陸軍省検閲済「衛生及救急法」(其四)
其三はコチラ
第二篇 救急法
第一章 創傷
其一 創ノ處置
第七十七 創ノ癒(ヨクナル)ユルヲ妨グルハ微菌ノ創ニ入リ化膿(ウミヲモツ)スルニヨル、コレヲ豫防スルニハ消毒シタル「ガーゼ」(昇汞ガーゼ)ヲ創ニ當テ繃帶スベシ
指ニハ微菌附著シ居ルヲ以テ消毒セザル指ヲ創ニ觸ルベカラズ
紙、手拭等ニモ亦微菌著居《ヲ》ルヲ以テ創ニ觸レシムベカラズ
創ヲ拭ヒ又ハ洗ヒ淨メントスルトキハ、却テコレガタメニ微菌ヲ創ニ入ラシムル處アリ、故ニ拭ヒ洗フベカラズ
彈丸、衣片ノ如キ異物創口ニ見ユトモ拔キ除カントスベカラズ、又創ニ血ノ凝リ著キタルトキハコレヲ剝ギ取ルベカラズ
創面泥土(ドロ)等ニテ汚レタルトキ又ハ汚レタル武器等ニテ負傷シタルトキハ危險ナル破傷風等ヲ起ス處アルヲ以テ速ニ軍醫ノ處置ヲ受クベシ
(現代語訳)第七十七 傷の治りが遅くなるのは、ばい菌が傷口に入り込んで化膿するからである。これを予防するためには、消毒された「ガーゼ」(昇汞ガーゼ)を傷口に当てて包帯を巻くこと。
指にはばい菌が付着しているため、消毒していない指で傷口に触れてはならない。
紙や手ぬぐいなどにもやはりばい菌が付着しているため、これらも傷口に触れさせてはならない。
傷口を拭いたり、あるいは洗い流して綺麗にしようとすると、かえってそのためにばい菌を傷口に侵入させてしまう恐れがある。したがって、拭いたり洗ったりしてはならない。
弾丸や衣服の切れ端のような異物が傷口に見えたとしても、無理に抜き取ろうとしてはならない。また、傷口に血の塊がこびりついているときは、これを剥ぎ取ってはならない。
傷口が泥などで汚れているとき、または汚れた武器などによって負傷したときは、危険な破傷風などを引き起こす恐れがあるため、速やかに軍医の処置を受けること。
第七十八 繃帶ハ衞生部員コレヲ施スヲ普通トシ、ノ他擔架兵、補助擔架兵コレヲ施スコトアルモ戰線ニ於ケル第一繃帶ハ傷者自ラ或ハ戰友ニヨリ繃帶包ヲ以テコレヲ行フ場合多シ
(現代語訳)
第七十八 包帯を巻く処置は、衛生部員が行うのが通常であり、そのほか担架兵や補助担架兵が行うこともある。
しかし、戦線における最初の包帯処置(第一応急処置)は、負傷者本人が自分で行うか、あるいは戦友の手によって、携帯している「繃帯包(救急包帯)」を使って行う場合が多い。
第七十九 創ヲ露スニハナルベク創部ヲ動スコトナク手柔ニ扱フベシ
衣ヲ脫ガシムルニハ健側(キヅナキガハ)ヨリシ著シムルニハ患側ヨリス、襦袢ハ裏返スヤウニシテ脫ガシメ袴、袴下ハ左右同時ニ徐々ニ引キテ脫ガシムベシ
衣、袴、襦袢、袴下、靴ハ傷ノ手當ヲナスタメ必要ナルトキハ縫目ヲ解キ又ハ截リ開クコトヲ得ルモ大キニ過ギザルヤウ注意スベシ
創ノ周圍ノ被服ノ汚レタル部分ハ截リ除クコトヲ得
創ノ處置ノタメニ脫ガシメ又ハ開キタル被服ハナルベク速ニ舊ノ通リニナスコトハ感冒又ハ凍傷豫防上必要ナリ
(現代語訳)
第七十九 傷口を露出させるときは、できるだけ傷のある部分を動かすことなく、手柔らかに扱わなければならない。
衣服を脱がせるときは健側(怪我のない側)から行い、着せるときは患側(怪我のある側)から行う。襦袢は裏返すようにして脱がせ、ズボンやズボン下は左右同時にゆっくりと引き下げて脱がせること。
上着、ズボン、肌着、ズボン下、靴は、傷の手当てをするために必要があるときは、縫い目をほどくか、あるいは切り開いてもよい。ただし、必要以上に大きく切りすぎないよう注意しなければならない。
傷口の周囲の衣服で、汚れている部分は切り除いてもよい。
傷の手当てのために脱がせたり、あるいは切り開いたりした衣服は、できるだけ速やかに元通りにすること。これは感冒や凍傷を予防する上で必要なことである。
第八十 頭、頸、腹ノ創殊ニ頭ノ彈創ニハ外見輕キガ如ク見エテ極メテ重キコトアリ注意スベシ
頭ノ創ニハ眩暈(メマイ)、頭痛アルモノ、胸ノ創ニテ呼吸苦シク痰ニ血ヲ混ヅルモノ、腹ノ創ニテ痛强ク嘔氣アルモノ等ハ内臟ニ創アルモノト見テ起立(タツコト)、談話(ハナスコト)、怒責(イキムコト)等ヲ禁ジ、静ニ臥(ネセル)サシメ、速ニ診斷ヲ受ケシムベシ
腹ニ創アル者ニハ軍醫ノ指圖ヲ受クルニアラザレバ飮食物ヲ與フベカラズ
(現代語訳)
第八十 頭、首、お腹の傷、特に頭の銃創は、一見すると軽そうに見えても、極めて重症である場合があるため注意しなければならない。
頭の傷で、眩暈や頭痛がある者、胸の傷で、呼吸が苦しく、痰に血が混じる者、お腹の傷で、痛みが激しく、吐き気がある者、これらは内臓に傷が達しているものと判断し、起立すること、談話すること、力むことなどを禁止し、静かに横に寝かせて、速やかに軍医の診断を受けさせなければならない。
お腹に傷がある者には、軍医の指示がない限り、飲食物を与えてはならない。
第八十一 戰線ニ於ケル救急處置ハ努メテ地物ヲ利用シ姿勢ヲ低クシテ施スコト必要ナリ
(現代語訳)第八十一 戦線における救急処置は、できるだけ周囲の地物(地形や障害物)を利用し、姿勢を低くして行うことが必要である。
其二 骨折
第八十二 骨折レタルトキハ同時ニソノ部ノ皮膚ニ創アルコト多シ、カカル場合ハ先ヅ「昇汞ガーゼ」ヲ當テ繃帶ヲ行ヒ然ル後骨折ノ處置ヲナスベシ
(現代語訳)
第八十二 骨折したときは、同時にその部分の皮膚に傷を伴っていることが多い。このような場合は、まず「昇汞ガーゼ」を傷口に当てて包帯を巻く処置を行い、それが済んだ後に骨折の処置をするべきである。
第八十三 上肢又ハ下肢ノ骨折レタルトキハソノ部腫レテ痛アリ、モシソノ部ヲ壓スレバ甚シク痛ミ傷者自ラソノ手足ヲ動スコト能ハズ、人コレヲ動カサントスルトキハ劇シク痛ミ、甚シキ時ハ形變リ短クナルコトアリ
傷ツキタル四肢ヲ動カシ又ハ變リタル形ヲ直サントスべカラズ、疑ハシキ
トキハ骨折アルモノト看做シテ取扱フベシ
(現代語訳)第八十三 上肢または下肢を骨折したときは、その部分が腫れて痛みが生じる。もしその部分を指で圧迫すると激しく痛み、負傷者自身は自分の手足を動かすことができなくなる。他人がこれを動かそうとすると激痛が走り、症状がひどいときは、手足の形が変形したり短くなったりすることがある。
怪我をした手足をむやみに動かしたり、あるいは変形してしまった形を元に戻そうとしてはならない。
骨折しているかどうか疑わしいときは、すべて骨折しているものとみなして取り扱うべきである。

