである。
 室内は毎日規則正しく掃除するべきである。まず窓や戸を開放し、ほうきにて静かに隅々まで掃いてほこりを無くして、戸、障子、窓、棚などは雑巾で拭きなさい。使用した雑巾はよく洗い、日光にて乾かすべきである。

(毎週大掃除ヲナセ)
 毎週一囘室内ノ大掃除ヲ行フベシ、卽チ諸移シヨイ動物ドウブツヲ持チ出シ釣床、衣囊等ハキテ日光ニサラシ室内ヲ根本的ニキテヌグヒ、乾キタル後ニ諸移動物ヲ復舊フクキウスベシ。

【現代語訳】
(毎週大掃除をせよ)
 毎週一回、室内の大掃除を行うこと。すなわち、すべての移動できる物(諸移動物)を持ち出し、ハンモック(釣床)や衣嚢(衣服を入れる麻のバッグ)などは解いて日光に当て、室内を根本的に掃いて拭き、乾いた後にそれらの移動物を元に戻しなさい。

(戸ヤ窓ヲ開ケル時ト締メル時)
 室内掃除ノ際及毎夜就寢前暫時ザンジノ間窓戶ヲ開放カイホウシテ新鮮シンセンナル空氣ヲミチビクベシ、温暖ナル季節ニ於テハ終日窓ヲ開放スルヲヨシトス、又冬季ニ於テモ講話等ノ如ク多人數密集スル場合ハ時々窓ヲ開キテ新鮮ナル空氣ヲムカフル要アリ。

【現代語訳】
(戸や窓を開ける時と閉める時)
 室内掃除の際、および毎夜の就寝前のしばらくの間は窓や戸を開放して新鮮な空気を引き入れなさい。温暖な季節においては終日窓を開放するのがよい。また冬季であっても、講話などのように多人数が密集する場合は、時々窓を開けて新鮮な空気を取り入れる必要がある。

(隙間風ヲ防ゲ)
 戸窓等ノ隙間スキマヨリ漏レ入ル空氣ノ流ヲ賊風ゾクフウト云フ、休憩キユウケイ特ニ睡眠スイミン中此ノ風ニアタル時ハ感冒》、「レウマチス」、|胸膜炎《キヨウマクエン等ノ恐ルベキ疾病ヲ招ク事アリ、故ニ戸窓ヲ閉デル時ハ密閉ミツペイスベシ。
 レタル衣服、ヨゴレタル衣服ヲ室内ニ放置スルハ著シク空氣ヲヨゴス、室内ニテ喫煙キツエンスルモ亦然リ。

(隙間風を防げ)
 戸や窓などの隙間から漏れ入る空気の流れを「賊風」と言う。休憩時、特に睡眠中にこの風に当たると、風邪や「リウマチ」、胸膜炎などの恐るべき疾病を招くことがある。そのため、戸や窓を閉めるときは密閉しなさい。

(濕手拭ト濕衣服)
 手拭ハ風通シ良キ場所ニクベシ、ナルベク室内ニ置カザルヲ宜シトス、又手拭ノ貸借タイシヤクヲナスベカラズ。爲ニ「トラコーマ」其ノ他ノ傳染ヲナス事アリ

【現代語訳】
(濡れた手ぬぐいと濡れた衣服)
 湿った衣服や汚れた衣服を室内に放置することは、著しく空気を汚す。室内で喫煙するのもまた同様である。
 手ぬぐいは風通しの良い場所に掛けるべきである。なるべく室内に置かないようにするのがよい。また、手ぬぐいの貸し借りは絶対にしてはならない。それによって「トラコーマ(細菌性の眼病の一つ)」その他の伝染を引き起こすことがあるからである。

(唾ヲ吐キ散ラスナ)
 痰唾タンツバハ必ズ備付ノ痰壺タンツボクベシ、床上、甲板、庭園等ニ吐クベカラズ。

【現代語訳】
(唾を吐き散らすな)
 痰や唾は、必ず備え付けの痰壺に吐きなさい。床上、甲板、庭園などに吐いてはならない。

(家ノ周リノ下水ト塵)
 兵舎ノ周圍モ亦常ニ整頓掃除スベシ、兵舎ノ周圍不潔ニシテ塵埃、汚水オスイ停滞テイタイ(トドコホル)スレバ空氣不淨フジヤウトナリ、ハイノ如キ病ヲ媒介バイカイスル昆虫發生シ折角室内ノミ整頓スルモ更ニ其ノ甲斐カイナキニ至ルベシ。

【現代語訳】
(家の周りの下水とゴミ)
 兵舎の周囲もまた、常に整頓し掃除しなさい。兵舎の周囲が不潔で、塵埃や汚水などが溜まっていると、空気が不浄となり、ハエや蚊のような病気を媒介する昆虫が発生する。そうなれば、せっかく室内だけを整頓しても全くその甲斐がなくなってしまう。

(便所ノ戸ハ必ズ締メヨ)
 便所ノ戸窓ハ常ニ閉鎖スベシ、開放スル時ハ蠅ノ浸入シンニユウト發生ヲサソフ、陸上ノ便所ニテハ其ノ汲取口クミトリグチ密閉ミツペイシ置クベシ。
  浴室ハ浴後隅々マデ洗ヒ流シ窓ヲ開キテ充分ニ乾燥セシムベシ。

