十六、時代小説 義賊 千変万化の三太(せんぺんばんか の さんた)
第二話、義賊 対 胡麻の蠅
七章、宿場役人到着
しばらくすると草鞋の音がドタドタと近づいてくる。
宿場役人
「どこだ、金を盗られたという客は!」
清太郎は、肩をすぼめ、まるで叱られる子供のように震えながら出てきた。
清太郎
「わ、わたしです……」
清太郎(気弱な声) 「わ、わたし…… 江戸の呉服問屋、近江屋の倅…… 清太郎と申します……」 役人は眉を上げた。 役人 「近江屋……あの大店のか?」 清太郎は、 まるで恐縮しきったように深々と頭を下げる。 清太郎 「は、はい…… 父の名代で、越後の叔父のところへ 祝い金を持っていく途中でして…… そ、それが…… 部屋に置いておいた袋から…… 金が……金が……!」 声が震え、今にも泣き出しそうだ。 役人は慌てて身を乗り出した。 取られた物の詳細 清太郎は、 震える手で指を折りながら説明する。
清太郎
「と、取られたものは…… 祝い金百両。 屋号と印の押した紙に包まれた五十両が二つ…… 紫色の藤の紋の金包に入っておりました……」 役人 「ふむ……藤の紋入りの金包……」 清太郎は続ける。 清太郎 「それから…… 路銀の一両二分が巾着に。 あとは…… 父から叔父に宛てた手紙が…… 袋に一緒に……」 役人は腕を組み、 大きくうなずいた。 役人、完全に信じ込む 役人 「……あい、わかった!」 声が宿中に響く。 役人 「祝い金百両、五十両包みが二つ、 路銀一両二分、手紙…… これは大事だ! 宿屋改めを行う!」 番頭 「は、はいっ!」 清太郎は、 わざと足元をふらつかせながら役人にすがりつく。 清太郎 「お、お願いします…… これが見つからなかったら…… わ、わたし…… 川に身を投げます……! 父に合わせる顔が……!」 役人は慌てて清太郎の肩を支えた。 役人 「な、なにを言う! そんなことさせるわけにはいかん! 必ず見つけてやる!」 清太郎は深々と頭を下げる。 しかし── その顔が役人から見えない角度になった瞬間、 清太郎の目はすっと細まり、 冷たい光を宿した。 清太郎(心の声) 「……よし。 これで宿中が動く。 あとは…… あの二人がどう転ぶか、だ。」
つづく