第八十四 四肢(テアシ)ノ骨折レタルトキハ衞生部員、擔架兵又ハ補助擔架兵等アラザルトキハ戰友四人ニテ繃帶ヲ施スコトヲ得、即チ甲ハ創ヨリ上ヲ持チ乙ハコレヨリ下ヲ持チ丙ハコレニ近キトコロヲ動カスヤウニ支ヘ(第二圖)
丁ハ繃帶ヲ施スベシ
(現代語訳)
第八十四 四肢を骨折したとき、衛生部員や担架兵、あるいは補助担架兵などがその場にいない場合は、戦友4人がかりで包帯処置を行うことができる。
その役割分担は以下の通りである。
甲(1人目): 傷口よりも上の部分を持つ。
乙(2人目): 傷口よりも下の部分を持つ。
丙(3人目): 傷口の近いところが動いてしまわないよう、下から支える(第二図)。
丁(4人目): この状態で、包帯を巻く処置を行う。
第八十五 骨折ノ處置ハ折レタル骨ヲ動カスヤウニ固定スルニアリ、コレガタメニ四肢(テアシ)ニテハソノ上下ノ關節(フシブシ)ヲモ併セテ固定スルコト必要ナリ
(一) 肘ヨリ上又ハ下折レタルトキハ薄キ板ヲ當ツルカ簾、藁、厚紙ノ如キモノヲ卷キテ括リ又ハ布、綿、藁、草等
ノ如キ軟キモノヲ當テタル上ニ棒ノ類ヲ内側ニ短ク外側ニ長ク當テ括リ、第二十三圖ノ(一)、(二)、第二十四圖、第二十五圖ノ如ク胸ニ吊リテ支ヘ又ハ健側(キヅガキガハ)ノ手ニテ支ヘシムベシ
(二) 膝ヨリ下折レタルトキハ軟キモノヲ當テタル上ニ棒
ノ類ヲ、下肢(アシ)ノ内側ニハ足ヨリ大腿(モモ)ノ中程迄達スルヤウニ又外側ニハ足ヨリ腰迄達スルヤウニ當テテ括ルベシ
(《ダイ》第三|圖)
(三) 膝及膝ヨリ高キ處ニ骨折アルトキハ、軟キモノヲ當テタル上ニ足ヨリ胴ニ達スル棒ノ類ヲ外側ニ當テ健側(キヅナキガハ)