【現代語訳】
(便所の戸は必ず閉めよ)
 便所の戸や窓は常に閉鎖しなさい。開放するときはハエの侵入と発生を誘うことになる。陸上の便所においては、その汲み取り口を密閉しておくこと。
 浴室は入浴後、隅々まで洗い流して窓を開き、十分に乾燥させなさい。

(主計兵ハ注意セヨ)
 烹炊所ハウスイシヨハ最モ整頓ヲ尙ブ、肉、魚ヲ受取リタル時ハ速ニフタアル容器ニ取リ、持込ミタル容器ハ洗ヒテ乾カスカ又ハ海水中ニシタシ或ハハイノ入ラヌ所ニ格納カクノウスベシ、又食事ノ調理テウリ中使用セル道具(俎庖丁等迄モ)ハ用濟次第洗ヒキヨメ乾カスベシ。
 出來上レル食餌シヨクジ(タベモノ)ハ速ニ網戶棚アミドダナニ入レ蠅ノタカラヌ樣ニスベシ、殘飯容器ニハ必ズ密蓋フタヲ備フベシ。

【現代語訳】
(主計兵は注意せよ)
 烹炊所(厨房)は最も整頓を尊ぶ。肉や魚を受け取った時は、速やかに蓋のある容器に移し、納品時の容器は洗って乾かすか、または海水中につけるか、あるいはハエの入らない場所に格納しなさい。また、食事の調理中に使用した道具(まな板や包丁等にいたるまで)は、用が済み次第、洗い清めて乾かすこと。
 出来上がった食事は速やかに網戸棚に入れ、ハエがたからないようにしなさい。残飯の容器には必ず密閉できる蓋を備えること。

第四章  飮食ニ關スル注意

(海軍兵食ハ日本一)
 海軍ノ兵食ハ多年ノ研究ニ依リテメラレタルモノニシテ各種食品ノ配合ハイゴウ邦人ノ健康ニ適當シ、特ニ我邦ノ風土病フウドビヨウタル脚氣カツケノ豫防ニ絶大ノ効アリ、其ノ分量ノ少キ爲新兵ハ當初一、二箇月ノ間ハ空腹クウフクカンズルモ、滋養分ジヨウブンノ充分ナルハ日ニ々々體重ヲ増加スルニヨリテ明カナリ、但シ區々ククノ生活ニ慣レタル多數ノ人々が入團後ハ、スナハチ一變シテ一樣ノ材料ト味加減トハ必ズシモ萬人ノ嗜好シコウニ合スルトハ限ラズ故ニ兵ハ當初ニ力メテ兵食ニ慣レザルベカラズ

【現代語訳】
(海軍兵食は日本一)
 海軍の兵食(軍隊の食事)は、長年の研究によって決められたものであって、各種食品の配合は日本人の健康に適当であり、特に我が国の風土病である「脚気」の予防に絶大の効果がある。その分量が少ないため、新兵は当初の一、二ヶ月の間は空腹を覚えることもあるが、滋養分が十分であることは、日ごとに体重が増加することによって明らかである。ただし、それまで区々(ばらばら)の生活に慣れてきた多くの人々が入団した後は、環境がたちまち一変し、誰もが同じ材料と味付けの食事を摂ることになる。これが必ずしも万人の嗜好に合うとは限らない。ゆえに、新兵は当初、努めて兵食に慣れなければならない。

(間食ヲ謹メ)(飯ハ丸呑ミニスルナ)(無暗ニ湯茶ヲ呑ムナ)
好惡コウアクノ感情ニラレテ與ヘラレタル分量ヲキツセズ、不足ヲ間食カンシヨクニテオギナフガ如キ習慣シユウクワンヲ來セバ將來ノ不便甚シキ而已ノミナラズ健康上ニモ損害少カラズ、食事ハ與ヘラレタル時間ノアラン限リ寬々ユルユル充分ニ咀嚼ソシヤクスベシ、丸呑マルノミハ終ニハ胃腸イチヤウヲ害ス、又食事中湯茶ヲ飮ミ過グベカラズ、多飮ハ消化シヨウカニ宜シカラズ。
 食後ハ含嗽ガイソウ(ウガイ)ヲ行ヒ口中ニ食物ノ殘片ヲ止メザル樣注意スペシ。
 食事終ラバ速ニ後ヲ片付クベシ、殘物アラバ一器ニ集メ食器ハ速ニ洗ヒ淸メタル後規定通リ消毒スペシ。
 食器等ヲ洗ヒタル水ハ下水ニ流スベシ地上ニクベカラズ。
 飮料ハ湯ヲヨシトス生水ハ往々病原體及不潔物ヲフクムヲ以テ飮マザル樣ニツトムベシ。

