三十三、時代小説 義賊 千変万化の三太(せんぺんばんか の さんた)
第三話、三太の恋
十四章、無実の証
寺へ戻った時には、夜がすっかり更けていた。 山門の外から足音が聞こえるたび、お鈴は何度も立ち上がっては座り直していた。 三太の傷はまだ癒えていない。 あの身体で出て行ったのだ。 心配でたまらなかった。 やがて境内の砂利を踏む音が聞こえた。 お鈴は思わず飛び出した。 月明かりの下に立っていたのは三太だった。 狐面こそ外していたが、顔には疲れが浮かんでいる。 それでも笑っていた。 「三太さん!」 お鈴は駆け寄った。 「その身体で……」 声が震える。 「無事でよかった」 三太は照れくさそうに頭を掻いた。 「死にゃしねえよ」 「そういう問題じゃありません」 お鈴は少し涙目になっている。 三太は苦笑した。 そして懐から包みを取り出した。 「お鈴さん」 その声はいつになく優しかった。 「お父さんはやっぱり無実だった」 お鈴の身体が固まった。 「え……」 「証拠を掴んだ」 三太は静かに言った。 「全部分かった」 お鈴の目に涙が溢れた。 長い間、胸の奥に押し込めていた思いが一気に込み上げてきたのである。 翌朝。 三太は寺の一室で筆を執っていた。 お鈴が代筆を手伝う。 証文の写し。 事件の経緯。 関係者の名。 そして代官の印籠。 すべてを揃え、封をした。 宛先は江戸。 勘定奉行所である。 「これでいい」 三太は筆を置いた。 彦六が封書を受け取る。 「確実に届ける」 「頼んだ」 彦六は深く頷き、寺を後にした。 それから数日後。 宿場町は大騒ぎになった。 江戸から勘定奉行直属の役人が大勢やって来たのである。 代官所はたちまち封鎖された。 帳面は押収。 蔵は封印。 役人たちが昼夜を問わず調べ始めた。 神尾伊織は最初こそ知らぬ存ぜぬを通そうとした。 しかし血判の証文。 印籠。 そして虎屋と越前屋の関係者の証言。 次々と証拠が積み上がる。 ついに神尾は観念した。 十年前の御用金横領。 罪なき役人への責任転嫁。 すべてが白日の下に晒された。 その知らせは寺にも届いた。 お鈴は報告を聞くなり、その場に座り込んでしまった。 涙が止まらなかった。 父は悪人ではなかった。 父は盗人ではなかった。 ずっと信じていたことが、ようやく証明されたのである。 老尼も目を潤ませた。 彦六たちは大喜びだった。 豆吉などは、 「今日はめでたい!」 と朝から酒を飲んでいた。
つづく