第四図
ノ下肢ト共ニ括ルベシ(第四圖)
棒ノ類ニハナホ木ノ皮、高粱稈(カウリヤンノクキ)、狹キ板、「ブリキ」、天幕支柱ナドアリ、已ムヲ得ザルトキハ死傷者ノ銃劍、軍刀ヲ用フルコトヲ得
棒ソノ他當テタルモノヲ體ニ括リ著クルニハ三角巾又ハ卷脚絆、胴締、襟布等ヲ用フルヲ可トス
(現代語訳)
第八十五 骨折の処置の目的は、折れた骨が動かないように固定することにある。このため、四肢においては、骨折した箇所の上の関節と下の関節も合わせて一緒に固定することが必要である。
(一)肘より上、または下が折れたとき(腕の骨折)
薄い板を当てるか、あるいはすだれ、むしろ、厚紙のようなものを巻いて縛る。または、布、綿、わら、草などの柔らかいものを当てた上に、棒の類を内側には短く、外側には長く当てて縛り、第二十三図の(一)(二)、第二十四図、第二十五図のように、三角巾などで胸に吊って支えるか、あるいは無事な方の手(健側)で支えさせなければならない。
(二)膝より下が折れたとき(すねの骨折)
柔らかいものを当てた上に、棒の類を、足の裏から大腿(太もも)の中ほどまで達するように内側に当て、また外側には足の裏から腰まで達するように当てて、紐などで縛ること(第三図)。
(三)膝および膝より高いところに骨折があるとき(大腿骨などの骨折)
柔らかいものを当てた上に、足の裏から胴体にまで達する長い棒の類を外側に当てて、怪我のない側の下肢と共に縛ること(第四図)。
添え木にする棒の類としては、さらに木の皮、高粱稈(コーリャンの茎)、幅が狭い板、「ブリキ」、天幕の支柱(テントのポール)などがある。また、やむを得ないときは、死傷者の銃剣や軍刀を使用してもよい。
棒やそのほかの当て木を体に縛りつけるには、三角巾、または巻脚絆(ゲートル)、胴締め、襟布などを使用するのがよい。
其三 止血
第八十六 血ハ心臟ヲ出テ大ナル動脈ニ入リ次第ニ小サキ動脈ノ枝ヲ經テ全身ヲ循リ、次ニ小サキ靜脈ヨリ次第ニ相合シテ大ナル靜脈トナリ再ビ心臓ニ歸ル、動脈ガ皮下ノ淺キトコロニアルトキハ脈ヲ觸ル、此處ヲ脈處トイフ
(現代語訳)
第八十六 血液は心臓を出て、大きな動脈(大動脈)に入り、次第に小さな動脈の枝を経由して全身を巡る。
次に、小さな静脈から次第に合流して大きな静脈となり、再び心臓へと帰る。
動脈が皮膚の下の浅いところを通っている場所では、ドクドクという脈拍に触れることができる。ここを「脈処(圧迫止血点)」という。
第八十七 創ヨリ少シク出血スルトキハ創ヲ繃帶スルノミニ
テ血ハ止ル
出血稍々多トキハ「ガーゼ」ヲ厚ク創ニ當テ暫クコレヲ壓迫シ然ル後三角巾ニテ稍々強ク括ルベシ
(現代語訳)
第八十七 傷口から少しだけ出血しているときは、包帯を巻くだけで血は止まる。
出血がやや多いときは、「ガーゼ」を厚く傷口に当てて、しばらくの間ここを圧迫し、その後に三角巾などでやや強く縛ること。
第八十八 上肢又ハ下肢ヨリ出血スルトキハ骨折ナキ限リソノ部ヲ高クスベシ
(現代語訳)
八十八 上肢または下肢から出血しているときは、骨折していない限り、その部分をを高く持ち上げること。
第八十九 血甚シク迸リ出ルトキハ生命ニ危險アリ、速ニ脈處ヲ壓迫(オシツケル)シテ止血スベシ
(現代語訳)
八十九 血が激しくほとばしり出るときは、生命の危険がある。
一刻の猶予もないため、速やかに「脈処」を強く圧迫して、止血しなければならない。
第九十 止血スルニハ創ヨリモ心臓ニ近キ脈處ヲ骨ニ向ヒ壓迫(オシツケル)スベシ
コレヲ練習スルニハ初メハ脈處ヲ露出シテ行ヒ慣ルルニ及ビ被服ノ上ヨリ行ヒ以テ脫衣セシムル暇ナキ場合ノ止血ヲ|修得スベシ
(一) 指ヨリ出血スルトキハソノ指ノ根ノ兩側ニ拇指(オヤユビ)ト示指(ヒトサシユビ)トノ腹ヲ當テ強ク壓迫スベシ(第五圖)
(現代語訳)
第九十 止血を行うには、傷口よりも心臓に近い「脈処」を、骨に向かって圧迫しなければならない。
これを練習するときは、初めは脈処の皮膚を露出させて行い、慣れてきたら衣服の上から行うことで、服を脱がせる時間さえ惜しい緊急時の止血法を習得すること。
(一)指から出血しているとき
その指の付け根の両側に、親指と人差し指の腹を当てて、強く挟むように圧迫する(第五図)。