【現代語訳】
(間食を謹め)(飯は丸呑みにするな)(無暗に湯茶を呑むな)
 好き嫌いの感情に惑わされて与えられた分量を食べず、不足分を間食で補うような習慣をつければ、将来の不便が甚だしいだけでなく、健康上の損害も少なくない。食事は与えられた時間の許す限り、ゆったりと十分に咀嚼しなさい。丸呑みは、最終的には胃腸を害する。また、食事中に湯茶を飲み過ぎてはならない。多く飲むことは消化に良くない。
食後はうがいを行い、口の中に食べ物の残りかすを留めないよう注意しなさい。
食事が終わったら速やかに後片付けをすること。
 残ったものがあれば一つの器に集め、食器は速やかに洗い清めた後、規定通りに消毒しなさい。
 食器などを洗った水は下水に流すべきであり、地上に撒いてはならない。
 飲料水は湯をよしとする。生水は往々にして病原体や不潔物を含んでいるため、飲まないように努めなさい。

(嗜好物)
 嗜好物トハ直接生活上ニハ必要ナラザルモ口舌ヲ樂シマシメ、氣分ヲ轉換テンカンスル効アルモノヲ謂フ。
 茶ハ無害ノ嗜好物ニシテ適量ナレバ、消化ヲ助ケ身神ヲ鼓舞コブスル効アリ、然レドモ其ノキモノハ反對ニ内臟諸器關ノハタラキヲ|妨ゲ消化ヲ害ス。

【現代語訳】
(嗜好物)
 嗜好物とは、直接の生活上には必要ないものの、口を楽しませ、気分を転換する効果があるものを言う。
 茶は無害の嗜好物であって、適量であれば消化を助け、心身を奮い立たせる効果がある。しかし、それが濃すぎるものは反対に内臓諸器官の働きを妨げ、消化を害する。

(酒ハ身神ヲ害ス)
 酒ハ少量ナレバ一時身神シンシン興奮コウフンシ大ニ愉快ユクワイヲ感ゼシム、然レドモ其ノ作用ハ茶ト異リ後ニ反ツテ身神ヲヘシムル害アリ、少量ト雖モ口ニセザルヲ可トス、イワンヤ一時ニ多量ヲ用ヒ又ハ少量ヲ反復ハンプクスルトキハ、ノウヲ害シテ反省ハンセイ教養キヨウヨウ腦力ノウリヨクウシナハシメ諸種ノ失策シツサク犯行ハンコウミチビキ人ノ前途ヲアヤマラシム、今日世上ノ不良ノ徒ハ概ネ當人若ハ兩親ノ飮酒ヘキ(サケノミ)ノ結果ナリ、イマシメザルベケンヤ。

【現代語訳】
(酒は心身を害す)
 酒は少量であれば、一時的に心身を興奮させ、大いに愉快にさせる。しかし、その作用はお茶とは異なり、後になって逆に心身を衰えさせる害がある。そのため、少量であっても口にしないのがよい。ましてや、一度に多量を飲んだり、あるいは少量を繰り返して飲んだりするときは、脳を冒して反省や教養といった脳の力を失わせ、さまざまな失策や犯行に導き、人間の前途を誤らせるものである。今日、世間における不良の輩は、概ね本人またはその両親の飲酒癖の結果である。どうしてこれを戒めずにいられようか。

(煙草ハ目ヲ惡クス)
〔煙草〕旣ニ煙草ニ慣レタル人ニハ作業ニミタルトキ其ノ一服ヲ口ニスレバ大ニ氣分ヲ良好ナラシムルモノナリ、サレドモ煙草ハ元來有害ナル嗜好品ニシテ眼ヲ害シテ視力ヲヨワメ腦ヲ損シテ記憶力キオクリヨクオトロヘシメ又ハイオビヤカス、而モ一度之ニ慣ルゝ時ハ其ノクセ増長シ甚シキニ至リテハ終日煙管ヲ放ツ能ハザルニ至ルマコト厄介ヤツカイナル代物シロモノナリ、初メヨリ之ニ慣レザルヲ安全トス、習慣ノ初期ニアルモノハ速ニ之ヲハイスベシ。

【現代語訳】
(煙草は目を悪くする)
〔煙草〕
 すでにタバコを吸う習慣がある人にとっては、作業に飽きたり疲れたりしたとき、その一服を口にすれば大いに気分を良くしてくれるものである。しかしながら、タバコは本来有害な嗜好品であって、眼を害して視力を弱め、脳を損なって記憶力を衰えさせ、さらに胃と肺を脅かす。しかも、一度これに慣れてしまうと、その悪癖が増長し、ひどいときには一日中パイプを手放せなくなるまことに厄介な代物である。初めからこれに慣れないでおくのが安全であり、習慣の初期にある者は、速やかにこれをやめるべきである。

(飮料ニハ注意セヨ)
淸凉飮料セイリヨウインリヨウ「ラムネ」「サイダー」ノ類ハ本來無害ノモノナレドモ製造者ノ不注意ニヨリテ屢々有害ノモノヲ含ム、故ニ出所ノ明カナラザルモノ及フルキモノハクルヲヨシトス。

【現代語訳】
(飲料への注意)
清涼飲料の「ラムネ」や「サイダー」の類は、本来は無害なものであるが、製造者の不注意によって、しばしば有害なものが混入することがある。ゆえに、出所の明らかでないものや、古いものは避けるのがよい。

