石油・核兵器を超える最強の武器!PC値上げの裏で始まった『半導体戦争』の衝撃
去年の年末からパソコンの値段、めっちゃ上がるって騒がれてますよね。
理由は、チップの値段が上がるからだと言われています。
要は、半導体ってことです。
その半導体について、いま世界で最も読まれているビジネス書を今日は紹介します。
クリス・ミラー著『半導体戦争』。
この本は、私たちが普段使っているスマホやパソコンの中にある小さなチップが、実は石油や核兵器以上に、国の運命を握る『最強の武器』だったという衝撃的な事実を暴き出した本。
多くの人って、半導体と聞いても、家電の中に入っている地味な部品としか思いません。
しかし著者のミラー教授は、これを新しい石油と呼びます。
石油がなければ車が動かないように、半導体がなければ現代社会のすべてのシステム(スマホ、銀行のATM、そして軍隊のミサイルまで)が停止してしまうからです。
しかも石油と違うのは、採れる場所が世界中に分散していないことです。
最先端の半導体を作る能力は、驚くべきことに世界のごく一部の地域、特定の企業にだけ集中しています。
もしそこで何かが起きれば、世界経済は即座に心停止に陥ります。
この本は、そんな危ういバランスの上に成り立つ現代社会の裏側を描いた本なんです。
アメリカ軍の起死回生とシリコンバレーの誕生
物語の始まりは、第二次世界大戦後のアメリカです。
当時、アメリカ軍はソ連との核ミサイル競争に勝つため、ミサイルを正確に飛ばす誘導装置を必要としていました。
しかし、当時の真空管を使ったコンピューターは部屋一つ分ほどの大きさがあり、ミサイルに積むことなど不可能でした。
そこで登場したのが、ウィリアム・ショックレーら天才科学者たちが発明したトランジスタ、そしてそれを一つの基板にまとめた集積回路(チップ)です。
シリコンバレーの歴史は、自由な市場競争から始まったと思われがちですが、実は最初の顧客はペンタゴン(米国防総省)とNASAでした。
アポロ宇宙船を月へ送るため、そして大陸間弾道ミサイルを敵国へ飛ばすために、国が巨額の予算を投じてこの技術を買い支えたのです。
半導体は生まれた時から、軍事技術と切っても切れない関係にありました。
日本の奇跡と敗北
ソニーと盛田昭夫の先見性
舞台は戦後の日本に移ります。
焼け野原から復興を目指す中、ソニーの創業者・盛田昭夫はアメリカへ渡り、当時は「補聴器にしか使えない」と思われていたトランジスタの特許ライセンスを取得しました。
盛田はこの技術が、一般の人々の生活を変えると確信していたのです。
その読みは的中しました。
ソニーが発売したポケットサイズのトランジスタラジオは世界中で爆発的にヒットし、メイド・イン・ジャパンは安かろう悪かろうの代名詞から、ハイテク製品の象徴へと変わりました。
1980年代に入ると、NEC、東芝、日立といった日本企業がメモリチップ(DRAM)の生産で世界を席巻します。
日本製品は「品質が良く、絶対に壊れない」と評判になり、アメリカの半導体産業を壊滅寸前まで追い込みました。
当時のアメリカ人が「これは第二の真珠湾攻撃だ」と恐れたほど、日本の勢いは凄まじいものでした。
なぜ日本は負けたのか?