(二) 手又ハ前膊(マエウデ)ヨリ出血スルトキハ上膊(ニノウデ)ノ力瘤ノ内側ニアル淺キ溝ノ脈處ニ拇指(オヤユビ)ヲ當テ、掌ヲ力瘤ニ密著シテ上膊(ニノウデ)ヲ握リ拇指(オヤユビ)ノ腹ニテ強ク骨ニ向ヒテ壓迫(オシツケル)スベシ(第六圖)
戰友ニ行フ場合ニハ患者ノ出血セル側ト同側ノ手ヲ用ヒテ上膊ヲ後面ヨリ握リ前記ト同様ノ要領ニテ脈處ニ拇指(オヤユビ)ヲ當テ骨ニ向ヒテ壓迫スベシ(第七圖)
(現代語訳)
(二) 手、または前腕から出血しているときは、二の腕の力こぶの内側にある、浅い溝(上腕二頭筋内側溝)の脈処に親指を当てる。そして、手のひらを力こぶに密着させて二の腕をしっかりと握り、親指の腹で骨に向かって強く圧迫する(第六図)。
戦友に対してこの処置を行う場合には、負傷者の出血している側と同じ側の手を使って、二の腕を後ろ側から握り、前述と同様の要領で脈処に親指を当て、骨に向かって強く圧迫する(第七図)。