(氷水ハ百害アリテ一益ナシ)
 氷水ハ夏季之ヲ飮メバ一時涼ヲ覺ユルモ必ズ胃腸ヲ害シ往々腸「チフス」、赤痢ノ如キ危險ナル疾病ヲ傳播デンパス。
 未熟ノ果物、調理後時ヲ經タル飮食物ハ胃腸ヲ害ス。
 夏季又ハ行軍ノ際カツ(カワキ)ヲ覺ユルニ當リ飮料ノ度ヲ過サザル樣注意スベシ、又食慾ニ任セテ分量ヲ過シ或ハ時ト場所ヲ考ヘズシテ生水ナマミヅ、生物ヲ攝ルハ危險ナリ、コトワザニ曰ク「腹八分目ニ醫者イラズ」又曰ク「口ハ禍ノ門」ト。

【現代語訳】
(氷水は百害あって一利なし)
 氷水は、夏季にこれを飲めば一時的には涼しさを覚えるものの、必ず胃腸を害し、往々にして腸チフスや赤痢のような危険な感染症を伝播する。
 未熟な果物や、調理した後に時間が経った飲食物は、胃腸を害するものである。
 夏季または行軍の際、喉の渇きを覚えたにあたっては、飲料が度を過ぎないよう注意しなさい。また、食欲に任せて食べ過ぎたり、あるいは時と場所を考えずに生水や生ものを摂ることは危険である。ことわざに「腹八分目に医者いらず」と言い、また「口は禍の門」と言う通りである。

第五章  睡眠ニ對スル注意

 睡眠スイミンハ心身ノ疲勞ヒロウ恢復クワイフクシ新ナル活動力クワツドウリヨクヲ得セシム、而シテ睡眠ノ時間ハ七乃至八時間ヲ要シ時刻ハ夕九時頃ヨリアサノ六時頃迄ノ間ヲヨシトス、軍隊ニテハ特別ノ場合ヲ除キテ四季共ニ此ノ時刻ニ此ノ時間ノ睡眠ヲ日課トス、兵ハ睡眠時間中ハ心身ヲ安樂アンラクニシ邪念ジヤネンヲ拂ヒテコゝロヨキ夢ヲ結ブベシ、從來我海兵中ニ往々上陸外出ニ夜ノクル迄市中ヲ彷徨ホウクワウ(サマヨウ)シ又ハ酩酊メイテイ(サケニヨウ)シテ樹蔭路傍ジユインロボウネムル者アリタリ、斯カル兵ハ折角休養ノ爲ニ上陸ヲ許サレナガラ翌朝疲勞ヒロウシテ艦ニ歸リ其ノ日ハ終日作業ニ身ヲ入ル、能ハズ、之ヲ反復スル間ニ技倆ギリヤウノ上達捗々ハカバカシカラズ昇進シヨウシン同輩ドウハイオクツイニハ自暴ジボウニ陥リテ奉公ヲムナシユフシ身ヲ亡ボスニ至レルモノモ尠カラズ。
 晝間作業ノ間ニ隨所ズイシヨニ暫時ノ眠ヲムサボルモノアリ、斯ノ如キハ屢々寢冷ネヒエヲ來シ感冒、下痢其ノ他ノ病ヲ招クヲ以テ戒メザルベカラズ。
 夏季ニ腹部ヲ露シテ眠ルモ又寢冷ネヒエノ因トナル。

【現代語訳】
 睡眠は心身の疲労を回復し、新たな活動力を得させるものである。そして睡眠時間は七ないし八時間を必要とし、時間帯は夜九時頃から朝の六時頃までの間とするのがよい。軍隊においては、特別な場合を除いて四季を通じてこの時間帯に、この時間の睡眠を摂ることを日課としている。兵は睡眠時間中は心身を安楽にし、邪念を払って心地よい夢を結ぶべきである。
 これまで我が海軍の兵士の中に、往々にして上陸外出の際に夜が更けるまで市中をさまよい、あるいは泥酔して木陰や路傍で眠る者がいた。このような兵士は、せっかく休養のために上陸を許されながら、翌朝かえって疲労を増して艦に帰り、その日は終日作業に身を入れることができない。これを反復しているうちに技術の上達も捗々しくなく、昇進もまた同輩に遅れ、ついには自暴自棄に陥って奉公を全うできず、身を滅ぼすに至る者も少なくない。
 昼間、作業の合間にいたるところで一時的な眠りを貪る者がいるが、このような不心得はしばしば寝冷えを引き起こし、風邪(感冒)や下痢、その他の病気を招くため、厳に戒めなければならない。
夏季に腹部を露出して眠るのも、また寝冷えの原因となる。

第六章 性 病

(海軍兵ノ性病ハ軍艦ノ沈没ト同罪ナリ)
 性病トハ痳疾リンシツ軟性下疳ナンセイゲカン黴毒バイドクヲ云フ、花柳界ノ人殆ンド之ニカカラザルモノナシ、故ニ花柳病ノ別名アリ、不潔ナル性交セイコウニ依リテ傳染デンセンスル疾病ニシテ兵力ヲ損スル事甚大ナリ。
 我海軍ニ於テ性病ニカカル兵ノ數ハ既往十箇年ノ平均七、四七五人ニシテ、内入院治療ヲ要セルモノ二、三七一人ナリ、而シテ大正九年度ニ於ケル入院患者患者延數一一二、一六一人及受療患者延數一〇六、八六四人ニ費セル入院竝ニ治療費ハ九萬八千八百四十二圓ニシテ之ニ養兵費ヲ加フルトキハ二十二萬七千二百九十三圓ヲ要シ、更ニ直接性病ノ治療ニ干與カンヨスル軍醫科士官、看護兵ノ給料及養兵費ヲ合算スルトキハ、我海軍ハ毎年約二十五萬圓ノ金額ヲ喪失サウシツシツゝアルナリ。