しかし、日本の栄光は長く続きませんでした。
なぜ日本は敗れたのか…
ミラー教授は、その原因を「ビジネスモデルの変化への乗り遅れ」にあると分析しています。
かつて半導体メーカーといえば、設計から製造まですべてを自社工場で行うのが当たり前でした。
日本企業はこのスタイル(垂直統合)にこだわりました。
ところが1990年代、パソコンやスマホが普及し始めると、開発スピードが勝負の鍵となります。
ここで台頭したのが、設計しかしない会社(ファブレス)と製造しかしない会社(ファウンドリ)に分業する新しいスタイルでした。
日本企業が「自前主義」にこだわっている間に、アメリカの設計力とアジアの製造力が結びつき、日本は市場から弾き出されてしまったのです。
台湾の巨人「TSMC」とモリス・チャンの決断
この製造専門という革命的なビジネスモデルを生み出したのが、台湾の英雄、モリス・チャン(張忠謀)です。
彼はもともとアメリカのテキサス・インスツルメンツ(TI)という大企業の幹部でしたが、50代半ばにして出世コースから外され、本人いわく「牧草地に追いやられた」ような状態でした。
そんな彼に目をつけたのが台湾政府です。
「台湾に半導体産業を作ってほしい」と招かれた彼は、ある大博打に出ます。
顧客(アメリカの企業)と競合するようなチップの設計は一切せず、ひたすら顧客の設計したチップを製造することだけに徹するという会社、TSMCを設立したのです。
この決断が世界を変えました。
工場を持たないアップルやエヌビディアといった企業が、巨額の設備投資なしにTSMCに製造を委託することで、次々と革新的な製品を生み出せるようになったのです。
現在、世界中の最新スマホやAIに使われる最先端チップの9割以上が、TSMCの工場で作られています。
かつてTIで「天井にぶつかった」と感じていた一人の男の決断が、いまや世界経済の心臓部を握ることになったのです。
世界を止めるチョークポイント
この本で一番面白い!と思ったのが、世界の最先端技術が、実はごく少数の企業に首根っこを押さえられているということ(チョークポイント)。
例えば、最先端のチップを作るために不可欠な「EUV露光装置」という機械があります。
1台数百億円もするこの機械を作れるのは、オランダのASMLという会社ただ一社だけです。
もしASMLの工場が止まれば、世界中の半導体進化はそこでストップします。
そして、日本もまだ負けてはいません。
シリコンウェハーという基板材料や、回路を焼き付けるための特殊な薬液(フォトレジスト)、そして製造装置の分野では、信越化学工業や東京エレクトロンといった日本企業が世界シェアの大部分を握っています。
これらの日本製品がなければ、天下のTSMCでさえチップを1個も作ることができません。
一見、華やかなスマホやAIのニュースの裏側には、こうした「代わりのきかない技術」を持つ企業たちが、互いに首を絞め合えるような緊張関係を築いているのです。
AIとこれからの戦争
物語の最後は、現在進行形の「米中対立」と「AI革命」です。
中国は今、国家の威信をかけて半導体の国産化を進めています。
しかしアメリカは、中国が最先端のAIや軍事技術を持つことを阻止するため、強力な輸出規制をかけました。
アメリカの技術を使った装置やソフトは、中国に売らせない。
これは単なる貿易摩擦ではなく、相手の技術進化を強制的に止める戦争そのものです。
そして今、話題の生成AI(ChatGPTなど)を動かすために必要なGPUというチップを作っているのが、アメリカのエヌビディア(NVIDIA)です。
このGPUを誰がどれだけ手に入れられるかが、これからの国の強さを決めると言われています。
キャベツ畑からシリコンアイランドへ
この激動の中、日本にも変化が起きています。
台湾のTSMCが熊本県菊陽町に建設した巨大工場。
ここはもともと一面のキャベツ畑でした。
しかし今、そこは24時間体制で工事が進み、日本政府も巨額の補助金を投じて、シリコンアイランド九州の復活を目指しています。
台湾有事(戦争など)のリスクが高まる中、世界は台湾以外でチップを作れる場所を必死に探しています。
高い技術力と信頼性を持つ日本が、再びその重要な拠点として選ばれたのです。
今読むべき本!
半導体戦争は、私たちが何気なく手にしているスマホの中にある小さな黒いチップには、天才たちのドラマ、企業の興亡、そして国家の存亡をかけた戦いの歴史が詰め込まれているんだよ、ということが終始書かれています。
たかが電気製品の部品が、実は私たちの未来そのものを決めている。
その現実を知るために絶対読んだ方がいい一冊。
【追記】
マガジンで、今まで紹介した本をジャンル分けして整理してみました。

本屋とか図書館で本を選んでるみたいで楽しいので、ぜひ見てみてください。
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これからも毎日、本を紹介したいのですが、このnote、ずっと赤字状態です。もし本好きの方がいらしたら、チップを送っていただけると嬉しいです。
