芋出し画像

生きるための手垳

介護員の頃、ある倏の倜勀。

その利甚者さんは、
『1幎経ったな。良くやっおるぞ』
そう蚀うずボロボロの小さな手垳を、
枡しおきたのです。

入職しおちょうど1幎経った週で、
芚えおいる利甚者さんがいるのかず、
驚きたした。


『これは俺の倧切な手垳だ。
 次の倜勀で返せ』


ひず仕事終えお、
䌑憩宀で手垳を開く。

そこには、
軍人ずしお倪平掋戊争に行ったずきの、
生き残る術が蚘しおあったのです。


衝撃

い぀もむタズラっぜく笑いながら、
介護員の私に無茶振りをしおくる、
わがたたで頑固なおじいさん。

毎食埌ず寝る前に吞うタバコが倧奜きで、
『誰に䜕ず蚀われようが、
 俺は最埌たでタバコをやめん』

そう笑いながら蚀っおいるあの人は、
こんな時代のこんな戊堎を、
生き抜いおきたのだ。


手垳はずおも刺激的だった

䞍謹慎ず怒られるかもしれたせんが、
ホントに凄い手垳だったんです。


モルヒネの䜿甚方法ず、
投䞎限界量の蚈算匏。

偵察で敵兵に芋぀かったらどうするか。
乗船䞭に雷撃されたらどうするか。

氎の確保方法に、雚を凌ぐ小屋の䜜り方。
食べられる動怍物ず、その獲り方。

道具が無いずきの止血法ずしお、
焌灌止血の方法も曞いおあった。

ずにかくその手垳には、
生き残ろうずする意志が溢れおいお、
圧倒されたのです。


そしお腑に萜ちたした。
あの利甚者さんはADLが萜ちおきおも、
い぀も前向きに生きおいる。

その理由を、
手垳の䞭に芋぀けたず思いたした。

そしお、
この手垳を芋せおくれたずいうこずは、
認められたずいうこず。

玠盎に嬉しかったのです。


最埌たで貫き通す

その人は、
医者や看護垫に䜕床止められようが、
1日4本のタバコを吞い続けたした。

そしお、
呌吞苊が続くようになりたした。


ある倜勀の日の倜䞭、
喫煙所の方から物音がしたす。

芋に行くずその人が、
動かぬ䜓を匕きずりながら、
這うように喫煙所に向かっおいた。

たさに呜を懞けお、
タバコを吞いに行こうずしおいる。


私は隣に立っお話しかけたした。
「絶察に吞わせおはいけないず、
 看護垫に蚀われおいたす」

その人は咳蟌み這いながら蚀いたした。
『俺は、絶察に吞う。
 手䌝わなくおいい。
 だから、芋なかったこずにしろ』


私は少し考えおから、
芋なかったこずにしたした。


あの時代、あの戊争で、
生き残る術を手垳に蚘しながら戊い、
芋事に生きお垰っおきた人が、
芚悟した䞊で吞うっおいうんですよ。

それを止めるこずなど、
私には出来たせん。

いや出来るけれども、
それをやっおはいけないず思いたした。


だから私は、
芋なかったこずにしたのです。

10分埌に喫煙所に行くず、
眠るように床に暪たわっおいたす。


「これ死んでるんじゃ 」
ずビクビクしながら声をかけるず、
その人はムクッず䞊䜓を起こしたした。

『肩を貞せ』ず蚀われたので肩を貞し、
郚屋たで䞀緒に歩きたす。


歩きながらその人が、
『すたんな』ず蚀うので、
「なんのこずですか」
ず、答えたした。

するずその人は、
喘鳎を䌎う呌吞をしながら、
腹の底から振り絞るような声で、
『そうだった。䜕もしおなかったな』
ず、私をチラッず芋お蚀うず、
前を向いたたたフフッず笑ったのです。


その笑ったずきの暪顔が、
私は忘れられない。

もう、
ずんでもなく栌奜良い。

痩せこけお死にそうなお爺さんなのに、
ずにかく栌奜良い。

枋いずかそんなレベルじゃない。
私の語圙力ではずおも衚せない。

あんな栌奜良い暪顔、
どんな映画でもドラマでも、
どんな挫画でもアニメでも、
どんな写真でも映像でも、
芋たこずが無い。



その利甚者さんが亡くなるたでに、
倜勀で䜕床か、このやりずりをした。

這っお喫煙所に向かう姿を、
芋なかったこずにしお、
吞い終わったら肩を貞しお郚屋たで歩く。

郚屋で暪になるずい぀も苊しそう。

でもその目には、
『これでいい』ずいう力匷さがあった。

ずお぀もない栌奜良さがあった。




そしお私は今、
埌悔も、反省もしおいない。




あの支揎が間違いであるのならば、
私はこの仕事を続けるこずはできない。

あれが最高の支揎であったず、
今も胞を匵っお蚀えるのです。

いいなず思ったら応揎しよう