【現代語訳】
(海軍兵の性病は軍艦の沈没と同罪なり)
 性病とは、淋病、軟性下疳、梅毒を言う。花柳界の人間でこれに罹っていない者はほとんどいないため、花柳病という別名がある。不潔な性交によって伝染する疾病であって、兵力を損なうことが甚大である。
 我が海軍において性病に罹る兵の数は、過去十カ年の平均で(年間)七,四七五人であり、そのうち入院治療を必要とした者は二,三七一人である。そうして、大正九年度における入院患者の延べ人数一一二,一六一人、および外来受療患者の延べ人数一〇六,八六四人に費やした入院ならびに治療費は九万八,八四二円であり、これに(入院中の)養兵費を加えると二十二万七,二百九十三円を要する。さらに、直接性病の治療に関与する軍医科士官や看護兵の給料および養兵費を合算するときは、我が海軍は毎年約二十五万もの金額を喪失し続けているのである。

(性病ノ個人國家ノ損害)
 加之シカノミナラズ性病ニ罹リタル兵ハ著シク體力及腦力ヲ損シ、兵役滿期後モ引續キテ治療ヲ要スルノミナラズ、往々害ヲ妻子ニ傳ヘ、個人トシテノ不幸大ナルノミナラズ國家トシテノ損害モ亦莫大バクダイナリ、實ニ性病ト肺結核ト酒トハ國家ノ三大災害ナリ。

【現代語訳】
(性病の個人・国家への損害)
 そればかりでなく、性病に罹った兵士は著しく体力および脳力を損ない、兵役満期除隊後も引き続いて治療を必要とするだけでなく、往々にしてその害を将来の妻子へと伝染させてしまう。個人としての不幸が大きいだけでなく、国家としての損害もまた莫大である。実に、性病と肺結核と酒とは、国家の三大災害である。

(痳毒眼ヲ奪フ)
 痳病、其ノ初徴ハ尿道ノ痒痛ヨウツウ(イタガユミ)ニシテ次デ尿道ヨリウミラシ放尿時劇痛ゲキツウヲ伴フ、往々副睾炎フクコウエンヲ發シ又眼ニ傳染スレバ明ヲ失フ。
 下疳、之ニ硬性コウセイ軟性ナンセイトアリ、其ノ區別ハ素人シロウトニ出來難シ、軟性下疳ハ横痃ヨコネヲ發シ手術ヲ要スル事多シ、硬性下疳ハ黴毒ノ初期ナリ。

【現代語訳】
(淋毒は眼を奪う)
 淋病、その初期症状は尿道の痛みとかゆみあって、次いで尿道から膿を漏らし、放尿時に激しい痛を伴う。往々にして副睾丸炎を発症し、また眼に伝染した場合は失明する。
 下疳には、硬性と軟性の二種類(硬性下疳・軟性下疳)があるが、その区別は素人には困難である。軟性下疳は横痃(よこね:鼠径部のリンパ節の腫れ)を引き起こし、手術を必要とすることが多い。硬性下疳は梅毒の初期症状である。

(娼婦トハ何人ナリヤ)
 性病ノ豫防ハ極メテ容易ナリ、卽チ娼婦シヨウフニ接セザルニアリ、娼婦トハ唯ニ金錢物品ニ依リテ春ヲ賣ルモノノミナラズ、結婚以外ニ男子ノ求メニ應ズルモノハ皆娼婦ナリ、而シテ娼婦ト性病トハ形ト影ノ如クニ相伴フモノニシテ殆ンド無毒ノモノナク之ニ接スレバ其ノ傳染ヲ免ルゝ事難シ。

【現代語訳】
 性病の予防は極めて容易である。すなわち、娼婦に接触しないことにある。娼婦とは、単に金銭や物品と引き換えに売春する者だけを指すのではない。結婚相手以外で、男子の求めに応じて体を許す者は、すべて娼婦である。そうして、娼婦と性病とは「形と影」のように必ず表裏一体で付いて回るものであって、病原体を持っていない者などはほとんどおらず、これに接触すれば、その伝染を免れることは困難である。

(黴毒ハ人ヲ狂ニス)
 黴毒ハ苦痛クツウ少ナケレドモ極メテシ難ク、最良ノ治療ヲ行フモ根治コンチニハ數年ヲ要ス、治療ニユルミアレバ生涯不治シヨウガイフチトナリ更ニ精神病セイシンビヨウ(キチガヒ)ニ陥ルモノ多シ、今日ノ精神病者ノ三分ノ一ハ黴毒性ノモノナリ。

