【人生、まだ編集中】44歳にして初産、しかも場所はロンドン
前回は、夫に出会うまでの私の人生について書きました。
大好きな仕事で毎日が忙しくて、
休みがとれれば、ふらっと海外へ旅行に行く。
そんなふうに自由を謳歌していた私が、
40代になってすぐ、今の夫に出会います。
夫もまた、40歳までシングルライフをマイペースに生きてきたタイプ。
お互い、どこかでぼんやりと
「いつか誰かと結婚するのかなぁ」
なんて呑気に構えていたら、気づけば40代だった感じ。
知り合ってから結婚が決まるまでの流れは、
ごく自然で、あまり考えたり迷ったりすることもなく、
トントン拍子という感じでした。
昔から、計画性というものがあまりない私の人生。
そのうえ、なぜか根拠のない自信だけはあって、
「子どもって、いつかそのうちできるもの」
と、完全に思い込んでいました。
40過ぎて結婚することになり、
周りの友人たちから盛大な祝福を受けて。
「結婚おめでとう!」
の次に、自然とこんな言葉が聞こえてくるようになりました。
「子どもが欲しいなら、急いだほうがいいよ」
「マジで簡単じゃないのよ」
「良い不妊治療の先生、紹介するよ」
ふーん。
そんなもんなのか。
この期に及んでも、まだ呑気だった私。
でも、世間的には常識なのかもしれないけれど、
自分の年齢で子どもを授かることが、どれくらい難しいのか。
そして、その確率が年々、急降下していくということ。
数字で説明され、
「これは奇跡に近いことなんですよ」と現実を突きつけられて、
私はようやく、
年齢という期限がリアルに差し迫っていることを知りました。
夫の友人が紹介してくれた先生のもとで、
不妊治療を始めてみることにしました。
でも、どうもうまくいかない。
卵が育たなかったり、
妊娠しても継続できなかったり。
心拍が確認できる手前の、
妊娠6週目の壁、というものも経験しました。
期間にすると、たった半年ちょっと。
でも、クリニックに行くたびに感じる、
あの待合室に漂う、なんとも言えないやるせない空気。
期待と不安が入り混じる時間。
見えない比較。
感情の行き場がない静寂。
重たい……。
私はだんだん、いたたまれない気持ちになってきて、
「私には向いていないかも」
「というか、続けるのは無理かも……」
と思うようになりました。
体力的にも、精神的にも。
そもそも私は、
「どうしても絶対に子どもが欲しい!」と思って生きてきたわけではありませんでした。
子どもがいなくても、
いないなりの夫婦2人の人生の楽しみ方がある。
ずっと、そう思っていたからです。
夫とも話し合って、
私はクリニックに通うのをやめました。
そうしたら不思議なことに、
なんだか自分が自分らしさを取り戻したような、
見えないトンネルみたいなものから解き放たれたような、
気持ちがスッと軽くなったのを覚えています。
そして、それから2ヶ月くらい経った頃だったかな。
自然に妊娠したことが分かりました。
まさかねぇ……。
そんな気持ちで検診に行った私を診てくれた先生が、
これまた忘れられない存在の先生でした。
インターナショナル専門で英語もペラペラ。
日本人だけれど、どこか日本人離れした考え方の持ち主。
過去に何度か、妊娠が継続しなかった経験を不安そうに話す私に向かって、
先生は迷いなく言いました。
「うん、大丈夫でしょう。
今回は多分ね、大丈夫ですよ。これ」
え?
どうして?
何を根拠に?
分かるんですか?
そんな言葉が頭の中に浮かんでいるのが、
きっと私の顔に出ていたのでしょう。
先生は続けました。
「あのね、卵っていうのは運命が決まっているの。
途中でダメになってしまった卵というのは、
お母さんのせいでも誰のせいでもなくて、そういう運命だったの。
だから、あなたのせいで継続できなかったわけじゃない。
ただまぁ、40代の妊娠には違いないから、
今回これだけは飲んでくださいね。しばらく」
そう言って、妊娠を維持するために必要なホルモンを補うものを処方されました。
このとき先生が言った、
「大丈夫!」
という、ある意味では根拠のない言葉が、
私にはものすごい安心感になりました。
先生が処方してくれたものは、
もはやお守りのような気持ち。
本当に今回は大丈夫な気がする!
帰り道は、浮き足立っていたと思います。
単純。
というか、
自分に都合のいいことは全力で信じるタイプ、なのかもしれません。
その日、自分の母校の紅葉した並木道を歩いて帰ったのですが、
その景色まで、9年経った今でもはっきりと覚えています。

そして翌年。
娘がこの世に生まれてきました。
予定日より2週間早い、38週で。
しかも――
ロンドンの病院で。
これまた、全く計画外の流れです。
夫は、日本で俳優をしていましたが、
私の妊娠が分かったのとちょうど同じ頃、
オーディションで選ばれて、初めてアメリカ映画に出演することになりました。
それが彼の役者人生を大きく変えることになります。
「日本を出て、ハリウッドでやりたい」
そう思うようになった夫は、日本の事務所を辞め、
イギリスのBBC×Netflix制作のシリーズドラマ
『Giri/Haji』の主演に選ばれました。
撮影期間は8ヶ月。
場所はロンドン。
それが決まったのが、確か4月頃。
撮影開始は7月。
そして私の出産予定日も、7月。
……どうする?
出産。
夫は撮影が始まる少し前からロンドンへ行き、
8ヶ月は帰って来られないかもしれない。
もし私がロンドンについて行かなければ、
夫が子どもに会えるのは、生まれて8ヶ月後。
新生児期、だいぶ見逃すね……。
もちろん、40代での妊娠・出産なので、何があるか分からない。
いざというときに周りに助けてもらえる日本に残って産む、という選択肢を
勧めてくれた友達もいました。
でも、私の中には最初から、その選択肢はありませんでした。
ロンドンで産む。
それしかなかった。
……とはいえ、
産婦人科は?
担当医は?
そもそも、いきなり渡英してどうやって産むの?
何も分からない。
そして私は、
妊娠後期の大きなお腹を抱えて、
ロンドンへ行くことになります。
次回、
「ロンドンで、いざ出産!」の巻。