第七図

(三) 上膊或ハ腋窩(ワキノシタ)ヨリ出血スルトキハ、出血スル側ノ鎖骨ノ上ノ窪ノ內隅ニアル脈處ニ拇指(オヤユビ)ヲ當テ他ノ四指ハ肩ニ副ヒテ後ニ廻シ拇指(オヤユビ)ノ腹ニテ深ク内下方第一肋骨ニ向ヒ拇指ノ頭ヲ鎖骨ノ下ニ押シ込ム如ク壓迫スベシ
コノ際患者ノ右側ヲ止血セントセバ術者ハ左手ヲ以テ又患者ノ左側ヲ止血セントセバ術者ハ右手ヲ以テ止血法ヲ行フベキナリ(第八圖)
(現代語訳)
第九十(三) 二の腕、あるいは腋窩(脇の下)から出血しているときは、出血している側の鎖骨の上にあるくぼみの、内側の隅にある脈処に親指を当てる。
その他の4本の指は肩に沿わせて後ろ側に回し、親指の腹で(体の中心に向かって)深く内下方へと、第一肋骨に向かって、親指の頭を鎖骨の下に押し込むように強く圧迫すること。
この際、負傷者の右側を止血しようとするときは、処置を行う者は左手を使い、また負傷者の左側を止血しようとするときは、術者は右手を使って止血を行うべきである(第八図)。

(四)足、下腿(スネ)又ハ大腿(モモ)ヨリ出血スルトキハ鼠蹊(モモノツケネ)ノ中央ニアル脈處ニ兩拇指(オヤユビ)ヲ重ネテ當テ骨ニ向ヒ強ク壓迫スベシ(第九圖(一))
(現代語訳)
(四) 足、下腿、または大腿から出血しているときは、鼠径(太もものつけ根)の中央にある脈処に、両方の親指を重ねて当て、骨に向かって強く圧迫する(第九図(一))。

戰友ニ行フ場合ニハ傷ツキタル下肢ノ反對側ニ傷者ノ足ノ方ニ向ヒテ跪キ、脈處ニ兩拇指(オヤユビ)ヲ當テ自己ノ體重ヲ掛ケテ強ク壓迫スベシ(第九圖(二))
(現代語訳)
戦友に対して行う場合には、怪我をした下肢の反対側に位置し、負傷者の足元の方を向いてひざまずく。
そして、脈処に両方の親指を当て、自分の体重をしっかりと乗せて強く圧迫する(第九図(二))。

第九十一 上肢(ウデ)又《マタ》ハ下肢ノ出血甚シキトキ又ハ稍々長時間ニ亙リ止血ノ必要アルトキハ創ヨリ上ニテ上肢ナラバ上膊(ニノウデ)、下肢ナラバ大腿(モモ)ヲ畳ミタル三角巾ノ類ニテ緩ク卷キ末端ヲ結ビコレニ棒ノ類ヲ挿シ引キ上ゲツツ廻シテ緊メ、出血止ムニ至リテ挿シタル棒ノ端ヲ留メ置クベシ(第十圖(一)、(二))
(現代語訳)
第九十一 上肢または下肢の出血が激しいとき、あるいはやや長時間にわたって止血を続ける必要があるときは、傷口よりも心臓に近い上側の部分、すなわち腕であれば二の腕、足であれば大腿(太もも)を、折りたたんだ三角巾などで緩く巻き、その両端を結ぶ。
ここに棒の類を差し込み、引き上げながら回して締め上げる。
出血が止まったところで、差し込んだ棒の端を固定して留めておく(第十図(一)、(二))。

緊メタルトキハ概ネ二時間ナルトキハ、第九十ニ從ヒ創ヨリモ心臓ニ近キ脈處ヲ壓シ緊メタルモノヲ緩メナホ出血スルトキハ「ガーゼ」ヲ當テ創ヲ壓迫シ暫クシテ再ビ緊メ結ルベシ
寒氣烈シキトキハ緊メ括リタル四
肢(テアシ)ハ凍傷ニ罹リ易キヲ以テ暖キ時ヨリモ屢々コノ方法ニテ緊メタルモノヲ緩メ血ノ循ヲヨクシ長ク續ケテ括ラザルヲ可トス
(現代語訳)
(止血帯を)締め付けてからおおむね2時間が経過したときは、第九十に従って、傷口よりも心臓に近い脈処を圧迫しながら、締め付けていた止血帯をいったん緩める。
もしなおも出血するようであれば、傷口に「ガーゼ」を当てて直接圧迫し、しばらく様子を見てから、再び締め直して縛ること。
寒さが激しいときは、締め付けられた手足(四肢)は凍傷にかかりやすくなる。そのため、暖かい時期よりも頻繁にこの方法で締め付けを緩め、血液の巡りを良くして、長い時間続けて縛りっぱなしにしないようにするのがよい。
其五へ続く