【現代語訳】
(梅毒は人を狂わす)
 梅毒は苦痛こそ少ないものの、極めて治療し難く、最良の治療を行ったとしても根治には数年を要する。治療に緩みがあれば生涯治らないものとなり、さらに精神病に陥る者が多い。今日の精神病患者の三分の一は、梅毒性のものである。

(情慾ノ緩和ニハ運動ヲ第一トス)
 性慾ノ衝動シヨウドウ(キザシ)ハ不規律ナル生活及卑俗ヒゾクナル談話、書畫シヨグワニ依ル事多シ、規則正シク生活シ力メテ運動ヲ行ヒ高尙ナル娯樂ゴラクシタシメバ大ニ其ノ|衝動ヲ緩和スルヲ得ベシ。

【現代語訳】
(情欲の緩和には運動を第一とする)
 性欲の衝動は、不規則な生活や、下品な談話、書画に起因することが多い。規則正しく生活し、努めて運動を行い、高尚な娯楽に親しむようにすれば、大いにその衝動を緩和することができる。

(意志薄弱者ノ豫防法)
 意志薄弱イシハクジヤクニシテ性慾ノ衝動ニヘザルモノハ婦人ニ接スルニ當リ必ズ有力ナル豫防法ヲ講ゼザルベカラズ、其ノ方法ハ諸子ガ他日新三等兵トシテ艦船ニ配乘セシメラルゝ時ニ軍醫科士官ヨリ承ル事アルベシ。

【現代語訳】
(意志薄弱者の予防法)
 意志薄弱であって性欲の衝動に耐えられない者は、婦人に接するにあたって、必ず有力な予防法を講じなければならない。その方法については、諸子が後日、新三等兵として艦船に配乗されるときに、軍医科士官から説明を受けることがあるはずである。

第七章  傳染病

(傳染病ノ種類)
 傳染病デンセンビヨウトハ人ヨリ人ニ傳ハル病ヲ謂フ、種類頗ル多シ、前章ニ述ベタル性病及癩病ライビヨウ結核病ケツカクビヨウ、「トラホーム」等モ亦之ニゾクス。

【現代語訳】
(伝染病の種類)
 伝染病とは、人から人へと伝わる病気のことを言う。その種類はすこぶる多い。前章に述べた性病、および癩病(ハンセン病)、結核、トラホーム(顆粒性結膜炎)などもまた、これに属するものである。

(傳染病ハ一隊一艦ノ戰闘力ヲ喪失セシム)
 我海軍ニ於テハ傳染病中最モ恐ルベキモノ十種「コレラ」、赤痢セキリ(疫痢ヲ含ム)、腸「チフス」、「パラチフス」、痘瘡トウソウ發疹ハツシン「チフス」、猩紅熱セウコウネツ、「ヂフテリア」、流行性腦脊髓膜炎リウコウセイノウセキズイマクエン及「ペスト」トヲエラビテ其ノ豫防法ヨボウホウ規定ス、此ノ種ノ傳染病軍隊内ニ發生スル時ハ|周圍シウヰノ人ニ傳播デンパ(ウツリヒロガル)シ、往々多數ノ犧牲者ギセイシヤヲ出シ一隊一艦ノ戰闘力ヲ喪失ソウシツ(ウシナフ)セシムルヲ以テナリ。
 傳染病ノ病原ハ、肉眼ニクガンニテハ見ルヲ得ザル程微細ビサイナル生物セイブツ(イキモノ)ナリ、俗ニ之ヲ黴菌バイキント稱ス、此ノ微生物ビセイブツ人體ニ寄生キセイ(ヤドル)スル時ハ則チ其ノ人傳染病ニカカル、而シテ病者ノ體内ニ於テ播殖ハンシヨク(フエル)セル微生物ハ其ノ分泌物ブンピツブツ(涙、鼻汁等)及排泄物ハイセツブツ(兩便タン等)ニ混ジテ體外ニ出デ手近ノ物品ニ附著シ、或ハ鼠、蠅、蚊、ノミシラミ等ノ小動物ニ乘ジテ蔓延マンエン(ヒロガル)シ千萬ノ人ニ侵入シ、同一ノ傳染病ヲ起サシムルモノナリ
 人ニ依リテハ病原トナル黴菌ノ侵入ヲ受クルモ其ノ寄生ヲ許サズ、反テ之ヲ
滅殺メツサツ(コロス)スルモノアリ、此ノ性質ヲ抵抗性テイコウセイト謂フ、又人ニ依リテハ其ノ寄生ヲ許スモ發病ハツビヨウ(ヤマヒニナル)セザルモノアリ、此ノ如キ人ハ則チ病原菌保有者ビヨウゲンキンホユウシヤトナルナリ、外觀健康ニシテ日常ノ業務ニ從事シ而モ病毒ヲ撒布サンプ(マキチラス)スル病者ト異ナラザルヲ以テ、他人ニ對スル危險キケンハ一層大ナリ。

【現代語訳】
(伝染病は一隊一艦の戦闘力を喪失させる)
 我が海軍においては、伝染病の中で最も恐れるべき十種として「コレラ」、赤痢(疫痢を含む)、腸チフス、パラチフス、痘瘡(天然痘)、発疹チフス、猩紅熱、ジフテリア、流行性脳脊髄膜炎、および「ペスト」を選び出し、その予防法を規定している。この種の伝染病が軍隊内に発生したときは、周囲の人間に伝播し、往々にして多数の犠牲者を出して、一隊または一艦全体の戦闘力を喪失させてしまうからである。
 伝染病の病原は、肉眼では見ることができないほど微細な生物である。俗にこれをバイ菌と称する。この微生物が人体に寄生するとき、その人間は伝染病に罹る。そうして、病者の体内において増殖した微生物は、その分泌物(涙、鼻汁など)および排泄物(大小便、痰など)に混じって体外に出て、身近な物品に付着し、あるいはネズミ、ハエ、蚊、ノミ、シラミなどの小動物を媒介して蔓延し、数多くの人間に侵入して同一の伝染病を引き起こすものである。
 人によっては、病原となる黴菌の侵入を受けてもその寄生を許さず、かえってこれを殺菌するものがある。この性質を「抵抗性(免疫力)」と言う。また、人によってはその寄生を許しながらも発病しないものがある。このような人間は、すなわち「病原菌保有者(健康保菌者/無症状病原体保有者)」となる。外観は健康であって日常の業務に従事していながら、実際には病毒を撒き散らしており、病者と何ら変わらないため、他人に対する危険性は一層大きいのである。

(多クノ黴菌ハ日光ノ直射ニ依リテ死滅ス)
 病原トナル黴菌ハ傳染病ノ種類ニ依リテ異ナルモ總テ日光ノ直射、煮沸、蒸
氣ノ如キ高熱、石炭酸セキタンサン昇汞シヨウコウノ如キ藥品ニ會ヘバ死滅ス、之等ノ藥劑又ハ方法ヲ應用シテ病原ヲ撲滅ボクメツ(ウチホロボス)シ、無毒トナスヲ消毒法ト謂フナリ
 以上述ベタル如ク傳染病ハ、⑴病原トナル黴菌アリテ、⑵物品又ハ小動物
等ノ媒介バイカイ(ナカダチ)ニ依リテ人體ニ侵入シ、⑶其ノ人が抵抗性ナキ場合ニ於テ發生スルモノナリ、故ニ傳染病ノ豫防ニハ此ノ三項ノ内イヅレカヲ無クスルヲ要スルモノナリ。
 病原ヲ除クニハ傳染病ニ罹レル人ヲ早ク發見シ、又菌保有者ヲ搜索ソウサク(サガシ)シ之ヲ健康者ヨリ隔離カクリスルヲ要ス、軍隊ニテ輕微ナル病人ト雖モ悉ク軍醫科士官ノ診察ヲ受ケシメ、又時ニ依リテ總員ノ健康診斷、檢便或ハ檢痰ヲ行フハ之ガ爲ナリ。

【現代語訳】
(多くのバイ菌は直射日光によって死滅する)
 病原となるバイ菌は伝染病の種類によって異なるが、すべて直射日光、煮沸、蒸気のような高熱、あるいは石炭酸や昇汞(塩化第二水銀)のような薬品に触れれば死滅する。これらの薬剤や方法を応用して病原を撲滅し、無毒にすることを「消毒法」と言う。
 以上述べたように伝染病は、(1)病原となるバイ菌が存在し、(2)物品や小動物などの媒介によって人体に侵入し、(3)その人間に抵抗性がない場合において発生するものである。ゆえに、伝染病の予防には、これら三項目のうちの「いずれか」を無くすことが必要である。
 病原を除くためには、伝染病に罹った人間を早く発見し、また無症状の保菌者を探し出して、これらを健康な者から隔離しなければならない。軍隊において、軽微な病人であってもことごとく軍医科士官の診察を受けさせ、また時と場合に応じて総員の健康診断や検便、あるいは検痰を行うのは、すべてこのためである。

(豫防接種トハ何カ)
 大抵ノ傳染病ハ一度之ヲワヅラハバ其ノ後ハ長キ間再ビ之ニ罹ル事ナキモノナリ、其ノ人ノ體内ニ特種ノ抵抗性ヲ生ズルガ爲ニシテ、之ヲ免疫性メンエキセイト謂フ、蓋シ傳染病ハ病原トナル黴菌ト人體トノ戰闘ニシテ人體が勝ヲ得レバ則チ病ヘ(ナホリ)後久シク戰闘ニ慣レタル兵士多數殘存スルニ依ル、之ノ理ヲ應用シテ毒性少キ又ハ死滅セル病原ヲ人體ニ接種セツシユ(ウエツケ)シテ輕ク發病セシメ、戰闘力強キ兵士ヲ體内ニ生ゼシメ、以テ免疫性ヲ與フル方法ヲ豫防接種ヨボウセツシユト名ヅク、故ニ豫防接種ハ多少ノ反應ハンノウ(則チ身體ト病原トノ戰闘)ヲ免レザルモ効果顯著コウクワケンチヨ(キキメイチヂルシ)ナルニ依リ痘瘡トウソウ(ホウソウ)、腸「チフス」、「パラチフス」等ニ廣ク用ヒラル。

【現代語訳】
(予防接種とは何か)
 たいていの伝染病は、一度これに罹患すれば、その後は長い間、再びこれに罹ることはない。その人の体内に特有の抵抗性が生じるためであり、これを「免疫性」と言う。
 まさに伝染病とは、病原となるバイ菌と人体との戦闘であり、人体が勝利をおさめれば病気は治り、戦闘に慣れた兵士がその後に多数体内に残存することにより抵抗性がつく。この原理を応用して、毒性が少ない、あるいは死滅した病原を人体に接種して軽く発病させ、戦闘力の強い兵士を体内に生じさせることで、あらかじめ免疫性を与える方法を「予防接種」と名付ける。
 したがって、予防接種は多少の反応(すなわち身体と病原との戦闘による発熱や腫れなど)を免れないものの、その効果は顕著であるため、痘瘡(天然痘)や腸チフス、パラチフスなどに広く用いられている。

(蠅ハ黴菌ノ飛行機ナリ)
 傳染病ノ媒介ヲ除クニハ常ニ清潔ニ注意シテ鼠、蚤、蚊、虱、蠅、油虫等
ノ發生ヲ防ギ、且其ノ驅除クジヨ(オイノゾキ)ヲ勵行スルヲ要ス、就中ナカンヅク蠅ハ不潔ノ看板カンバンニシテ且病原微生物ノ飛行機ナリ、其ノ多キ時候ト場所ニハ常ニ傳染病多發ス。
 病原ニ對スル抵抗性ハ其ノ人ノ健康ニ伴フ、健康ナレバ強ク不健康ナレバ則チ弱シ、而シテ各種ノ不攝生フセツセイハ卽チ健康ヲ害シ、傳染病ニ對スル抵抗性ヲ喪失セシムルモノナリ。
 以上述ベタル事ニ依リテ傳染病及其ノ豫防法ノ要旨ハ自ラ明カナルベシト雖モ、爲念各自が豫防上注意スベキ要件五則ヲ列記セン

【現代語訳】
(ハエはバイ菌の飛行機である)
 伝染病の媒介を無くすためには、常に清潔に注意してネズミ、ノミ、蚊、シラミ、ハエ、ゴキブリなどの発生を防ぎ、かつその駆除を励行しなければならない。とりわけハエは不潔の看板であり、病原微生物の飛行機である。ハエが多く発生する時期と場所には、常に伝染病が多発するものである。
 病原に対する抵抗性は、その人の健康状態に比例する。健康であれば強く、不健康であればすなわち弱い。そうして、各種の不摂生は、すなわち健康を害し、伝染病に対する抵抗性を喪失させてしまうものである。
 以上に述べた事柄によって、伝染病およびその予防法の要旨は自然と明白になるはずであるが、念のために各自が予防上で注意すべき要件「五則」をここに列記する。

(豫防ノ五則)
一、身體、被服、居住及其ノ周圍ヲ清潔ニ保持シ、有害ナル昆虫ノ發生ヲ防ギ且健康ノ維持イジ増進ニ力ムル事。
二、傳染病及其ノ疑アル患者ニ接近スルニハ適法ノ豫防ヲ要スルニ依リ、上官ノ許可ト指導ナクシテ患者ニ近寄リ、又ハ患家ニ出入セザル事。
三、軍隊外ニハ常ニ各種傳染病患者及病原菌保有者散在スルヲ以テ、上陸外出ノ時ハ生物ナマモノ、生水、氷水、生野菜、刺身、酢ノ物)等及調理後他人ノ手ヲ觸ルゝ食物(例ヘバ「スシ」ノ如キ)ヲ飲食セザル事。
四、不潔ナル市街又ハ部落ニ立寄り、又ハ木賃宿ニ宿泊シ或ハ宿屋ノ手拭ヲ使用スル等ノコトナキ事。
五、食卓係、烹炊所員ハ配食又ハ調理ニ取り掛ル前必ズ丁寧テイネイニ手指ヲ石鹼ト淸水ニテ洗ヒ消毒ヲ勵行スル事。
 以上ノ他各ノ傳染病豫防ニ必要ナル事項ハ後來敎ヘラルル事アルベシ。

【現代語訳】
(予防の五則)
一、身体、被服、居住およびその周囲を清潔に保持し、有害な昆虫の発生を防ぎ、かつ健康の維持増進に努めること。
二、伝染病およびその疑いがある患者に接近するには、適切な予防措置を必要とするため、上官の許可と指導なしに患者に近寄り、あるいは患者の家に出入りしないこと。
三、軍隊の外には常に各種の伝染病患者や病原菌保有者が散在しているため、上陸外出の際は、生の食べ物(生水、氷水、生野菜、刺身、酢の物など)および、調理した後に他人の手が触れる食べ物(例えば「寿司」のようなもの)を飲食しないこと。
四、不潔な市街や集落に立ち寄り、あるいは木賃宿(格安の簡易宿所)に宿泊し、または宿屋の手拭いを使用するなどのことがないようにすること。
五、食卓係や炊事兵は、配食や調理に取り掛かる前に、必ず丁寧に手指を石鹸と清水で洗い、消毒を励行すること。
以上のほか、それぞれの伝染病予防に必要な事項については、今後(将来)教えられることがあるはずである。

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